3 / 15
2
しおりを挟む
助左が人の布団の上で寛ぎ始める。
「帰れよ。隣だろうが」
「連れないこと言うなよ」
トリが勝手知ったるで薬缶を火にかける。
子供でさえ気を使うって言うのにこの野郎が。
先程の簪を取り出し眺めてみる。おそらく都の大店専属の細工師の手だろう。
あの表情を見るに旦那か思い人からのもんだろうに随分悪い扱いをしたらしい。
珊瑚を外して磨きを入れて傷を細工部分に隠すくらいしかできんな。
こんな良い品を個人の細工師に預けた挙句手付けに大枚置いていくなんて世間知らずな女だな。
「綺麗だねぇ。でも竜の作るのがおいらは好きだ」
いつの間にか茶を淹れてくれて俺の手元を覗いていたらしい。
「ありがとうよ、トリ」
「小鳥は竜に甘いんだよなぁ」
「ウルセェよ。トリは素直なんだ」
蘇芳はトリを小鳥と呼ぶ。「小鳥は女の子だから可愛い方が良いだろう」って笑うが本人が「おいらはトリだい!女扱いするんじゃない」って言うんだから仕方ない。
拾ってきた時は名無しで蘇芳が名付けたらしいがトリは捨てられた先で女がどんな扱いを受けるか見て男の方がマシだと思ったらしい。着物は地味な色合いで丈を短めに小僧のような姿で過ごす。
俺は好きにしたら良いと思っている。型にはまって生きようが生きまいが最期はどうなるかわからん。
「ああ、そう言えば常盤屋の芙蓉が近いうちに手持ちにある手頃な簪か櫛を持ってきてほしいって言ってたぞ」
今まで忘れてたやつだな。
「手持ち?依頼じゃ無いのか?」
芙蓉は定期的に自分の名に合わせた簪や櫛を依頼してくれる遊女だ。
「ああ、見受けの話が出てるようだ。女郎屋で使うようなものは必要ないからだろう」
「常盤屋の稼ぎ頭だろ?よく手放す気になったな」
常盤屋は蘇芳の虎杖屋系列には劣るものの女郎の質が高い。給金を低く見積もって年季がなかなか明けないと言う少し悪どさはあるが無体な客は断るから女達にとっても悪くない店だ。
芙蓉は店の中では少し古株だが美しく気立も良い。まだまだ見受けには大金が必要なはずだが。
「いつ聞いた話だ?」
「昨日の昼かな、ついでの時にって言ってたから」
急いでいたなら確かに常盤屋の者が来るだろう。見受けの話が出てるなら早めに行く方が良いな。
「蒔絵にするか?螺鈿か?」
「作るのか?」
「見受け先がどこか知らんが最後かも知れんからな。今までの礼に少しくらいの手を入れたい」
下拵えの済んでいるもので作ればそこまで大変じゃない。
俺は細工師と名乗っているがここでは蘇芳や銀時のツテでほぼ遊女の簪を作っている。
あちこち回って彫金や彫刻、蒔絵に螺鈿と縁のあった師に学んでそれなりの腕にはなっていると思うが大店の名工には遠く及ばない。
が、小手先で食えるようにはなった。
師匠達が見たら怒るかも知れんがまず食えなければ生きていけん。
「竜は冷たいのか熱いのかよくわからないな」
助左が布団の上でつぶやく。男臭い臭いがつきそうで心底ムカつく。
「竜は優しいんだ!」
トリが助左の腹に飛び乗って「ぐえ」っと呻くのを見て笑っている。トリもいい子だぞ。
「あまり良い品にすると旦那が妬いて面倒になるんじゃないか?」
茶屋の主人が言うのならそうかも知れない。蘇芳は虎杖屋一家の息子で今は連れ込み茶屋や蔭間茶屋の管理をしている。
いろんな事柄を見てきているから意見は聞いた方が良い。
「最低限の図柄にするか」
礼のつもりが新天地での害になったら意味がないしな。
「竜の簪は綺麗だからどれでも嬉しいに決まってるよ!」
トリは本当に可愛いな。
「小鳥は竜にだけ優しすぎる。どう言うこった!」
蘇芳と助左は苦笑している。
今日は集中したいから隣で盛りやがったらマジで消すからな。助左!
