とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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23巻

23-1

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 1


 今日も「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界にログインしたアースこと自分は、りゅうくに雨龍うりゅうさんと砂龍さりゅうさんの師匠ズのもと、有翼人ゆうよくじんとの戦いに備えた修業を行う。

「では我々は出かける故、お前の修業には分体を残していく。そして、今日からは課す制限を二つに増やすぞ」

 そんな無慈悲むじひな砂龍さんの言葉が自分の耳に入る。
 え? 二つ? 一つでもきついのに、二つ!?

「ふ、二つですか」

 自分の口からこぼれた言葉に、砂龍さんが静かに頷く。ああ、これは何を言っても変更ないな。
 そんな風に思考にあきらめが入る中、砂龍さんが投げた矢が制限の内容を書いた的に当たる。
 えーと、今日の制限は『弓』と『道具』の二つか。となると、魔剣と蹴りを主軸に戦う事になるな。
 それと、今日からは様子を見ながら〈妖精招来〉を組み込むつもりなので、弓や道具が使えない中でどうやって多人数相手に対処できるかの実戦練習になるだろう。

「うむ、決まったな。では今日もはげめ。残されている時間はそう多くはないが、集中すればその価値を数倍に高める事も不可能ではない」

 そう言い残して立ち去ろうとする砂龍さんと雨龍さん。だが、自分はそれに待ったをかける。聞いておきたい事があるからだ。

「ちょっと待ってください。アクア……いつも自分の頭の上にいた鳥型の妖精について、何か知りませんか? 最近見ないのですが、何かあったのかと思いまして」

 そう、この修業の日々が始まってから、アクアがいなくなっていたのだ。
 あの子は自分の契約妖精ではないから、ある日突然去っていかれても一切文句は言えないのだが、でもアクアの性格からして黙っていなくなるかな?とも思うわけで。自分としてはあの子とはそれなりに仲良くやってこれたと思っているので、別れるときには少なくとも何かひと言残していくと思うんだよね。

「ああ、その事か。すまん、こちらの不手際だな……あの者は一度妖精国に帰り、ある場所で他のピカーシャ達と訓練を行っている。空にいる彼奴きゃつらの目が届かない場所でな」

 詳しく聞くと、どうも有翼人の拠点に乗り込む各種族のメンバーが集まって修業をしているとの事。その場所は秘密らしいのだが、砂龍さんと雨龍さんはそこで各種族の代表に稽古けいこをつけており、彼らは組手という名の限りなく殺し合いに近い戦いを繰り返しているそうだ。

「特にあの者は、お前と共に色んな場所を巡っていたから、様々な戦闘に関する経験が豊富なのだ。更に、お前の戦いも見てきているからか通常のピカーシャがやらぬ戦い方をする故に、他のピカーシャ達を鍛えるのに一役買っている。それをお前に教えていなかったのはこちらの落ち度だ、すまぬ」

 ああ、うん。やってる事と、見なくなった理由が分かればそれでいいんですがね。まあ、できれば事前に教えてほしかったというのが本音ほんねではある……

「事前に伝える事を忘れるぐらい、忙しいのですか?」

 自分の問いかけに、再び砂龍さんが頷く。

「奴らの厄介さは、強さだけではないからな……それを全て教えるには時が足りぬ。だが、少しでも奴らの事を知り、対策を練る修業を重ねておけば、それだけ生き残れる可能性が高まる。今のうちにできる限りの事はせねばな。では時が惜しい故、我らは行く。お前も分体と共に鍛錬を重ねよ」

 そう言い残して砂龍さんは出ていく。雨龍さんも「辛いじゃろうが、今は耐えるのじゃぞ。ここで踏ん張らねば、後悔する事になるからの」と言い残して去っていった。
 さて、ならば今はひたすら修業あるのみか。アクアが今どこに行ったのかも分かったし、これで自分の修業に集中できる。

