追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第四部 また追放されました!?

第3話『薬師、村の食堂にて』

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 その日は村の宿に泊まったものの、慣れない枕に加えて悩みの種が尽きず、朝までほとんど眠れなかった。

「うぅ……頭が痛い……」

 長旅の疲れと極度の緊張もあるのか、体調は最悪だ。

 幸いなことに、基本的な薬材やくざいは持ってきているので、それを使って頭痛薬を調合し、飲んでおく。

 昨日の胃腸薬しかり、薬師くすしをやっていて良かったと思える瞬間だった。

 お昼前になってようやく体調も落ち着き、鏡の前で身支度を整える。

 自前の薬のおかげで頭痛は治まったものの、寝不足でできた目の下のクマは隠せない。

「これ、どうしよう」

 王都からはるばる背負ってきたリュックの中を漁るも、出てくるのは薬材や調合の道具ばかり。白粉おしろいのような化粧品は一切入っていなかった。

 わたしが途方に暮れていると、盛大にお腹が鳴った。

 ……そういえば、昨日の夜から何も食べていない気がする。

 背に腹は代えられないと、わたしは覚悟を決める。髪だけ適当に結うと、宿を飛び出した。

 ◇

 それからわたしが向かったのは、村唯一の食堂だ。

「おや、いらっしゃい」

 勇気を振り絞って店内に足を踏み入れると、人の良さそうなおばさんが出迎えてくれた。

「あ、あの、こんにちは。食事、できますか?」

「構わないよ。好きな席に座っておくれ」

「あっ、はい」

 少し悩んで、わたしはお店の一番奥の席に腰を落ち着ける。

 まだ昼食時には少し早いということもあって、店内に人の姿はなかった。これなら、落ち着いて食事ができそうだ。

「ところであんた、見ない顔だねぇ」

 テーブルに置かれたメニューに目を通していると、おばさんが水を持ってきてくれた。

「は、はい。昨日、この村に来まして」

 メニューで顔を半分隠しながら、言葉を返す。

「ははぁ。ニグラード工房を任された薬師様ってのは、あんたのことかい」

 ……しまった。お客さんがいないということは、この人も暇を持て余しているということ。

 これは、根掘り葉掘り聞かれてしまう!?

