追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第四部 また追放されました!?

第27話『薬師、村に薬浴を広める』

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 その翌日から、さっそく薬浴やくよくを始める。

 まずは知り合いからということで、ニーナちゃんたちに協力してもらい、近しい人たちに声をかけてもらった。

 ……ちなみに誰が来てくれるのか、わたしは一切知らない。

 だって、人見知りのわたしが勧誘なんてついて行けるはずがないし。

「おはようございます。薬浴体験はこちらですかな」

 最初のお客さんは、どうやら村長さんのようだ。

 村の代表者だし、当然と言えば当然かもしれない。

「い、いらっしゃいませ」

 そんな村長さんを、ロヴェル君は緊張した面持ちで出迎える。

「おや、ロヴェルがやってくれるのですか」

 村長さんは一瞬驚いたような顔をしたあと、努めて自然体でロヴェル君に接してくれる。

「……ああ、やり方はエリン先生に習ったから、安心してくれよ」

「そうですか。よろしくお願いします」

 そんなやり取りを、わたしは調合室の入口からハラハラしながら見守っていた。

 その隣には、同じく心配顔の双子姉妹や、メアリーちゃんの姿もある。

「じゃあ、まずは服を脱いでもらって、このマントを……」

「こ、こうですか。いやはや、なんとも面妖な……」

 ロヴェル君は教えた手順通りに準備をし、村長さんに薬浴を体験させてあげる。

 その様子を見て、わたしは胸を撫でおろす。

 この薬浴の料金は一回50ピール。正直利益なんて出ないのだけど、まずは薬浴について知ってもらうこと、そしてロヴェル君が村人たちと交流してもらうことが第一だ。

「最近、あなたの妹たちの様子はどうですか」

「……エリン先生が来てから、賑やかだよ」

 椅子の下に置かれたヌクヨモ草入りの鍋が沸騰するまで、どうしても時間がかかる。

 その待ち時間を利用して、ロヴェル君には場繋ぎ的な会話をしてもらう。

 わたしにはとても無理だけど、彼ならそれができるはずだ。いや、できてもらわないと困る。

「……なんだか、体が温まってきましたぞ。汗も……」

「それがヌクヨモ草の効果だよ。血行を促進して、体から汗と一緒に悪いものを出すんだ」

 ロヴェル君がそう説明すると、村長さんは感心顔をした。

 しっかりと効能も覚えているようだし、一安心だ。

 ……そうこうしているうちに村長さんの薬浴が終わり、彼は体が軽くなったとお礼を言って、工房をあとにしていった。

「……よう。温泉に入った気分になれるってのは、ここか?」

 そんな村長さんに続いてやってきたのは、猟師のディッツさんだった。

 強面の彼に対しても、ロヴェル君はきちんと手順と効能を説明し、しっかりと施術できていた。

 弾まないにしても、それなりに会話もできていたし、この調子で続ければ、彼も近いうちに村の大人たちと打ち解けることができるはずだ。

 ◇

 ……そんなふうに薬浴を続けていると、今度はアンナちゃんがやってきた。

「なんだ。アンナかよ」

 その顔を見たとたん、ロヴェル君は急にふてぶてしい態度になる。

 おそらく、安心感の裏返しなのだろう。

「え、なにその言い方。せっかくロヴェルが頑張ってるって聞いたから、薬浴受けに来てあげたのに」

 アンナちゃんロヴェル君の内心をもわかっているのか、笑顔で言って代金を手渡す。

「わざわざありがとうな。エリン先生直伝の薬浴はめちゃくちゃ効くんだぜ」

「ふふ、楽しみにしてるね。それで、どうすればいいの?」

「えっと、服を脱いで、このマントを……」

「え、脱ぐ……の? ここで?」

「あ」

 次の瞬間、ロヴェル君とアンナちゃんはお互いに顔を赤くし、固まってしまった。

 蒸気をしっかりと浴びるために、基本、マントの下に衣類は身に付けない。

 先程までのお客さんはどちらも男性だったから、特に気にせずロヴェル君と同じ場所で着替えてもらったのだけど……。

「い、いやその、えっと」

「……でも、これは治療なんだよね? ロヴェルの前なら、別にいいかな」

「だっ、ダメダメ! ダメですよ!」

「アンナ、早まらないでー!」

 おずおずと服に手をかけたアンナちゃんを止めるべく、わたしたちは調合室から飛び出す。

「こんの、エロヴェルー!」

 二人の元へ辿り着くやいなや、ミーナちゃんたちはロヴェル君を仕切りの布の外へと引きずり出す。

「ちょっ、俺が何したってんだよ!?」

「ごーほー的にアンナのハダカを見ようとした!」

「し、してねーし!」

 薄い布の向こうでそんな言い争いが繰り広げられる中、わたしは改めてアンナちゃんに薬浴のやり方や効能を説明。誰にも見られないように注意しつつ、着替えを手伝ったのだった。

「……ありがとう。ロヴェル、気持ちよかったよ」

「お、おう……また、来いよな」

 その後、薬浴自体は順調に終わったものの……二人の間にはなんとも言えない微妙な空気が流れていた。

 熱い蒸気を浴びたあとだし、アンナちゃんの顔は紅潮している。

 加えて、普段三編みになっている金髪は解かれ、汗と蒸気にまみれて艶やかな光沢を放っていた。

 好きな女の子のそんな姿……思春期の男の子には、ちょっと刺激が強すぎたのかもしれない。

 ◇

 ……そんなこんなありつつも、村人たちに薬浴は概ね好評だった。

 普段お風呂に入ることができない環境もあるだろうけど、ここまでの盛況っぷりは予想外だった。

 びっしりと埋まってしまった予約表を見つつ、わたしは思わず笑みを浮かべたのだった。
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