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18巻
18-2
2
それから、職人全員が協力して炭を量産、戦闘職はその職人さんをきっちり護衛という連携で動き、纏まった量が出来た。
多数の煙が上がっていたためか、ちょくちょくモンスターがやってきた。もっとも、ツヴァイをはじめとした『ブルーカラー』の戦闘職メンバーの前に、為す術もなく吹き飛ばされたが。
「よし、こんなところかな。作った炭の運搬は頼んだよ」
ここから先は自分の手を離れ、出来上がった炭を魔王領の街に運搬する役目は、予定通りツヴァイたちに任せる。
「おうよ、しっかり届けるから任せとけ。で、だ。もし、この炭を作った人物は誰だ、って聞かれた場合は、アースの名前を出してもいいか?」
ツヴァイの質問に、うーん、どうしようかと頭を悩ませる。今まで結構いろんな場所で動いてきたから、自分の名前なんて知ってる人は知ってるだろうしな……別にいいか。
「聞かれたら、言ってもいいよ。だけど、そっちのギルドの職人さんたちの名前も言ってくれよ? これだけの量を作るのは、自分一人じゃ絶対に無理だったんだからな」
炭の品質はばらばらだが、今は質より量が大事だ。それに製作評価は悪くても3だから、使い物にならないということはない。
「それでもアースが音頭を取ってくれなきゃ、こうやって炭を作るなんて話にはならなかったんだ。だから聞かれたら答えておきたくてよ。人知れず積む善行もいいけど、声に出すべきこともあると思うからな……安心しろ、あくまで魔族の皆さんにだけ伝えるってことにしておくさ。最悪の展開を迎えて魔族の人たちとプレイヤーが争うことになっても、炭を提供するような協力者には手を出さないだろうしな」
──そうか、そういう考えもあるのか。もちろん争い合う展開を望んでいるわけではない。ただそういったことが起こる可能性がある以上……事前対策、という言い方だと腹黒い気もするが、こちら側に協調の意思があると示しておくのは意味があるな。
ツヴァイの考えも分かったことだし、ここはそれに乗っておこう。
「掲示板を見ても、状況があんまり良くないってのは嫌でも伝わってくるから、そうしておくのが無難か。ツヴァイの判断を尊重するよ。あと、いくらで売るかってのも任せるが、馬鹿みたいに釣り上げる真似だけはしないでくれよ」
「分かってるって。困ってる連中の弱みに付け込むような真似は、言われなくたって絶対やらないぜ」
その後、皆でフォルカウスの街に帰還した。
「んじゃ、俺たちは魔王領に行ってくるから、運搬に参加するメンバー以外はここで解散、明日余裕があるならまた集まってくれ!」
そう言い残して、ツヴァイをはじめとした数名は北に消えていく。その見送りを済ませた後、残ったメンバーは解散となった。自分はもうアクアと一緒に宿屋に入ってログアウトするだけだ。
久々に大量の生産活動を行ったので、ちょっと疲れた気もするが……ログアウト前にやっておくべきことがある。
宿屋を見つけて個室を確保した自分は、部屋に入ってから手を二回ポンポンと叩く。すると待ってましたとばかりに、〈義賊頭〉としての自分の部下である義賊小人たちのリーダーが天井裏から下りてきた。
「親分、お呼びで」
小人リーダーの言葉にゆっくりと頷いてから、自分は今回の仕事内容を告げる。
「もしかしたらお前たちもすでに情報を仕入れているかもしれんが、今の魔王領では炭不足が問題となっている。その原因は、一部の阿呆が炭を買い占めたせいなんだがな……これを黙って見過ごしては、義を掲げる我らの名に傷がつく。分かるな?」
自分の言葉に頷く小人リーダー。
「へい、あっしらの普段の仕事とは異なるとはいえ、ここで救いの手を差し伸べぬのは義に背く行為であるとあっしも思いやす。むろん与えすぎては怠惰を招いてしまいやすが、かといってかの地に住まう者たちが凍死するようなことになれば、取り返しがつきやせん。実は親分、あっしらのほうでも情報を集めた結果、配下二人の表の稼業の一つである炭焼きを、他の配下たちにも支援させておりやす。あと一日貰えれば、炭を提供できやす」
なるほど、すでに動いていたってわけか。相変わらず有能だな、ありがたい。
「よし、ならばその炭をそこそこの値で魔王領に流してやれ。ただし、売る相手は魔族限定にすると一筆書いてもらえ。炭が入ってきて多少安定したからと、また買い占めが始まったら目も当てられん。ひとまず今はあちこちから炭を流し、凍死する者が出るという最悪の事態を迎えないようにすることが最優先だ。冒険をしたい者たちへの炭の供給はずっと後でいいからな」
小人リーダーは黙って頷く。その辺は心得ているってことだろう。
「炭の供給量の塩梅はお前たちに一任する。いちいち指示を飛ばさずともやれるだけの能力をお前たちは持っていると理解している。だがこの炭の一件、しくじれば、罪なき民の血が大量に流れる事態に発展しかねん。今回は直接斬り合うような仕事ではないとはいえ、腑抜けた行動だけはするな。いいな?」
小人リーダーは「へい、親分の顔に泥を塗るような結果には致しやせん」と言い残し、姿を消した。
これで炭の供給量はもう少し増えてくれるだろう。あとは、自分はひたすら『ブルーカラー』のメンバーと協力して炭を作り続けるだけだ。
このひどい吹雪もあと少しで去るという情報もある、ここが踏ん張りどころだろう。
とりあえず、今日はログアウトだな。
──その頃、炭を売りに行ったツヴァイたちは……――
「ああ、いらっしゃい。何が入用だい? 悪いが、炭は品切れだよ」
店に入ってきたツヴァイを見ると、魔王領の街にある道具屋の店主はそう声をかけてきた。
ツヴァイはできるだけ穏やかな表情を心がけつつ近寄って、小声で話しかける。
(いや、俺たちは逆なんだ……炭を売りに来た。だけど、今は大きな声でそのやり取りをするわけにはいかない。炭を買い占めたい奴がどこにうろついているか分からないからな……)
その内容に、店主は顔色を大きく変えた。
「ああ、その商品でしたらこちらの別室にあります。お手数ですが、ついてきていただけますか?(本当ですか!? と、とにかくこちらへ)」
適当なことを言った後にやはり小声で答えつつ、店主は店員を呼ぶ。
「おい、ちょっと俺はお客様を案内するから、店番を頼むぞ」
「へーい」
そうして、ツヴァイたちを店の奥の部屋に連れていき、座らせた。
「単刀直入にお聞きします、本当に炭を売ってくださるのですか?」
店主の表情は真剣そのもの。というのも、すでに炭の在庫はほんの僅かで、売るどころか自分たちで使う分すら危うくなってきていた。
しかも次の仕入れもいつになるか分からないという、かなり切羽詰まった状況に置かれていたのである。
「百聞は一見に如かずと言うからね、まずはこれを見てよ」
ロナがそう言いながら、持ってきた炭の一部をアイテムボックスから取り出して、店主の前に提示する。
その炭を手に取り、念入りに見ていた店主であったが、やがて「確かにこれは炭ですな。品質のばらつきこそありますが、全て使う分には問題のないレベルでしょう」と認める。
「魔族の皆さんは、一部の連中による脅しを含む炭の買い占めのせいで、寒さに怯える日々を送っていると聞いた。その詫びというわけじゃないが、俺たちは何とか炭を用意して魔族の皆さんに提供することにした。肝心の値段は、こんな状況になる前くらいの金額でどうだ。悪いが、多少は貰わないと、次の炭を作れないんでな」
ツヴァイの言葉に長考した後、店主が口を開く。
「こちらとしては、どんな条件を言われても、炭が手に入るのであれば呑むしかないのですが……しかし、炭を買い占めた人たちは各地のダンジョンで荒稼ぎして資金は潤沢だと聞いています。なぜ、炭を高く売れるところに持っていかないので? 我々にこうして売っていただいても、皆様が受ける恩恵が見えないのですが」
この質問に答えたのはレイジだ。
「俺たちは、魔族の人たちと仲良くやっていきたいだけだ。炭を作った奴も同じ考えで、今回の急場を凌げるだけの炭を作ろうと俺たちに提案してきたんだ。皆が皆、我欲を満たすためだけに行動してるわけじゃない。そこだけは分かってほしい」
この言葉に再び長考した後、店主は「そうですか、分かりました。その考えに感謝します」と口にしてから、ツヴァイたちに頭を下げた。
「それともう一つ、これはこっちの我儘だから聞いてくれなくてもいいんだが……俺たちが売る炭は、必ず魔族の皆さんだけに売ってくれないか? 俺たちは魔族の皆さんのために作ってきたんであって、買い占められるために作ったわけじゃないからな」
ツヴァイの言葉に、了解しましたと頷く店主。そして──
「この炭を用意してくださった方は何者なのですか? 我々に大事な炭を提供してくださった上、最低限の代金しか要求しないという。とても情に厚い方であると感じます。ぜひ、お名前だけでも伺いたい──」
そしてツヴァイは、今回の行動がアースの音頭で始まり、自分たちのギルドが協力する形で行われていることを告げたのだった。
この後、ツヴァイたちはいくつかの道具屋を回り、炭を安値で売っていった。これにより、アースと『ブルーカラー』の名声は、大半のプレイヤーの目には見えないところで上がっていくこととなった。
3
それからリアルの時間で一週間ほど、炭作りは続いた。今はもう自分と『ブルーカラー』のメンバーだけでなく、八十人近い協力者と共に炭作りを行っている。ここまで人数が膨れ上がるとは、ちょっと予想外だったな。
炭作りをすることになった原因である吹雪は、リアルの時間で三日前に収まった。
魔王様から各街に吹雪の鎮静化宣言も出され、さて、これで冒険に戻れるぞ、めでたしめでたし……となれば良かったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
その理由は、吹雪がやんでも収まらなかった炭不足にある。
魔族の皆さんも炭焼き窯を全力で稼働させて生産に励んでいたが、なにぶん炭を買い占めていたギルドの炭消費量が半端ではなかったことが原因で、まだまだ炭の値段は高いままであった。
そして、それが誰に一番影響を与えているかと言えば、魔族領の一般市民である魔族の皆さんである。
当然ながら、彼らは炭を買い占めたギルドに対して強い不快感を持っていた。面と向かって罵詈雑言をぶつけるなどの目に見える衝突にまでは至らなかったものの、色々な行動にその影響が現れた。
具体的に言えば、炭の買い占めに関わったプレイヤーに対してはお店が商品販売価格を上げたり、わざと品質の良くない物しか売らなかったり……高くなってしまった炭の代金を間接的に徴収するような動きが見られた。
そして、そんな対応をされた側も文句を言うようになっていった。
こうして、炭という魔王領における生活必需品の不足がきっかけで、あちこちでごたごたが見受けられるようになってしまったのだ。
そんなごたごたを抑えるにはどうしたらいいか? 一番確実なのは、炭の値段が高騰する以前の基準に戻ることだ。
しかし、それをただじっと待つだけでは、いつになるか分からない。そして何も手を打たなければ、そう遠くないうちに血を見る事態にまで発展するのは誰の目にも明らかだ……というのが、情報を集めてきたツヴァイたちと小人リーダーの双方に共通した意見だった。
むろん、この問題は炭を買い占めた一部のプレイヤーたちが発端だ。売った側にも色々と事情があったのだが、極端に値上がりしてもなお、買い占めが止まらなかったのである。最終的に元の五倍を超える売値でも、巨大ギルドの資本力の前では小銭に過ぎず、本当にギリギリまで炭を買われてしまった。
そしてその値上がりは一般市民の生活を直撃し、彼らの困窮の原因となった買い占めプレイヤーを恨む、というサイクルが形成されてしまった。
炭作りに集ったメンバーは、この状況をできるだけ早く沈静化させよう、という呼びかけに応えて動いてくれた人たちなのだ。
皆が協力して炭を大量に作り続けることで、炭の値段は緩やかに値下がりを続け、魔族領の街に漂っていた剣呑な空気は今では随分と穏やかになったそうだ。とはいえ買い占めプレイヤーに対する魔族の皆さんの冷遇は継続中で、こればっかりはどうしようもないらしいけど。
まあ、高い授業料だと考えてもらうしかない。過去にあったポーション不足事件を忘れてしまったんだろうな……ましてや、炭が冒険のためだけに使う物ではないことを考慮しなかった点は擁護できない。無理せずに、外に出ないでできることをしていればよかったのに。
「よーし、こっちは完成したぞー! 運搬役頼む!」
「おう、任せろ!」
あちこちで炭を作るための煙が上がっている。出来上がった炭は、運搬担当が魔族領に三つある街に均等に行き渡らせる。魔族の皆さんからも歓迎され、細かいやり取りはなしで取引できるようになっているそうだ。自分はひたすら炭を作り続ける立場なので、その現場を実際に見たことはないのだが。
ただ、運搬担当の話では、高騰していた炭の値段はついに元の三倍を切り、魔族の皆さんの表情にもやっと余裕が出てきたという。
「今日で炭の生産も終わりだ、もうちょっとだから頑張ってくれよー!」
「「「「おおー!」」」」
誰かの声に、自分を含む職人チームの皆が応える。
今日で生産が終わりなのは、魔族の皆さんの炭作りがようやく終わって、各街に行き渡らせる準備が整ったとの連絡が入ったからだ。
自分たちがやっている炭作りはあくまで一時凌ぎでしかない。本来の生産者の仕事を奪うつもりはないから、魔族のほうの体制が整えばこちらは終わりとなる。それに炭作りばっかりで全然冒険に行けないのも困るし。アクアも頭上で退屈してるし。
とにかく、これで炭の一件はほぼ沈静化するだろう。
「こっちはもう材料が切れたー」
「こっちも今ので終わりだ!」
「こっちは最後の炭が仕上がったよー!」
あちこちから作業の終わりを告げる言葉が聞こえてくる。
この一週間、本当によく炭を焼いたよ……スキルレベルは大して上がらなかったんだけどね。
まあ、放置できない問題であったし、魔族の皆さんとの仲を悪化させないための行動なのだから決して無意味ではない。
これで、全てのプレイヤーが自己中心的ではないと分かってもらえるだろう……買い占めと無関係なのに冷遇される人が出ても困るからな。
「よし、これにて全ての炭焼きが終了! 皆様、この一週間お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!!!!」」」」
最後の籾殻の小山から炭となった木材を取り出し、運搬チームに手渡して、職人チームの仕事は全て終了した。
この後、職人チームは打ち上げを兼ねた宴会をフォルカウスの街で行うことになっている。運搬チームは運搬チームで、運搬先の街で魔族の皆さんとどんちゃん騒ぎをするとのこと。
有志プレイヤーが協力した結果、魔族の皆さんとの仲が断絶せずに済んだお祝いだ。盛大にやっても構わんだろう。
食事の手配の心配は不要だった。何せ職人が集まってるってことは色々作れるってことで……自分の出番なんかなかったよ。どこの宮廷料理だ!?って豪勢な料理から身近な料理まで、どっさりとテーブルの上に載っかった。
お酒だって当然プレイヤーメイド。どうやって作るのか、そっちの知識はからっきしの自分には真似できないなぁ。そうして打ち上げという名のどんちゃん騒ぎは始まった。
「それにしても一昨日の一件は笑ったなぁ」
誰かがそんなことを漏らした。一昨日の一件、というとあれか。炭を買い占めていたギルドの一つが、自分たちの炭焼き場を嗅ぎつけて、炭を売れとやや高圧的に言ってきたことだろう。
「あのときのアースさんの返答につい頷いちまったよ。即答で『では、貴方のギルドの全財産と引き換えならお売りします。びた一文負けません』だろ? あいつらが度を越えたせいで炭不足が起こって、それを解消するために俺たちが動いてんのに何言ってんだ、って心の中で思ってたもんな。スーッとしたぜ」
──あのときは大人げない行動をしてしまったな。売って当然だなんて態度に憤りを感じて、つい交渉という名の無理難題を吹っ掛けてしまった。まあ、万が一本当に資金全部を差し出してきたとしても、『やっぱりその三倍下さいね』なんて言って突っぱねるつもりだったけどね。
こういうとき、ソロは気楽だ。あれこれ攻撃されても、被害を受けるのは自分だけで済むのだから。
「あいつらの悔しそうな顔はSSに撮ってあるぜ。いやー、リアルであんな表情浮かべる奴にはなかなか出会えんからなー」
おいおい、ほどほどにしてあげなさいよ。掲示板に晒したりしないで、個人で見る分には何にも言わないけどさ……
「で、その後の掲示板が面白いことになったよな。あいつら、アースさんの名前を出して非難したはいいが、『テメーらが後先考えず炭を買い込んだのが原因だろうが、そのおかげで皆迷惑してるんだ!』って総ツッコミを食らって、もろ言葉の袋叩き。おまけにそいつとそいつの属してるギルドが思いっきり晒されてたもんなー。風の噂じゃ、いつ空中分解するかカウントダウン状態らしーぜ?」
掲示板に限らず、炭作りを応援、擁護する声はとても多く、何人も差し入れを持ってきてくれたりした。この場合の差し入れとは、食べ物じゃなくて生産のための資金のことだ。そのおかげで、炭作りをしていた自分たちの懐は結構暖まっていたりする。
もちろん、そのお金に見合うだけの成果は出せたと思う。出せたからこそ、今日で終わりになるんだし。
「とにかく、最悪の事態だけは避けられて何よりだ。いやはや、最初に炭不足の話を聞いたときは冗談抜きで肝が冷えたぜ……『ワンモア』だと『もしも』が簡単に現実になるからなぁ。今回の件で、生産職やっててよかったって本気で思ったね!」
一人の職人の言葉に、他の人も全くその通りだと同調して笑い声が上がる。
こうして、プレイヤーと魔族の皆さんとの正面衝突は回避された。めでたしめでたし……
となってほしかったんだけどなぁ。
残念なことに、この話にはまだ続きがあったりする。
この一件に関して特に精力的に動いたプレイヤー……自分と『ブルーカラー』の協力メンバー全員が、魔王様より直々に呼び出しを受けてしまったのである。
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「今回のことは、まことに大儀であった。同じ愚を繰り返さぬよう、炭を扱う者に近々新しい決まりを纏めた指示を出すことにした。多くの民が貴殿らの働きによって命を救われ、厳しい吹雪を乗り切ることができた。全ての民に成り代わり、王として感謝する」
自分たちは魔王城に招待され、魔王様から直々に感謝の言葉を頂いた。
もちろん言葉だけではなく、一人当たり三〇〇万グローと、防寒能力のあるペンダントの改良型という報酬もついた。
この防寒のペンダント改(仮名)は、より防寒性を上げつつ消費するMPの量を減らすことに成功した一品なんだそうだ。そして普及品のような返却義務がなく、永久所有を認められている──自分には以前魔王様から貰った例のインチキ級のマントがあるので、あまり意味がないが。
「また、貴殿らを魔王領における名誉貴族とする。権力などは特にないが、今後は魔王領内にてロード、レディと名乗ることを許すこととする」
後で知ったことだが、魔王領内で勝手に貴族を名乗ることは、大きな罪となる。逆に言うと、何も権力がないとしても、貴族を名乗ることやそう呼ばれることは、魔族の皆さんからものすごい尊敬を受けるのである。
それを知った直後、ロナちゃんは「レディ・ロナ様とか呼ばれるのってすんごいむず痒い! そんな立派な存在じゃないよボクは!」なんて叫び、顔を真っ赤にしながら頭をがりがりと掻いていた。
自分も「ロード・アース」と名乗ることを許されたわけなんだが……うん、ものすごく似合わないね。
「これからも、魔族と人族が共に歩めるように懸け橋となってくれることを望む。以上だ」
なぜだか知らないが、今回の魔王様のお姿は全身フルアーマーだ。声もややくぐもっており、女性の声には聞こえない。まあ何らかの理由があるんだろうけど……
とりあえず、無事に謁見は終わった。それぞれ宛がわれた部屋に戻り、今日はこれでログアウトすることになるだろう。
なお、希望するならしばらく魔王城内に滞在してもいいとのお許しも出ている。好奇心旺盛なノーラなどは、城内を見物してくると言い残し、動くメイド服――リビングメイドの一人を伴って早速行ってしまった。