「帰れよ。隣だろうが」
「連れないこと言うなよ」
トリが勝手知ったるで薬缶を火にかける。
子供でさえ気を使うって言うのにこの野郎が。
先程の簪を取り出し眺めてみる。おそらく都の大店専属の細工師の手だろう。
あの表情を見るに旦那か思い人からのもんだろうに随分悪い扱いをしたらしい。
珊瑚を外して磨きを入れて傷を細工部分に隠すくらいしかできんな。
こんな良い品を個人の細工師に預けた挙句手付けに大枚置いていくなんて世間知らずな女だな。
「綺麗だねぇ。でも竜の作るのがおいらは好きだ」
いつの間にか茶を淹れてくれて俺の手元を覗いていたらしい。
「ありがとうよ、トリ」
「小鳥は竜に甘いんだよなぁ」
「ウルセェよ。トリは素直なんだ」
蘇芳はトリを小鳥と呼ぶ。「小鳥は女の子だから可愛い方が良いだろう」って笑うが本人が「おいらはトリだい!女扱いするんじゃない」って言うんだから仕方ない。
拾ってきた時は名無しで蘇芳が名付けたらしいがトリは捨てられた先で女がどんな扱いを受けるか見て男の方がマシだと思ったらしい。着物は地味な色合いで丈を短めに小僧のような姿で過ごす。
俺は好きにしたら良いと思っている。型にはまって生きようが生きまいが最期はどうなるかわからん。
「ああ、そう言えば常盤屋の芙蓉が近いうちに手持ちにある手頃な簪か櫛を持ってきてほしいって言ってたぞ」
今まで忘れてたやつだな。
「手持ち?依頼じゃ無いのか?」
芙蓉は定期的に自分の名に合わせた簪や櫛を依頼してくれる遊女だ。
「ああ、見受けの話が出てるようだ。女郎屋で使うようなものは必要ないからだろう」
「常盤屋の稼ぎ頭だろ?よく手放す気になったな」
常盤屋は蘇芳の虎杖屋系列には劣るものの女郎の質が高い。給金を低く見積もって年季がなかなか明けないと言う少し悪どさはあるが無体な客は断るから女達にとっても悪くない店だ。
芙蓉は店の中では少し古株だが美しく気立も良い。まだまだ見受けには大金が必要なはずだが。
「いつ聞いた話だ?」
「昨日の昼かな、ついでの時にって言ってたから」
急いでいたなら確かに常盤屋の者が来るだろう。見受けの話が出てるなら早めに行く方が良いな。
「蒔絵にするか?螺鈿か?」
「作るのか?」
「見受け先がどこか知らんが最後かも知れんからな。今までの礼に少しくらいの手を入れたい」
下拵えの済んでいるもので作ればそこまで大変じゃない。
俺は細工師と名乗っているがここでは蘇芳や銀時のツテでほぼ遊女の簪を作っている。
あちこち回って彫金や彫刻、蒔絵に螺鈿と縁のあった師に学んでそれなりの腕にはなっていると思うが大店の名工には遠く及ばない。
が、小手先で食えるようにはなった。
師匠達が見たら怒るかも知れんがまず食えなければ生きていけん。
「竜は冷たいのか熱いのかよくわからないな」
助左が布団の上でつぶやく。男臭い臭いがつきそうで心底ムカつく。
「竜は優しいんだ!」
トリが助左の腹に飛び乗って「ぐえ」っと呻くのを見て笑っている。トリもいい子だぞ。
「あまり良い品にすると旦那が妬いて面倒になるんじゃないか?」
茶屋の主人が言うのならそうかも知れない。蘇芳は虎杖屋一家の息子で今は連れ込み茶屋や蔭間茶屋の管理をしている。
いろんな事柄を見てきているから意見は聞いた方が良い。
「最低限の図柄にするか」
礼のつもりが新天地での害になったら意味がないしな。
「竜の簪は綺麗だからどれでも嬉しいに決まってるよ!」
トリは本当に可愛いな。
「小鳥は竜にだけ優しすぎる。どう言うこった!」
蘇芳と助左は苦笑している。
今日は集中したいから隣で盛りやがったらマジで消すからな。助左!
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日
プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。
春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
鬼より強い桃太郎(性的な意味で)
久保 ちはろ
恋愛
桃太郎の幼馴染の千夏は、彼に淡い恋心を抱きつつも、普段から女癖の悪い彼に辟易している。さらに、彼が鬼退治に行かないと言い放った日には、千夏の堪忍袋の緒も切れ、彼女は一人鬼ヶ島に向かう。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる