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連載
大会、終了
自分が振るった最後の一太刀は──手ごたえあり。《龍咬》は相手の体を捉えていた。だが、自分はそれ以上に今の体勢に困惑していた。居合の構えを取ってから放つ技なのに、今の自分はややしゃがみ込むような姿で「逆手持ち」にガナードを持って相手の胸辺りに切っ先を突き刺していたからだ。
(なんという動き……絶対マニュアルじゃできない)
放ったことで理解したのだが、この《龍咬》という技はなかなかおかしい動きをしていた。まず、居合の構えをとってから相手に走って接近し、相手の横を駆け抜けながら剣を振る。ここまでは良い、問題はこの先だ。剣を振った後に一瞬、本当に刹那と呼ぶべき一瞬だけ手を放していたのである。
これにより、剣は慣性を残して動き続けるが手から離れたことによって個別に動く時間が発生する。そこから再びその剣を逆手持ちの形で握る動きを経てから、相手に背を向けつつしゃがみ込み逆手持ちの剣を相手に突き刺すという二段技。これを一瞬で行う事により『龍』が『咬む』という事を表しているのだろう。
(とにかく、手ごたえは十分。これで決められなかったら、潔く負けられる。後は、結果を見るだけだ)
《龍咬》によってしゃがみ込んではいたが、膝はついていなかったのでとりあえず負け判定は受けない。とはいえ、流石に限界が来たようだ。ガナードを相手の体から引き抜いた自分は、軽いめまいを感じて前方に数歩よろける感じで何とも情けない動きを見せる事となった。何とかガナードを武舞台の上に突き刺して膝をつくことだけは避ける。
(限界だ、もうこれ以上は戦えない。今の自分は本当に軽く押されただけで地面に倒れこむだろう。息も荒いし、なんだか世界が揺れて見える。それでも、相手がどうなったかだけは確認しよう)
ガナードにしがみつく形で何とか体を動かし、相手の姿を目に入れる。相手は──動いていない。手に持っていた槍は両方とも武舞台の上を転がってすぐにはつかめない位置に移動していたが、まだ相手の腰には騎士剣が挿してある。あれを抜いて斬りかかられれば、今の自分には避ける事ができない。
そう考えながら相手を見ていたが──ついに相手の体が動きを見せる。ただし上半身だけ……滑り落ちるかのように上半身が前のめりの形で倒れ、その後に残った下半身が反対方向へと倒れていった。直後に武舞台の上から体が消失……何とか、勝てたという事か。結果からこの試合の総括をするならば、相手の良いところを振るわせることなく、こっちの必殺の一撃を叩き込めたという一言に集約される結果なのだろうが。
(きつかった、本当にただそれだけだ。世界を巡っていろんな人たちと出会って、その結果がまさに決勝という舞台で発揮されたという形だ。なんにせよ──これでブルーカラーとの最後の思い出は良い形で終える事が出来た、な)
直後、運営役のプレイヤーがブルーカラーの優勝を宣言。直後、歓声と呼ぶよりは怒号と表現するべき人々からの声が上がった。あまりにも騒がしくてあまり聞き取れなかったが、信じられない、最後の技はなんだ、という言葉だけは耳が聞き取っていた。更に、ツヴァイを始めとしたブルーカラーの面々が武舞台の上に上がってきた。
「アース、本当にありがとうな! 最後のイベントをこんな形で終えられたのはお前のおかげだ!」「アースさんの最後まで戦う姿、目に焼き付けました。本当にお見事です」「素晴らしいものを見せてもらった、本当にすごいとしか言いようがないな」
ツヴァイ、カザミネ、レイジの言葉を自分は頷きながら受け取った。試合も終わったことで体にかけられていた負荷も消失しており、徐々に疲労が抜け始めていたから頷くだけの余裕も生まれていた。そして、マッスルウォーリアー側も武舞台の上に上がってきた。
「負けたことは悔しいが、素晴らしい戦いであったことも事実だ。だからこそ、俺達はお前を称える。アース、お前は素晴らしいファイターだ。胸を張ってくれ」
マッスルのギルマスの言葉に自分は頷いた。勝った以上、しっかりとした行動をしないとな。胸を張って表彰を受けなければ、負けた相手を侮辱する事になりかねない。そして閉会式と同時に優勝したブルーカラーが表彰される。参加したブルーカラーの面々の名前に加えて自分の名前も改めて読み上げられ、祝福された。
「これをもって、最強ギルド決定戦を終了と致します! 皆様、今日はゆっくりとお休みいただき──明日から残り僅かな時間で少しでも塔を上りきるために諦めていないプレイヤーの支援に回っていただきますよう、よろしくお願いいたします」
