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第四部 また追放されました!?
第21話『薬師、久しぶりの再会 中編』
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レリックさんの指し示す先には、エリン工房の皆がいた。
いや、正確には接客をしていた。買い物に押し寄せる村人たちを、満面の笑みでさばいている。
「あっ、エリンさん、久しぶりー!」
その時、一番近くにいたマイラさんがわたしの存在に気づき、手を振ってくる。
相変わらず元気がいい。
「み、皆さん、来てたんですか」
やがて人がはけたタイミングを見計らって、わたしは皆の元へと近づいていく。
「あれ? こっそり会いに来たのに……エリンさん、そこまで喜んでない?」
「いえその、喜びの前に、驚きが勝ってしまったというか」
「エリン先生、変わってないですねー。あ、いらっしゃいませー」
そんなマイラさんの隣で、スフィアがニコニコ顔で言う。
この子もこの子で、物怖じすることなく接客していた。とても10歳とは思えない。
「店が落ち着いたら顔を見せようと思っていたのだが、予想外の盛況っぷりに抜け出すタイミングを逃してしまった。すまんな」
「い、いえ……」
小麦の入った大きな袋を持ち上げながら、ミラベルさんは申し訳なさそうな顔をした。
この人まで来てくれるなんて、本当に珍しい。
「ちなみにクロエはあそこだぞ」
わたしが感心していると、ミラベルさんがある一点を指差す。
そこではクロエさんが営業スマイルを浮かべながら接客していた。
「お嬢ちゃん、この店に酒はないのかい?」
「ございますよー。王都の酒工房で作られた伝統酒! 少々お値段は張りますが、お兄さんのような違いのわかる方に呑んでいただきたい一品です!」
「ほほう。そう言われちゃ買わねぇわけにはいかねぇな。一本くれ」
「ありがとうございます!」
さすが商人志望。巧みなセールストークだった。まんまと口車に乗せられているディッツさんは、少し気の毒だけど。
思わず苦笑した時、わたしはふと気づく。
先程食べた焼き菓子……あれは以前、クロエさんが焼いてくれたものに味が似ていた。
値段も安かったし、彼女が用意してくれたものなのかな。
「ところであの、どうして皆さんはこの村に?」
「レリックの護衛と手伝いを兼ねてついてきた……というのは建前で、頑張るエリンに会いに来たんだ」
ミラベルさんはニヤリと笑う。
「と、ということは、エリン工房は?」
「三日間ほど休業する。常備薬や注文薬の一部はスフィアが多めに調合し、あらかじめ渡してある。心配はいらないぞ」
「そ、それならいいですけど……」
もし、急患とか来たらどうするんだろう……なんて考えが頭をよぎるも、今更だった。
「なぁ、その人たち、エリン先生の知り合いなのか?」
その時、ロヴェル君たちがやってきた。
「お? この村の子どもか?」
「初めまして! エリンさんと愉快な仲間たちだよ!」
どこか表情の硬い子どもたちの緊張を和らげるように、マイラさんが明るく言う。
「えっと、この子たちはですね……」
「すみませーん! お塩くださいな!」
それから自己紹介をしてもらおうとするも、またお客さんが増えてきた。
仕事の邪魔になっては悪いと、わたしたちは一旦その場から離れることにする。
「エリンさん、オリヴィア様から珍しい食材を預かってきましたので、夜は一緒に食べましょう!」
よく通るクロエさんの声に見送られながら、わたしたちは一度、工房へ戻ることにした。
◇
その日の夜、親睦会を兼ねて、皆で一緒に夕食を食べることになった。
改めてニグラード工房の子どもたちを紹介したあと、再会を祝して祝杯を上げる。
「せっかくだし、エリンも少し飲め。この村の果実酒は飲みやすいぞ」
「あ、いえ、わたし、お酒は……」
「駄目か? お前、少し前に成人を迎えただろう。少しくらい呑んだほうが、体にはいいんだぞ」
「そ、それはそうかもしれないですが……すみません。勘弁してください……」
ミラベルさんにボトルを向けられるも、先日の悪夢が蘇ったわたしは、全力で首を横に振る。
「先生、酒入ったほうが明るくなるし、飲んだほうがいいんじゃないか?」
「わーっ、わーっ、ロヴェル君、その話は内緒です」
「ほう……気になるな。坊主、その話、詳しく話して聞かせろ」
ロヴェルの失言をきっかけに、ミラベルさんが彼ににじり寄っていく。
次の瞬間、救いを求めるような視線を向けられたけど……わたしには何もできない。ロヴェル君、頑張ってください。