「それでは、本日もお願いします」

 残された四体の分体は、自分の言葉にこくりと頷いた後で構えを取る。
 今回も砂龍さんの分体は空中へ浮かび、雨龍さんの分体はじりじりと間合いを詰めながら突撃のタイミングを計り出した。それに対し、自分は盾のスネークソードの安全装置を解除して、使えるようにしておく。
 お互いがにらみ合った直後、雨龍さんの分体二人が一瞬で姿を消した。そして気がつけば左右に一人ずつ移動しており、こちらに向かって短剣を突き出してくる。
 左右から迫り来るその斬撃を、フロントステップで潜り抜けるように回避し、即座に振り向いて盾に仕込んだスネークソードを伸ばす。これにより、横薙よこなぎの斬撃が雨龍さんの分体ズに襲い掛かる。
 が、分体は二人ともそのスネークソードを短剣で弾く。防御を終えた分体二名は再び姿を消し、今度は前後の挟み撃ちを仕掛けてくる。それに対し、こちらは右側に移動しながら前方の分体に魔剣【真同化まどか】を伸ばして反撃を仕掛けた。
 だが、その狙いはわざと甘くした。

(そして、ここ!)

 体を傾ける事で、後方から来ている分体による短剣攻撃を左側の視界にぎりぎり収められたので、その攻撃を左手に装備している盾で受ける。
 受け止められた短剣の切っ先が盾の表面を滑っていくのを感じ取りながら、タイミングを見計らって払いのける。
 それで体勢を崩した分体に──自分は右のひざを叩き込む。さすがの分体もこれは回避できず、深々と突き刺さった感触が足に伝わってくる。狙い通り。

(更に、こうだ)

 動きが完全に止まった分体を左手で掴み、先程【真同化】を伸ばした方向によろめかせる。《投げ》スキルがないので豪快に投げる事はできないが、これぐらいは今までの旅で鍛えてきた筋力ならば可能だ。
 そうしてよろめかせた分体の先には──【真同化】による攻撃を回避して反撃を仕掛けてきていたほうの分体が持つ、短剣の刃がある。
 これは気配で察していた。むしろ、その動きを誘うために、わざとそっちの分体から一瞬視線を外したのだ。
 仲間を盾にされた事に慌てた分体は、何とか短剣を寸前で止めるが、当然そんな急停止をすれば体が硬直するのは避けられない。

(でも、これはチャンスじゃない)

 ここでは反撃を一切狙わずに、今度は左に横っ飛び。そして予想通り、つい今まで自分がいた場所に雷が落ちてくる。空中の砂龍さんの分体が、味方ごと焼く事になろうともこちらを倒そうとしたのだろう。
 これは気配を読んだのではなく、今までの冒険で得た経験からの判断だ。あそこでチャンスとばかりに攻撃を続けていたら、今頃黒焦くろこげだったわけだ。

(だが、反応はできる。昨日はあわを食ったけど、今日は昨日の経験があるからどんな感じなのかが分かり、それを考えて立ち回る事で反撃も可能になってる)

 やっぱり、一度体で味わうというのは良い経験になるという事か。
 動きこそ速いが攻撃は並、という事が頭ではなく体で理解できた今なら、そうおびえる事もなく対処できる。この程度の近接攻撃なら、ツヴァイやレイジといった『ブルーカラー』のメンバーにも遠く及ばない。
 その後、雨龍さんの分体が一瞬で距離を詰めてまた斬りかかってくるが、その攻撃は余裕で見える。位置だけ素早く察すれば、この短剣による攻撃については恐れるようなものではなくなってきた。無論、それで油断などしないが。

(後は、上空から攻撃してくる相手への対処。でも今回は魔剣が使えるのだから、やりようはある)

 昨日は一方的に撃たれるばかりだったが、今日はそうはさせん。反撃させてもらうぞ。


『男子三日会わざれば刮目かつもくして見よ』と言う。向こうからしてみれば、今の自分はそんな感じなのかもしれない。
 現実世界リアルの時間でたった一日、厳密に言えば一時間くらいの訓練しかしていないのに、昨日の自分と今の自分の動きは全く違うものになっている事は、自分自身が一番よく分かっている。
 自分がこんなに急成長をしたのはきっと、ディスプレイ越しに世界を見て痛みを感じないゲームと違って、この世界には痛みがある事が理由の一つだ。
 防御や回避に失敗して攻撃を受ければ痛い。この単純な事が、どうすれば痛くなくなるのかを真剣に考えさせた。
 相手の動きを真剣に見て、真剣に考えて、更に今までの冒険で積み重ねた経験も合わさって、有翼人の戦い方を模した分体の攻撃に対する適切な動き方を、はじき出せるようになったと思われる。

