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第十五話 伝承の二人
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一夜城の件の翌日、俺は街にある資料室に訪れていた。
この資料室は一般の領民では入ることが出来ないはずなのだが、俺は何故か立ち入ることが許された。
俺にはそんなことが出来る権力も財力もないはずだった。
しかし俺は昨日の祝宴の場で、ファティマにあることを聞いていた。そしてそのことが発端となり、この場に訪れることが叶ったのであった。
--------
「ファティマさん。この街には図書館のような、過去の資料が残っている場所をどこか知りませんか?」
「ふむ。過去の資料か......それならば一件心当たりがある。──どうだ、明日にでも行ってみるか?」
そう言うファティマの顔はどこか楽しげであった。しかし、その場所へ入るにはどうやらコツがいるらしい。
ファティマであれば入れると言うのでファティマにも一緒に来てもらった。
ファティマ曰く、そこへ入るには日中よりも夜中がいいらしく、俺とファティマは人通りのない中央通りを街の中心に向けてまっすぐと進んでいた。
「ついたぞ」
ファティマはそう言うと、見覚えのある館を指差した。
「......えぇ?」
これはどうみても領主の館だ。
ファティマの心当たりとはこの事であった。確かにここであれば過去の資料も保管されている可能性が高いのだが......。
「どうした? 目的地はここの資料室だ。さあいくぞ」
最初は当然のごとく入館を断られた。しかしファティマの「使わせろ」の一言と睨みで簡単に入れてしまったのである。
ファティマは領主側の人間に対しては滅法強気に出る。そして領主側の人間はそれに反抗出来ない。それは最早毎度のパターンと化してしまっていた。
ファティマが夜中を選んだのは面倒事を増やさないためなのであろう。
万が一領主に見つかってしまってはそれこそ面倒だ。それを避けるためのファティマなりの配慮であったのだと思う。
しかし門兵もさぞかし驚いたであろう。昨日あれだけの騒ぎを起こした張本人達がいきなり現れたのだから。
--------
こうして領主の館の資料室に入ることが出来た俺はとある資料を探していた。それは“異世界からの旅人”についてのものだ。
アレクから伝承の2人の概要については聞いていた。しかしアレクが持ち得た情報は一般の人にも広まっている噂や伝聞のようなもので、詳細は不明瞭なものであった。
そのため詳しい話を改めて確認したかった。伝承の2人が何を為したのかを。
加えて、“異世界からの旅人”についても何か情報が得られればと思っていた。
伝承の2人はなぜこの世界に来てしまったのか、そして最後はどうなったのかを。
「目当てのものは見つかりそうか?」
ファティマは退屈そうに言った。
差し当たってやることのないファティマは手持ち無沙汰になっていた。
「うーん......お! あったあった」
俺は伝承の2人についての資料をみつけた。だがこの資料を外に持ち出すことはさすがに許されないだろう。情報を頭の中に詰め込むしかない。
「読んでいってもいいですか?」
俺はファティマに尋ねた。
「無論だ」
ファティマは即答した。退屈そうにしているものの俺に気を使ってくれているようだ。
その言葉に甘えて俺はその場で資料を読み進めた。
--------
今から500年前、人間と魔物達は互いの領地を巡って争っていた。
領地の確保は即ち、水や食糧の確保に繋がる。お互いが生きるため、食べるための争いが毎日至る所で続いていた。
しかし当時の戦いというものは至って単純で、ただただ直線的に攻めるのみ。数や個の力が強いほうが勝つ、そんなものであった。
そして人間は数で優れ、魔物は個の力で優れていた。そのため戦力が拮抗し戦線は僅かに動くのみ。
しかし、ある時を境にし、人間の数の優位性に陰りが見え始めた。魔物が数を増やしつつあったのだ。
ただでさえ拮抗している状況下で数の優位性を失ったらどうなるか。答えは明白であった。
徐々に徐々にと人間達は押され始める。それに呼応するように、魔物による街や王都への襲撃も始まった。
最初は僅かな被害であったが、断続的な襲撃に警備隊も疲弊しきっていた。
次第に不安と恐怖が国中に蔓延っていった。そんな時に現れたのがタカムネとヨシマサであった。その2人はどこからともなく突然現れ、人間と魔物との争いに介入していった。
2人はまずとある街を救った。警備隊に参加した彼らは先陣を切って警備隊を主導し、魔物達を撃退したのだ。
その後彼らは警備隊に対し、戦術と情報伝達手段の重要性を説いた。魔物達を撃退した実績も手伝って、彼らの話はすぐに受け入れられた。
そして彼らの教えは瞬く間に街から街へと伝わっていった。ついには王都にまでその話は届き、彼らはハイドランド王立軍の指揮官として魔物討伐の任にあたった。
それにより王立軍と各街の警備隊は連動した動きが出来るほどまで洗練された。
このことが決定打となり、人間と魔物の戦力差は完全に逆転した。
個の力で直線的に攻める魔物達は戦術を獲得した人間達にとってはもはや敵ではなかった。
戦うすべを手に入れた人間達は勢いをそのままに、魔物達を北の地まで追いやることに成功したのであった。
そしてタカムネとヨシマサは英雄として讃えられた。
--------
アレクから聞いていた通りの内容で、この資料には特に目新しい情報はなかった。
そして俺は他のそれらしい資料にも目を通したが、“異世界からの旅人”について記された物は見つからなかった。
「手掛かりなし......か」
俺はそう呟きながらファティマの方へ顔を向ける。
するとそこには意外な光景が広がっていた。
おそらく待ち疲れてしまったのであろう。あのファティマが壁に寄りかかって座りながら小さく可愛い寝息を立てていたのだ。
普段どんなに威厳があろうとも、ファティマも妙齢の女性であるとこの日俺は初めて認識させられたのであった。
この資料室は一般の領民では入ることが出来ないはずなのだが、俺は何故か立ち入ることが許された。
