とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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23巻

23-3

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「まずは見る事から始めるぞ。いくつもの舞台の上で行われている戦いをよく見ておくのじゃ」

 自分は雨龍さんの言葉に頷き、まずは見学。四人の分体相手にどう立ち回るのかを見せてもらう。
 そうする事数分、分体四人に勝ったチームは現れない。彼らの動きは悪くないと思うのだが……全体的に見て、地上で高速に動いて翻弄する雨龍さんの分体にどうしても気をとられ、空中にいる砂龍さんの分体による重い雷撃の餌食えじきになっているパターンが一番多い。
 敏捷性に優れる獣人さん達には、その身軽さを生かして雨龍さんの分体が繰り出す攻撃をうまく回避する人もそれなりにいたが……やはり上空という目を向けにくい場所からの攻撃への対処を失敗し、そこから生まれた焦りで倒されている。

(むう、これは……おそらく、地上で高速移動している雨龍さんの分体だけだったなら、四体を相手にしても勝てるチームはいくつもある。ただ、そこに砂龍さんの分体による上空からの落雷攻撃が加わる事によって、リズムが狂わされているんだろうか? 落雷の直撃を誰かが食らって[スタン]とか[麻痺]の状態異常に陥ったところに攻撃を畳み掛けられて崩壊、というパターンが一番多いな。なんというか、基本はしっかり押さえているんだけど、その基本を守り過ぎてるが故に攻められないのか?)

 こんな事は、向こうだって言われなくても理解しているはずだ。だが実際、そうなったときに素早く対処できていないチームが多い。
 状態異常になった仲間にすぐさま治癒系のポーションを投げてサポートする人もいるが、残念な事に全体から見ると少数だ。
 やはり、高速で懐に入り込み、短剣を振るってくる相手がいる事のプレッシャーが重いと見える。自分もその恐ろしさは十分味わっているから、気持ちは分かる。
 良い動きをする人はぽつぽつと見られたが……全ての舞台での戦いが一段落したところで、分体四人を倒せたチームはゼロという結果になった。
 分体を一体、二体落とせたチームはあったのだが、そこ止まり。倒されたのは地上の分体が大半で、空中の分体のほうを落とせたチームは二チームしかなかった。
 空中の二体のうちの一体を落とせたチームは、堅実なのはいいのだが……守りを固め過ぎて攻め時を逃しているように見えた。

「うむ、以前に比べると動きが良くなってはいる。しかし、だ。このままでは奴らに百回挑めば間違いなく百回負ける。それは、我が口にするまでもなくお前達は理解しているだろう。しかし、それをどう打破すればいいか、試行錯誤が行き詰まっているようにも見受けられる。故に、今日はこいつを連れてきた」

 自分の肩に手を置きながら、砂龍さんがそんな事を言う。

「こやつは我らが長く訓練を見てやっている弟子だ。こやつの戦い方は、お前達とは大きく異なる。しかし、その動きがお前達に何かのきっかけを与える可能性がある。今から戦わせるから、よく見ておけ」

 砂龍さんの言葉に自分は頷き、一番近くの舞台に上がる。

「教官、あとの五名はどうしましょうか? こちらから優秀な者を選抜するのでしょうか?」

 魔族の人からそんな声が上がったが、砂龍さんはそれに対して首を横に振る。

「いや、一人で戦わせる。あやつはかなり特殊なところがあるからな、一人でいい」

 砂龍さんの言葉に、ざわめきが起きる。無理もないけど──自分達が六人で戦っても一回も勝てない相手に一人で戦わせるというのだから、色んな感情が生まれるだろう。逆の立場なら、自分だって同じような反応をしたはずだ。
 しかし、師匠ズはそんなざわめきを無視して分体を発生させる。今回もきっちり地上と空中の二体ずつである。

「では、始めよ」

 砂龍さんの短い開始の合図とほぼ同時に、地上を高速移動する雨龍さんの分体二人が左右から自分を挟み撃ちにしてくる。相変わらずの移動スピードだが、その両手に一本ずつ手にした短剣による攻撃速度は並、だ。
 十分回避できるタイミングなのだが、ここはあえて両手に装備した小盾で防御……ではなく受け流しによる体勢崩しを仕掛ける。
 二人の分体を視界に収めやすいようにほんの少しだけ後退し、自分の体を貫こうとしてくる二本の短剣の動きに集中。そして振るわれた短剣を持つ腕を、跳ね上げるように同時に弾く。
 右側への崩しは完全に成功し、大きく腕を跳ね上げる事ができたが、左側はイマイチ上手く崩しが決まらず、体勢をあまり崩せていない。
 そこで、崩れた右側の分体の袖辺りをひっつかみ、左側の分体に向けてよろめかせる。よろめいた右側の分体が左側の分体にややおおいかぶさるような形となったところで、自分はバックステップしつつその場に【強化オイル】を二本ほど残していく。
 命中……したのはよろめかせた右側だけか。左側はそのスピードを生かして退避したようだ。あのタイミングですら【強化オイル】の爆炎を回避するとか、ぶっとんだ速度だな。間違いなくスピード違反だろ。
【強化オイル】の炎に焼かれた方の分体も、それ一発ではダウンせず、こちらに戦意溢れる視線をぶつけてくる。が、さすがに警戒したのか後ろに退避した後、こちらに寄ってこない。
 なので、自分は弓を取り出し、牽制のために空中の分体に向かって数発の矢を軽く射る。牽制とは言っても、当てる気は満々だからそのつもりで射る必要がある。全弾回避されたが、少々ぐらつきはしたので牽制にはなったか。
 それに、地上側が誘いに乗ったようだ。今は自分達に対する警戒心が落ちていると見たんだろう。先程【強化オイル】の炎を食らわなかったほうの分体が、再び自分に向かって急速接近。
 だが、その動きは予想できていた。予想できていたというか、『そうさせるため』に空中への牽制射撃をやったんだから。いわば誘い、だ。軽く射ったので、体の硬直は短い。
 だから、突っ込んでくる分体に対してカウンターの蹴りを置いておく事はたやすかった。足に装備している【マリン・レッグセイヴァー】の底についたトゲに、自分から突っ込んできた分体はなかなかのダメージを受けたようで、よろよろと後ろに下がっていく。
 その隙だらけな姿に、自分は右手に具現化させた【真同化】を振るう。MPを温存したいから、アーツは使わない。そして狙いは首。首をねれば基本的には問答無用で即死させられる。
 そして【真同化】は狙い通り、分体の首を刎ね飛ばして消滅させた。まずは一体。

「馬鹿な!? あの速度で襲い来る相手と一人で戦うだけではなく、倒すだと!?」

 外野が何か言っている気がするが、今は目の前の相手に集中。判断が遅れたらこっちが一瞬で倒される相手なんだから、外野の声など聞いている場合ではない。
 とはいえ、地上の分体を大した消耗もなく一体消せたのは大きい。なので、【妖精の黒本】を取り出して、火と風の妖精さんに以前もやった混合弾を頼む。ただし今回はMPを四割捧げて数を増やす。今回は捧げたMPに不満なく、了承を得られた。もちろん用事を済ませた黒本はすぐにしまう。
 っと、バックステップ。

「!?」

 雷を落としてきた空中の分体の表情が苦いものに変わる。こちらにバレないように撃ったつもりだったんだろうが、そのやり方はもう勉強させてもらっている。それに、何が何でも当てたいという意識を高め過ぎたんだろうな。気配がバレバレだ、それでは意味がないぞ。
 そのお返しにと、火と風の混合弾を空中にいる分体達に次々と放つ。回避しようとする二人だが、混合弾が分体の近くまで行ったら指を鳴らし、近接信管のように爆発させる事で揺さぶってやる。この間に、地上に残っているもう一人の分体が襲い掛かってくるかと思っていたのだが、動きがない。同僚が首を刎ねられて萎縮いしゅくしたか? それならそれで好都合だが。
 散々爆炎で揺さぶられた空中の分体二人は、明らかに動きが鈍くなっていた。あの状態なら、攻撃どころではないだろう。再び弓に矢をつがえる。今度は牽制ではなく、射落とすつもりの射撃だ。
 全弾命中とはいかなかったが、それでも肩や足、腹部に命中した事で、より一層動きが鈍る。
 ここで地上の分体がようやく動くが、タイミングが遅すぎる。置き蹴りを食らわせて倒れたところに、心臓辺りをひと突きする事で仕留めた。
 空中の分体達はよろよろと地面に降り立ち、二人とも大きく両手を上げて降参の意を示したので、ここで戦いは終了。大きく息を吐いてから師匠ズのほうを向く。
 砂龍さんは頷き、雨龍さんからは「ようやった!」のお言葉を頂く。何とかリクエストには応えられたようだ。