それから、職人全員が協力して炭を量産、戦闘職はその職人さんをきっちり護衛という連携で動き、纏まった量が出来た。
多数の煙が上がっていたためか、ちょくちょくモンスターがやってきた。もっとも、ツヴァイをはじめとした『ブルーカラー』の戦闘職メンバーの前に、為す術もなく吹き飛ばされたが。
「よし、こんなところかな。作った炭の運搬は頼んだよ」
ここから先は自分の手を離れ、出来上がった炭を魔王領の街に運搬する役目は、予定通りツヴァイたちに任せる。
「おうよ、しっかり届けるから任せとけ。で、だ。もし、この炭を作った人物は誰だ、って聞かれた場合は、アースの名前を出してもいいか?」
ツヴァイの質問に、うーん、どうしようかと頭を悩ませる。今まで結構いろんな場所で動いてきたから、自分の名前なんて知ってる人は知ってるだろうしな……別にいいか。
「聞かれたら、言ってもいいよ。だけど、そっちのギルドの職人さんたちの名前も言ってくれよ? これだけの量を作るのは、自分一人じゃ絶対に無理だったんだからな」
炭の品質はばらばらだが、今は質より量が大事だ。それに製作評価は悪くても3だから、使い物にならないということはない。
「それでもアースが音頭を取ってくれなきゃ、こうやって炭を作るなんて話にはならなかったんだ。だから聞かれたら答えておきたくてよ。人知れず積む善行もいいけど、声に出すべきこともあると思うからな……安心しろ、あくまで魔族の皆さんにだけ伝えるってことにしておくさ。最悪の展開を迎えて魔族の人たちとプレイヤーが争うことになっても、炭を提供するような協力者には手を出さないだろうしな」
──そうか、そういう考えもあるのか。もちろん争い合う展開を望んでいるわけではない。ただそういったことが起こる可能性がある以上……事前対策、という言い方だと腹黒い気もするが、こちら側に協調の意思があると示しておくのは意味があるな。
ツヴァイの考えも分かったことだし、ここはそれに乗っておこう。
「掲示板を見ても、状況があんまり良くないってのは嫌でも伝わってくるから、そうしておくのが無難か。ツヴァイの判断を尊重するよ。あと、いくらで売るかってのも任せるが、馬鹿みたいに釣り上げる真似だけはしないでくれよ」
「分かってるって。困ってる連中の弱みに付け込むような真似は、言われなくたって絶対やらないぜ」
その後、皆でフォルカウスの街に帰還した。
「んじゃ、俺たちは魔王領に行ってくるから、運搬に参加するメンバー以外はここで解散、明日余裕があるならまた集まってくれ!」
そう言い残して、ツヴァイをはじめとした数名は北に消えていく。その見送りを済ませた後、残ったメンバーは解散となった。自分はもうアクアと一緒に宿屋に入ってログアウトするだけだ。
久々に大量の生産活動を行ったので、ちょっと疲れた気もするが……ログアウト前にやっておくべきことがある。
宿屋を見つけて個室を確保した自分は、部屋に入ってから手を二回ポンポンと叩く。すると待ってましたとばかりに、〈義賊頭〉としての自分の部下である義賊小人たちのリーダーが天井裏から下りてきた。
「親分、お呼びで」
小人リーダーの言葉にゆっくりと頷いてから、自分は今回の仕事内容を告げる。
「もしかしたらお前たちもすでに情報を仕入れているかもしれんが、今の魔王領では炭不足が問題となっている。その原因は、一部の阿呆が炭を買い占めたせいなんだがな……これを黙って見過ごしては、義を掲げる我らの名に傷がつく。分かるな?」
自分の言葉に頷く小人リーダー。
「へい、あっしらの普段の仕事とは異なるとはいえ、ここで救いの手を差し伸べぬのは義に背く行為であるとあっしも思いやす。むろん与えすぎては怠惰を招いてしまいやすが、かといってかの地に住まう者たちが凍死するようなことになれば、取り返しがつきやせん。実は親分、あっしらのほうでも情報を集めた結果、配下二人の表の稼業の一つである炭焼きを、他の配下たちにも支援させておりやす。あと一日貰えれば、炭を提供できやす」
なるほど、すでに動いていたってわけか。相変わらず有能だな、ありがたい。
「よし、ならばその炭をそこそこの値で魔王領に流してやれ。ただし、売る相手は魔族限定にすると一筆書いてもらえ。炭が入ってきて多少安定したからと、また買い占めが始まったら目も当てられん。ひとまず今はあちこちから炭を流し、凍死する者が出るという最悪の事態を迎えないようにすることが最優先だ。冒険をしたい者たちへの炭の供給はずっと後でいいからな」
小人リーダーは黙って頷く。その辺は心得ているってことだろう。
「炭の供給量の塩梅はお前たちに一任する。いちいち指示を飛ばさずともやれるだけの能力をお前たちは持っていると理解している。だがこの炭の一件、しくじれば、罪なき民の血が大量に流れる事態に発展しかねん。今回は直接斬り合うような仕事ではないとはいえ、腑抜けた行動だけはするな。いいな?」
小人リーダーは「へい、親分の顔に泥を塗るような結果には致しやせん」と言い残し、姿を消した。
これで炭の供給量はもう少し増えてくれるだろう。あとは、自分はひたすら『ブルーカラー』のメンバーと協力して炭を作り続けるだけだ。