俺にはそんなことが出来る権力も財力もないはずだった。
しかし俺は昨日の祝宴の場で、ファティマにあることを聞いていた。そしてそのことが発端となり、この場に訪れることが叶ったのであった。
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「ファティマさん。この街には図書館のような、過去の資料が残っている場所をどこか知りませんか?」
「ふむ。過去の資料か......それならば一件心当たりがある。──どうだ、明日にでも行ってみるか?」
そう言うファティマの顔はどこか楽しげであった。しかし、その場所へ入るにはどうやらコツがいるらしい。
ファティマであれば入れると言うのでファティマにも一緒に来てもらった。
ファティマ曰く、そこへ入るには日中よりも夜中がいいらしく、俺とファティマは人通りのない中央通りを街の中心に向けてまっすぐと進んでいた。
「ついたぞ」
ファティマはそう言うと、見覚えのある館を指差した。
「......えぇ?」
これはどうみても領主の館だ。
ファティマの心当たりとはこの事であった。確かにここであれば過去の資料も保管されている可能性が高いのだが......。
「どうした? 目的地はここの資料室だ。さあいくぞ」
最初は当然のごとく入館を断られた。しかしファティマの「使わせろ」の一言と睨みで簡単に入れてしまったのである。
ファティマは領主側の人間に対しては滅法強気に出る。そして領主側の人間はそれに反抗出来ない。それは最早毎度のパターンと化してしまっていた。
ファティマが夜中を選んだのは面倒事を増やさないためなのであろう。
万が一領主に見つかってしまってはそれこそ面倒だ。それを避けるためのファティマなりの配慮であったのだと思う。
しかし門兵もさぞかし驚いたであろう。昨日あれだけの騒ぎを起こした張本人達がいきなり現れたのだから。
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こうして領主の館の資料室に入ることが出来た俺はとある資料を探していた。それは“異世界からの旅人”についてのものだ。
アレクから伝承の2人の概要については聞いていた。しかしアレクが持ち得た情報は一般の人にも広まっている噂や伝聞のようなもので、詳細は不明瞭なものであった。
そのため詳しい話を改めて確認したかった。伝承の2人が何を為したのかを。
加えて、“異世界からの旅人”についても何か情報が得られればと思っていた。
伝承の2人はなぜこの世界に来てしまったのか、そして最後はどうなったのかを。
「目当てのものは見つかりそうか?」
ファティマは退屈そうに言った。
差し当たってやることのないファティマは手持ち無沙汰になっていた。
「うーん......お! あったあった」
俺は伝承の2人についての資料をみつけた。だがこの資料を外に持ち出すことはさすがに許されないだろう。情報を頭の中に詰め込むしかない。
「読んでいってもいいですか?」
俺はファティマに尋ねた。
「無論だ」
ファティマは即答した。退屈そうにしているものの俺に気を使ってくれているようだ。
その言葉に甘えて俺はその場で資料を読み進めた。
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今から500年前、人間と魔物達は互いの領地を巡って争っていた。
領地の確保は即ち、水や食糧の確保に繋がる。お互いが生きるため、食べるための争いが毎日至る所で続いていた。
しかし当時の戦いというものは至って単純で、ただただ直線的に攻めるのみ。数や個の力が強いほうが勝つ、そんなものであった。
そして人間は数で優れ、魔物は個の力で優れていた。そのため戦力が拮抗し戦線は僅かに動くのみ。
しかし、ある時を境にし、人間の数の優位性に陰りが見え始めた。魔物が数を増やしつつあったのだ。
ただでさえ拮抗している状況下で数の優位性を失ったらどうなるか。答えは明白であった。
徐々に徐々にと人間達は押され始める。それに呼応するように、魔物による街や王都への襲撃も始まった。
最初は僅かな被害であったが、断続的な襲撃に警備隊も疲弊しきっていた。
次第に不安と恐怖が国中に蔓延っていった。そんな時に現れたのがタカムネとヨシマサであった。その2人はどこからともなく突然現れ、人間と魔物との争いに介入していった。
2人はまずとある街を救った。警備隊に参加した彼らは先陣を切って警備隊を主導し、魔物達を撃退したのだ。
その後彼らは警備隊に対し、戦術と情報伝達手段の重要性を説いた。魔物達を撃退した実績も手伝って、彼らの話はすぐに受け入れられた。
そして彼らの教えは瞬く間に街から街へと伝わっていった。ついには王都にまでその話は届き、彼らはハイドランド王立軍の指揮官として魔物討伐の任にあたった。
それにより王立軍と各街の警備隊は連動した動きが出来るほどまで洗練された。
このことが決定打となり、人間と魔物の戦力差は完全に逆転した。
個の力で直線的に攻める魔物達は戦術を獲得した人間達にとってはもはや敵ではなかった。
戦うすべを手に入れた人間達は勢いをそのままに、魔物達を北の地まで追いやることに成功したのであった。
そしてタカムネとヨシマサは英雄として讃えられた。
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アレクから聞いていた通りの内容で、この資料には特に目新しい情報はなかった。
そして俺は他のそれらしい資料にも目を通したが、“異世界からの旅人”について記された物は見つからなかった。
「手掛かりなし......か」
俺はそう呟きながらファティマの方へ顔を向ける。
するとそこには意外な光景が広がっていた。
おそらく待ち疲れてしまったのであろう。あのファティマが壁に寄りかかって座りながら小さく可愛い寝息を立てていたのだ。
普段どんなに威厳があろうとも、ファティマも妙齢の女性であるとこの日俺は初めて認識させられたのであった。
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