女神に可哀想と憐れまれてチート貰ったので好きに生きてみる

紫楼

文字の大きさ
85 / 120
一章

その頃地上では

しおりを挟む
 ブランは大荷物を持って、ダンジョンの出口に出た。
「あれー、真夜中でやんす」
 海の匂いと細波に戻ってこれたとホッとする。
「おかえりなさい」
 ギルドの職員が声を掛けてくれた。
「あら、〈屋根裏の指人形〉の子よね?一人?」
 入場記録はパーティ五人で、帰ってきたのが一人じゃ何かが起こったと判断して当然だ。

「あ、わっちはブランと言うでやんす。わっちは八階層でゴブリンの群れに遭遇して数が多くて捌ききれないとなった時に仲間に囮としておいて行かれたんでやんす」
「なんですって!!」
 ブランはビクッとちょっと飛んだ。

「あ、これは助けてくれたジェイルさんに受付に渡すようにと言われて・・・」
 ジェイルからの手紙を読んだ受付はとんでもない憤怒の顔で自分の手の拳をダーンと机にぶつけた。
 またしても飛んでしまいブランはちょっとちびったかと焦る。

「〈伝心鳥〉」
 受付は通信用魔道具でギルマスに連絡を入れる。伝心鳥にギルマス宛の手紙を渡してくれた。
「三十分も掛からぬうちに飛んでくるわ」

 受付の人エニスは暖かいミルクを出してくれた。

 ブランも仲間たちも救援依頼は頼んでない、転移の魔道具も持ってないことから、救助はしない方向だけど、犯罪を犯してるとなると話が変わるのだと言われた。

「生きてれば身柄拘束の上、裁判。全員のパーティ資金の没収、この場合ブランが慰謝料で総取りね」
 パーティ資金はほぼ残高がないだろうけど、宿に置いてる予備の防具や剣は売れるなぁとぼんやり思う。

 しばらくお話ししていると船が結構なスピードで進んできて、大柄なおじさんたちが降りてきた。

「おう、ジェイルに助けられたってぇ?」
「あああっ!ししししんんんげげげげっつつつのののラライイイコココウウウウゥ」
 ブランが壊れたおもちゃのようになって、それを見たドットたちはブランの頭を撫で回した。

「アイツに気に入られたんだね。ジェイルは人に深入りが苦手なんだよ。ダンジョン内自己責任でスルーしても文句は言われないのにちゃんと報告とブランの送り出しまでしたのはだいぶ優しい」

 他の仲間のことはスパッとスルー決定してたし、ブランもそう言う物だと認識してる。あの状態なら八階層のセーフゾーンに置いてくれるだけでも御の字だ。

 ギルマスがエニスと情報を擦り合わせて、ブランに話を聞いて、やっぱり全滅の可能性が大きいけれど犯罪者なので、死亡確認を取らないとってことで〈新月の雷光〉がダンジョンに入ることになった。

「俺たちは攻略済みだからゲートで五階層から行くから気にするな」

 死亡確認なんて遺体が消えちゃうダンジョンでどうするのかとブランは不思議に思ったが、ギルドにはキルドタグの反応を探知する魔道具があるんだそうだ。

「・・・はっ!!船酔いの実と発酵きのこくらげを預かってるでやんす!!」
 ギルマスと〈新月の雷光〉宛のお土産があったとブランは思い出して焦った。
 これからダンジョンに入るのに渡してもっと気付き、ワタワタと混乱した。

「全部俺が預かっておくから心配ない」
 ギルマスがブランの頭に手を置いて落ち着かせた。

「「「「じゃ行くわ」」」」
「おう」
「行ってらっしゃいでやんす!」

 〈新月の雷光〉はダンジョンの中に入って行った。

「かー、ジェイルは一日で十階層行ったか」
「びっくりでやすよねー」
「お前は残念な目にあったがラッキーだったな」
 命があったのも奇跡で、ダンジョン外に五体満足で戻れて、お土産いっぱい持ってるのはもうあり得ない幸運だ。

「アイツらなら朝飯前に戻ってくるだろうからここで待つか」
 ギルマスはこれでも忙しい身なんだと言いつつ、ここ最近のダンジョンの記録を見ている。

 ブランはエニスにダンジョンの品を売りたいものがあれば出すように言われて荷物を崩した。

 一階層から七階層までのドロップ品と収穫物は大したものはないし、ほとんど失ってしまったけれど、ジェイルといた九階層十階層で得た果物やドロップ品、ボス部屋の宝石などは結構な物だった。

 いくつかの宝石は彼女と母と妹、祖母に持ち帰り、一個はジェイルとの出会いの記念に、取っておくことにして、ポーション数本は帰路の保険に残して、あとは売ることに。
 ブランにはマジックバッグがないので、果物はお土産にできないし、大荷物は盗賊に狙われるので身軽が一番なのだ。

「はわぁ、わっちが今まで手に入れて金額を超えるでやんす」
「メンバーで頭割りじゃなかなかねぇ」
 エニスが苦笑すると、
「わっちは荷物持ちなので端数だったでやんす」
とブランが答えたので、エニスはまたテーブルをズガンッと叩いた。
 ブランが今度こそチビっちゃったかもと思わずズボンを確認した。

「おい!エニス!ウルセェぞ!!」
「だまらっしゃい!!」
 エニスがオーガのような様相になっているのを見てギルマスは、何だよと話を聞く体勢になった。

「あんだと!?」
 エニスとギルマスが言うには正式なパーティメンバーに登録していたら、報酬は等分に、雇われの形ならば最低賃金と危険手当を合わせた日給を保証しなくてはならないと、ギルド規則で決まっているらしい。

「全く今時そんなアホな真似をする奴がいるとはなぁ」
「新人いびりと一緒で巻き上げは淘汰できませんよ」

 ブランは自分が不当な扱いを受けていたことを知って、いやなんとなく分かってはいたけれど戦闘に向かない自分には妥当な扱いだと思い込んでいたことを思い出した。

「奴ら死んでいてもむしり取ってやるからな」
「死んでたら無理でやんすよ」

 怒ってくれる大人がいて、ちょっと嬉しいブランだった。



しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...