このひどい吹雪もあと少しで去るという情報もある、ここが踏ん張りどころだろう。
とりあえず、今日はログアウトだな。
──その頃、炭を売りに行ったツヴァイたちは……――
「ああ、いらっしゃい。何が入用だい? 悪いが、炭は品切れだよ」
店に入ってきたツヴァイを見ると、魔王領の街にある道具屋の店主はそう声をかけてきた。
ツヴァイはできるだけ穏やかな表情を心がけつつ近寄って、小声で話しかける。
(いや、俺たちは逆なんだ……炭を売りに来た。だけど、今は大きな声でそのやり取りをするわけにはいかない。炭を買い占めたい奴がどこにうろついているか分からないからな……)
その内容に、店主は顔色を大きく変えた。
「ああ、その商品でしたらこちらの別室にあります。お手数ですが、ついてきていただけますか?(本当ですか!? と、とにかくこちらへ)」
適当なことを言った後にやはり小声で答えつつ、店主は店員を呼ぶ。
「おい、ちょっと俺はお客様を案内するから、店番を頼むぞ」
「へーい」
そうして、ツヴァイたちを店の奥の部屋に連れていき、座らせた。
「単刀直入にお聞きします、本当に炭を売ってくださるのですか?」
店主の表情は真剣そのもの。というのも、すでに炭の在庫はほんの僅かで、売るどころか自分たちで使う分すら危うくなってきていた。
しかも次の仕入れもいつになるか分からないという、かなり切羽詰まった状況に置かれていたのである。
「百聞は一見に如かずと言うからね、まずはこれを見てよ」
ロナがそう言いながら、持ってきた炭の一部をアイテムボックスから取り出して、店主の前に提示する。
その炭を手に取り、念入りに見ていた店主であったが、やがて「確かにこれは炭ですな。品質のばらつきこそありますが、全て使う分には問題のないレベルでしょう」と認める。
「魔族の皆さんは、一部の連中による脅しを含む炭の買い占めのせいで、寒さに怯える日々を送っていると聞いた。その詫びというわけじゃないが、俺たちは何とか炭を用意して魔族の皆さんに提供することにした。肝心の値段は、こんな状況になる前くらいの金額でどうだ。悪いが、多少は貰わないと、次の炭を作れないんでな」
ツヴァイの言葉に長考した後、店主が口を開く。
「こちらとしては、どんな条件を言われても、炭が手に入るのであれば呑むしかないのですが……しかし、炭を買い占めた人たちは各地のダンジョンで荒稼ぎして資金は潤沢だと聞いています。なぜ、炭を高く売れるところに持っていかないので? 我々にこうして売っていただいても、皆様が受ける恩恵が見えないのですが」
この質問に答えたのはレイジだ。
「俺たちは、魔族の人たちと仲良くやっていきたいだけだ。炭を作った奴も同じ考えで、今回の急場を凌げるだけの炭を作ろうと俺たちに提案してきたんだ。皆が皆、我欲を満たすためだけに行動してるわけじゃない。そこだけは分かってほしい」
この言葉に再び長考した後、店主は「そうですか、分かりました。その考えに感謝します」と口にしてから、ツヴァイたちに頭を下げた。
「それともう一つ、これはこっちの我儘だから聞いてくれなくてもいいんだが……俺たちが売る炭は、必ず魔族の皆さんだけに売ってくれないか? 俺たちは魔族の皆さんのために作ってきたんであって、買い占められるために作ったわけじゃないからな」
ツヴァイの言葉に、了解しましたと頷く店主。そして──
「この炭を用意してくださった方は何者なのですか? 我々に大事な炭を提供してくださった上、最低限の代金しか要求しないという。とても情に厚い方であると感じます。ぜひ、お名前だけでも伺いたい──」
そしてツヴァイは、今回の行動がアースの音頭で始まり、自分たちのギルドが協力する形で行われていることを告げたのだった。
この後、ツヴァイたちはいくつかの道具屋を回り、炭を安値で売っていった。これにより、アースと『ブルーカラー』の名声は、大半のプレイヤーの目には見えないところで上がっていくこととなった。
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それからリアルの時間で一週間ほど、炭作りは続いた。今はもう自分と『ブルーカラー』のメンバーだけでなく、八十人近い協力者と共に炭作りを行っている。ここまで人数が膨れ上がるとは、ちょっと予想外だったな。
炭作りをすることになった原因である吹雪は、リアルの時間で三日前に収まった。
魔王様から各街に吹雪の鎮静化宣言も出され、さて、これで冒険に戻れるぞ、めでたしめでたし……となれば良かったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
その理由は、吹雪がやんでも収まらなかった炭不足にある。
魔族の皆さんも炭焼き窯を全力で稼働させて生産に励んでいたが、なにぶん炭を買い占めていたギルドの炭消費量が半端ではなかったことが原因で、まだまだ炭の値段は高いままであった。
そして、それが誰に一番影響を与えているかと言えば、魔族領の一般市民である魔族の皆さんである。