「!!」

 言葉こそ発しないが、対峙している分体達が息を呑んだのが分かった。前と右から同時攻撃を仕掛けたのにもかかわらず、右から繰り出された攻撃に自分がすんなりと右手の盾で対処しただけではなく、瞬時に魔剣で反撃まで繰り出したからだろう。
 肩辺りから【真同化】を出現させ、仕掛けた攻撃に対処された事によって動きが止まった右の分体に突きを見舞う。
 当たったのは相手の左肩辺りか……攻撃を受けた分体は、左手に持っていた短剣を取り落とす。どうやら状態異常の[アームブレイク]が発動したか。

(今の攻撃で[アームブレイク]が出るって事は、魔剣の一撃がもろに刺されば相手のHPをごっそり持っていけるって見ていいな)

 手に攻撃が当たっても、大したダメージじゃなければ[アームブレイク]は発動しない。あるいは[麻痺]や[石化]といった状態異常を食らったときにも発動するが、今はその条件にも当てはまらない。
 短剣を取り落とした分体はすかさず自分と距離を取り、もう一人の雨龍さんの分体がそれをカバーするように自分の前に立ちふさがったが、【真同化】はそんな事くらいで妨害できる魔剣じゃない。

「もう一発!」

 自分の肩から生えた【真同化】を、服の下をくぐらせて足元から地面の下へ。そして地面の下から、後ろに下がって体勢を整え直そうとしていた分体目がけて強襲。手ごたえは──あり!
 どさりという音が聞こえ、【真同化】の一撃を食らった分体が地面に倒れた事を察した。少なくとも、すぐに復帰はしてこられないだろう。

(そしてすぐにバックステップ!)

 伸ばした【真同化】を瞬時に戻しながら、後方へバックステップ。そしてまた空中にいる分体からの雷が襲い掛かってきたが、回避が間に合ったために軽い余波を受けた程度で済んだ。
 この雷による攻撃も、かなりタイミングが読めてきた。射撃準備が完了するまで大体どれぐらいかかり、どういったタイミングで落としてくるか。昨日散々やられて、痛みを伴った経験で半ば無理やり覚えさせられた形だ。
 目の前に落ちた雷がこちらの目をくらませたと見たんだろう、動けるほうの砂龍さんの分体が自分の左後ろから再び接近。
 その速度はやはり速いのだが、もうその速度には慣れてしまってきているために――

「ほい」
「!?」

 その進路上に蹴りを先置きしておく事もできるようになってきた。
 ちなみに、この『置き』というのは、格闘ゲームなどで相手の行動を先読みし、移動先で当たるよう攻撃を打つ事。今回自分は蹴りでの攻撃を置いたが、格闘ゲームなら無敵時間が存在する技とか、連続技ではなくその技単発だとダメージが大きくなる超必殺技などが良いだろう。
 閑話休題。
 こちらの置いた蹴りを食らってショックを受けたのか、慌てて距離を取る分体。が、そうなれば当然プレッシャーは減るわけで……反撃する余裕が出てきた自分は、右の手の平に【真同化】を五本生み出して、分体達に向けて撃ち出してみた。ちなみに地上の分体には五本中一本だけ、残り四本は空中の分体達を狙った。
 この攻撃を、地上の分体は短剣の切っ先で弾いたが、こっちへは足止め目的なのでそれでいい。
 そして、本命である雷を散々落としてくれた空中の分体のほうは──片方は服を少し傷つける程度しかできなかったが、もう片方は足に【真同化】をからませる事に成功。そこから更に刃で体を斬り裂きながら拘束した。
 当然、拘束された分体は服がズタズタに斬り裂かれた事で全身が物凄い勢いでくれない色に染まっていくけど、散々今まで雷を落とされているので、申し訳ないなんて感情は全く出てこない。
 なんにせよ、これで厄介な空中砲台の片方は捕まえた。このまま、倒れるまで【真同化】の刃から逃がさない。

