黒い猫の話

紫楼

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拾われて捨てられた

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 僕は気がついたら駐車場にいたんだ

 兄弟と逸れて、雨の中、ぼっちで隠れていたら、大きな女が僕を捕まえたんだ

 そのまま連れて行かれて、体を拭かれて、牛乳というのと何か食べ物をもらった

 しばらくはデカミの部屋で監禁状態

 でも僕は安心出来る暖かい部屋でデカミといられて嬉しかったんだよ

 しばらくしたらデカミの留守中はママが相手をしてくれることになった

 ここ家には犬がいてだいぶおばあちゃんだった

 おばぁはおっとりさんだねってママが言う
 一日数回お散歩にママと出て行く
 
 羨ましいねぇ

 おばぁは特に僕に構ってくれることはなかったけど、吠えたり噛んだりしなかったよ


 家族にはパパとネェがいて、ネェが飼ってるハムスターがいいた

「なんでハム飼ってるの分かってて猫拾うの」

 ネェはちょっと怒ったよ


 僕より小さい生き物が気になった

 ゲージに入ってる小さいのはヒクヒク逃げちゃうんだ

 かぁいいねぇ、転がしたいねぇ

 ネェはゲージに囲いをつけちゃった

 ある日、ネェがお泊まりで出かけるからとママにご飯とお水、温度に気を配ってねって外に行っちゃったんだ

 僕はずーっとちびたいのを見守ったよ

 なかなかこっちに寄ってこないなぁ

 ママが餌やりしてる時は僕が別の部屋に入るんだ
 何もしないのにねぇ、おかしいよね

 ママが困った顔をしてた

 ネエが帰ってきて「いい子にしてたかな」ってゲージを覗いたら「どうして??」ってネェが泣いた

 お水用の入れ物から水が溢れてて、冷えて死んじゃったんだって言ってた

 人に任せた以上仕方ないって泣いてた



 僕は基本デカミの部屋にいて、留守中はママといる

 そんな日がずっと続いて行くと思ってた

 でもある日デカミは一人暮らしすると出て行った
 ママもパパも「動物飼える家にするのよ」って言ったのに、デカミは僕を連れて行かなかった

 なんで

 どうして

 なんでなんで

 僕どうするの

 どうしたらいいの

 悲しくて、苦しくて、辛いよ

 僕を大好きじゃなかったの?

 僕を飼ってくれたんじゃなかったの?

 どうしてだ

 嫌だ

 うそだ

 僕を置いて行くはずがないんだ


「うぉおぉーん」

「うぉーん」

 戻ってこないの?


 ママとネェが構ってくれるようになった

 ママと一緒に寝ることにした

 おばぁに絡みに行った
 おばぁは寝てることが多くて構ってくれなった

 

 満たされない

 寂しいよ

 帰ってきてよ

 
 僕はいつも玄関で外を見てる

 車の音・・・違うね

 僕の会いたい人じゃないの

 いつ帰ってくるかな

 今日?

 こない

 明日・・・

 今日は・・・

 いっぱい寝たのにまだ来ないよ


 

 来た!!!!

「ウォーーーゥ」
「グゥシャーーーーーーー!!!」
「ウウウゥウウゥウゥゥー」
 
 なんで僕を置いて行った!!!
 なんで僕を一人にしたの!!!
 大嫌いだ!!!!

「え、何怖いんだけど」

 なんで!!!

「ウゥオォウゥウーーーーー」

「ちょっと!母さん」

「ンナォォオオオオオウウウウ」

 デカミは用事だけ済ませて帰った

「アンタ、あんなしたら触ってもらえんわ」

 だって置いてった!!!
 会いに来なかったよ

 デカミは滅多に来なくて、家の中にも入らなくなった

「怖いって」

 なん出来ないの!!!


