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第四部 また追放されました!?
第1話『薬師、再び追放される』
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――わたしは薬師エリン・ハーランド。
海辺の街ポルティアに滞在していたわたしは、夏の終わりとともにミランダ王国へ帰還した。
ミラベルさんとも久しぶりの再会を果たし、慣れ親しんだ工房での日々が戻ってくる。
「ね、熱冷ましの薬、できました。陳列、よろしくお願いします」
「はい! お預かりします!」
調合室で作った薬をクロエさんに渡し、一息つく。
今日頼まれていた薬はこれで全部だし、お昼からは暇になる。
久しぶりに自室に籠もって、薬材の本でも読み耽ろうかな。先日古本屋で、いい本を見つけたんだよね……。
「エリン! エリンはいるか!?」
「はひいぃっ!?」
このあとの至福の時間を想像し、思わず踊りだしそうになっていた時、調合室の扉が勢いよく開かれ、ミラベルさんが飛び込んできた。
完全に気を抜いていたわたしは、変な声が出た。
「な、なな、なんでしょうか」
「お前に国王陛下から招集がかかっている。今すぐ、王宮へ向かえ」
ミラベルさんは焦った様子でそう言うと、よそ行きの服を投げてよこした。
わたしはその服を顔面で受けたあと、しばし固まる。
え? なんでこのタイミングで王宮に呼ばれるの? わたしの至福の時間が……。
「エリン、ショックなのはわかるが、今は先に手を動かせ!」
「は、はははぃい!」
直後、強めの声がミラベルさんから飛んできて、わたしは弾けるように動き出す。
……本当、王様はわたしに何の用なんだろう。
◇
それからわたしは急いで支度を整え、王宮へと向かった。
久しぶりに足を踏み入れた城内は相変わらずの豪華さで、そこにいるだけで緊張してしまう。
「エリン殿、急に呼び出してすまぬな」
「い、いえ……」
入口の兵士さんに案内されるがまま、謁見の間へと歩みを進めると……国王陛下が玉座からわたしを見下ろしていた。
その時点で、わたしの緊張はピーク。視線は泳ぎ、例によって人見知りも発動している。
「あのその、ほ、本日はどのようなご要件でしょうか……?」
「うむ。エリン殿は最近、弟子を取ったそうだな」
「へっ? あ、はい……」
先日献上したお尻の薬が合わなかったのかな……なんて考えていたものの、国王陛下の口から出たのはそんな言葉だった。間違いなくスフィアのことだろう。
「聞けば、エリン殿の指導のもと、なかなかの腕前に育っているとのこと。ノーハット伯爵が称賛しておったぞ」
「そ、それは……ありがとうございます。キョーエツシゴクでございます」
そうお礼を言うも、普段使わない言葉を無理に使ったせいで、発音がおかしくなった。
「薬の知識だけでなく、人材育成の才もあるとは恐れ入る。そこで、エリン殿に頼みがあるのだが」
「な、なんでしょうか」
……あれ? なんだろう。すごく嫌な予感がする。
「ミランダ王国の東の果てに、ルークリッドという小さな村がある。そこの薬師工房で、新人薬師の指導にあたってはもらえぬだろうか」
「え?」
「その村では高齢の薬師が一人で工房を切り盛りしていたのだが、先日亡くなってしまったそうでな。跡継ぎはいるものの、若すぎるゆえに経営が成り立っておらんそうだ」
「は、はぁ……」
「村の代表から、指導者になり得る薬師をよこしてくれと再三言われていてな。この度、エリン殿に白羽の矢を立てたというわけだ。支度金も報酬も、言い値で用意する。いかがかな?」
国王陛下は玉座から身を乗り出し、名案とばかりに言う。
「ちょ、ちょっと待ってください。それってつまり、わたしは追放されるということですか……?」
「この場合、出向というべきだな。半年……いや、三ヶ月でいいのだ。跡継ぎの薬師が一人前になるまでで構わぬ」
……言い換えれば、その後継ぎさんの覚えが悪ければ、わたしはいつまでもその村から離れられないということになるのでは?