当然ながら、彼らは炭を買い占めたギルドに対して強い不快感を持っていた。面と向かって罵詈雑言をぶつけるなどの目に見える衝突にまでは至らなかったものの、色々な行動にその影響が現れた。
具体的に言えば、炭の買い占めに関わったプレイヤーに対してはお店が商品販売価格を上げたり、わざと品質の良くない物しか売らなかったり……高くなってしまった炭の代金を間接的に徴収するような動きが見られた。
そして、そんな対応をされた側も文句を言うようになっていった。
こうして、炭という魔王領における生活必需品の不足がきっかけで、あちこちでごたごたが見受けられるようになってしまったのだ。
そんなごたごたを抑えるにはどうしたらいいか? 一番確実なのは、炭の値段が高騰する以前の基準に戻ることだ。
しかし、それをただじっと待つだけでは、いつになるか分からない。そして何も手を打たなければ、そう遠くないうちに血を見る事態にまで発展するのは誰の目にも明らかだ……というのが、情報を集めてきたツヴァイたちと小人リーダーの双方に共通した意見だった。
むろん、この問題は炭を買い占めた一部のプレイヤーたちが発端だ。売った側にも色々と事情があったのだが、極端に値上がりしてもなお、買い占めが止まらなかったのである。最終的に元の五倍を超える売値でも、巨大ギルドの資本力の前では小銭に過ぎず、本当にギリギリまで炭を買われてしまった。
そしてその値上がりは一般市民の生活を直撃し、彼らの困窮の原因となった買い占めプレイヤーを恨む、というサイクルが形成されてしまった。
炭作りに集ったメンバーは、この状況をできるだけ早く沈静化させよう、という呼びかけに応えて動いてくれた人たちなのだ。
皆が協力して炭を大量に作り続けることで、炭の値段は緩やかに値下がりを続け、魔族領の街に漂っていた剣呑な空気は今では随分と穏やかになったそうだ。とはいえ買い占めプレイヤーに対する魔族の皆さんの冷遇は継続中で、こればっかりはどうしようもないらしいけど。
まあ、高い授業料だと考えてもらうしかない。過去にあったポーション不足事件を忘れてしまったんだろうな……ましてや、炭が冒険のためだけに使う物ではないことを考慮しなかった点は擁護できない。無理せずに、外に出ないでできることをしていればよかったのに。
「よーし、こっちは完成したぞー! 運搬役頼む!」
「おう、任せろ!」
あちこちで炭を作るための煙が上がっている。出来上がった炭は、運搬担当が魔族領に三つある街に均等に行き渡らせる。魔族の皆さんからも歓迎され、細かいやり取りはなしで取引できるようになっているそうだ。自分はひたすら炭を作り続ける立場なので、その現場を実際に見たことはないのだが。
ただ、運搬担当の話では、高騰していた炭の値段はついに元の三倍を切り、魔族の皆さんの表情にもやっと余裕が出てきたという。
「今日で炭の生産も終わりだ、もうちょっとだから頑張ってくれよー!」
「「「「おおー!」」」」
誰かの声に、自分を含む職人チームの皆が応える。
今日で生産が終わりなのは、魔族の皆さんの炭作りがようやく終わって、各街に行き渡らせる準備が整ったとの連絡が入ったからだ。
自分たちがやっている炭作りはあくまで一時凌ぎでしかない。本来の生産者の仕事を奪うつもりはないから、魔族のほうの体制が整えばこちらは終わりとなる。それに炭作りばっかりで全然冒険に行けないのも困るし。アクアも頭上で退屈してるし。
とにかく、これで炭の一件はほぼ沈静化するだろう。
「こっちはもう材料が切れたー」
「こっちも今ので終わりだ!」
「こっちは最後の炭が仕上がったよー!」
あちこちから作業の終わりを告げる言葉が聞こえてくる。
この一週間、本当によく炭を焼いたよ……スキルレベルは大して上がらなかったんだけどね。
まあ、放置できない問題であったし、魔族の皆さんとの仲を悪化させないための行動なのだから決して無意味ではない。
これで、全てのプレイヤーが自己中心的ではないと分かってもらえるだろう……買い占めと無関係なのに冷遇される人が出ても困るからな。
「よし、これにて全ての炭焼きが終了! 皆様、この一週間お疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!!!!」」」」
最後の籾殻の小山から炭となった木材を取り出し、運搬チームに手渡して、職人チームの仕事は全て終了した。
この後、職人チームは打ち上げを兼ねた宴会をフォルカウスの街で行うことになっている。運搬チームは運搬チームで、運搬先の街で魔族の皆さんとどんちゃん騒ぎをするとのこと。
有志プレイヤーが協力した結果、魔族の皆さんとの仲が断絶せずに済んだお祝いだ。盛大にやっても構わんだろう。
食事の手配の心配は不要だった。何せ職人が集まってるってことは色々作れるってことで……自分の出番なんかなかったよ。どこの宮廷料理だ!?って豪勢な料理から身近な料理まで、どっさりとテーブルの上に載っかった。
お酒だって当然プレイヤーメイド。どうやって作るのか、そっちの知識はからっきしの自分には真似できないなぁ。そうして打ち上げという名のどんちゃん騒ぎは始まった。
