追放薬師は人見知り!?

川上とむ

文字の大きさ
65 / 91
第四部 また追放されました!?

第28話『薬師、疲れが出る』

しおりを挟む
 村で薬浴やくよくを始めたことで、ロヴェル君と村の大人たちとの関係は着実に変わっていった。

 それに比例してニグラード工房を訪れる人も増え、最近は村人たちのたまり場のようになりつつあった。

 人見知りのわたしとしては、正直かなりきついのだけど……こうなるのはロヴェル君にとってはいいことだ。

 わたしは必死に笑顔を作り、工房にやってくるたくさんのお客さんの相手をし続けた。

 ……そんな気苦労もあったのか、ある日、わたしは体調を崩してしまった。

「う、うぅ……ゲホゴホ」

 症状的には、ただの風邪。熱はあまりないけど、体が重い。加えて喉が痛くて、食べ物が飲み込みづらい。

「ニーナちゃん、エリンお姉ちゃん、大丈夫だよね?」

「もちろん! 今、ロヴェルが薬を作ってくれてるから、それを飲めば一発だよ!」

 自室のベッドで寝込むわたしを見ながら、双子ちゃんたちとメアリーちゃんが不安顔をしている。

 そんな彼女たちに安心させる言葉をかけていると、ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

「先生、薬ができたぜ!」

 その音の正体はロヴェル君で、煮出した薬を手に持っている。

「あ、ありがとうございます……」

 わたしはなんとか体を起こすと、薬を受け取って一口飲む。

「……ビリビリ草、アプリコットの種、スイートリーフに、グリーンオリーブ。あと、トウガラシの根も少し入っていますか」

「……さすが先生だなぁ。煮出しててもわかるのか」

「なんとなく、ですが。あ、でも次はジャールの根も少量加えてほしいです。食欲増進の効果がありますので」

「わ、わかった。次からはそうするよ」

 わたしがそう伝えると、ロヴェル君は真剣な表情でメモを取っていた。

「もー、エリンさん! こんな時まで授業しないで!」

「そ、そうですね。すみません」

 その時、双子姉妹に怒られてしまった。

 わたしは謝ってから、残っていた薬を飲み干して、ベッドに身を横たえる。

 それと同時に、窓の外からは賑やかな音楽が聞こえてきた。

 今日は年に一度、村で収穫祭が行われる日で、その年に採れた食べ物を村人全員で分け合うらしい。

 普段は遠くの街に出稼ぎに行っている村の関係者たちも、この日ばかりは村に戻ってきて、収穫作業とお祭りを楽しむのだとか。

 それに合わせるように、行商人や大道芸の一団もやってきて、村は活気に満ちていた。

 ……そんな中でも、ニグラード家の子どもたちは収穫祭には行かず、わたしの看病をしてくれていた。すごく、申し訳ない気持ちになる。

 ……そういえば、以前も同じように体調を崩したことがあった気がする。

 あの時は確か、王都でのアメス祭りの日だった。行事ごとになると体調を崩すのは、どうしてだろう。

「ゲホゴホ……あの、わたしのことは気にせず、収穫祭に行ってきてください。きっと楽しいですよ」

「エリンさんがこんな状況なのに、行っても楽しめない!」

「うん!」

 わたしはそう口にするも、子どもたちは揃って首を横に振った。

「俺たちのことは気にしなくて大丈夫だからさ。先生は病気を治してくれよ」

「そうだよ! 何かあったら、コレで呼んでね!」

 彼らはそう言うと、わたしの枕元にハンドベルを置く。喉が痛くて大きな声が出せないわたしへの配慮だろう。

「じゃあ、先生、ゆっくり休んでくれよな」

「あの、ロヴェル君」

 子どもたちが部屋から去っていく中、わたしはロヴェル君を呼び止める。

「え、どうしたんだ? 何か欲しいものでもあるのか?」

「……いえその、熱冷ましの薬、いい出来栄えでした。合格です」

 わたしの言葉を聞いたロヴェル君は、口をぽかんと開けた。

「最近はアンナちゃんの病状も安定していますし、一般的な薬の調合は、もう任せてもいいかと考えています」

「そ、それってつまり……?」

「わたしの名前で、ロヴェル君に工房内限定の薬師免許を出そうかと思っています。それくらい、あなたは薬の調合が上手になりました」

「……ホントか!?」

 彼は一瞬笑顔になるも、すぐに表情を引き締める。

「いや……そういうのは、きちんと元気になってから言ってくれよ。俺の薬、まだ効くって決まったわけじゃないしさ」

 そして、自らを律するようにそう言った。

 ……この子は本当に成長した。この工房は、もう彼に任せてもいいかもしれない。

 ◇

 ……それから二日後の朝。わたしの体調は回復し、ベッドから起き上がれるようになった。

 わたしが寝込んでいる間も、ロヴェル君がきちんと工房を回してくれていたらしく、薬の注文票が溜まっている様子はなかった。

「……エリン先生にロヴェル君、いらっしゃいますか!?」

 そんな彼の手際の良さに感心していると、工房の扉が勢いよく開かれ、ティナさんが飛び込んできた。

「え、あの、どうかしましたか?」

「娘が……アンナが熱を出したんです。それも、かなりの高熱で」

「アンナが!?」

「……先生さんたちはいるかい!?」

 わたしとロヴェル君が驚きを隠せずにいると、ティナさんに続いて、数人の男女が工房にやってきた。

「うちの子どもたちが熱を出したんだ。薬を売ってくれないか」

「わたしの坊やもよ……薬をくださいな」

 ……そんなふうに、その後も何人もの人が薬を求めてやってきた。

 その誰もが口を揃えて『子どもが熱を出した』と言った。

 わたしは不思議に思いつつも、ロヴェル君を連れて診察に回ることにした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます

七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」 「では、そのスキルはお返し頂きます」  殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。 (※別の場所で公開していた話を手直ししています)

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。