「で、でも、そうなるとエリン工房は……?」
「工房長や会計係は変わらぬし、薬の調合にしても、先の弟子がいるではないか。彼女に工房内限定の薬師免許を与えれば、何の問題もなかろう」
いやいや、大ありです! 工房を任されればスフィアは喜ぶでしょうけど、わたしの立場はどうなるんですか! せっかく居場所を見つけたのに、また追放されるなんて!
「そ、そうですね。問題ないですね……」
心の中で叫びに叫ぶも、実際に口から出たのはそんな言葉だった。
「そうであろう。詳細はまた追って連絡する。今日はもう下がって良いぞ」
「はい……失礼します……」
それ以上は何も言い返せぬまま、わたしは茫然自失で王宮をあとにしたのだった。
◇
……それから数日後。わたしはルークリッド村へ向かう荷馬車の上にいた。
あれから色々と考えてみたものの、結局国王陛下の決定には逆らえなかった。
「はぁぁ……本当に追放されてしまった……」
「エリンさん、言葉が悪いですよ。この場合、栄転ですよ。栄転」
馬車の手綱を引くレリックさんが、呆れ顔でそう言う。
彼はわたしを村まで送り届ける任を受けて、こうして行動をともにしてくれているのだ。
「それに、住めば都というではないですか。ご覧の通り、村の周囲は森に囲まれていますし、薬材の宝庫だと思いますよ」
「そ、そうですね。ぱっと見た限り、5~6種類の薬材は確認できました」
「さすがですねぇ。この調子で、新人指導も頑張ってください。私も薬材の搬入がてら、ちょくちょく様子を見に来ますので」
底抜けに明るい声で、レリックさんは言う。
一方のわたしは、これから先のことを考えると不安しかなかった。
……後継ぎさんって、どんな人なんだろう。クロエさんやマイラさんみたいに、話しやすい人だといいな。
……頑張れエリン、負けるなエリン。
海辺の街ポルティアに滞在していたわたしは、夏の終わりとともにミランダ王国へ帰還した。
ミラベルさんとも久しぶりの再会を果たし、慣れ親しんだ工房での日々が戻ってくる。
「ね、熱冷ましの薬、できました。陳列、よろしくお願いします」
「はい! お預かりします!」
調合室で作った薬をクロエさんに渡し、一息つく。
今日頼まれていた薬はこれで全部だし、お昼からは暇になる。
久しぶりに自室に籠もって、薬材の本でも読み耽ろうかな。先日古本屋で、いい本を見つけたんだよね……。
「エリン! エリンはいるか!?」
「はひいぃっ!?」
このあとの至福の時間を想像し、思わず踊りだしそうになっていた時、調合室の扉が勢いよく開かれ、ミラベルさんが飛び込んできた。
完全に気を抜いていたわたしは、変な声が出た。
「な、なな、なんでしょうか」
「お前に国王陛下から招集がかかっている。今すぐ、王宮へ向かえ」
ミラベルさんは焦った様子でそう言うと、よそ行きの服を投げてよこした。
わたしはその服を顔面で受けたあと、しばし固まる。
え? なんでこのタイミングで王宮に呼ばれるの? わたしの至福の時間が……。
「エリン、ショックなのはわかるが、今は先に手を動かせ!」
「は、はははぃい!」
直後、強めの声がミラベルさんから飛んできて、わたしは弾けるように動き出す。
……本当、王様はわたしに何の用なんだろう。
◇
それからわたしは急いで支度を整え、王宮へと向かった。
久しぶりに足を踏み入れた城内は相変わらずの豪華さで、そこにいるだけで緊張してしまう。
「エリン殿、急に呼び出してすまぬな」
「い、いえ……」
入口の兵士さんに案内されるがまま、謁見の間へと歩みを進めると……国王陛下が玉座からわたしを見下ろしていた。
その時点で、わたしの緊張はピーク。視線は泳ぎ、例によって人見知りも発動している。
「あのその、ほ、本日はどのようなご要件でしょうか……?」
