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 「王都の別邸に行ってくる」と出掛けたマキシムは一週間と経たないうちに帰ってきた。
 その後特に変わらない日々を送っていたが、なにやら深刻げに思い悩む表情を浮かべることが多くなった。
 ある時は私のお気に入りの滝と池がある場所で、手を繋ぎただただ時間が流れるままに過ごすこともあった。繋いだ手からでもいろいろな感情が伝わるものらしい。けど、私から無理に聞き出すことはしない。あの頃の私に戻ったといっても、相手のことを配慮して待てるくらいには大人になっていたんだななどと、そんなことを考えていた。

 更に幾日か経ち、私が剣の稽古をしていると、珍しくマキシムが顔を出した。手には訓練用の剣が握られている。

「やれやれ、私の妻はとんだお転婆だな。どれ、ひとつ私が相手になってやろう」

 芝居がかったセリフを吐く意味が全く分からなかったが、構えているらしい体勢をとったので、距離を詰め剣を振り下ろした。

「ぅひいぃっ」

 剣を打ち込む前にマキシムは剣を掲げたまま尻餅をついた。

 「あばばばばば」と言葉にならない声を漏らし体が小刻みに震えている。そんなに怯えなくてもいいじゃない。結局この人は何がしたかったんだろう。

 マキシムから剣を取り上げ、かわりに水を飲ませる。
 落ち着くまで隣に座って待っていた。


「この国の危機に、関わってしまっていた。きっと戦わなくちゃいけない。僕がどこまでできるか試したかったんだけど……トボー」

 しばらくしてようやく落ち着いたのか、ポツリポツリとそんなことを話し出した。
 トボーってなに?普通トホホでしょ。いやトホホだって口に出して言う奴見たことないけど。
 そんな疑問は表に出さず「それで?」と先を促す。

「王都の別邸で片付けなきゃいけないことがあるんだ。僕が動くことで君たちに危険が及ぶはずだ。でも……」

 王都とフォーレ領とで離れてしまっては直接守れない。どころか自分の身さえどうにもならないかもしれないと、たった今証明してしまったということか。
 
「分かったわ。私も一緒に王都へついて行きます」

 
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