「こんな若い子だとは知らなかったよ。あんた、名前は?」

「あっ、えと、エリン・ハーランドと申します……」

「エリンちゃんかい。しばらくこの村に滞在するんだろ。料理も大変だろうし、うちの店はいつでも使ってくれていいからね」

「は、はぁ。ありがとうございます……」

「そうだ。せっかくこんな村に来てくれたんだ。赴任祝いってことで、お昼はごちそうしてあげるよ」

「え? い、いや、それはさすがに……お金、払いますから」

「若い子が遠慮するんじゃないよ。ほら、早く料理を選びな」

「あ、あうあうあう……」

 笑顔で凄まれて、わたしは一切反論できず。速攻で押し負けてしまい、『本日の日替わりランチ』をごちそうになることにした。

「ほいよ。今日の日替わりランチは熊のシチューだ」

 やがてわたしの前に運ばれてきたのは、おいしそうなシチューとサラダ、そしてパンのセットだった。

 ……けれど、どの料理も明らかに量が多い。普段わたしが食べる量の二倍はある。

「あ、あの」

「お祝いの意味も込めて、大盛りにしといたからね。たんと食べておくれよ」

「は、はい。ありがとうございます。いただきます……」

 手をつける前に少し減らしてもらおうかな……なんて思ったものの、そんなことを口に出せる空気ではなかった。わたしは挨拶をして、熊のシチューを口に運ぶ。

「……あ、おいしいです」

「そうだろそうだろ。知り合いに腕のいい猟師がいてねぇ。処理も上手だから、クセがなくて食べやすいのさ」

 おばさんは満足げに笑う。熊のシチューなんて初めて食べたけど、お肉はほろほろでおいしい。

「ちなみに、エリンちゃんが食べてる熊はあれだよ」

 続いてそう言って、おばさんはお店の壁に掛けられた大きな毛皮を指差す。

 毛皮を見ただけで、その大きさがわかる。わたしの二倍……いや、三倍はあった。

 ……この熊も、わたしなんかに食べられるなんて夢にも思わなかっただろうなぁ。

 森の中で出会っていたら、確実にわたしが食べられる側だっただろうし。

「おーう。リベラ、今日も一杯飲ませてくれよ」

 毛皮から視線を戻し、なんともいえない気持ちでシチューを口にしていると……それこそ熊のような風貌をした男の人がお店に入ってきた。

「あんた、うちは夜しか酒出さないの知ってんでしょうが」

「硬いこと言うなって。ほんのちょーっとでいいんだ」

「あんたのちょっとは信用できないよ。ほら、体に良いヤギのミルクでも飲んでな」

 そんなやり取りを、わたしは呆気にとられながら見ていた。おばさんも気心が知れているようだし、常連さんなのかな。

「うん? お嬢ちゃん、見ない顔だなぁ」

「ひっ、ど、どうも……」

 突然声をかけられ、わたしは思わず縮こまる。

「この子はエリンちゃん。ニグラード工房を任されることになった薬師様さ」

「へぇ、その若さで薬師やってんのか」

「は、はい……」

「しかも、ミランダ王家お抱えらしいよ」

「そいつはすげぇ。それならこの村も安泰だな」

 この人の名前すら知らないのに、おばさんはわたしのことをどんどん話していく。

 田舎は噂が広がりやすいと言うけれど、わたしのこともこうやって広まっていくのかな。

「じゃあ、薬師様はもうあの工房に住んでるのか? よくロヴェルが受け入れたな」

「え、えっと、その、実は……」

 そこまできて、わたしはようやく自分の身の上を話すことができた。

 工房を訪れてみたものの、子どもたち総出で追い出されたことを伝えると、二人は顔を見合わせる。

「やっぱりそうなったか……ニグラードのばーさんには世話になったが、あの家のガキどもだけはいけ好かねぇ。親のいねぇ子どもを片っ端から引き取るから、こうなるんだ」

「あんたね、そう言うこと言うんじゃないよ。かわいそうな子たちなんだから」

 吐き出すように言う男性を、おばさんはそうたしなめる。

「あ、あの、それってどういうことですか」

「……あの工房の子どもたちは皆、親に捨てられてこの村にやってきたんだ。特に長兄のロヴェルは、とにもかくにも大人を信用しないんだ。まぁ、ニグラードのばーさんだけは例外だったみたいだけどね」

 思わず尋ねると、おばさんはしばし視線を泳がせたあと、そう教えてくれた。

「そ、そうだったんですね。あの、なんとかならないでしょうか。わたし、あの工房の経営を軌道に乗せないと、王都に帰れないんです」

「いい方法があったら、あたしたちが知りたいよ……エリンちゃん、大変だと思うけど、頑張ってね」

 おばさんはわたしの肩に手を置いたあと、果物の入った器を差し出してくれる。

 これでも食べて頑張りな……そう言われている気がした。

 ◇

 食事を済ませたわたしは、気持ちを新たにニグラード工房の前にやってきた。

 勇気を出して扉を叩こうとするも、昨日襲われた時の情景がまざまざと思い出され、躊躇ちゅうちょしてしまう。

 結局何もできず、工房の周りをウロウロ。

 背が届く位置にある窓は覗いてみたものの、その全てに厚いカーテンがかかっていて、中の様子はわからなかった。

「あー、うー」

 工房の周りを徘徊しては、時折立ち止まってうめき声をあげるわたし。村の人からしてみれば、完全に不審者だったと思う。

 そんな状況のまま、時間ばかりが過ぎ去る。気がつけば、日も陰ってきた。

 これは今日も、宿屋かな……。

 そんな考えが頭をよぎるも、わたしはその考えを必死に追い出す。

 いやいや、また襲われて宿屋に逃げ帰るにしても、やるだけやってみなければ。

 わたしが勇気を振り絞り、扉に手を伸ばした――その時。

 ばぁん! という音とともに、目の前の扉が勢いよく開き……赤髪の女の子二人が飛び出してきた。

「……え?」

 次の瞬間、わたしは少女たちと正面衝突。そのまま弾き飛ばされ、派手に地面を転がったのだった。
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