「それにしても一昨日の一件は笑ったなぁ」
誰かがそんなことを漏らした。一昨日の一件、というとあれか。炭を買い占めていたギルドの一つが、自分たちの炭焼き場を嗅ぎつけて、炭を売れとやや高圧的に言ってきたことだろう。
「あのときのアースさんの返答につい頷いちまったよ。即答で『では、貴方のギルドの全財産と引き換えならお売りします。びた一文負けません』だろ? あいつらが度を越えたせいで炭不足が起こって、それを解消するために俺たちが動いてんのに何言ってんだ、って心の中で思ってたもんな。スーッとしたぜ」
──あのときは大人げない行動をしてしまったな。売って当然だなんて態度に憤りを感じて、つい交渉という名の無理難題を吹っ掛けてしまった。まあ、万が一本当に資金全部を差し出してきたとしても、『やっぱりその三倍下さいね』なんて言って突っぱねるつもりだったけどね。
こういうとき、ソロは気楽だ。あれこれ攻撃されても、被害を受けるのは自分だけで済むのだから。
「あいつらの悔しそうな顔はSSに撮ってあるぜ。いやー、リアルであんな表情浮かべる奴にはなかなか出会えんからなー」
おいおい、ほどほどにしてあげなさいよ。掲示板に晒したりしないで、個人で見る分には何にも言わないけどさ……
「で、その後の掲示板が面白いことになったよな。あいつら、アースさんの名前を出して非難したはいいが、『テメーらが後先考えず炭を買い込んだのが原因だろうが、そのおかげで皆迷惑してるんだ!』って総ツッコミを食らって、もろ言葉の袋叩き。おまけにそいつとそいつの属してるギルドが思いっきり晒されてたもんなー。風の噂じゃ、いつ空中分解するかカウントダウン状態らしーぜ?」
掲示板に限らず、炭作りを応援、擁護する声はとても多く、何人も差し入れを持ってきてくれたりした。この場合の差し入れとは、食べ物じゃなくて生産のための資金のことだ。そのおかげで、炭作りをしていた自分たちの懐は結構暖まっていたりする。
もちろん、そのお金に見合うだけの成果は出せたと思う。出せたからこそ、今日で終わりになるんだし。
「とにかく、最悪の事態だけは避けられて何よりだ。いやはや、最初に炭不足の話を聞いたときは冗談抜きで肝が冷えたぜ……『ワンモア』だと『もしも』が簡単に現実になるからなぁ。今回の件で、生産職やっててよかったって本気で思ったね!」
一人の職人の言葉に、他の人も全くその通りだと同調して笑い声が上がる。
こうして、プレイヤーと魔族の皆さんとの正面衝突は回避された。めでたしめでたし……
となってほしかったんだけどなぁ。
残念なことに、この話にはまだ続きがあったりする。
この一件に関して特に精力的に動いたプレイヤー……自分と『ブルーカラー』の協力メンバー全員が、魔王様より直々に呼び出しを受けてしまったのである。
4
「今回のことは、まことに大儀であった。同じ愚を繰り返さぬよう、炭を扱う者に近々新しい決まりを纏めた指示を出すことにした。多くの民が貴殿らの働きによって命を救われ、厳しい吹雪を乗り切ることができた。全ての民に成り代わり、王として感謝する」
自分たちは魔王城に招待され、魔王様から直々に感謝の言葉を頂いた。
もちろん言葉だけではなく、一人当たり三〇〇万グローと、防寒能力のあるペンダントの改良型という報酬もついた。
この防寒のペンダント改(仮名)は、より防寒性を上げつつ消費するMPの量を減らすことに成功した一品なんだそうだ。そして普及品のような返却義務がなく、永久所有を認められている──自分には以前魔王様から貰った例のインチキ級のマントがあるので、あまり意味がないが。
「また、貴殿らを魔王領における名誉貴族とする。権力などは特にないが、今後は魔王領内にてロード、レディと名乗ることを許すこととする」
後で知ったことだが、魔王領内で勝手に貴族を名乗ることは、大きな罪となる。逆に言うと、何も権力がないとしても、貴族を名乗ることやそう呼ばれることは、魔族の皆さんからものすごい尊敬を受けるのである。
それを知った直後、ロナちゃんは「レディ・ロナ様とか呼ばれるのってすんごいむず痒い! そんな立派な存在じゃないよボクは!」なんて叫び、顔を真っ赤にしながら頭をがりがりと掻いていた。
自分も「ロード・アース」と名乗ることを許されたわけなんだが……うん、ものすごく似合わないね。
「これからも、魔族と人族が共に歩めるように懸け橋となってくれることを望む。以上だ」
なぜだか知らないが、今回の魔王様のお姿は全身フルアーマーだ。声もややくぐもっており、女性の声には聞こえない。まあ何らかの理由があるんだろうけど……
とりあえず、無事に謁見は終わった。それぞれ宛がわれた部屋に戻り、今日はこれでログアウトすることになるだろう。
なお、希望するならしばらく魔王城内に滞在してもいいとのお許しも出ている。好奇心旺盛なノーラなどは、城内を見物してくると言い残し、動くメイド服――リビングメイドの一人を伴って早速行ってしまった。
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