「うむ。エリン殿は最近、弟子を取ったそうだな」
「へっ? あ、はい……」
先日献上したお尻の薬が合わなかったのかな……なんて考えていたものの、国王陛下の口から出たのはそんな言葉だった。間違いなくスフィアのことだろう。
「聞けば、エリン殿の指導のもと、なかなかの腕前に育っているとのこと。ノーハット伯爵が称賛しておったぞ」
「そ、それは……ありがとうございます。キョーエツシゴクでございます」
そうお礼を言うも、普段使わない言葉を無理に使ったせいで、発音がおかしくなった。
「薬の知識だけでなく、人材育成の才もあるとは恐れ入る。そこで、エリン殿に頼みがあるのだが」
「な、なんでしょうか」
……あれ? なんだろう。すごく嫌な予感がする。
「ミランダ王国の東の果てに、ルークリッドという小さな村がある。そこの薬師工房で、新人薬師の指導にあたってはもらえぬだろうか」
「え?」
「その村では高齢の薬師が一人で工房を切り盛りしていたのだが、先日亡くなってしまったそうでな。跡継ぎはいるものの、若すぎるゆえに経営が成り立っておらんそうだ」
「は、はぁ……」
「村の代表から、指導者になり得る薬師をよこしてくれと再三言われていてな。この度、エリン殿に白羽の矢を立てたというわけだ。支度金も報酬も、言い値で用意する。いかがかな?」
国王陛下は玉座から身を乗り出し、名案とばかりに言う。
「ちょ、ちょっと待ってください。それってつまり、わたしは追放されるということですか……?」
「この場合、出向というべきだな。半年……いや、三ヶ月でいいのだ。跡継ぎの薬師が一人前になるまでで構わぬ」
……言い換えれば、その後継ぎさんの覚えが悪ければ、わたしはいつまでもその村から離れられないということになるのでは?
「で、でも、そうなるとエリン工房は……?」
「工房長や会計係は変わらぬし、薬の調合にしても、先の弟子がいるではないか。彼女に工房内限定の薬師免許を与えれば、何の問題もなかろう」
いやいや、大ありです! 工房を任されればスフィアは喜ぶでしょうけど、わたしの立場はどうなるんですか! せっかく居場所を見つけたのに、また追放されるなんて!
「そ、そうですね。問題ないですね……」
心の中で叫びに叫ぶも、実際に口から出たのはそんな言葉だった。
「そうであろう。詳細はまた追って連絡する。今日はもう下がって良いぞ」
「はい……失礼します……」
それ以上は何も言い返せぬまま、わたしは茫然自失で王宮をあとにしたのだった。
◇
……それから数日後。わたしはルークリッド村へ向かう荷馬車の上にいた。
あれから色々と考えてみたものの、結局国王陛下の決定には逆らえなかった。
「はぁぁ……本当に追放されてしまった……」
「エリンさん、言葉が悪いですよ。この場合、栄転ですよ。栄転」
馬車の手綱を引くレリックさんが、呆れ顔でそう言う。
彼はわたしを村まで送り届ける任を受けて、こうして行動をともにしてくれているのだ。
「それに、住めば都というではないですか。ご覧の通り、村の周囲は森に囲まれていますし、薬材の宝庫だと思いますよ」
「そ、そうですね。ぱっと見た限り、5~6種類の薬材は確認できました」
「さすがですねぇ。この調子で、新人指導も頑張ってください。私も薬材の搬入がてら、ちょくちょく様子を見に来ますので」
底抜けに明るい声で、レリックさんは言う。
一方のわたしは、これから先のことを考えると不安しかなかった。
……後継ぎさんって、どんな人なんだろう。クロエさんやマイラさんみたいに、話しやすい人だといいな。
……頑張れエリン、負けるなエリン。
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