 戦いが終わり、舞台から降りると、一瞬で取り囲まれて質問攻めを受けた。多くの質問が飛んできたが、それらを纏めれば、どうやればあんな風に動き、勝てるのかという事になる。
 しかし、一つひとつ答えていたらいくら時間があっても足りるはずがない。そこで師匠ズに助けを求めるように視線を飛ばすと、雨龍さんがぽんぽんと手を叩いてこの場を鎮める。

「落ち着くがよい、聞きたい事が多々あるのは分かるが、そのように矢継やつばやに問われては答えるに答えられぬぞ? 今の質問のうち、いくつかにはこちらから答えておこうかの。まず、有翼人共は攻撃力、機動力は確かに高い。しかし、それと引き換えに耐久力はお主達に比べてはるかにおとる。我が弟子があのようにあっさりと倒せたのもそのためよ、使った武器が飛び抜けて優れていたわけではない」

 いや、優れていますけどね? 特に【真同化】は。
 でも、雨龍さんの言葉に嘘はない。いくら【真同化】でも、装甲の厚い相手ならこうも簡単に首は飛ばせないし、心臓をひと突きもできない。
 あっさり貫けちゃったので、実は先程の戦いで驚いていた。
蒼虎そうこの弓】のほうも、本気モードの解放はしていない。なので、単純な攻撃力は現時点で一般的に生産されている武具と極端な差はなかったりする。特殊能力も発動していないし。

「我が弟子は一人旅をする事が多い。その長年の経験から、周囲の気配を察知し、単独で対処する方法を身に付けておる。それ故、奴らの動きの先を察知し、反撃する事を可能としておるのじゃよ。それができねば、死ぬしかない旅をしてきたのじゃからな」

 この辺は〈盗賊〉系スキルの恩恵もあるが、そればっかりじゃない。今までの経験が立ち回りに影響を与えているのは間違いない。そう、自分だけじゃなく、ここで訓練している人達にも言える事だ。

「一人で戦わせるのだからと、一体一体の能力を落とすような真似はしておらぬぞ。そんな事をすれば弟子のためにならぬ。こやつも戦いに赴く以上、厳しく鍛えねば意味がないからの」

 うん、師匠ズの訓練は、基本的にこちらのぎりぎりを攻めるようにするからね。今回のような場であっても手加減をしてくれるような考え方を持っていない。そして、キツい訓練をするからこそ本番で動けるってのは、自分も身に染みて理解している。

「単独で立ち回る、ですか……」

 魔族の方が、そんな言葉を口にする。
 彼らの動きは、完全にチームを組んで動く事を前提としている。もちろんそれが悪いなんて言うつもりはない、協力し合って戦えた方が総合的な戦力的としては上なんだから。
 ただ──

「すみません、自分からも一つ質問があります。皆さんの戦い方を見せていただいたときに思ったのですが、もしかすると皆さんは今まで、チームを組んで強力なモンスター一体、もしくは少数と戦う形の訓練をしてきたのではないでしょうか?」

 PTプレイが必須なゲームでよくある方法として、モンスター一匹一匹がとても強い場合、まずモンスターの集団から一匹だけをPTメンバーの前まで引っ張ってくる。タンカーが挑発系統のスキルでモンスターの注意を引きつけ、盾となっている間に他のメンバーがモンスターのHPを削っていく。ヒーラーはタンカーが倒れないように回復させ、魔法使いは弱体魔法なり攻撃魔法で戦いやすくする。
 この方法だと、モンスターのターゲットが変わらない限りヒーラーはタンカーだけ回復させればいいので消耗を抑えられるし、アタッカーは攻撃に専念できる。後衛の魔法使いやアーチャーは被弾する心配がないのでもろさが露呈ろていしない、と良いところが多い。
 が、今回の有翼人相手では……このやり方は通じない。

「それ故に、タンカーを無視されて自分が狙われた際の対処が遅れ、回避行動のとり方がつたなくなる。そして被弾し、普段できている行動ができなくなる。そうやって生み出された混乱に乗じた更なる攻撃を止められない。そして壊滅しているように見受けられました」

