死に戻り聖女♂は冷酷公爵の執着から逃げられない~今度は死なないために、最強の魔王に身を捧げます~

葵うそ

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死神の城

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北へ向かうほどに、空気は刃物のような鋭さを増していった。

乗り継いだ馬車を下りリアンが辿り着いたのは、雪と氷に閉ざされた断崖にそびえ立つ、ベルシュタイン城。
 見上げるほどに巨大な門は、まるでおびき寄せた獲物を飲み込む怪物の口のように見えた。

(…空気が、重い)
城に近づくにつれ、その空気は重くなり、肌を刺すようなプレッシャーも強くなった。
これは単なる寒さではない。リアンは直感的にそう思った。
実際これは城の主であるアルヴィス公爵から漏れ出す、制御しきれない強大な魔力の圧であり、普通の人間ならこの門前に立つだけで呼吸が苦しくなってしまう。

「はぁー……」
リアンは白く凍える吐息を吐き出し、自らの胸に手を当てた。
聖女の力が押し寄せる負のエネルギーを中和しようとする。

自分の力なら耐えられる。そんな確信を胸に、リアンは一歩を踏み出した。

「止まれ。何用だ」
一歩踏み出したリアンの前に立ちはだかったのは、おそらくこの城に仕える門番であろう。
彼らは一様に顔色が悪く、その瞳には死を覚悟したような諦念が漂っている。

「…お願いです。ベルシュタイン公爵閣下にお目通りを。……“器”の志願に参りました」
リアンがフードを外して告げると、門番たちは目を見開いた。
雪のような白い肌に、意志の強さを感じさせる青い瞳。あまりに場違いなほど美しい青年の登場に、男たちは一瞬言葉を失う。
だが、すぐにその表情は嘲笑へと変わった。

「また自殺志願者か。しかも今度はこんな弱そうな男」
「やめておけ。これまで何人もの治癒術師たちが、閣下の毒に中てられて発狂したことか。そのうち廃人になったという噂くらい聞いたことがあるだろう」

門番の言葉は、冷たいが事実なのだろう。
彼らはリアンを追い返そうとしているのではない。これ以上、死者を増やしたくないという憐れみだ。
しかしリアンは食い下がる。
「わかっています。ですが、僕でなければダメなんです」
「意地を張るな。閣下は今、魔力の暴走期で非常に機嫌が悪い。今中に入れば、話を聞いてもらう前に消し飛ばされるぞ」

槍で押し戻されそうになり、リアンは咄嗟に門番の腕を掴んだ。
「……っ、あ……!」
触れた瞬間、リアンの体にドロリとした重苦しい感覚が流れ込む。
それは門番が公爵の魔力に中てられ、慢性的に抱えていた倦怠感と精神的な疲労だった。

(これを浄化すれば……!)

リアンが力を込めると、彼の掌から柔らかな光が溢れた。
門番の顔からみるみるうちに土気が消え、生気が戻っていく。
「なんだ……?体が軽い…」
「おい、お前今何をした!?」
驚く彼らを真っ直ぐに見つめ、リアンは叫んだ。
「僕は聖女です!どんな呪いも、痛みも、すべて僕が引き受けます!だから……閣下に会わせてください!」

沈黙が流れる。
門番たちが困ったように顔を見合わせ、リアンの尋常ではない力を前に言葉を失ってしまう。
すると、ギィ、と、重厚な城門がひとりでに動き出した。

城の奥から、低い声が響いた。
「面白い。その言葉に偽りがないか、試してやる」

それは、声だけで魂を凍りつかせるような、圧倒的な捕食者の響き。
門番たちが恐怖でその場に跪く中、リアンだけが震える脚で踏みとどまった。
「……あ…」
城の奥、薄暗い廊下の先から、漆黒のマントを翻して歩み寄る長身の人影が見える。
闇を凝縮したような黒髪に、血のように赤い瞳。
この世のものとは思えないほど美しい男。

死神公爵、アルヴィス・フォン・ベルシュタイン。

彼が放つ圧倒的な威圧感に、リアンの本能が逃げろと訴えかける。
だが、リアンはその選択を自らの中から消し去った。

(この人だ……!この人の苦痛を吸い上げれば、俺は生きられる)

アルヴィスがリアンの目の前で足を止める。
赤い瞳が、品定めするようにリアンを見た。

「お前が、私の呪いを引き受ける、と」
アルヴィスの視線は冷たい。周りの空気も重く、門番も口を開けずにいた。
リアンは震えながらも、逃げ場のないその視線を真っ直ぐに見返した。
「……はい。僕を、あなたの“器”にしてください。……後悔は、させません」
 
最強の魔王と、死に損ないの聖女。
運命を狂わせる二人の、最初の邂逅だった。
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