イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~

川上とむ

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第41話 アイデアを絞り出そう!

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 校門から自宅近くの停留所までバスで移動し、その途中あるコンビニで夕飯を買い、帰宅する。
 夕飯を済ませてからシャワーを浴び、気分をすっきりさせる。

「シャワー浴びたし、そろそろいいアイデア出そう?」

 俺が出てくるのを待ち構えていたかのように、雨宮あまみや部長がベッドの上に座って待っていた。

「部長、すっかり俺の部屋に居着いちゃってますよね」
「そろそろ地縛霊になるかもね……って、そんなことはどうでもよくて。シャワー浴びたなら、アイデア出しの続きをしよう!」

 俺にとってはどうでもよくないのだけど、わざわざ口にするのは野暮な気がした。
 やる気満々な彼女とテーブルを挟んで、向かい合わせに座る。

「奇抜なデザインにするか、王道で行くか、そこが問題だね」

 真っ白なノートを見つめながら、部長は腕組みをする。彼女は筆記用具が持てないから、アイデアを書き留めるのはもっぱら俺の仕事だ。

「抽象画を背景にして、メッセージをどーんと載せるか、いや、いっそ背景はモダンテクニックを使った偶発的なものにして、それに合わせるようなイラストを……」

 目の前のノートを見つめながら、彼女は真剣そのものだ。普段はあまり見せない表情に、俺は思わず見惚れてしまう。

「……ちょっとまもるくん、私ばっかり考えさせないで、キミも考えてよ」
「そ、そうですね……こんなのはどうです?」

 上目遣いで睨まれた俺は動揺しつつ、ノートに簡単なラフを描く。秋空に一人の少女が佇んでいる……そんなイラストだ。

「……ボツ。再提出」
「ええ……」

 しかし、細かい説明をする前に却下されてしまった。

「せっかく年に一度の文化祭なのに、一人なんて寂しすぎるよ。もっと楽しいポスターにしなきゃ。例えば……」

 そこからは、部長が口にする様々なアイデアを俺が形にしていくことになった。
 文化部をイメージした様々な小物が五線譜の上を流れるもの、デザイン性を重視し、ペンキをぶちまけたようなカラフルなもの、あえて人物を描かず、学校のみのシンプルなものなど、彼女は様々な案を出してくれた。

「……部長、すごいですね。よくここまでアイデアが出ますね」
「まだまだ出るよー。あとは、男女が楽しそうに手を繋いで文化祭を巡ってるやつとか。王道だけど、いいよねぇ」

 彼女ははにかむような笑顔で言う。俺の中にもすっとイメージが湧いてきたし、それまで出たアイデアと併せて、近いうちに皆と相談することにしよう。

 ◇

 それから数日後、俺は皆に部室へ集まってもらった。
 その目的はもちろん、各自で考えた案を発表するためだ。

「私、いいアイデアが浮かんだよー。ぜひ見てほしいな」
「俺だってそうだ。一昨日の夜、風呂に入っていたら突然ひらめいた」

 俺と向かい合わせに座りながら、汐見しおみさんと翔也しょうやがノートを手に自信ありげな顔をする。
 その一方で、俺の隣に座る朝倉あさくら先輩はスケッチブックを手にしたまま、そんな二人を微笑ましそうに見つめていた。
 ちなみに井上いのうえ先生にも同席してもらっているけど、彼女は少し離れた場所から俺たちを見守るだけで、積極的に話に入るつもりはなさそうだ。

「皆、どんなアイデアを出してくれるのかな。楽しみ楽しみ」

 俺の背後に立つ雨宮部長はそう声を弾ませ、待ちきれないといった様子だった。

「……それでは、僭越せんえつながら私から」

 汐見さんはやや緊張気味に言って、俺たちにノートを見せてくる。そこには、これぞイラストといった感じにデフォルメされた、多種多様な猫のイラストが描かれていた。
 文化部をイメージしたのか、絵筆を持った猫やカメラを持った猫、天体望遠鏡を覗き込む猫に、白衣を着て実験をする猫などが目につく。とにもかくにも、猫だらけだった。

「お前、ブレないな……」
「猫こそわたしの真髄。たとえボツになろうとも、これだけは譲れない」

 呆れ顔の翔也に対し、汐見さんは堂々と言い放つ。
 ……まあ、彼女らしいといえば彼女らしいけど。

「俺はこれだ。少なくとも、ほのかよりは採用の余地があると思うぜ」

 そんな汐見さんを一瞥してから、翔也は自分のノートを開く。そこには二つのラフがあり、シンプルに学校全体を描いたものと、航空写真のようにグラウンドを写し、そこに人文字で『第34回 京桜祭けいおうさい』と描いているものだった。後者は先日言っていたものを形にしてきたのだろう。

