イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~

川上とむ

文字の大きさ
48 / 54

第47話 部長を追いかけて

しおりを挟む

「……何やってるんだろう、俺」

 人のいない真夜中の校舎を、俺は部長を探してひた走る。

 幽霊となった彼女は、意志を伝える道具を手にすることができない。
 つまり、大好きなイラストを描くための絵筆や鉛筆も、一切持つことができないんだ。

 美術部の部長という立場を捨ててまでイラスト部を作ろうとした人だし、絵が描けないと知った時の絶望感は相当なものだったろう。

 ――あなたは絵を描けないんですから、口出ししないでください!

 ずっと彼女のそばにいた俺は、その苦しさを一番わかっているべきだったのに。逆にひどい言葉を浴びせてしまった。

 いくら後悔したところで、一度口から出た言葉は取り消せない。
 あの言葉を発した時の俺は、一瞬……本当に一瞬だけ、彼女のことを疎ましく思っていた。
 雨宮あまみや部長の体が透けて見えたのは、そんな俺の負の感情も影響しているのかもしれない。

「……彼女に、謝らないと」

 必死に階段を駆け上がり、最上階へ。
 やがて目の前に現れた巨大な扉は、半分開いていた。
 彼女がいそうな場所、心当たりはここだけだった。

 ◇

「……やっぱり、ここにいたんですね」

 屋上へと続く扉を開けると、すっかり冷たくなった秋の空気が身を包み込む。
 以前と同じ、満天の星の下。給水塔に背を預けるようにして、雨宮部長が立っていた。

 相変わらず、その姿は透けている。

「……私がここにいるって、よくわかったね」
「落ち込んだ時や泣きたい時は、ここに来るって言ってましたからね」

 部長は一瞬だけ驚いた顔をしたものの、その後は無言で空を見る。
 拒否されているような気配もなく、俺はゆっくりと彼女に近づいていく。

「……ここ、寒いでしょ。風邪ひくよ」

 ややあって、彼女は震え声で言い、鼻をすする。

「俺みたいな馬鹿は風邪ひかないんで、大丈夫です」

 そう答えて、俺は彼女の正面に立つ。
 それに気づいた部長は視線を落とし、マリンブルーの瞳で、まっすぐに俺を見てくる。体と同じ半透明の瞳は潤んでいた。

「さっきは……酷いこと言って、すみませんでした」

 彼女がこのまま消えてしまうような焦燥感に駆られ、俺は心の底から謝罪し、頭を下げる。

「……本当に酷いよ。私、こう見えてメンタル弱いんだから。傷ついたんだぞ」
「本当にすみません」
「いいよ。許してあげるから、頭を上げて。なんか、こっちが悪いことしたみたい」

 彼女は優しい声色で言い、俺の肩に手を当ててくれる。
 じんわりとぬくもりが伝わってきて、俺は安堵感を覚えつつ、顔を上げる。
 ……けれど、目の前の部長は半透明のままだった。謝ったところで、彼女の状況は変わっていない。

「……まもるくん、どうかしたの?」

 胸中の悲壮感が顔に出てしまったのか、彼女は不安げな表情を向けてくる。

「その……少し前から、部長の姿が透けて見えるんです」

 少し悩んで、俺はありのままを彼女に告げた。

「……そう、なの?」

 彼女は目を見開き、まるで確かめるように自分の体を抱きしめる。その様子からして、本人に自覚はないみたいだ。

「そっか。護くんからも、見えなくなってるのか」
「はい。一応見えてますけど、その、半透明で」
「……ますます幽霊らしくなってしまったというわけか」

 努めて明るく振る舞っていたけど、その声は震えていた。俺はかける言葉が見つからない。

「……私、このまま護くんからも見えなくなっちゃうのかな」

 部長は脱力したように両手を下げると、給水塔にもたれて再び夜空に視線を送る。

「もちろん、これまで護くんと一緒に過ごせていたこと自体、すごい奇跡なんだってことは十分わかってるつもり。だけど……だけどね」

 彼女はそこで言葉に詰まる。星空を映していた瞳が、一瞬閉じられた。

「……私、また一人には戻りたくない! 護くんが作ってくれたあの場所で、皆と一緒に過ごしたい! もっと護くんたちと仲良くなりたい! やりたいこと、いっぱいあるのに!」

 こぼれ落ちる涙を拭うこともせず、彼女は俺にしか届かない声を上げる。
 それは、ほとんど慟哭どうこくに近かった。

「護くんと、もっと、もっと……!」
「……雨宮さん!」

 このまま思いの丈をすべて吐き出してしまったら、彼女が消えてしまいそうな気がして、俺は彼女を強く抱きしめる。
 そしてできることなら、彼女をこの世につなぎとめる存在でありたいと、心の底から強く願った。

 ――その瞬間、まるで昼間のような明るさが俺たちを包み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン
青春
記憶をなくすほど飲み過ぎた翌日、俺は二日酔いで慌てて駅を駆けていた。 すると、たまたまコンコースでぶつかった相手が――大学でも有名な美少女!? 「また飲みに誘ってくれれば」って……何の話だ? 俺、君と話したことも無いんだけど……? カクヨム・小説家になろう・ハーメルンにも投稿しています。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

処理中です...