15 / 18
15 終
しおりを挟む
王城、玉座の間にて伝令からの報告を待つ。
傍には夫であるマキシムと、私たちの子ジュリアン。不安そうに袖をギュッと掴んでいる。
慌ただしく騎士が駆けてきて跪く。
「火急の御用により御無礼を!レオン殿下が見事魔王を討ち取りましてございます!」
やり遂げたようだ、城内に歓声が湧き上がる。あとは無事にみんなが、カミーユが帰ってくるのを待つだけ。
国王のオーニールが伝令に来た騎士を労っている。昼夜問わず早駆けで来てくれただろうから。
レオンにカミーユ、レイザー卿率いる騎士団の凱旋にアークライト王国全体がお祭り騒ぎになっている。実際祭りとして国を挙げて行われているわけだが。
「おかえりなさい、カミーユ」
たくましさを携えて成長した様を見せたカミーユについ泪を滲ませてしまった。こんな筈ではなかったのに、歳かしら。この子なら大丈夫だと分かってはいても、無事な姿を見るまで落ち着かなかった。
「《吹けよ風、呼べよ嵐!マウンテンストーム!》は使った?使った?」
と何故か鼻息を荒くし喜色満面の笑顔でカミーユに絡む旦那は、まだどうにも掴めないところがあるけれどそれもまた彼らしくて微笑ましい。でも流石に気色悪い。
カミーユは弟であるジュリアンの頭をわしゃわしゃと撫でながら父親の妙ちきりんな質問にも律儀に答えている。いい子。大きくなっても天使は天使なのね。
あら、尊敬の眼差しで兄を見上げるなんて……ジュリアンも天使だったのね!なんといってもカミーユと兄弟だもの!
「母上のその癖は変わりませんね」
「しょうがないわ。だって天使なのですもの!」
抱き上げたジュリアンごとカミーユを抱き締め頬擦りする。なんだかんだと言いつつ安堵したのが伝わってくる。命懸けの戦いを繰り広げてきたのですもの、今日くらいは。
「ミランダ様!無事に帰ってきました!」
戦いの疲れを感じさせないレオンが元気に挨拶して来た。勇敢というよりすこしヤンチャに育ってしまったのは謎だけど、両手を握って「よく帰ってきたわ」と労う。
「うわああん!良かったですわお姉さまーーー!」
ドフンと勢いよく抱きついてきたサンドラは通常通りに戻ったようだ。我が子が死地に赴くとあってしばらく静かだったのだが。……いや喧しいな!
何故かムッとしてるレオンに「我が妻は相変わらず人気者だ」と誰に向けてなのか分からないことを言っているマキシム。
オーニールも笑っている。やれやれと言わんばかりに見えるのは何故かしら。
とにかく、息子たちも無事に帰って来て、私たちも無事だった。かつてマキシムが言っていた未来は変わり、私たちにとって最善の形で迎えることが出来た。
「私、負けません!頑張りますから!」
声をかけてきたのは確か隣国の王女であるエステル様。彼女も今回の討伐隊に参加していた。帰途の際、自国に留まらずこちらにも足を運んでくれたことを嬉しく思った。何より向上心のある若者は好ましい。
「見事な心掛けです王女殿下。貴女のような方がいらっしゃるのなら未来も明るいですわ」
頬を赤く染めた王女はその場に佇み俯いてしまった。何か失礼があっただろうか。少々偉そうな物言いだったかもしれないが、親心と思って勘弁してほしいところだ。
「エステル様!キュアオールは使いましたか!?」
またもグイグイ絡むマキシム。流石に不敬だと脇腹をズムッと小突く。「ほひゅっ」と息を漏らし崩れ落ちる旦那。
「夫が失礼を致しました。皆様の英雄譚を聞きたくて舞い上がっているのです。今日だけは多めに見てくださると」
「か、構いませんわ!」と足早にその場を離れてしまった。不快な思いをさせてしまったようだ。
「気にすることないですよ」
「後で僕たちも言っておきますから」
「というかまあ」
「ああ、ミイラ取りがミイラになった形だな」
レオンとカミーユに気を遣わせてしまった。親として不甲斐無い、でも立派に成長したのね。
遠くからエステル様を宥めてるレオンとカミーユにハッとする。そうだわ、あの子たちとエステル様が恋仲になってもおかしくない、お年頃ですもの。厄介な姑と思われてるのかしら、私に言ってきたという事はカミーユ狙い?見る目は確かね。あ、でも傍にはサンドラも居るわ。なら私が答えたのは早まったのかもしれない。サンドラへの言葉だったのならレオンを好いているってことだもの。その後の様子からしてきっとそうだわ。私がしゃしゃり出て困ってしまったのね。それでも訂正しなかったのはきっと私に恥をかかせない為。エステル様って良い娘だわ~、応援しなければ。若い子たちの恋模様ってなんだか楽しいわ。でも面白がっては不謹慎ね。
何かもの言いたげな視線を向けるオーニール、腕を絡めて私の胸で涙を拭うサンドラ──嗚咽に混じって「グヘヘ」と聞こえるような……、そしていまだ床に沈んでるマキシムの頭を撫でている天使。
宴はまだ続いている。
~完~
傍には夫であるマキシムと、私たちの子ジュリアン。不安そうに袖をギュッと掴んでいる。