心の中で祈りを捧げて、二人から視線を外す。
それから隣を見ると、スフィアが双子姉妹とメアリーちゃんに囲まれていた。
「スフィアちゃんも薬師なんだねー。ロヴェルと同じだ!」
「ニーナ、ロヴェルと一緒にしちゃ駄目だよー。噂によると、おばーちゃんと同じ一級薬師らしいよ!」
「え? 私はまだ公式の薬師免許は持ってないです。エリン先生に限定免許をもらっているだけで……」
スフィアはその金色のツインテールを左右に揺らして否定するも、目の前の双子たちは笑顔のままだ。
年が近いのもあるのか、すごく楽しそうだった。
それにしても、スフィアについては村長さんの家で一度話しただけだというのに……もう噂になってるのかな。
しかも、これまた尾ひれがついてるし。村の情報網、恐るべし。
「エリンさん、これ、おいしいよー」
その時、マイラさんがお皿に持った肉料理を差し出してくる。
「あ、ありがとうございます。見たことのないお肉ですね」
それを受け取って、しげしげと眺めてしまう。豚肉でも鶏肉でもない、変わった見た目だった。
「カモ肉のスモークだって。オリヴィア様からのお土産だよ!」
マイラさんは興奮気味に言う。
これがそうなんだ。かなりの高級食材で、私も初めて見る。
「お酒のアテに最高だって、エドヴィンさんが言ってたよ。あたし、お酒ダメだけどさ」
「あ、そうなんですね。飲めない仲間、ですね」
「うんうん。体に合わないのかなー。一口飲んだら踊りだすんだよ」
その赤髪を掻きながら、マイラさんは笑う。
踊りだす……普段とあまり変わらないような。
「その点、クロエさんはすごいよねー。いくら飲んでも酔わないんだよ」
「え、そうなんですか」
「うん。ほら、見て」
言われて視線を送ると、ミラベルさんに付き合いながらお酒を嗜むクロエさんの姿があった。
すでにミラベルさんの顔はほんのり赤いけれど、クロエさんはけろりとしていた。
「エリンさん、どうかしましたか?」
思わず見入っていると、わたしの視線に気づいたクロエさんが首をかしげる。
「いえその、お酒たくさん飲めて、すごいなぁと」
「ふふ、お酒は飲んでも飲まれるなと、リーベルグ家の家訓にありまして。元々お酒に強い家系なのもありますけど」
尋ねてみると、満面の笑みとともにそんな言葉が返ってきた。
クロエさんの家は代々商人をやっているという話だし、交渉の席でお酒が出ることもあるのかな。
大事な商談で酔いつぶれてしまったら仕事にならないし、色々と大変そうだった。
いや、正確には接客をしていた。買い物に押し寄せる村人たちを、満面の笑みでさばいている。
「あっ、エリンさん、久しぶりー!」
その時、一番近くにいたマイラさんがわたしの存在に気づき、手を振ってくる。
相変わらず元気がいい。
「み、皆さん、来てたんですか」
やがて人がはけたタイミングを見計らって、わたしは皆の元へと近づいていく。
「あれ? こっそり会いに来たのに……エリンさん、そこまで喜んでない?」
「いえその、喜びの前に、驚きが勝ってしまったというか」
「エリン先生、変わってないですねー。あ、いらっしゃいませー」
そんなマイラさんの隣で、スフィアがニコニコ顔で言う。
この子もこの子で、物怖じすることなく接客していた。とても10歳とは思えない。
「店が落ち着いたら顔を見せようと思っていたのだが、予想外の盛況っぷりに抜け出すタイミングを逃してしまった。すまんな」
「い、いえ……」
小麦の入った大きな袋を持ち上げながら、ミラベルさんは申し訳なさそうな顔をした。
この人まで来てくれるなんて、本当に珍しい。
「ちなみにクロエはあそこだぞ」
わたしが感心していると、ミラベルさんがある一点を指差す。
そこではクロエさんが営業スマイルを浮かべながら接客していた。
「お嬢ちゃん、この店に酒はないのかい?」
「ございますよー。王都の酒工房で作られた伝統酒! 少々お値段は張りますが、お兄さんのような違いのわかる方に呑んでいただきたい一品です!」
「ほほう。そう言われちゃ買わねぇわけにはいかねぇな。一本くれ」
「ありがとうございます!」
さすが商人志望。巧みなセールストークだった。まんまと口車に乗せられているディッツさんは、少し気の毒だけど。
思わず苦笑した時、わたしはふと気づく。
先程食べた焼き菓子……あれは以前、クロエさんが焼いてくれたものに味が似ていた。
値段も安かったし、彼女が用意してくれたものなのかな。
「ところであの、どうして皆さんはこの村に?」
「レリックの護衛と手伝いを兼ねてついてきた……というのは建前で、頑張るエリンに会いに来たんだ」
ミラベルさんはニヤリと笑う。
「と、ということは、エリン工房は?」
「三日間ほど休業する。常備薬や注文薬の一部はスフィアが多めに調合し、あらかじめ渡してある。心配はいらないぞ」
「そ、それならいいですけど……」
もし、急患とか来たらどうするんだろう……なんて考えが頭をよぎるも、今更だった。
「なぁ、その人たち、エリン先生の知り合いなのか?」
その時、ロヴェル君たちがやってきた。
「お? この村の子どもか?」
「初めまして! エリンさんと愉快な仲間たちだよ!」
どこか表情の硬い子どもたちの緊張を和らげるように、マイラさんが明るく言う。
「えっと、この子たちはですね……」
「すみませーん! お塩くださいな!」
それから自己紹介をしてもらおうとするも、またお客さんが増えてきた。
仕事の邪魔になっては悪いと、わたしたちは一旦その場から離れることにする。
「エリンさん、オリヴィア様から珍しい食材を預かってきましたので、夜は一緒に食べましょう!」
よく通るクロエさんの声に見送られながら、わたしたちは一度、工房へ戻ることにした。
◇
その日の夜、親睦会を兼ねて、皆で一緒に夕食を食べることになった。
改めてニグラード工房の子どもたちを紹介したあと、再会を祝して祝杯を上げる。
「せっかくだし、エリンも少し飲め。この村の果実酒は飲みやすいぞ」
「あ、いえ、わたし、お酒は……」
「駄目か? お前、少し前に成人を迎えただろう。少しくらい呑んだほうが、体にはいいんだぞ」
「そ、それはそうかもしれないですが……すみません。勘弁してください……」
ミラベルさんにボトルを向けられるも、先日の悪夢が蘇ったわたしは、全力で首を横に振る。
「先生、酒入ったほうが明るくなるし、飲んだほうがいいんじゃないか?」
「わーっ、わーっ、ロヴェル君、その話は内緒です」
「ほう……気になるな。坊主、その話、詳しく話して聞かせろ」
ロヴェルの失言をきっかけに、ミラベルさんが彼ににじり寄っていく。
次の瞬間、救いを求めるような視線を向けられたけど……わたしには何もできない。ロヴェル君、頑張ってください。
心の中で祈りを捧げて、二人から視線を外す。
それから隣を見ると、スフィアが双子姉妹とメアリーちゃんに囲まれていた。
「スフィアちゃんも薬師なんだねー。ロヴェルと同じだ!」
「ニーナ、ロヴェルと一緒にしちゃ駄目だよー。噂によると、おばーちゃんと同じ一級薬師らしいよ!」
「え? 私はまだ公式の薬師免許は持ってないです。エリン先生に限定免許をもらっているだけで……」
スフィアはその金色のツインテールを左右に揺らして否定するも、目の前の双子たちは笑顔のままだ。
年が近いのもあるのか、すごく楽しそうだった。
それにしても、スフィアについては村長さんの家で一度話しただけだというのに……もう噂になってるのかな。
しかも、これまた尾ひれがついてるし。村の情報網、恐るべし。
「エリンさん、これ、おいしいよー」
その時、マイラさんがお皿に持った肉料理を差し出してくる。
「あ、ありがとうございます。見たことのないお肉ですね」
それを受け取って、しげしげと眺めてしまう。豚肉でも鶏肉でもない、変わった見た目だった。
「カモ肉のスモークだって。オリヴィア様からのお土産だよ!」
マイラさんは興奮気味に言う。
これがそうなんだ。かなりの高級食材で、私も初めて見る。
「お酒のアテに最高だって、エドヴィンさんが言ってたよ。あたし、お酒ダメだけどさ」
「あ、そうなんですね。飲めない仲間、ですね」
「うんうん。体に合わないのかなー。一口飲んだら踊りだすんだよ」
その赤髪を掻きながら、マイラさんは笑う。
踊りだす……普段とあまり変わらないような。
「その点、クロエさんはすごいよねー。いくら飲んでも酔わないんだよ」
「え、そうなんですか」
「うん。ほら、見て」
言われて視線を送ると、ミラベルさんに付き合いながらお酒を嗜むクロエさんの姿があった。
すでにミラベルさんの顔はほんのり赤いけれど、クロエさんはけろりとしていた。
「エリンさん、どうかしましたか?」
思わず見入っていると、わたしの視線に気づいたクロエさんが首をかしげる。
「いえその、お酒たくさん飲めて、すごいなぁと」
「ふふ、お酒は飲んでも飲まれるなと、リーベルグ家の家訓にありまして。元々お酒に強い家系なのもありますけど」
尋ねてみると、満面の笑みとともにそんな言葉が返ってきた。
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