上 下
534 / 721
連載

ラストアスレチックエリア、スタート

しおりを挟む
 短弓使いの男性プレイヤーがスタートラインに立ち、他の面子は専用のリフトに乗り終わった。短弓使いの男性プレイヤーは軽く準備運動をしている。精神的な意味で体をほぐしているのだろう。この長丁場だ、そう言う気分を作っておくことにも意味はある。VRと言ったって、動かしているのは人間なのだから。

「よし、心身共に準備完了だ、いつでも始めてくれ!」「了解しました、ご武運を。それでは開始します!」

 短弓使いの男性プレイヤーの言葉に、説明をしてくれた人を模った水のような存在が答えてアスレチックエリアを始動させた。すかさず一番近いジャンプ台に飛び乗り、大ジャンプする短弓使いの男性プレイヤー。ここからしばらくは上に登り切るまでジャンプ台を乗り継いで行く形となる。

 ジャンプ台の大きさは半径二メートルほどあるので、足を踏み外す心配はやや少なめ。次々とジャンプ台をうまく乗り継いで上に登っていく短弓使いの男性プレイヤー。その一方で下にあるジャンプ台は次々と虚空に消されてゆくのが見える。全ての要素があると言う事は、強制スクロールを模した展開も当然あると言う事で……足場が消えていく事でそれを表現していくのだと思われる。

 だが、短弓使いの男性プレイヤーのジャンプ台乗り継ぎ速度はかなり早く、足場が消える速度を大幅に上回っている。焦って足を踏み外して落下すると言う事をやらかさない限り、問題はない。そして、彼はそんなやらかしをするようなプレイヤーではなかった。見事にジャンプ台による上昇エリアをクリアし、空中の足場に着地した。ここからは、多少のアップ弾こそあれ、基本的には横に進む形となる。

 が、ここでモンスターが複数姿を現した。モンスターに手間取れは、足場が崩れて落下させられることになるだろう。だから、ここは選手交代のタイミングだろう。それは彼女も同じ考えだったようで──

「次、私が出る! 大剣で薙ぎ払いながら進むから! だから交代して!」「分かった、任せるぜ!」

 メンバーチェンジ、ここからは大剣使いの女性プレイヤーが進む。幸いここからしばらくは極端なアスレチック要素はない。必要なのはいかに多数のモンスター相手に手間取ることなく先に進めるか、である。それを考慮すると、火力がある大剣は適任だろう。魔法も火力はあるが、詠唱時間が必要なのでこの条件下ではあまり向いていない。

「さあ、私の大剣の錆になりなさい!」

 いうが早いか、現れたモンスターの一体である人より大きな角をはやしたウサギに彼女は詰め寄って一閃。それだけでモンスターは掻き消える。だが、その先にはまだまだ狼型だとか、トカゲ型だとか、今までの冒険で何度も見てきたモンスター達がずらりと立ち塞がる。数で押しとどめるつもりなのかもな。

 しかし数がいる分一体一体はそう強くなく、どのモンスターも彼女が振るう大剣の一撃で次々と儚く消えてゆく。無論これは彼女のアーツに頼らない剣技あっての話だが……大剣を縦横無尽に振り回し、手早く、無駄なく次々とモンスターを倒して道を切り開く。大剣のリーチを生かして複数のモンスターを同時に切り裂く、なんてことも当然やっている。

 彼女が前進する速度と、後ろの足場が崩れる速度はほぼ一致しており、詰められているという感じはしない。最初のジャンプ台乗り継ぎを一切ミスせずにクリアしてくれた短弓使いの男性プレイヤーか稼いでくれた貯金を減らすことなく、彼女は前進し続ける。途中でちょっとした段差や飛び石になっているところはあったが、そこは選手交代することなく彼女自身で乗り越えた。

「よし、これでモンスターエリアはお終いみたいね! またアスレチック色が強いみたいだから──」「拙者が出るでござる! モンスターの反応もある故、拙者が働くでござる!」

 と言う事で、次のアスレチックエリアはニンジャさんが交代で出撃。と同時に猛然とダッシュ。多分、彼は貯金を作るつもりなんだ。少しでも崩れていく足場からパーティを離して、厳しい所で時間を使っても大丈夫なように。しかし、アスレチック色が強く、足場が小さく少なく、更に鳥型のモンスターが突っ込んできたり卵を落として攻撃してくる場所で、そのスピードで進んで大丈夫なのか!?

「無茶するな! もっと速度を落としていい!」「余裕はある、焦るな!」

 他のパーティメンバーもニンジャさんにそう声をかけるが、その声が聞こえていないのだろうか? それとも、聞こえないぐらいに集中しているのだろうか? ニンジャさんは速度を一切緩めることなく、モンスターにむしろ突っ込むぐらいの勢いで小さな足場を次々と乗り継いで突き進む。

「拙者にかかれば、これぐらいの場所など──障害にもならないでござる!」

 鳥型のモンスターをすれ違い際に切り付けたりしながら突き進むニンジャさんが吠えた。遠くの敵には投擲武器を投げて叩き落し、近距離の敵は小太刀で斬り捨てていく。その前進速度は、後ろからやってくる足場崩壊地点を大きく引き離し貴重な貯金を作ってゆく。しかし、その反動で再びしっかりとした足場にたどり着いた時には、ニンジャさんは疲労困憊という状態だった。

「はあ、はあ、はあ……」「交代しろ! 一度下がって休憩するんだ! 次は私が出る!」

 タンカー役の女性プレイヤー疲労困憊ながらなんとかリフトの近くまでやってきたニンジャさんの腕を取ってリフトに乗せると、すぐさま出撃。盾と斧を構えて前進……どうやら、次の場所はアクションゲームとしてオーソドックスなパターンの一つ、ほどほどにモンスターがやってきて、近接攻撃と射撃攻撃を入り混じらせて此方を攻めてくる形の様だ。

 射撃攻撃は盾で防ぎ、近接攻撃は盾でガードしてから反撃するか、先手を打って切り伏せる形でタンカーの女性プレイヤーは堅実に進む。回復は道中で出てくるアイテムでしか行えないため、被弾をしないことを最優先にしているようだ。だが、その回復アイテムは今の所一回も出てきていない。本当にあるのだろうか? 幸い、こちらはまだひどく傷ついた状態に陥っているプレイヤーは居ないからまだ必要ないが。

 この場所に出てくるモンスターは、やや大型のモンスターが多い様だ。牛とか鹿がモンスターとなったモノとかが地上で突進してきたり、角で付いてきたりと言った近接攻撃を担当している。一方で遠距離攻撃はニシキヘビのでかいやつとか、カラスを大きくしたような奴らが玉状のブレスを吐く事で担当している。ブレスは蛇型が毒、カラスが闇属性のようだ。

 遠距離を担当しているモンスターのブレスの頻度はかなり高く、盾で防ぐかより遠距離から射殺しないと辛いだろう。適役は今戦っているタンカーの彼女か自分だろうな。もし彼女が辛い状況になった場合は、すぐに出れるようにしている。幸い今の所、彼女はそれほど苦戦せずに前進できており、交代する必要性はないとみている。

「貯金はある、その調子で確実に進んでくれればいい!」「焦って被弾する事だけは避けろ、特に毒のダメージを受けると今は辛いぞ!」

 リフトにいる面子からは、焦らずじっくりでやってくれと声が飛ぶ。確かに、回復が限られている状況下で毒による持続性のダメージは辛い。持続ダメージを受ける事で焦りを生み、その焦りがミスを生むという悪循環に陥りかねない。まあ、そんな事はここに居る皆は分かっている事だが。

 何体ものモンスターを屠りながら進む彼女の足は止まることなく、このエリアの終点までたどり着いた──と思ったその瞬間だった。上空から突如、壁が降ってきたのは。壁で完全に先の道を塞ぐ形となったが、その壁には黒い扉が一つ。なんか、ボスモンスターの登場という匂いがする。

「どうやら、ボスのお出ましか。やはりそこまですんなりと通してはくれないと言う訳か。ふ、いいだろう」

 タンカーの女性プレイヤーは躊躇することなく、黒い扉を開けて先に進む。その先に待っていたのは……だだっ広い円形の武舞台と思わしきもの。そして、急に夜になったのかと思わせるかのようにこの場所は真っ暗だった。武舞台があると分かったのは、武舞台自体が淡い光を放っていたからだ。それ以外の光源は──いや、武舞台を取り囲むかのように次々とかがり火が現れる。反時計回りにかがり火が十二個現れた。

「この先に進む価値が貴殿らにあるかどうか、見定めん……」

 武舞台の上には、いつの間にか亡霊武者と呼ぶべき存在が立っていた。戦国時代初期の武士が来ていたような鎧甲冑に、青白い肌。更に周囲にはいくつかの鬼火まで飛んでいる。だが、何よりも……威圧感がすごい。砂龍師匠がそこそこ力を出した時に感じたものとほぼ同等ぐらいか? あの亡霊武者、かなり、やるとみて良い。

「私が、気圧された? 何時ぶりだ、そんな事は……いいだろう、受けて立つ!」

 タンカーの女性プレイヤーは最初こそ意気消沈しかかったようだが、自らを奮い立たせて武舞台の上に立った。しかし、いざ勝負という雰囲気をぶち壊して済まないとは思うのだが、後ろからやってくる足場崩壊は大丈夫なのだろうか? と思うと、目の前にパネルが現れてこう説明が出た。

(ボス戦時は、足場の崩壊をストップしています。ボスを倒す事だけに専念してください)

 流石にボス戦中でも時間制限が進む鬼畜仕様ではなかったか。いや、ゲームによっては進むモノもあるんだが……とにかく、ボスにだけ集中して良いというのであれば、一安心である。

「その意気は良し……では、参るぞ」

 亡霊武者が大太刀を構え、タンカーの女性プレイヤーも盾と斧を構えなおした。それから数秒後、両者が示し合わせたかのように同時に前に出た。そして激突──




****

時間が取れたので、更新を行いました。今年もよろしくお願いします。

新刊の作業がまだ続いているので、次の更新は何時になるかわかりません。ご理解ください。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最愛の人の子を姉が妊娠しました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,427pt お気に入り:833

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,452pt お気に入り:141

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,693pt お気に入り:2,217

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,414pt お気に入り:16

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:584

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,888pt お気に入り:847

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。