最近旦那の様子がおかしいのだけどこちらから関わる気はございません

塩沢ぷじゃん

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 それからというもの、かつての自分がそうであったように、私兵たちの訓練に混ざって剣を振り、馬を駆った。
 家族のために何かしたいと、昔の記憶を頼りに焼き菓子を作ったり紅茶をうまく淹れられるよう練習している。
 これらの事に時間を割けるようになったのも、日々の仕事量が減ったからだ。
 その理由も夫婦で過ごす時間が増えたことで判明した。その時間を得るためにマキシムも領内の仕事をこなしていたということだった。
 相変わらず照れ笑いを浮かべたり口籠ったり、身振りも全然違うマキシムは、それでもだいぶ話慣れてきたようだった。
 そういえば、社交パーティーに出ていた頃、身分目当てで話しかけてきた連中と明らかに態度が違う、よく話しかけてきた同じような年頃の男性が何人かいたわね。後になってその誰もが私に好意を寄せていたらしいと噂を聞いたけ、ど……
 はあ⁉︎いやいやいや、子どももこさえた仲だというのに今更⁉︎
 今までの貴族然とした彼と違い過ぎる振る舞いに、やはり別人なのではないかという思いが頭を占めている。
 まあ、好ましく思ってるのは今のマキシムなのだから特に問題は無いわね。
 そんな彼は楽しそうにカミーユとのことを喋っている。そんな彼の話を聞くのが心苦しい。
 実はあれからカミーユとの時間をあまり取っていないのだ。心に決めたはずなのに。それこそ今更、母親面したところで、どうにかなるものでは無いのではないかしら。
 いや、ただ単に拒絶されるのが怖いだけだ。騎士相手に剣を打ち合わせられても、我が子とまともに向き合うことすらできない、私はとんだ臆病者だ。
 だがいつまでもこのままでということにはしたくない。


 庭でカミーユが乳母たちと遊んでいるところを見計らって近寄っていった。

「カミーユ、母さまも混ぜてもらっていいかしら?」

 たったこれだけを言うのに喉は引っ付くし手も膝も震えている。微笑んだつもりの顔がせめて引きってないといい。
 カミーユは満面の笑みで応えてくれた。その事に希望が持てた。良かった、私は、私たちはまだやっていける。
 この子がこう返してくれるなんて、ここ数日のことで本当は分かっていたのに、ずいぶん時間を掛けてしまった。

 カミーユを自室に帰した後、乳母たちを集めた。彼女たちに言っておかなければならない。

「私が今まで大事にしてこなかったものを守ってくれてありがとう。これからもどうか、息子のことをお願いね」

 首を垂れて言う。もともと乳母は私の乳兄弟であり、カミーユ付きにしたメイドたちも私の専属で信任厚い者たちばかりだった。
 私が変わってしまっていつの間にか開いた距離を埋めることは難しいだろうけど、このままではいずれカミーユに悪影響を及ぼしただろう。それだけは避けなければならない。
 その為なら頭を下げるくらいどうということはない。むしろ彼女たち相手にだからこそ礼を尽くしたいと思っていた。

「あらあらまあまあ、やっぱりミランダお嬢様はミランダお嬢様ね。心配せずとも坊っちゃまも、お嬢様のこともみんなで守ってあげますとも!」

 ふわりと抱き締められ、かけられた優しい言葉は、かつて王族というものに合わせられなかった異端の私を受け止めてくれた雰囲気そのままだった。心を開けば、多少距離ができてしまっていたとしても、それまでに築いた関係性にすぐ戻れるのだと知った。
 ギクシャクした空気だと思っていたのは彼女たちの視線を気にし過ぎていたから。実際には我が子とうまく接せられるか不安ながらも温かく見守ってくれていただけだった。
 いつも着ている執務用のドレスではなく汚れてもいいような丈夫な布であつらえた簡素なデザインのドレスを着てきたことから、とうに私の心づもりなど見透かされていたのだろう。それはくすぐったくもあり心地良くとても嬉しくなるものだった。
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