 防御をタンカー任せにしてきた影響で、回避なり防御なりをする判断が素早くできない。タンカーも正面から来る大物を受け止める事をメインとしてきた故に、側面に回り込まれると対処ができない。
 そうしてできない事が積み重なって行動がとれなくなり、相手にいいようにやられる。戦略系のゲームで、片方の読みがもう片方に完全に読まれていて、一方的な展開になった動画などを見たような気分になったのだ。
 自分の言葉を聞いた魔族と獣人の皆さんは、思い当たる点が多すぎたのか黙り込んでしまった。まあ、自分なんかに言われなくったって分かってはいるよなぁ。
 だが、分かっていてもそれが解決できるかどうかは別問題であって……まして、長くやってきた戦い方とは全く別のやり方をしろと言われても、そう簡単にスイッチを切り替えられるはずもない。
 職場でも、長年やってきた方法を翌日からまるっと変更しまーす、なんて事はできやしない。徐々に変えていくのが一般的だろう。

「我が弟子の動きを完全に真似しろとは言わぬ。だが、徐々にでも構わぬから、ある程度受け入れねば有翼人連中相手に勝ち目はない。今の分体は、奴らの中でも最弱な連中を模している。機動力を保持したまま攻撃力や防御力を上げた奴らもいた事を伝えておこう。それにいつまでも勝てぬようでは……この戦いに参加せぬほうがいい」

 砂龍さんの言葉に、下を向く人はこの場にいなかった。師匠ズに向かって一斉に、もっと厳しい訓練を! 我々にもお弟子さんのような動きや考え方ができるようにご指導を! との声が上がる。
 その声に師匠ズはゆっくりと頷いた後、自分を手招きして呼び寄せる。

「お前も何人か見てやれ。お前に分体を四体預ける、使うがいい」

 なんてお言葉をたまわった。今までの経験なんかを伝えつつ、どう立ち回るべきか指導をしろって事ね。
 指導か、会社に入ってきた新人と同じようにしちゃダメだろうな。ここに集っているのは経験豊富な面々なんだから、そこに新しい動きを組み込めるようにしていくべきだろう。そうなれば自分よりもはるかに強くなるだろうし……
 伝えるべきは、前衛には置きの概念、後衛には回避の仕方かな? 置きで当てられるようになれば押されっぱなしって事はなくなるだろうし、後衛が回避できるようになれば前衛が焦る事もなくなる。

(んじゃ、そんな感じで教えましょうかね。攻撃が当たらない、回避がおぼつかない、じゃ話にならないし……)

 やる事を頭の中で纏めた後は、ひたすら教える事に専念。与えられた役割をこなすだけではなく、プラスアルファができるようになってもらわないとな……
 指導は難航した。まあ、簡単に言った事ができるようになるなら、師匠ズが自分をこの場に呼ばないよな。辛抱強く教えていく。
 指導は、十を教えて一伝われば上々だという上司の言葉を思い出す。人に教えるという行為はそれぐらい地道で根気のいるものだ。
 その結果、徐々に変化の兆候が見え始めた。目の前で実演された事もあって、有用性を理解したのだろう。前衛は置き攻撃が、後衛は杖や短剣で受け流しができるようになってくる。
 その面子を集めてまた分体と勝負させると、最初見た時よりも善戦した。
 その姿を見た周囲は、どう動けばより戦えるようになるのかを話し合って改善点を探る。そうした中で自分にもいくつか質問が飛んでくるので、それに自分の経験を交えて答えていく。
 そんな感じで時間はまたたく間に過ぎ──

「そろそろ薬の修業の時間だ。向こうに戻すぞ」

 と、砂龍さんから言葉をかけられる。慌てて時計を確認すると、確かに時間が迫っていた。指導は終わりにして、急いで龍城まで戻らなければならないだろう。

「分かりました、お願いします。皆様、自分は他にもやらねばならぬ修業がありますので、本日はこれで失礼いたします」

 この自分の言葉に対し、訓練を受けていた方達は素早く整列した後に「「「「ご指導、ありがとうございました!!」」」」と一斉に頭を下げた。
 ここにまた来るかどうかは分からないが、今日教えた事が、後に待っている戦いで役に立つと良いのだが。
 その後、砂龍さんの力で龍城まで一瞬で戻ってきた。龍の力はすごいな。