こうして、大会は幕を閉じた。大変ではあったが、得るものも多かった。最終決戦で辛い展開になっても、この大会で得た経験が逆境を乗り越える力をくれると思いたい。などといった事を考えつつ、ブルーカラーの面々と雑談を交わしながら大会会場を後にしようとした時だった、声をかけられたのは。
「ブルーカラー、ちょっと待ってくれ。あと少しだけ付き合ってはもらえないか?」
マッスルのギルマスの声に自分とブルーカラーの面々が振り返ると、そこには準決勝で戦ったヴァルキュリアスと、マッスルと準決勝で戦ったウィザードナイツもいた。何だろうか? 剣呑な気配はないので厄介ごとではないと思うが。
「明日から俺達は全員が塔を上る連中の支援を行う事になるだろ? となると、同じギルドであってもこうして集まれるのは今日が最後になる可能性は十分にあるわけだ。だったら最後に打ち上げでもしないか、という誘いでな。せっかくだし、準決勝まで残ったギルドのメンツ全員に声をかけているって感じでな」
ふむ、確かに今日はこのままログアウトするぐらいしか予定はないし、一息ついて疲労感もだいぶまぎれた。ならばせっかくのお誘いだし受けてみるのもいいのではないだろうか? ブルーカラーの面々とも話し合い、話を受ける形でまとまった。
「そうか、ありがたい。ブルーカラーとはいろいろ話をしたかったからな、貴重な機会になりそうだ」
こうして四つのギルド代表者による打ち上げが行われることになった。ならば当然食べるものを用意する事になるのだが、ここでヴァルキュリアスから提案があがった。
「くじ引きにして用意するものを決めてはどうでしょうか? サラダなどの前菜系、魚料理、肉料理、そしてデザート。これらを一ギルドずつに振り分けて用意し、集まって食べるというのは?」
それも面白そうだという事でこの案が通り、各ギルドのギルマスがくじを引く。その結果──前菜がマッスル、魚料理がウィザードナイツ、肉料理がヴァルキュリアス、デザートがブルーカラーの役目と決まった。
「じゃ、各自買い出しだな。あえて言っておくが、極端なキワモノはやめような? ちゃんと誰もが食べられるもので頼む」
ウィザードナイツのギルマスの言葉に全員が頷いてから行動開始。こういう分担しての買い出しでそういうネタに走る人がたまにいるけど、あれ面白いのは本人だけだからね。もしウィザードナイツのギルマスが言ってくれなかった場合、自分が言うつもりだった。幸いその必要はなかったが。
「さて、デザートときたが……何がいいかね?」「ケーキとかは抑えたいですねー」「チョコ系が欲しいわね」「あっさり目の甘さの物も欲しいです」
ツヴァイの言葉に続くのは女性陣の声。なんにせよ、ある程度まとまった量が欲しいところだな。何かいい物が売っていればいいのだが。
(なんという動き……絶対マニュアルじゃできない)
放ったことで理解したのだが、この《龍咬》という技はなかなかおかしい動きをしていた。まず、居合の構えをとってから相手に走って接近し、相手の横を駆け抜けながら剣を振る。ここまでは良い、問題はこの先だ。剣を振った後に一瞬、本当に刹那と呼ぶべき一瞬だけ手を放していたのである。
これにより、剣は慣性を残して動き続けるが手から離れたことによって個別に動く時間が発生する。そこから再びその剣を逆手持ちの形で握る動きを経てから、相手に背を向けつつしゃがみ込み逆手持ちの剣を相手に突き刺すという二段技。これを一瞬で行う事により『龍』が『咬む』という事を表しているのだろう。
(とにかく、手ごたえは十分。これで決められなかったら、潔く負けられる。後は、結果を見るだけだ)
《龍咬》によってしゃがみ込んではいたが、膝はついていなかったのでとりあえず負け判定は受けない。とはいえ、流石に限界が来たようだ。ガナードを相手の体から引き抜いた自分は、軽いめまいを感じて前方に数歩よろける感じで何とも情けない動きを見せる事となった。何とかガナードを武舞台の上に突き刺して膝をつくことだけは避ける。
(限界だ、もうこれ以上は戦えない。今の自分は本当に軽く押されただけで地面に倒れこむだろう。息も荒いし、なんだか世界が揺れて見える。それでも、相手がどうなったかだけは確認しよう)
ガナードにしがみつく形で何とか体を動かし、相手の姿を目に入れる。相手は──動いていない。手に持っていた槍は両方とも武舞台の上を転がってすぐにはつかめない位置に移動していたが、まだ相手の腰には騎士剣が挿してある。あれを抜いて斬りかかられれば、今の自分には避ける事ができない。
そう考えながら相手を見ていたが──ついに相手の体が動きを見せる。ただし上半身だけ……滑り落ちるかのように上半身が前のめりの形で倒れ、その後に残った下半身が反対方向へと倒れていった。直後に武舞台の上から体が消失……何とか、勝てたという事か。結果からこの試合の総括をするならば、相手の良いところを振るわせることなく、こっちの必殺の一撃を叩き込めたという一言に集約される結果なのだろうが。
