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第四部 また追放されました!?
第22話『薬師、久しぶりの再会 後編』
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「はぁぁ、疲れた」
その時、ようやくミラベルさんから開放されたロヴェル君がこちらに歩いてくる。
「エリン先生ー、少しお話しましょう!」
全く同じタイミングで、反対側からスフィアもやってきた。
「ん?」
「むぅ?」
そしてわたしを挟み、二人は向かい合う。
……いや、睨み合っていると言ったほうが正しいかもしれない。
「……あなたがエリン先生の二番弟子、ロヴェル君ですね! よろしくお願いします!」
少しの間を置いて、スフィアが笑顔で握手を求める。
おそらく、ニーナちゃんたちから話を聞いたのだろう。
「……よろしく」
ロヴェル君はスフィアの手を握り返したものの……二番弟子という表現が気に食わなかったのか、ぶすっとしていた。
スフィアもスフィアで、わたしから直接指導を受けられるロヴェル君に嫉妬しているのかもしれない。
「あ、あのあの、わたしにとっては一番も二番も関係ないので、仲良くしてください」
「お? どうした。弟子たちがケンカしてるのか?」
二人の間でおろおろしていると、顔を赤くしたミラベルさんがやってくる。
「せっかく薬師が集まっているのだから、薬師らしい会話でもすればいいだろうに」
右手に持ったグラスを傾けながら、そう口にする。
薬師らしい会話ってなんだろう。好きな薬材について、熱く語りあうとか?
わたしは想像してみる。
「私はスイートリーフですかね。あの甘さは虜になりますよ!」
「あんなの、子どもしか舐めないぜ。俺はビリビリ草だな。あの舌が痺れる感じがクセになって、調合中にこっそり舐めちまうんだ」
「それなら、わたしはオルニカの根を推します。粉砕時に発生する独特の香りが……」
……うん。全然盛り上がらない。
むしろ、怪しい会話にすら聞こえる。これは無理だ。
「お、ロヴェルがさっそく女の子を口説いてる」
「アンナがヤキモチ焼くぞー?」
そんなことを考えていた矢先、ミーナちゃんたちが笑顔でこっちに歩いてきた。
「アンナって誰ですか?」
「あのね、ロヴェルが思いを寄せてる人で、歌がうまいの!」
「村のコンクールでも一等賞なんだよー!」
スフィアが尋ねると、双子ちゃんたちは声を弾ませる。
「この村に、そんなすごい人が……できることなら、歌を聴かせてほしいです!」
「いいよー。明日にでも頼んでみよう!」
わたしたちが止める間もなく、とんとん拍子で話が進んでいく。
あれくらいの年頃の女の子たちが一致団結したら、誰にも止められない。
……アンナちゃんは体調が悪い時があるけど、大丈夫かな。
わたしとロヴェル君は互いに不安顔をしつつも、顔を見合わせることしかできなかった。
◇
その翌日、わたしたちは皆でアンナちゃんの家に向かう。
幸いなことに、その日のアンナちゃんはだいぶ体調が良く、皆の前でいくつもの曲を歌ってくれた。
「……これは、なかなかの美声だな。この村に、こんな才能のある者がいたとは」
透き通るような歌声を聞きながら、ミラベルさんは感心しきりだった。
「……ご清聴、ありがとうございました!」
やがて歌い終わったアンナちゃんが一礼すると、周囲から拍手が巻き起こる。
「きれいな歌声でしたねー」
「うん! 聞き惚れちゃったよ!」
クロエさんやマイラさんも拍手を続けながら、口々に称賛の声をあげる。
その光景を見守るロヴェル君は、どこか満足げだった。
「上手な歌を聴いてると、あたしたちも歌いたくなるよねぇ」
「そうですね! エリン先生、一緒に歌いましょう!」
続いてスフィアからキラッキラの笑顔を向けられるも、わたしは全力で首を横に振る。
人と話すのすらきついのに、人前で歌うなんてとんでもない。
「では僭越ながら! マイラ、歌います!」
そうこうしていると、アンナちゃんに感化されたマイラさんが大きな声で歌い出す。
初めて聴く歌だった。マイラさんの故郷の歌なのかな。
「マイラ、ストップだ。お前の独特な音程は、聴くに耐えん」
けれど、その歌はミラベルさんによってすぐに止められてしまった。
わたしとしても、マイラさんの歌は微妙だった。アンナちゃんの歌声を聞いたあとだと、なおさらだ。
「せっかくですし、アンナさんから上手に歌うコツを教えてもらってはどうでしょう」
「え、私が教えるんですか?」
その時、クロエさんがそんな提案をする。アンナちゃんは困惑顔をしていた。
「それいいね! アンナ、教えてあげなよ!」
「うんうん! よろしく、アンナ先生!」
「わ、わかりました。皆さんがそう言うのでしたら、一緒に歌いましょう」
その意見に賛同した双子たちやマイラさんに気圧されるように、アンナちゃんがうなずく。
それから皆で輪になって、歌の練習をすることになった。
……こ、この流れはまずい。このままだと、確実にわたしも巻き込まれる。
正直、わたしは歌が苦手だ。なんとかしてこの場から脱出しないと。
「……ロ、ロヴェル君、あなたも参加してください」
「え、俺も? 女連中だけでいいじゃん」
「……ダメだよ。合唱には男の人の声も必要なんだから」
「そう言われても、男は俺一人なんだけど……いてて、引っ張るなって」
勇気を出してロヴェル君に声をかけると、いい塩梅にアンナちゃんがそれを拾ってくれた。そのまま彼の手を掴み、輪の中に引きずりこんでいく。
わたしは心の中でロヴェル君に謝りつつ、こっそりとその場を抜け出したのだった。
その時、ようやくミラベルさんから開放されたロヴェル君がこちらに歩いてくる。
「エリン先生ー、少しお話しましょう!」
全く同じタイミングで、反対側からスフィアもやってきた。
「ん?」
「むぅ?」
そしてわたしを挟み、二人は向かい合う。
……いや、睨み合っていると言ったほうが正しいかもしれない。
「……あなたがエリン先生の二番弟子、ロヴェル君ですね! よろしくお願いします!」
少しの間を置いて、スフィアが笑顔で握手を求める。
おそらく、ニーナちゃんたちから話を聞いたのだろう。
「……よろしく」
ロヴェル君はスフィアの手を握り返したものの……二番弟子という表現が気に食わなかったのか、ぶすっとしていた。
スフィアもスフィアで、わたしから直接指導を受けられるロヴェル君に嫉妬しているのかもしれない。
「あ、あのあの、わたしにとっては一番も二番も関係ないので、仲良くしてください」
「お? どうした。弟子たちがケンカしてるのか?」
二人の間でおろおろしていると、顔を赤くしたミラベルさんがやってくる。
「せっかく薬師が集まっているのだから、薬師らしい会話でもすればいいだろうに」
右手に持ったグラスを傾けながら、そう口にする。
薬師らしい会話ってなんだろう。好きな薬材について、熱く語りあうとか?
わたしは想像してみる。
「私はスイートリーフですかね。あの甘さは虜になりますよ!」
「あんなの、子どもしか舐めないぜ。俺はビリビリ草だな。あの舌が痺れる感じがクセになって、調合中にこっそり舐めちまうんだ」
「それなら、わたしはオルニカの根を推します。粉砕時に発生する独特の香りが……」
……うん。全然盛り上がらない。
むしろ、怪しい会話にすら聞こえる。これは無理だ。
「お、ロヴェルがさっそく女の子を口説いてる」
「アンナがヤキモチ焼くぞー?」
そんなことを考えていた矢先、ミーナちゃんたちが笑顔でこっちに歩いてきた。
「アンナって誰ですか?」
「あのね、ロヴェルが思いを寄せてる人で、歌がうまいの!」
「村のコンクールでも一等賞なんだよー!」
スフィアが尋ねると、双子ちゃんたちは声を弾ませる。
「この村に、そんなすごい人が……できることなら、歌を聴かせてほしいです!」
「いいよー。明日にでも頼んでみよう!」
わたしたちが止める間もなく、とんとん拍子で話が進んでいく。
あれくらいの年頃の女の子たちが一致団結したら、誰にも止められない。
……アンナちゃんは体調が悪い時があるけど、大丈夫かな。
わたしとロヴェル君は互いに不安顔をしつつも、顔を見合わせることしかできなかった。
◇
その翌日、わたしたちは皆でアンナちゃんの家に向かう。
幸いなことに、その日のアンナちゃんはだいぶ体調が良く、皆の前でいくつもの曲を歌ってくれた。
「……これは、なかなかの美声だな。この村に、こんな才能のある者がいたとは」
透き通るような歌声を聞きながら、ミラベルさんは感心しきりだった。
「……ご清聴、ありがとうございました!」
やがて歌い終わったアンナちゃんが一礼すると、周囲から拍手が巻き起こる。
「きれいな歌声でしたねー」
「うん! 聞き惚れちゃったよ!」
クロエさんやマイラさんも拍手を続けながら、口々に称賛の声をあげる。
その光景を見守るロヴェル君は、どこか満足げだった。
「上手な歌を聴いてると、あたしたちも歌いたくなるよねぇ」
「そうですね! エリン先生、一緒に歌いましょう!」
続いてスフィアからキラッキラの笑顔を向けられるも、わたしは全力で首を横に振る。
人と話すのすらきついのに、人前で歌うなんてとんでもない。
「では僭越ながら! マイラ、歌います!」
そうこうしていると、アンナちゃんに感化されたマイラさんが大きな声で歌い出す。
初めて聴く歌だった。マイラさんの故郷の歌なのかな。
「マイラ、ストップだ。お前の独特な音程は、聴くに耐えん」
けれど、その歌はミラベルさんによってすぐに止められてしまった。
わたしとしても、マイラさんの歌は微妙だった。アンナちゃんの歌声を聞いたあとだと、なおさらだ。
「せっかくですし、アンナさんから上手に歌うコツを教えてもらってはどうでしょう」
「え、私が教えるんですか?」
その時、クロエさんがそんな提案をする。アンナちゃんは困惑顔をしていた。
「それいいね! アンナ、教えてあげなよ!」
「うんうん! よろしく、アンナ先生!」
「わ、わかりました。皆さんがそう言うのでしたら、一緒に歌いましょう」
その意見に賛同した双子たちやマイラさんに気圧されるように、アンナちゃんがうなずく。
それから皆で輪になって、歌の練習をすることになった。
……こ、この流れはまずい。このままだと、確実にわたしも巻き込まれる。
正直、わたしは歌が苦手だ。なんとかしてこの場から脱出しないと。
「……ロ、ロヴェル君、あなたも参加してください」
「え、俺も? 女連中だけでいいじゃん」
「……ダメだよ。合唱には男の人の声も必要なんだから」
「そう言われても、男は俺一人なんだけど……いてて、引っ張るなって」
勇気を出してロヴェル君に声をかけると、いい塩梅にアンナちゃんがそれを拾ってくれた。そのまま彼の手を掴み、輪の中に引きずりこんでいく。
わたしは心の中でロヴェル君に謝りつつ、こっそりとその場を抜け出したのだった。
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