「!!!」

 仲間を放せ、と言わんばかりに地上の分体が自分に接近してくるが……動きに最初のようなキレがない。そのため、突っ込んでくる先に置いておくだけで蹴り技が面白いように当たる。
 そして数回蹴られてひるみ、退避が遅れたところを捕まえて、自分が立っていた場所と入れ替わるように立たせてあげる。
 そこへズドンと雷が落ちてくる。よっし、上手くいった。
 まともに動ける分体が残り二体だけになれば、こういうフレンドリーファイアを誘発させるように動く余裕も出てくる。
 雷を食らった分体は髪がぼさぼさ、服はボロボロに。世界の都合なのか胸部付近はしっかりとしたままだが、手や足辺りは肌が露出している。そして、白目を剥いていた。ちょっとコワいが、ダメージはしっかり入ったようである。
 そして白目のまま、ゆっくりと後ろに倒れる分体。その動きは、まるでギャグアニメを見ているかのようだった。
 なんにせよ、これで地上は全滅、残すは空中砲台の二人だけだ。片方はですけどね? なんでって、現在進行形で血まみ──こほん。
 なんにせよ、残った片方への【真同化】による拘束は継続中なので、相手は実質一人。もたもたしてると、【真同化】の維持に必要なMPが尽きてしまうから、できるだけ早く地面に叩き落としたいところだ。
 分体さんの姿は砂龍さんだからな、思う存分やれる。むしろ手加減なんぞ考える余裕なんか欠片かけらもないな。
 道具が使用できないのでMP回復ポーションを飲めないのが痛いが、【妖精の黒本】をここで使う。ちょっと試してみたい事がある。
 召喚した風と火の妖精さんに、三つのお願いをする。一つ目は火と風の混合弾の作製。二つ目はそれの発射時に妖精さんのほうで狙いをつけてもらう事。三つ目は五秒ずつずらして三回射撃してほしい、である。捧げられたMPが少ないのに注文が多い、と少々ご不満な気配が伝わってきたが、今回はやってくれる事に。
 本をふところにしまって、行動を開始。真正面から突っ込んで距離を詰め、【真同化】を伸ばして下から上に切り上げを仕掛ける。これを、最後の分体は体を半身にして回避。むう、捕まえてあるほうの分体より動きが良いような気がするぞ。
 すかさず伸ばした【真同化】で数回攻撃を仕掛けたが全て回避され、反撃された。まあ、回避で体を動かされたために集中しきれなかったのか、雷にしては速度がなかったのでこちらも余裕で回避できたが。
 そしてその射撃が終わったタイミングで──

(やってくれ)

 妖精に頼んでおいた火と風の混合弾が、最後の分体目がけて飛んでいく。これも分体は回避するが、そいつはそのぎりぎり回避するやり方じゃダメだ。自分が左手をパチンと小さく鳴らすと、ボン、と炎が急激にふくれ上がって爆発する。
 その爆発の衝撃が分体の体を空中で揺さぶり、行動を封じる。その隙を逃さず【真同化】で攻撃を加えるが、体をひねって回避された。
 が、まだこっちの弾は尽きていない。五秒後に二発目、更にその五秒後に最後の三発目が襲い掛かった。

(これで、チェックメイト!)

 三発目で完全に空中での制御を失った分体に、【真同化】を巻き付けて締め上げる。こうでもしないと止まらないような気がしたからな……
 その後、空中から地上に引きずり降ろすと一切の抵抗をしなくなった。拘束を緩めると、両手を上げて完全に降参の意を示し、戦闘終了。拘束しておいたもう一方の分体も解放する。【真同化】の刃が血でびったびただったけど、見なかった事にして手の中に消した。
 さて、勝つには勝ったが、おそらく勝っただけじゃダメなんだよな。おそらく師匠ズは余裕を持って勝てるようになれって言ってくるだろう。でも、今日はよく動けた。この経験を生かせれば、明日はもっと良くなるはずだ……



 2


 戦いが終わり、自分も分体達も共に腰を下ろして休息する事しばし。こちらに向かってくる足音が二つ。誰だろうと思ってそちらに顔を向けると、砂龍さんと雨龍さんがやってくる姿が見えた。

「アースよ、分体からお前が勝利したという報告が来たのでな。少し戻ってきた」

 ああ、やっぱり分体から報告が飛んでいたのか。砂龍さんと雨龍さんはそれぞれ自分の分体を体に戻し、うんうんうなっている。分体の身に起きた事を疑似的に体感しているのだろう。人型をしているけど、このお二人は正真正銘の龍だからな。それぐらいできると言われても『ああ、さすが師匠』のひと言で納得できる。ゲヘナクロスとの戦争のときに見せてもらった雨龍さんの本来の姿と力は未だに忘れられない。