「フシャッッーーーーー」
「ンナォオオオオッゥウ」


 ある日、デカミは他の猫と犬の匂いをつけてきた

「ンンナォオオオオ!!!フシャー!」

 浮気だ
 僕を捨てて浮気だ

 もう僕をいらなくなったんだ

 ママがデカミが結婚して相手の飼ってた猫と犬のお世話をしてるんだって教えてくれたよ

 なら僕もそこに連れて行けばいいじゃない

 デカミはそれからもたまに来ては「こわっ」って言って帰った

 僕はいつも玄関で待ってるのに
 お迎えに来てくれないんだ

 何年かしておばぁが死んだ
 ずっと撫でられて愛されてた犬のおばぁ
 羨ましいな

 僕は飼い主に愛してもらえないんだ

 おばぁがいなくなってしばらくしたら、今度は小さい犬さんがやってきた

 前のおばぁはママの犬、今度のはネェの犬だって

 小さくてコロコロしてる

 コロコロしつつ僕の匂いを嗅いで来るんだ


 でも僕の知ったこっちゃない

 犬は僕のような猫と遊んでくれないんでしょ?


 だけど小さい犬さんは僕に寄ってくる
 庭を眺めてたら一緒に庭を見る
 変わった犬さんが来たもんだな

 それからも似たり寄ったりな日が続いて

 デカミは家に立ち寄る回数が減ってきた

 僕は今日も玄関を見てる

「そこ寒いよ。こたつおいで」
 ネェが抱っこしてくれる

 最近はネェの仕事の邪魔してあげてる
 机の下に入ったりしてね

 邪魔しないのって言いながら遊んでくれる


 ある日気持ち悪くて困ってたらママとネェが病院に連れて行ってくれた

 怖い先生と可愛い看護師さんがいたよ

 僕は腎臓が悪くなって水が溜まるから病院がよいをするんだって

 もう長生きができないって言われたみたい

 ママとネェが悲しそう

 だけど、あの駐車場でいつ死ぬかわからなかったと思えば結構生きれたでしょ

 僕はママといられて幸せだったよ

 
 でも僕の飼い主はデカミなんだ

 僕を見にきてよ
 僕を抱きしめてよ

 僕と一緒に寝ようよ

 玄関で待ってるから早く迎えにきてよ

 夜も朝も昼もここで待ってるよ




「ねぇ、もう私で我慢しない?私が見ててやるからもう待たなくて眠ってもいいよ」

 ネェが僕の体を撫でて言う

「しんどい思いして待たなくていい。精一杯頑張ったよ。だからもう寝ていいよ。頑張らなくていいんだよ」

 最後に会いたかったけど、ママとネェがいるからもういいのかな?

「クロ、可愛いね。頑張ったね。大好きだよ」
「もう頑張らなくていいよ。ありがとうね」

 僕はもう会いに来てくれない人を諦めて、ママとネェを大好きになってもいいかな



 大好きな人の前で苦しむ姿見せたくないから、二人が見てない隙に逝っちゃうね

「・・・」

 犬さん、ママとネェを大好きでいてね

 




「結局、会いにこんかったな」
「この子も最後まで玄関離れへんかった」


「猫の情は怖いねぇ」

「相手に伝わってへんかったな」

「ビビって触れへんかったから」

「置いて行くからよ」

「次はもっと素敵な飼い主のところ行けるといいねぇ」


 クロは、十二年のニャン生の幕を閉じた

 デカミはクロの火葬には参加した




-----------


 クロの気持ちは代弁だけど、こんな感じだったんだろうなって言う鳴き方をしていた
 最後の二年だけやっとネェに懐いたのです

 彼の絶望や悲しみの鳴き声は愛情の裏返し。デカミがもう少し向き合ってくれたら怒るのをやめたと思う

 猫は嫉妬深いとよく聞きますが愛情も深いと思います

 家を出る時、ペット可物件はお高かったりしますね。仕方ない部分はありますが、猫には人間の事情わからないから、クロは待つ猫になってしまった

 もし生まれ変わりがあるのなら、生涯離れることがない優しいご主人のもとに行けるように祈ってます



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