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執念
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王都を出て数時間。リアンは乗り合い馬車の隅で、深くフードを被って身を潜めていた。
目指すは北の最果て、ベルシュタイン公爵領。
一年中雪に覆われ、魔物が徘徊するその地を治めるアルヴィス公爵は、通称“死神”と呼ばれている。
(公爵様は、人間じゃない…。その正体は、数百年前に人間と休戦協定を結んだ『魔王』そのものだって、噂で聞いたことがある…)
リアンはそんな噂を思い出し、再びフードを深く被り直した。
公爵は、その身に宿る膨大な魔力が負のエネルギーに変換され、常に暴走の苦痛に苛まれているという。
それを浄化するために、定期的に器となる人間を募集しているらしい。
しかし並の治癒術師や聖職者では、彼の魔力に触れた瞬間に精神が崩壊するか、どす黒い魔力に焼かれて命を落としてしまう。
「でも、僕の聖女の力なら……」
リアンは自分の掌を見つめた。
リアンの能力は、傷を治すことそのものではない。
対象の“痛み”や“穢れ”を自分の体内に転送し、自分自身をフィルターにして浄化する特殊な体質だ。
前世では勇者たちのダメージをすべて引き受けたせいで、リアンの体は常にボロボロだった。
(あの時は、ただ耐えるだけだった。でも、もし公爵様の魔力を僕が引き受けることができれば、彼は苦痛から解放されるはず。そうすれば、対価として僕を守ってくれるかもしれない…)
パーティの勇者、ケリウスは、王家とも繋がっている。
彼らの追っ手から逃げ切るには、王家すら手出しできない絶対的な権力と武力を持つ、アルヴィス公爵の加護が絶対に必要だった。
「……怖い、けど」
膝の上で、手が小さく震えている。
冷酷だと噂される魔王が、自分のようなお下がりの聖女を受け入れてくれる保証はない。
だが、あのまま利用されて捨てられる運命に戻るくらいなら、魔王に食い殺される方がまだマシだ。
「……アルヴィス公爵…。……俺の全部、あなたに捧げるから」
馬車が大きく揺れる。
窓の外には、王都の華やかさとは正反対の荒涼とした北の大地が広がり始めていた。
リアンの瞳に宿るのは、臆病な少年のような怯えではない。
過酷な運命をねじ伏せようとする、一人の青年の、静かな執念だった。
目指すは北の最果て、ベルシュタイン公爵領。
一年中雪に覆われ、魔物が徘徊するその地を治めるアルヴィス公爵は、通称“死神”と呼ばれている。
(公爵様は、人間じゃない…。その正体は、数百年前に人間と休戦協定を結んだ『魔王』そのものだって、噂で聞いたことがある…)
リアンはそんな噂を思い出し、再びフードを深く被り直した。
公爵は、その身に宿る膨大な魔力が負のエネルギーに変換され、常に暴走の苦痛に苛まれているという。
それを浄化するために、定期的に器となる人間を募集しているらしい。
しかし並の治癒術師や聖職者では、彼の魔力に触れた瞬間に精神が崩壊するか、どす黒い魔力に焼かれて命を落としてしまう。
「でも、僕の聖女の力なら……」
リアンは自分の掌を見つめた。
リアンの能力は、傷を治すことそのものではない。
対象の“痛み”や“穢れ”を自分の体内に転送し、自分自身をフィルターにして浄化する特殊な体質だ。
前世では勇者たちのダメージをすべて引き受けたせいで、リアンの体は常にボロボロだった。
(あの時は、ただ耐えるだけだった。でも、もし公爵様の魔力を僕が引き受けることができれば、彼は苦痛から解放されるはず。そうすれば、対価として僕を守ってくれるかもしれない…)
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彼らの追っ手から逃げ切るには、王家すら手出しできない絶対的な権力と武力を持つ、アルヴィス公爵の加護が絶対に必要だった。
「……怖い、けど」
膝の上で、手が小さく震えている。
冷酷だと噂される魔王が、自分のようなお下がりの聖女を受け入れてくれる保証はない。
だが、あのまま利用されて捨てられる運命に戻るくらいなら、魔王に食い殺される方がまだマシだ。
「……アルヴィス公爵…。……俺の全部、あなたに捧げるから」
馬車が大きく揺れる。
窓の外には、王都の華やかさとは正反対の荒涼とした北の大地が広がり始めていた。
リアンの瞳に宿るのは、臆病な少年のような怯えではない。
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