慌ただしく騎士が駆けてきて跪く。
「火急の御用により御無礼を!レオン殿下が見事魔王を討ち取りましてございます!」
やり遂げたようだ、城内に歓声が湧き上がる。あとは無事にみんなが、カミーユが帰ってくるのを待つだけ。
国王のオーニールが伝令に来た騎士を労っている。昼夜問わず早駆けで来てくれただろうから。
レオンにカミーユ、レイザー卿率いる騎士団の凱旋にアークライト王国全体がお祭り騒ぎになっている。実際祭りとして国を挙げて行われているわけだが。
「おかえりなさい、カミーユ」
たくましさを携えて成長した様を見せたカミーユについ泪を滲ませてしまった。こんな筈ではなかったのに、歳かしら。この子なら大丈夫だと分かってはいても、無事な姿を見るまで落ち着かなかった。
「《吹けよ風、呼べよ嵐!マウンテンストーム!》は使った?使った?」
と何故か鼻息を荒くし喜色満面の笑顔でカミーユに絡む旦那は、まだどうにも掴めないところがあるけれどそれもまた彼らしくて微笑ましい。でも流石に気色悪い。
カミーユは弟であるジュリアンの頭をわしゃわしゃと撫でながら父親の妙ちきりんな質問にも律儀に答えている。いい子。大きくなっても天使は天使なのね。
あら、尊敬の眼差しで兄を見上げるなんて……ジュリアンも天使だったのね!なんといってもカミーユと兄弟だもの!
「母上のその癖は変わりませんね」
「しょうがないわ。だって天使なのですもの!」
抱き上げたジュリアンごとカミーユを抱き締め頬擦りする。なんだかんだと言いつつ安堵したのが伝わってくる。命懸けの戦いを繰り広げてきたのですもの、今日くらいは。
「ミランダ様!無事に帰ってきました!」
戦いの疲れを感じさせないレオンが元気に挨拶して来た。勇敢というよりすこしヤンチャに育ってしまったのは謎だけど、両手を握って「よく帰ってきたわ」と労う。
「うわああん!良かったですわお姉さまーーー!」
ドフンと勢いよく抱きついてきたサンドラは通常通りに戻ったようだ。我が子が死地に赴くとあってしばらく静かだったのだが。……いや喧しいな!
何故かムッとしてるレオンに「我が妻は相変わらず人気者だ」と誰に向けてなのか分からないことを言っているマキシム。
オーニールも笑っている。やれやれと言わんばかりに見えるのは何故かしら。
とにかく、息子たちも無事に帰って来て、私たちも無事だった。かつてマキシムが言っていた未来は変わり、私たちにとって最善の形で迎えることが出来た。
「私、負けません!頑張りますから!」
声をかけてきたのは確か隣国の王女であるエステル様。彼女も今回の討伐隊に参加していた。帰途の際、自国に留まらずこちらにも足を運んでくれたことを嬉しく思った。何より向上心のある若者は好ましい。
「見事な心掛けです王女殿下。貴女のような方がいらっしゃるのなら未来も明るいですわ」
頬を赤く染めた王女はその場に佇み俯いてしまった。何か失礼があっただろうか。少々偉そうな物言いだったかもしれないが、親心と思って勘弁してほしいところだ。
「エステル様!キュアオールは使いましたか!?」
またもグイグイ絡むマキシム。流石に不敬だと脇腹をズムッと小突く。「ほひゅっ」と息を漏らし崩れ落ちる旦那。
「夫が失礼を致しました。皆様の英雄譚を聞きたくて舞い上がっているのです。今日だけは多めに見てくださると」
「か、構いませんわ!」と足早にその場を離れてしまった。不快な思いをさせてしまったようだ。
「気にすることないですよ」
「後で僕たちも言っておきますから」
「というかまあ」
「ああ、ミイラ取りがミイラになった形だな」
レオンとカミーユに気を遣わせてしまった。親として不甲斐無い、でも立派に成長したのね。
遠くからエステル様を宥めてるレオンとカミーユにハッとする。そうだわ、あの子たちとエステル様が恋仲になってもおかしくない、お年頃ですもの。厄介な姑と思われてるのかしら、私に言ってきたという事はカミーユ狙い?見る目は確かね。あ、でも傍にはサンドラも居るわ。なら私が答えたのは早まったのかもしれない。サンドラへの言葉だったのならレオンを好いているってことだもの。その後の様子からしてきっとそうだわ。私がしゃしゃり出て困ってしまったのね。それでも訂正しなかったのはきっと私に恥をかかせない為。エステル様って良い娘だわ~、応援しなければ。若い子たちの恋模様ってなんだか楽しいわ。でも面白がっては不謹慎ね。
何かもの言いたげな視線を向けるオーニール、腕を絡めて私の胸で涙を拭うサンドラ──嗚咽に混じって「グヘヘ」と聞こえるような……、そしていまだ床に沈んでるマキシムの頭を撫でている天使。
宴はまだ続いている。
~完~
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
30
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる