とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
555 / 777
連載

騙しがバレて、戦闘の終わりも見えて

 そのまま演技を続けながら明鏡止水の集中を続けて……感覚的に半分ぐらい高まってきたと感じた頃合いだった。守護者が突然それまでの手数ばかりを重視した数打ちのパンチを唐突に止めて、自分のみぞおちにめがけて鋭く貫くようなパンチを繰り出してきたのは。そのパンチには、今までのパンチにはない恐怖と殺意がべったりと張り付いているかのようだった。

(これは、喰らったらまずい奴だ!)

 自分はとっさに大跳躍によって守護者を飛び越える形を取って回避。そして守護者の後ろに着地した時にそれを見た。紅色の爆発みたいなものが飛び散っていく様を。見ただけでわかる、あんなのをもろに食らえば一発で殺されかねないと。

「回避、したわね? やっぱり、先ほどまでの動きは三味線を弾いてただけって事ね」

 拳を振り切った後、こちらにゆっくりと向き直ってくる守護者。明確に、こちらが演技をしていただけだと言う事がバレたか。せめてもう少しだけ騙されていて欲しかったのだが……早々上手くはいかないって事だな。

「もし、先ほどまでの私のパンチによるラッシュが本当に効いていたのなら、先ほどの一撃を回避する事は出来ないはず。しかし、貴方はあっさりと回避して見せた。卑怯とは言わないわ、戦いの最中における騙し騙されも技術の一つだもの。騙された私が悪いだけよ」

 なんて言ってくるが、明確に怒りの感情が滲んでいる。多分、戦っているこちら側に向けてと言うよりはだまされていた自分自身に対する怒りなんだろうけどね。が、この後どうなるかだ。怒りの感情に任せた攻撃をしてくるのか、それとも一回回って冷静になるか……そのどちらになるか次第で、こちらも対応を考えないといけない。

 そう考えている自分の目の前で、守護者は深呼吸を始めた。だが、その姿を前にしてもこちらから攻撃を仕掛ける気にはなれない……ひりつく殺気が守護者から消えていないからだ。ここで向こうが落ち着く前に下手につつこうものなら、その瞬間こちらに向かってその空気自体が無数の針となって襲ってくるようなイメージが不意に沸いた。なので、こちらも明鏡止水の集中をより深めるために動かない事を選ぶ。

 やがて、深呼吸を終えた守護者からは殺気がより強まってくる。もはや、これが試練だと言う事を忘れていないか? と問いかけたくなるレベルの殺気である。空の世界で戦ったロスト・ロスと既に大差ないレベルの殺気を放っているのだ。いや、それだけではない。この殺気自体が、こちらの体の動きを抑制しようと絡みついてくる。

 これ、もしかして抵抗に失敗したら蛇に睨まれた蛙のような状況……つまり金縛り状態にならないか? 金縛りになった状態で、さっきのやる気……いやこれでは字が違う、殺る気全開なパンチを喰らったらシャレにならないぞ。こちらも気を強く持ち、守護者が放ってくる殺気に抵抗する。そうした事で、絡みつこうとした殺気が弾き飛ばされるような感じを受ける。

「──これも通じない……ならば、ただ単純に打ち貫くだけね!」

 そうつぶやいた守護者は、こちらに向かって突貫してきた。こちらは接近しながら繰り出されたパンチを、盾を使って受け流して大きく上方向に勢いをそらした。また、一撃が重いパンチに戻ったな……が、その分やはりスピードがやや落ちるため対処は可能。この放ってくる殺気に気おされなければ、だが。

(まるで、パンチではなく殺気で圧し潰そうとしてくる。パンチで押しつぶすのはあくまでとどめを入れるためとばかりに。これ、普通の人がやられたら相当きついんじゃないの? 自分みたいな特殊な経験をしてない人が、この殺気と言う名の重圧に耐えられるとはちょっと思えないんだけど)

 そんな事を思いながらも、襲い来るパンチに対処する。とにかく一発でも貰ったらこっちを一撃で殺す必殺性能を持つパンチがこれでもかと容赦なく自分に襲い掛かってくるので、丁寧にかつ確実に逸らして対処しなければならない。避けて、逸らしてまた避ける。放ってくる殺気によって恐怖に負けたらお終い。この圧に屈したらお終い。

 恐怖の合間と合間のある生存エリアに自分の生存をかけて飛び込んでいる様な物だ。だが、後ろに引いたらその瞬間がぶりと食われる気がしてならない。無謀のぎりぎり一歩手前で踏みとどまり、目をそらさずに対処するだけのガッツが必要なのだ。そのガッツがなくなれば、その時点で自分はこのパンチをもろに食らって昇天する事となるだろう。

(後、二割ぐらいか? かなり明鏡止水の集中は高まってきた。あともう少し、もう少し集中してあの必殺の一撃をこちらが放つ状況を作り上げるのだ。皮肉な事だ……相手の攻撃を一回躱すごとに集中がぐんと高まるのを感じる。死が頬をなでる事が却ってこちらの心を落ち着かせている。自分もどこか、心のどこかがぶっ壊れたのかもしれない。普通とはかけ離れた心理状態になっているって事は、流石に分かる)

 ここに来て、守護者のパンチを一回回避するたびに集中が高まる。一回受け流すたびにより深く集中できるようになっていく。目の前の守護者が自分に向かって襲い来る濁流とするならば、自分はその濁流の中にか細い足場だけで立ち続ける一本の細い葦のような状態だ。だが、その葦は濁流に流される事なく、完全に飲まれる事なく、身をよじらせてそこに残り続けている姿をイメージする。

 力に逆らわず、しかし流されず。無理に前に出ず、だが後ろにも下がらず。ただそこにあり続ける自分を想像し、回避して受け流してを繰り返しているうちに世界が青く染まった。感じる、分かる。明鏡止水の集中がさらに高いレベルに入ったのだ。理屈じゃない、感覚だけでそうだと分かる。

 守護者のパンチが今までよりもはっきりと見える。パンチだけじゃない、足の動きも、目の動きも、守護者の体全体の動きがはっきりと見える。右手のパンチを自分の顔面目掛けて繰り出そうしている。次は左のパンチを自分の腰辺りに繰り出そうとしているな──右のパンチを盾で受け流し、左手のパンチが飛んでくるよりも早く、膝蹴りを守護者の腹部に叩き込んだ。

「!?」

 大したダメージにはなっていないだろうが、明確な反撃を受けた事で守護者の表情が変わったのが見える。だが、数打ちのパンチを撃つような事はなく、再び威力がしっかりと乗っている右のパンチを自分の腹部めがけて繰り出そうとしてきたのが見えた。自分はそのパンチに合わせて盾による殴打を実行。相手のパンチが勢いに乗る前に殴れたため、ステータスの差があっても相殺が成立した。

 そこからは相手のパンチを盾による打撃で相殺する回数を確実に増やしていく事で、相手の圧を消していくと同時にこちらの圧をじっくりと掛けていく。万力で締め上げるかのようにゆっくりと、そして確実に。じわりじわりと掛かる圧が一番きついと感じるのは、自分の経験上からくる判断だ。一歩一歩、確実にできる事を潰されて相手のペースになっていく……こういうのが一番来るのだ。

 守護者の顔が困惑に染まる。突然こちらがこうもパンチを相殺し続ける行動に打って出たら困惑もするだろう、無理もない。さらに自分のやりたい事がこちらの行動の影響でできなくなったことで、動きずらくなっていく事もまた困惑に拍車をかけるだろう。もちろん、こちらはそこに付け込む。

 集中力はもう九割九分高まった。後はタイミング次第で完全にその時が来れば明鏡止水の状態で繰り出せるあの奥義を放つだけ。その時はそう遠い話ではない。後は何らかの切っ掛け、そう切っ掛けがあればそこに全てを注いで最高の一太刀を叩き込むだけ。その時は、そう遠くないはずだ。

「く、どうしてこんな……どうして私がこうも」

 守護者から、そんな声がわずかに漏れた。まさにその声は、守護者の精神にひびが入った事を示すかのようだ。後はそのヒビがもっと大きく走って崩れた瞬間が、奥義を叩き込むべきタイミングだ。ここからは、その瞬間を捉える事に集中しなければ。
感想 4,999

あなたにおすすめの小説

十八年前の赤子の取り違え——婚約破棄された「養女」が、公爵家のただ一人の正統な令嬢だと判明した日

歩人
ファンタジー
メリルは、レイクハート公爵家に引き取られた「遠縁の養女」として育った。社交界に出ることも許されず、領地の治療院で病人の世話に明け暮れる日々。義姉ソフィアが王家に嫁ぐまでの「つなぎ」として第二王子の仮の婚約者に立てられても、メリルは「いずれ退く身代わり」と承知していた。 けれど治療院に通う第二王子リオネルと、メリルは本当に心を通わせてしまう。義姉ソフィアと後見人ライラは「養女が分を超えた」と激怒し、婚約を破棄してメリルを治療院ごと辺境へ追放した。 だが、辺境で疫病が広がったとき、王都は気づく。病を癒せる「聖癒」の力を持つ者が、もう一人も残っていないことに。 十八年前、ひとつの嘘があった。公爵令嬢の赤子と、後見人の娘の赤子がすり替えられていたのだ。社交界の令嬢ソフィアではなく——治療院の「養女」メリルこそが、公爵家のただ一人の正統な令嬢だった。 日陰で生きてきた手が、王国を救う。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない・完結

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました

あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。 断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。 平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。 ――だが。 私にはもう一つの試験がある。 それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。 そして数日後。 その結果は――首席合格だった。 冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

うちに待望の子供が産まれた…けど

satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。 デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。