「どっちもすごい細かいな。さすが瞬間記憶能力の持ち主」
「悪いがどっちも写真を元にしてある。それでも、できるだけ細かく描いたつもりだけどな」
「奥にある建物の看板の文字まで読めるよ……すごいけど、これを塗るとなると骨が折れそう」

 俺たちと同じように、翔也のノートを覗き込みながら部長が言う。
 彼は着色が苦手だと言っていたし、この案が採用された場合、色をつけるのは俺たちの役目になるだろう。完成すればインパクトはあるだろうけど、これはなかなかに大変そうだ。

「じゃあ、次は俺の番かな。これなんだけど」

 続いて、俺が持っていたノートを開く。なるべく他の皆と被らないようにと、部長から出してもらった案の中からペンキをぶちまけたようなデザインのものと、男女が並んで文化祭を楽しんでいるものを選んだ。

「……これはスタイリッシュだな。俺は好きだぜ」
「でも、正直女子には受けないかも。どっちかっていうと、こっちのほうが好み」

 俺の案を見た翔也と汐見さんの意見は真っ二つだった。言われてみれば、男女ともに気に入ってもらえるデザインにしなければ入賞なんて狙えない。これは盲点だった。

「難しいな……朝倉先輩、どう思います?」
「そうねぇ……皆の意見を参考にしたら、こんな感じかしら。今描いてみたのだけど」

 それまで俺たちを静観していた朝倉先輩に声をかけると、彼女は少し考えたような仕草をしたあと、自分のスケッチブックを俺たちに見せてきた。

「わあ……」

 そこには、デフォルメタッチで描かれた無数の人が並んでいた。ただのラフなのに、躍動感というか、皆が楽しそうにしているのが伝わってきて、俺たちは思わず見入ってしまう。

「……この人が持ってるのって、バット?」
「こっちはサッカーボールが見えるぞ」
「朝倉先輩、この絵に描かれてるのって、運動部の人たちですか?」
「そうなの。文化祭っていうと、運動部はどうしても蚊帳の外でしょう。だから、一緒に楽しみましょうって意味も込めて、文化部と運動部が一緒にいるデザインにしたの」
「さっちゃん、目の付け所が違う……」

 朝倉先輩の絵を食い入るように見ていた部長が、がっくりとうなだれた。
 確かにこのデザインなら、普段は文化祭で疎外感を抱いている運動部の皆にも好感を持ってもらえるかもしれない。さすがだった。

「あと、私や内川君は人を描くのが苦手だから、人物はできるだけ簡略化したし、ほのちゃんの猫もイラスト同好会のサインということで採用させてもらうわ。ちょっと端のほうだけど」

 先輩がそう言って指し示した先には、小さいながら猫を模したサインが描かれていた。

「それと、作品のクオリティを上げるため、奥に見える校舎だけは写実的なデザインにしたいの。私にはとても無理だから、できることなら三原君に描いてもらいたいわ」

 朝倉先輩は表情を変えずに淡々と説明していくも、そのどれもが俺たちの長所を活かしつつ、短所を補うものばかりだった。

「これは……センパイの案で決まりじゃないか?」
「私もそんな気がする……内川君、どう思う?」

 翔也と汐見さんから同時に視線を送られ、俺はとっさに部長を見る。彼女は無言で頷いた。

「……俺も先輩の案がいいと思う。これで行かせてもらっていいですか?」
「もちろんよ。選んでもらえて嬉しいわ」

 そう伝えると、朝倉先輩は笑顔の花を咲かせた。それを見て頃合いと思ったのか、井上先生もこっちにやってくる。

「決まったみたいねー。京桜祭実行委員会に申請して、近いうちにポスター台紙を取り寄せてもらうから、皆は必要な画材を調べて、役割分担をしておいてね」
「わかりました」
「私もきちんとしたラフを描いてくるわね。ほのちゃんはサインに使う猫ちゃんのイラストをよろしく」
「はい! 全力でかわいく描きます!」
「あ、デザインは少なくとも、30パターンくらいお願いね」
「さ、30!?」

 やる気に満ち溢れていた汐見さんの顔が一転、絶望へと変わる。ポスターの端に描かれるサインであっても、それくらい多くのデザイン案の中から決める……という意味なのだろう。

「……まだ時間があるとはいえ、忙しくなりそうだな」
「そうだね……でも、皆で力を合わせて一つのものを作れるんだから、俺としては嬉しいよ」

 当面の目標が決まり、俺たちは俄然やる気になる。
 そんな中で、雨宮部長だけがどこか元気がなさそうだった。

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