「では、我は指導に戻る。お前も訓練をおこたるな。明日からは相手をする分体の強さを引き上げるぞ。心しておくがよい」

 ああ、余裕を持って勝てるようにならないといけないから、修業の難易度上昇は当然だろうな。自分が「はい」と返事すると、砂龍さんはスッと姿を消した。向こうに戻ったんだろう。
 さてと、自分は薬師のお師匠さんのところに行かないとな。教えをう身分なのだから、遅刻なんて論外だ。急いで向かわなければ。



 4


「よう来た……が、随分と息が荒いの? 何かあったのかの?」

 時間がぎりぎりだったので、お師匠さんのところまで全力疾走したのだが……久々に息が切れた。城内を走るという、礼儀作法からしたら〇点どころかマイナス評価を食らう真似をしてしまったなぁ。そのおかげで何とか遅刻は免れたが、まさに漫画のような展開をVRゲームでやる事になるとは思わなかった。なんとなく情けない気分になってしまう。

「いえ、こちらの不手際で……ぜえぜえ、遅れそうになったために急いだだけでして……見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありません……」

 会社でやったら間違いなく「もう少し早く行動したほうがいい」と叱責されるな。
 漫画でたま~に遅刻しまくる会社員とか出てくるけど、あれは漫画じゃなかったら間違いなくクビになる。時間を守れない人ってのは本当に信用されないから、仕事を任されなくなっていく。だってそうだろ? 他の会社の偉い人との取引の場に「すみませ~ん、遅刻しました」なんて入ってみろ、相手からは、時間を守れないだらしない会社で信用にあたいしない、って思われる。それが会社にとってどれだけのダメージになるか、遅刻した本人だけは不思議と理解しないんだけど。

「まあ遅刻せんのは良い事じゃが、もう少し余裕を持ってな?」

 薬師の師匠にやっぱりそうたしなめられる。むしろこれぐらいで済ませてくれるのは優しいほうだ。教えるに値しないと修業を打ち切られたって文句は言えないんだから──まあ、今は状況が状況故に切るに切れないだけなのかもしれないが。
 なんにせよ、これ以上眉をひそめられるような真似は避けねば。素早く息を整え、所定の位置に座る。

「さて、今日とりかかるのは……おぬしの炎を広げる道具の強化じゃな。これはまだ薬による強化を図れるからの」

 師匠には【強化オイル】のレシピをすでに渡してあったが、更なる強化方法をもう確立したのか……いくら専門分野の人とはいえ、早すぎないか? さすがは師匠!と平伏する場面なのかもしれん。

「火力そのものはたいして上がらぬ。が、有翼人共を相手にする際に、より有効な手段となるように調整を行う。具体的に言えば、この炎を受けた者や近くにいる敵対者に、炎が纏わりついてより長く燃やす追加効果を付けるのじゃよ」

 の、呪いの一種なんですかその追加効果は。なんかこう、製作するこちら側も呪われそうな雰囲気なんですが、それは大丈夫なんでしょうか?
 しかし、纏わりつくとなると蛇を連想するけど……そんな薬草あったかな? これまた師匠の秘蔵の薬草かな?

「お主が作り出したものに、ある三種の薬草から生み出した粉末を組み合わせたものがこれじゃ。まずは手に取って確認するがよいぞ」

 そう言って師匠が一本の【強化オイル】を手渡してきたので受け取り、内容を確認すると──



蛇炎じゃえんオイル】
 燃え広がった炎が蛇となって近くにいる敵に襲い掛かり、纏わりついて長く苦しめる。
 瞬間的なダメージは小さいが、なかなか消えないため総合的なダメージはかなり大きくなる。
 ただし対象が大量の水を浴びると即座に消えてしまうので注意が必要。
 炎の蛇は、製作評価が高ければ高いほど太くなり、より長く相手に纏わりつく。
 効果:「蛇炎の炎」「拘束(弱)」
 製作評価:10 



 これはまた、自分では食らいたくない道具が生まれてしまったものだ。炎に纏わりつかれるって相当キツいぞこれ……流石に消火はできるようだが、それでも相手に行動を強いる事ができるし、周囲に水がない場所で使えば極悪極まりない成果を上げるだろう。
 そして、こんな物を作った師匠の意図も理解できた。


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