(きつかった、本当にただそれだけだ。世界を巡っていろんな人たちと出会って、その結果がまさに決勝という舞台で発揮されたという形だ。なんにせよ──これでブルーカラーとの最後の思い出は良い形で終える事が出来た、な)
直後、運営役のプレイヤーがブルーカラーの優勝を宣言。直後、歓声と呼ぶよりは怒号と表現するべき人々からの声が上がった。あまりにも騒がしくてあまり聞き取れなかったが、信じられない、最後の技はなんだ、という言葉だけは耳が聞き取っていた。更に、ツヴァイを始めとしたブルーカラーの面々が武舞台の上に上がってきた。
「アース、本当にありがとうな! 最後のイベントをこんな形で終えられたのはお前のおかげだ!」「アースさんの最後まで戦う姿、目に焼き付けました。本当にお見事です」「素晴らしいものを見せてもらった、本当にすごいとしか言いようがないな」
ツヴァイ、カザミネ、レイジの言葉を自分は頷きながら受け取った。試合も終わったことで体にかけられていた負荷も消失しており、徐々に疲労が抜け始めていたから頷くだけの余裕も生まれていた。そして、マッスルウォーリアー側も武舞台の上に上がってきた。
「負けたことは悔しいが、素晴らしい戦いであったことも事実だ。だからこそ、俺達はお前を称える。アース、お前は素晴らしいファイターだ。胸を張ってくれ」
マッスルのギルマスの言葉に自分は頷いた。勝った以上、しっかりとした行動をしないとな。胸を張って表彰を受けなければ、負けた相手を侮辱する事になりかねない。そして閉会式と同時に優勝したブルーカラーが表彰される。参加したブルーカラーの面々の名前に加えて自分の名前も改めて読み上げられ、祝福された。
「これをもって、最強ギルド決定戦を終了と致します! 皆様、今日はゆっくりとお休みいただき──明日から残り僅かな時間で少しでも塔を上りきるために諦めていないプレイヤーの支援に回っていただきますよう、よろしくお願いいたします」
こうして、大会は幕を閉じた。大変ではあったが、得るものも多かった。最終決戦で辛い展開になっても、この大会で得た経験が逆境を乗り越える力をくれると思いたい。などといった事を考えつつ、ブルーカラーの面々と雑談を交わしながら大会会場を後にしようとした時だった、声をかけられたのは。
「ブルーカラー、ちょっと待ってくれ。あと少しだけ付き合ってはもらえないか?」
マッスルのギルマスの声に自分とブルーカラーの面々が振り返ると、そこには準決勝で戦ったヴァルキュリアスと、マッスルと準決勝で戦ったウィザードナイツもいた。何だろうか? 剣呑な気配はないので厄介ごとではないと思うが。
「明日から俺達は全員が塔を上る連中の支援を行う事になるだろ? となると、同じギルドであってもこうして集まれるのは今日が最後になる可能性は十分にあるわけだ。だったら最後に打ち上げでもしないか、という誘いでな。せっかくだし、準決勝まで残ったギルドのメンツ全員に声をかけているって感じでな」
ふむ、確かに今日はこのままログアウトするぐらいしか予定はないし、一息ついて疲労感もだいぶまぎれた。ならばせっかくのお誘いだし受けてみるのもいいのではないだろうか? ブルーカラーの面々とも話し合い、話を受ける形でまとまった。
「そうか、ありがたい。ブルーカラーとはいろいろ話をしたかったからな、貴重な機会になりそうだ」
こうして四つのギルド代表者による打ち上げが行われることになった。ならば当然食べるものを用意する事になるのだが、ここでヴァルキュリアスから提案があがった。
「くじ引きにして用意するものを決めてはどうでしょうか? サラダなどの前菜系、魚料理、肉料理、そしてデザート。これらを一ギルドずつに振り分けて用意し、集まって食べるというのは?」
それも面白そうだという事でこの案が通り、各ギルドのギルマスがくじを引く。その結果──前菜がマッスル、魚料理がウィザードナイツ、肉料理がヴァルキュリアス、デザートがブルーカラーの役目と決まった。
「じゃ、各自買い出しだな。あえて言っておくが、極端なキワモノはやめような? ちゃんと誰もが食べられるもので頼む」
ウィザードナイツのギルマスの言葉に全員が頷いてから行動開始。こういう分担しての買い出しでそういうネタに走る人がたまにいるけど、あれ面白いのは本人だけだからね。もしウィザードナイツのギルマスが言ってくれなかった場合、自分が言うつもりだった。幸いその必要はなかったが。
「さて、デザートときたが……何がいいかね?」「ケーキとかは抑えたいですねー」「チョコ系が欲しいわね」「あっさり目の甘さの物も欲しいです」
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