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第四部 また追放されました!?
第26話『薬師、貴族様と再会する』
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わたしたちの前に現れたのは、以前お世話になったノーハット伯爵様だった。
まさかの貴族様の登場ということで、集まっていた人々は蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「エリン様、こんなところでお会いできるなんて思いませんでした!」
「わぎゃ!?」
その馬車にはオリヴィア様も乗っていて、思いっきり抱きつかれてしまう。
「オ、オリヴィア様、ご機嫌麗しゅうございます……」
「まぁ、そんな挨拶は不要です!」
思わず堅っ苦しい挨拶をするも、キラキラの笑顔を向けられた。
「オリヴィア、よさないか。エリン殿も戸惑っているぞ」
「だって、本当に久しぶりですもの。少しくらい大目に見てくださいまし」
笑顔を絶やさずにオリヴィア様が言う。そんな光景を、馬の手綱を握るエドヴィンさんが微笑ましそうに見ていた。
「エ、エドヴィンさんもお久しぶりです」
「お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」
「ええまぁ、おかげさまで……こんな場所で皆さんとお会いできるなんて、思いませんでした」
「うむ。今日は商談の帰りなのだ。オリヴィアも見学したいと申し出てな」
「そ、そうなんですね」
ノーハット伯爵様は満足顔で言う。その様子からして、商談は上手くいったのだろう。
「エリンさん、その人たち、誰?」
その時、少し離れた場所からその様子を見ていたミーナちゃんたちが、おずおずと聞いてきた。
「えっと、この人たちはですね……」
わたしはそのタイミングで、ニグラード家の子どもたちを彼らに紹介する。
「貴族様と知り合いって言ってたけど、ホントだったんだ」
「エリンさん、すごーい!」
わたしと貴族様たちの関係を知った双子たちは、そう口々に褒めてくれる。
「えとその、ありがとうございます……」
何がすごいのかよくわからなかったけど、とりあえずお礼を言っておく。
……そんな中、ロヴェル君だけが微妙な反応をしていた。
大人が苦手というのもあるだろうけど、相手の身分を理解しているからこそ、反応に困っているのだろう。
その気持はよくわかる。わたしだって、ノーハット伯爵様と二人きりにされたら、何を話せばいいかわからなくなる自信があった。
……その後、この街にやってきた理由を説明すると、ルークリッド村まで馬車で送ってくれることになった。
「そ、そんな、さすがに悪いですよ」
「なに、遠慮することはない。あの村まで大荷物を持って帰るのは大変であろう」
「そうですわ。馬車は広いので、皆さん乗れます。エリン様、ゆっくりお話しましょう」
「は、はぁ、そうですね。わたしも楽しみです……」
双子姉妹とメアリーちゃんは貴族の馬車に乗れると喜んでいたけど、わたしとロヴェル君はガチガチに緊張していた。
……特製胃薬、用意しておけばよかった。
◇
それから馬車に揺られることしばし。わたしたちはルークリッド村へと到着した。
ノーハット伯爵様たちにお礼を言って別れたあと、すぐに工房に戻る。
貴族様との会話で精神力はかなり削られたけど、馬車移動のおかげで体力は温存できた。
急いで薬浴の準備を始めよう。
わたしは店舗スペースの一角を布で仕切り、薬浴スペースにすることにした。
「い、今から薬浴のやり方を教えますから、しっかりと聞いてくださいね」
そこにロヴェル君を呼び寄せて、手順を説明していく。
「まず、この草を薬研で粗めに潰して、たっぷりのお湯で煮出します」
言いながら、一束の植物を取り出してみせる。
「それって、ヌクヨモ草か?」
「そうです。この村の近くに生えているので、足りなくなったら補充してください。他の薬材と違って、乾燥させる必要はありません」
そこまで言って、あらかじめ粉砕していたものを取り出す。独特の香りが周囲に充満した。
「……うぇ。すごい匂いだな」
「この香りが有効成分の素なんです。これを水と一緒に焜炉にかけて、しっかりと沸騰させます。お湯の量は八分目ほどを保ってください」
やがてぐつぐつと煮立った焜炉の上に、穴の空いた椅子を置く。これで準備完了だ。
「薬浴を受ける人は、マントを羽織ってこの椅子に座ります。こうすることで、蒸気をマントの中に溜めることができます」
「でもそれだと、汗と蒸気で服が大変なことにならないか?」
「じ、実際は、このマントの下は裸なんです。今は脱ぐわけにもいかないので」
そう口にしながら、思わず顔が熱くなる。
目の前のロヴェル君も顔が赤いし、何か変なもの想像したのかな。
「と、とにかく、薬浴の手順は以上です。何か質問はありますか」
「特にないけどさ……先生、なんで俺にここまで詳しく教えてくれるんだ?」
「こ、この薬浴は、ロヴェル君がやるんです」
「え、なんで俺が」
「これは、接客業のような一面もあります。人見知りのわたしに、接客はできません」
そう伝えると、彼は渋々ながら了承してくれる。
本来、薬浴はロヴェル君が村の皆と仲良くなるための口実なのだ。彼にやってもらわないと意味がない。
「なので、常にお客さんとお話をしてください。薬浴中に気分が悪くなる人もいますので、その確認も兼ねています。重要なことですよ」
続けてそう言うと、ロヴェルくんは引き締まった表情でうなずいた。
あとは、習うより慣れろだ。
明日にでも村の皆に声をかけて、薬浴を始めることにしよう。
まさかの貴族様の登場ということで、集まっていた人々は蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「エリン様、こんなところでお会いできるなんて思いませんでした!」
「わぎゃ!?」
その馬車にはオリヴィア様も乗っていて、思いっきり抱きつかれてしまう。
「オ、オリヴィア様、ご機嫌麗しゅうございます……」
「まぁ、そんな挨拶は不要です!」
思わず堅っ苦しい挨拶をするも、キラキラの笑顔を向けられた。
「オリヴィア、よさないか。エリン殿も戸惑っているぞ」
「だって、本当に久しぶりですもの。少しくらい大目に見てくださいまし」
笑顔を絶やさずにオリヴィア様が言う。そんな光景を、馬の手綱を握るエドヴィンさんが微笑ましそうに見ていた。
「エ、エドヴィンさんもお久しぶりです」
「お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」
「ええまぁ、おかげさまで……こんな場所で皆さんとお会いできるなんて、思いませんでした」
「うむ。今日は商談の帰りなのだ。オリヴィアも見学したいと申し出てな」
「そ、そうなんですね」
ノーハット伯爵様は満足顔で言う。その様子からして、商談は上手くいったのだろう。
「エリンさん、その人たち、誰?」
その時、少し離れた場所からその様子を見ていたミーナちゃんたちが、おずおずと聞いてきた。
「えっと、この人たちはですね……」
わたしはそのタイミングで、ニグラード家の子どもたちを彼らに紹介する。
「貴族様と知り合いって言ってたけど、ホントだったんだ」
「エリンさん、すごーい!」
わたしと貴族様たちの関係を知った双子たちは、そう口々に褒めてくれる。
「えとその、ありがとうございます……」
何がすごいのかよくわからなかったけど、とりあえずお礼を言っておく。
……そんな中、ロヴェル君だけが微妙な反応をしていた。
大人が苦手というのもあるだろうけど、相手の身分を理解しているからこそ、反応に困っているのだろう。
その気持はよくわかる。わたしだって、ノーハット伯爵様と二人きりにされたら、何を話せばいいかわからなくなる自信があった。
……その後、この街にやってきた理由を説明すると、ルークリッド村まで馬車で送ってくれることになった。
「そ、そんな、さすがに悪いですよ」
「なに、遠慮することはない。あの村まで大荷物を持って帰るのは大変であろう」
「そうですわ。馬車は広いので、皆さん乗れます。エリン様、ゆっくりお話しましょう」
「は、はぁ、そうですね。わたしも楽しみです……」
双子姉妹とメアリーちゃんは貴族の馬車に乗れると喜んでいたけど、わたしとロヴェル君はガチガチに緊張していた。
……特製胃薬、用意しておけばよかった。
◇
それから馬車に揺られることしばし。わたしたちはルークリッド村へと到着した。
ノーハット伯爵様たちにお礼を言って別れたあと、すぐに工房に戻る。
貴族様との会話で精神力はかなり削られたけど、馬車移動のおかげで体力は温存できた。
急いで薬浴の準備を始めよう。
わたしは店舗スペースの一角を布で仕切り、薬浴スペースにすることにした。
「い、今から薬浴のやり方を教えますから、しっかりと聞いてくださいね」
そこにロヴェル君を呼び寄せて、手順を説明していく。
「まず、この草を薬研で粗めに潰して、たっぷりのお湯で煮出します」
言いながら、一束の植物を取り出してみせる。
「それって、ヌクヨモ草か?」
「そうです。この村の近くに生えているので、足りなくなったら補充してください。他の薬材と違って、乾燥させる必要はありません」
そこまで言って、あらかじめ粉砕していたものを取り出す。独特の香りが周囲に充満した。
「……うぇ。すごい匂いだな」
「この香りが有効成分の素なんです。これを水と一緒に焜炉にかけて、しっかりと沸騰させます。お湯の量は八分目ほどを保ってください」
やがてぐつぐつと煮立った焜炉の上に、穴の空いた椅子を置く。これで準備完了だ。
「薬浴を受ける人は、マントを羽織ってこの椅子に座ります。こうすることで、蒸気をマントの中に溜めることができます」
「でもそれだと、汗と蒸気で服が大変なことにならないか?」
「じ、実際は、このマントの下は裸なんです。今は脱ぐわけにもいかないので」
そう口にしながら、思わず顔が熱くなる。
目の前のロヴェル君も顔が赤いし、何か変なもの想像したのかな。
「と、とにかく、薬浴の手順は以上です。何か質問はありますか」
「特にないけどさ……先生、なんで俺にここまで詳しく教えてくれるんだ?」
「こ、この薬浴は、ロヴェル君がやるんです」
「え、なんで俺が」
「これは、接客業のような一面もあります。人見知りのわたしに、接客はできません」
そう伝えると、彼は渋々ながら了承してくれる。
本来、薬浴はロヴェル君が村の皆と仲良くなるための口実なのだ。彼にやってもらわないと意味がない。
「なので、常にお客さんとお話をしてください。薬浴中に気分が悪くなる人もいますので、その確認も兼ねています。重要なことですよ」
続けてそう言うと、ロヴェルくんは引き締まった表情でうなずいた。
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2021/02/12日、完結しました。
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