「なるほど……魔剣に頼り過ぎな一面はあるが、それでも我らが分体四人を相手に立ち回り、そして下したか。うむ、これならば『初級は』合格としても良さそうだ」

 なんか、砂龍さんから聞きたくない言葉が出たぞ。四人相手というキツい条件下で戦ったのに『初級』ですと!? もしかして、中級以降は更に相手が増えるのか……? さすが師匠、容赦ない。

「本日はこれで終わりでよい。だがアース、明日からは新しい制限として、訓練中はその外套の装備を禁ずる。その外套が、分体からの攻撃を減退させるどころかかなりの頻度で反射している事を確認した。その外套の性能ありきで立ち回りを覚えると、いざというときに困る可能性がある」

 ──ああ、やっぱり見抜かれてる。魔王様から貰ったこの外套は、アイテム等級がなんとデミゴッズ。そんな狂った設定だけあって、異様な防御能力&反撃能力を持ち、更にはHPとMPの回復力も高めるという、情報サイトに載せたらチート扱いされること間違いなしの一品。先程の戦いがMPポーションなしでも何とか回ったのは、この外套のおかげである。

「しかしこの外套をなしにされますと、アイテム使用禁止制限がついた場合はMPが持たないのですが……」

 やや小声でそう反論するが、砂龍さんは静かに首を横に振る。

「厳しい条件であるという事は分かる。だが、その意見は却下せざるを得ない。この修業はただ勝つのが目的ではない事を忘れるな、今のお前に必要なのは経験なのだ」

 むうう、初日はこの外套があったのにもかかわらずボロボロにされたというのに。しかし、こう言い出したら師匠が意見を変える事などあり得ない。色んな意味で諦めて、明日からの修業に備えよう。

「そうだ、少し聞きたい事があります。師匠のお二人は他の場所でも稽古をつけているという事でしたが、それはやはりこのような条件下で行われているのでしょうか?」

 この自分の質問に対して帰ってきた答えは──

「いやいや、他では六人のPTパーティなどを組んでやっているぞ。一人で分体四人を相手にしているのはアースだけじゃ」

 そんな雨龍さんのお返事。
 ちょっと待った、ならなんで自分だけこんなハードモードなんですか!? そんな批判を込めた視線を目の前の師匠ズに向けるが、お二人はどこ吹く風。逆に──

「お前は我らの弟子だぞ? このぐらいはできてもらわねば困る」

 そんな感じで砂龍さんが一刀両断。そっかー、できて当然という扱いなんですか……容赦ないなぁ。

「お前は今まで長い間、単独で戦ってきた経験がある。そして身に纏う装備も、他者が手にする事はまずかなわない物が数多く揃っている。なれば、お前を複数の有翼人相手に単騎でも戦えるように仕上げるのは当然だろう。単独行動でないとできない事も多くある。お前には奴らの所に乗り込んだ後で色々と動いてもらわなければならぬからな……」

 うーん、そう言われると仕方ないか。【真同化】や裏魔王の外套、そして指輪の中にはルエットという隠し玉。極めつけに〈黄龍変身こうりゅうへんしん〉と〈偶像の魔王〉というトンデモ変身能力もある。ここまで持っているとなれば、単独で破壊工作なり潜入作戦なりをやらせたくもなるか。義賊という自分の裏の顔もバレている可能性も考慮しておかないと。

「他の場所で修業をしている者達は大勢いるが、お前のように動ける者はそう多くはないのが実情だ。やはり、高速で動き、空から一切降りてこずに高威力の攻撃をしてくるという二段構えの戦法に苦戦して、適応が難航している。彼らも実力はあるのだがな……むしろ、お前はなぜここまで早く対応できたのだ?」

 そっか、他の場所で修業している人達はあまり上手くいっていないのか。自分が上手く対処できたのはきっと、たくさんのゲームやらアニメの戦闘シーンやらを見てきた中で得たイメージに加えて、今まで色んな国で色々な経験を積んできたからだろう。今まで、無茶系の冒険や戦闘を相当重ねてきたからなー……あはははは。そんな経験について、師匠ズに話してみた。


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