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VSボスその1

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 激しい轟音と共に荒れ狂った電撃交じりの竜巻が晴れた時……そこには大したダメージを負っていない元気なボスの姿があった。どの首を見ても、これと言ったダメージの跡が見受けられないんだが。

「マジか、全然効いてないぞ!?」

 魔法を放った二杖流の男性プレイヤーが驚愕の声を上げた。気持ちはわかる、あれだけ強力な魔法を喰らっておいて効果なしは流石に厳しい。

「ちゃんと狙わないとダメって事ね!」

 一方ですぐに気持ちを切り替えたらしい大剣使いの女性プレイヤーがボスとの距離を一気に詰めて横薙ぎの斬撃を繰り出した。狙った首は自分から見て右側の首。効果は……無い様だ。斬撃がこんにゃくみたいな感じでぬるりと無効化されたのが見えた。

「右は射撃か魔法!」「了解!」

 大剣使いの女性プレイヤーの声に返事をしながら、自分は矢を一本放つ。その放った矢は、ボスの首に突き立った。

「右は射撃で攻める首の様子!」「射撃持ちは右を狙え!」

 自分の声に、タンク役の女性が先ほど切りかかった大剣も血の女性プレイヤーに迫った攻撃を代わりに盾で受けながら叫び、短弓使いの男性プレイヤーとニンジャさんはその声に素早く反応して射撃を右の首に放ち始めた。

「《ライトニング・ランス》!」「《ブリザード・ランス》!」

 その直後に、魔法で作られた雷撃の槍と氷の槍が中央の首と左の首を狙う。左の首は電撃の槍を回避したが中央の首には命中。だが、命中した中央の首がダメージを受けた様子はない。これで書く首に対しての有効な攻撃が確定した。今回の首は左が魔法、中央が近接攻撃、右が射撃攻撃でダメージを与えないといけないと言う事だ。

「書く首に有効な攻撃はこれで分かった、後は攻めるぞ!」

 金の杖を持った魔法使いプレイヤーの言葉に、誰もが頷いた直後。左の首が前衛二人を薙ぎ払う事を目的とした動きで攻撃を仕掛けてきた。更に中央の首は魔法使い二人に対して魔法で攻撃。右の首は自分以外の射撃攻撃持ちの二人に対してブレスを吐いてきた。自分を狙わなかったのは、場所的に少し離れていた所にいたからだろう。

「やらせん!」「《インスタンス・シールド》!」「やべえ、回避回避!」

 各自狙われた面子の対応だが、近接二人はタンカーの女性が薙ぎ払ってきた首をしたからかち上げるかのように盾を使って首の軌道を上にずらして大剣使いの女性プレイヤーを守った。魔法使い二人は、金の杖を持っている魔法使い男性プレイヤーが魔法で作り出した丸形の花が描かれた盾で攻撃をそらした。盾はすぐさま崩壊したので、一瞬だけ機能する使い捨てっぽい感じの盾だったのだろう。

 そして残りの短弓使いの男性プレイヤーとニンジャさんだが、こちらは根性で回避していた。二人とも身体的な能力が高い事もあって、何とか直撃は免れていた。ただ、短弓使いの男性プレイヤーが多少かすった様でダメージの跡が見受けられる。

 だが、ボスの攻撃はさらに続く。今度は三本の首をすべて前に並べ、ドリルのようなエネルギーを纏い始める。あ、これは突っ込んでくるぞ。流石にあの体躯で突っ込んでこられたらタンカーと言えど圧し潰される。

「全員回避に集中! 多分突っ込んでくる!」

 自分の声に、ボスが一瞬ニヤッと笑ったように見えたのは気のせいだろうか? 自分の声の二秒後にボスがドリルのオーラを纏って頭から猛然と突っ込んできた。狙いは、自分か! とっさに《大跳躍》を使って空中に飛び上がり、ボスの突進をやり過ごす。突進を回避されたボスは、まるで氷の上にいるかのように数回回転すると再び突進攻撃を仕掛けてくる。今度はニンジャさんが狙いのようだ。

「勘弁願うでござる!?」

 ニンジャさんはとっさに横っ飛び。何とかこれを回避した。再びボスは突進後の回転を行うが、そこに猛然と突っ込む人がいた。タンカー役の女性プレイヤーだ。

「《フルパワーヘビィバッシュ》!」

 何と、突っ込む途中から激しく赤い色に輝く盾を構えながら突っ込んだ彼女の盾による一発は、ボスを突き飛ばして回転を止めてしまった。何というパワーだ、ボスとの大きさを考えると、アメリカなんかにあるモンスタートラックを、子供が吹き飛ばすようなものだぞ!?

「動きが止まった、今のうちにダメージを稼いでくれ!」

 おっと、そうだった。見とれていてはいけない。時飛ばされたボスはスタンしたようで、動きが止まっている。今なら首を狙い放題だ。全員でダメージが通る首を狙って攻撃を再開する。よし、今度はダメージが間違いなく入っている。どの首にも明らかなダメージの跡が見受けられるからな。

「オオオオオオオオ!」

 っと、流石にここまでか。スタンから復帰したボスは大きく叫ぶと、こちらに向かってブレスを吐いてきた。チャージしたブレスではなかったので、範囲が狭く、避ける事に集中すれば回避は容易かった。が、このブレスはどうやらこちらの攻撃の手を止める事が目的だったようで、ブレスをすぐにやめたボスは、大きく息を吸い込んでから三つの口元にエネルギーを集め始めた。

「来たぞ、強力なブレスだ! 全員私の後ろに集まってくれ! 攻撃を仕掛けるなよ!」

 事前の打ち合わせ通り、タンカー役の女性プレイヤーの後ろに全員が集まる。受け止める事を狙う彼女は、盾の下部を地面に突き刺して耐える態勢を取った。ブレスに圧し負けないようにする為なのだろう。その後は、魔法使いの男性二人が彼女にありったけの支援魔法をかけて──その時は来た。

 三つの首から放たれたブレスはこちらに届く前に絡み合って一つのブレスと化し、タンカーの女性プレイヤーが《イージス》! と叫んで盾を膨らませるのが見えた──その直後にやってきた途方もない熱量と光量を伴ったブレスが周囲の光と音を塗りつぶした。耳がキーンとなった後に何も聞こえなくなり、あまりの光のまぶしさに目を開けていられない。

(何というブレス攻撃! タンカーの彼女はこんなのを一人で耐えているというのか!?)

 ブレス攻撃は今まで何度も見たが、ここまでのモノはそうそうお目にかかったことはない。やがて聴覚が戻り、視力も回復すると、自分達がいた所以外はすべての土地がガラス状になっていた。逆に言えば、それだけのパワーを持つブレスを彼女は防ぎ切った。何という防御能力だろうか。

(流石にこれが直撃したら、即死だろうな。流石はこの塔に住むボス級の存在が放つ必殺技と言ったところだろう)

 このようなボスの攻撃に耐える手段を持っているからこそ、このパーティはここに居送られてしまったのだろうな。同行パーティの運の無さに同情すべきなのか、それともそれだけの力を有したことに感嘆すべきなのか……悩むところではある。が、とりあえず今はここのボスを退ける事を第一に考えなくては。

「済まない、少し休む。攻撃は任せる」

 やはり、あれだけのブレス攻撃を耐えるのは能力があっても辛かったようで、タンカーの女性はひざを折って荒い息を吐いていた。一方でボスの方も先ほどのブレスを吐いたことで一時的に動きが鈍くなっているようだ。つまりあのブレスを耐えることが出来れば、一転して攻撃チャンスがやってくる。ならば、ここを逃す訳には行くまい。

「任せろ、全員総攻撃だ! このチャンスで少しでもダメージを稼げ!」「「「「「了解!」」」」」

 短弓使いの男性プレイヤーの声に動けるメンバー全員(自分含む)で短く返答し、総攻撃を仕掛ける。ボスも鈍いながらに何とか攻撃の直撃だけは避けようと動く。それでも全ての攻撃をよけ切れる訳もなく、書く首には明らかなダメージ跡が増えていく。このまま押し切ってしまいたいが──そう甘くはないよな。

 総攻撃が出来ていたのは体感で一分半ほど。かなりボスの体力を削れたとは思うが……ボスも徐々に動きを取り戻し、こちらも攻撃を止めて様子を見る形に入った。ボスには丸のみ攻撃やスキルのレベルダウン攻撃がある、もしそれらを喰らえば、この状況からでもひっくり返される可能性がある。

 それに、まだタンカーの女性プレイヤーが復帰できていない。ボスの動きが戻ってきた今、無理に攻撃を仕掛けて何らかの反撃を受けた場にその防御力でこちらを庇える人物がいないのはやはり危険すぎる。それを皆が分かっているので、総攻撃を終わりにしたのだ。

 そんな此方をボスは六つの目でにらみ付けてきて──自分はとっさに実を翻した。嫌な予感がしたからなのだが……その直感が間違っていない事は、数秒後に判明する。

「ぐ……あ」「しま、った」

 どうやら麻痺を誘発する魔力を込めた視線であったらしく、二杖流の魔法使い男性プレイヤーと、短弓使い男性プレイヤーの二人が麻痺に陥って倒れてしまった。マズイ、タンカーがいない今二人の行動不能者が出たことは致命的な問題になりうる。丸呑みされたら、抵抗できずにそのままアウトだ。

(こんな手を隠していたか! 何とかここをしのがなくては)

 ちらっとタンカー役の女性プレイヤーを見たが、また立て直しには時間がかかりそうだ。あんなブレスから仲間を庇えば無理もないので、責めるつもりは一切ない。ならば、残りの面子でどうにかするしかない。一応薬も試してみるが……効いてくれるかな?
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