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第四部 また追放されました!?
第8話『薬師、村の工房での日々』
しおりを挟むそれから数日後。わたしは変わらず、ルークリット工房の一室で生活させてもらっていた。
鳥のさえずりとともに目を覚まし、森から流れてきた川の水を汲んで顔を洗う。
自分たちで育てた野菜を食べ、森の恵みに感謝する……ミランダ王国では決して味わうことのできなかった生活が、そこにはあった。
……そう言うと聞こえはいいのだけど、実際の村での生活は、かなり大変だった。
商店なんてものはないし、お店と呼べるものは、不定期にやってくる商人さんだけ。
全てが自給自足で、村の皆で協力しなければ食材すら揃わない。
つまり、この村では人々の繋がりが、なにより大事なのだ。
そして、わたしは人見知り。人の輪の中に入っていくのが、何より苦手な人種だった。
「あらエリンちゃん。おはよう」
「お、おはようございます」
水を汲みに小川に向かうと、ちょうどそこに食堂のおばさんがいた。
「少しは村に慣れたかい?」
「は、はい。おかげさまで」
そこまで言って、沈黙が訪れる。わたしは顔を伏せたまま、黙々と水を汲むしかなかった。
これまではマイラさんやクロエさんのような社交的な人が近くにいてくれたけど、今はわたし一人。会話が続くはずがなかった。
無言のまま水を汲み終わると、わたしはそそくさと水辺をあとにした。
「……あ」
水が入った桶を手に工房への道を歩いていると、前方からロヴェル君がやってきた。
「ロ、ロヴェル君、おはようございます」
「……」
できるだけ笑顔を作って挨拶したつもりだったけど、彼はわたしを一瞥しただけで、無言で去っていった。
……はぁ、今日も無視されてしまった。
相変わらず、あの子とはまともに会話ができていない。
わたしとしては、なんとか信頼関係を築きたいのだけど……ずっとこんな調子だ。
調合の手順書を作って、メモと一緒に部屋の前に置いたりしたけれど……読んでくれているのかもわからない。
「……やっぱり、笑顔が足りないのかな。思わず挨拶を返したくなるような、そんな笑顔を作るべき……?」
桶を持って洗面所に向かい、そこに設置された鏡を見る。
深緑色の髪はボサボサで、青色の瞳の下にはわずかにクマがある。いつものわたしがそこにいた。
「これじゃ駄目だ。それこそクロエさんみたいな、キラキラな笑顔を……」
言いながら、鏡の前で表情を作ってみる。
……引きつったような笑みしか作れなかった。これは、小さな子が見たら泣くかもしれない。
「エリンさん、おはよー!」
「ひゃああ!?」
そんなことをしていた矢先、洗面所の扉が勢いよく開かれた。わたしは思わず叫び声を上げる。
「あっ、おはようございます。えっと、ニーナちゃん?」
「残念! あたしはミーナだよ!」
「あああっ、すみません。また間違えました」
「あはは、気にしなくていいよー」
飛び込んできた少女の名前を呼ぶも、どうやら間違っていたらしい。
うぅ……さすが双子。寝起きでリボンもしていないせいか、本当に見分けがつかない。
「それよりエリンさん、メアリーの着替え、手伝ってあげてくれない?」
その赤髪をブラシで解きながら、ミーナちゃんが言う。
「あっ、はい。まかせてください」
「それが終わったら、ニーナを起こしてほしいかな! あの子、今日は朝食担当なのに、まだ寝てるの!」
青色のリボンを髪に結びつけながら、そう続ける。わたしは頷いて、まずはメアリーちゃんの部屋へと向かった。
……あれ? 居候という立場はあるけど、この工房ではわたしが最年長者のはず。
すっかり双子ちゃんたちに使われている気がするのは、気のせいだろうか。
◇
今日の朝食はニーナちゃんが焼いたパンと、もらった卵で作ったオムレツだった。
オムレツはわたしが担当するも、少し焦げてしまった。
料理は苦手だけど、この工房では全てが当番制。やらないわけにはいかなかった。
「んー、甘いオムレツ、食べたいー」
「わがまま言うなよー。砂糖は高いんだからなー」
メアリーちゃんがしょげているのを見て、キッチンに砂糖がなかったことに気づく。
王都では砂糖を簡単に入手できたけど、この村ではそうもいかないらしい。
……薬材のスイートリーフを使えば甘みを追加できるし、今度やってみようかな。
そんなことを考えながら、自作のオムレツを口に運ぶ。
……うむ。味がしない。というか、塩がうまく混ざりきらずに偏っている。
これは……薬だけでなく、料理も作れるようにならないといけないかも。
それこそ、元工房主のおばあちゃんが作っていた料理とか再現できるようになれば、ロヴェル君も心を開いてくれたり……しないかな。
……そんなこんなで、慌ただしい朝の時間が終わると……工房の子どもたちは、思い思いの時間を過ごす。
ロヴェル君は自室に籠もってるし、メアリーちゃんは外に遊びに行った。
わたしも特にやることはないし、店頭に並べる薬でも作っていようかな。
そう考えた矢先、双子ちゃんたちが大きなかごを持ち、外出準備を整えていた。
「あの、どこか行くんですか」
「うん! 森の中に薪を拾いに行こうと思って!」
「あわよくば、何か食材も手に入らないかなーって」
どちらもニコニコ顔だった。
まず、森に食材確保に行くという発想がわたしにはなく、驚かされた。
けれど、彼女たちにとってはこれが日常のようだ。
「わ、わたしも一緒に行っていいですか。それこそ、熊が出るかもしれませんし」
「あはは、こんな村の近くには出ないよー」
「そうそう。熊よけの鈴も持ってるし、エリンさん、心配性ー」
二人は笑顔を崩さずに言うも、万一ということがある。
魔物よけの薬は持ってきているし、もしかしたら役に立つかもしれない。
「でも、ついてきてくれるんなら嬉しいよー。高いところに生えてる木の実とか、あたしたちじゃ採れないこともあるし」
「そ、そういうことなら、頑張らせてもらいます。よろしくお願いします」
わたしは深く一礼すると、予備のかごを手に取る。それから二人に付き添い、森へと向かった。
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