とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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 二番手の槍使いと対峙しても、カザミネは全く揺らがない。むしろ槍使いのほうが怯えるかのように間合いを取っている。得物が槍である以上間合いを取るのは間違っていないのだが、そういった戦略的なものではなく単純な恐怖心から間合いを取っているように見受けられるのだ。

 しかし、一人落とされている以上、このままのにらみ合いが続けば負けになるのは向こうだって当然分かっている。故に攻撃を仕掛ける外ない。怯えたような気配からは想像できないような鋭い突きがカザミネに向かって飛んでくる。が、カザミネは槍の先端を大太刀で難なく受け流した。

「ぐ……っ!」

 槍を受け流されたことで体勢を崩しかけた槍使いだったが何とか持ち直す。カザミネはこの程度の崩しではすぐに立て直されると分かっていたかのように動かなかった。その姿が、さらに槍使いの恐怖心を増したかのような感じがする。その恐怖にあらがうかのように、槍使いが突きを何度も繰り出す。

 それらをことごとくカザミネは弾き、かわし、時には下半身を狙ってきた槍を踏みつけてから相手を睨んだ。どうやらカザミネには槍の動きがすべて見えているようだ。そうでなければあそこまで理想的な受け流し、はじき返しなどできようはずもない。

「あ、当たらねえ……」「槍使いとは幾度も対峙してきました。槍の強み、厄介さは己の体で知っています」

 槍使いの弱音にカザミネは淡々と返す。そしてここまで受けに回っていたカザミネが明確な一歩を前へと踏み出した。どうやら相手の力量は把握したから積極的に攻めようという事か。カザミネが前に踏み出したことで、槍使いは少しづつ下がりながら幾多もの突きをカザミネに対して繰り出すが、そのどれもがことごとく無力化される。

 そのやり取りのさなか、ついにカザミネが槍使いの槍を大きくはじき返して明確な隙を作り出した。当然カザミネは躊躇せず相手の心臓を狙っての突き攻撃を繰り出した。相手の体に吸い込まれる大太刀の切っ先。だが──外れた。いや、正確には相手が心臓への直撃を回避した。被弾したことでダメージそのものはあるが、即死はしない。

 カザミネは追撃せず、間合いを取った。その判断は正しかった──相手はカザミネに向かって唾を吐くかのような動きをしたのだが、自分の目には吐き出されたものが唾ではない事をとらえていた。吐き出されたものは針。針の先端には何らかの毒が塗られている可能性が高い。含み針とは──なかなかいやらしい暗器だ。

「やはり、そういう手段も使いますか」「汚い、なんて言うなよ? 使えるものはすべて使わなきゃ勝てないんでな」

 カザミネはいやな気配を感じ取って引いたのだろう。そういうセンスはカザミネも長い旅で培ってきているからな──それにリアルの道場で得た経験もあるはずだ。それに、相手としては先ほどの含み針は当てたかった攻撃だろう。それを初見で見切られたのは相当に辛いはず。一番当てられる可能性の高い機会を逃したのだから。

「もちろん言いませんよ。最後の大会です、すべての力を駆使して戦わなければ悔いだけが残るでしょう?」「そう言ってもらえるのはありがたいんだがな──そちらから感じる殺気がより濃密になった気がしてならないんだがな?」

 槍使いの顔からはいくつもの汗がしたたり落ちている。あれは冷や汗だろうな、彼の言葉通り、対峙していないこちらにまでカザミネの冷たい殺気が感じられるようになったのだから。カザミネは相手の含み針に怒っているわけではないだろう、ただただ次の機会で確実に相手を切って捨てるという意思を隠さないだけのはずなのだが、それが恐ろしい。

 そこから再び数秒ほど両者はにらみ合い、再び槍使いの槍が振るわれる。だが、早い。先ほどよりもずっと早く鋭い突きがカザミネに飛んでいく。向こうもカザミネの恐怖に対して吹っ切れたのか、もしくは心のどこかに火が付いたのか。どちらにせよ、この戦い始まって一番早く鋭い突きがカザミネに向けられた。

 これにはカザミネも弾く事はできるが受け流す余裕までは無い様で、両者の間に火花が幾度も舞い散る事になる。そんな攻防がしばし続いた後、突如槍使いは突きではなくカザミネから見て右側からの払い攻撃を仕掛けてきた。カザミネはこの攻撃を大太刀の切っ先に槍の切っ先を乗せるような形で滑らせながら己の身を低くすることで槍の穂先を通過させる形とし、回避して見せた。

「個人的な意見で恐縮なのですが」「なんだい?」

 そのような攻防が終わった後に両者示し合わせたかのように一歩引き、カザミネが相手に向かってそう話しかけた。相手も警戒しながら応じている。

「下手な含み針なんかよりも、先ほどの攻撃で見せた突き攻撃や払い攻撃のほうがよっぽど恐ろしかったですよ」「──そうかい。あんたほどの使い手にそう言ってもらえるなら悪くない気分だな」

 短い会話の後、槍使いはにやりと笑みを浮かべた。こちらからは見えないが、たぶんカザミネも同じような笑みを浮かべていたのかもしれない。そこから再び、お互いの獲物が振るわれて火花が散る光景が生み出された。しかし、決着の時は確実に迫ってきている。こんな激しいぶつかり合いを続ければ、当然中身のプレイヤーは消耗する。その消耗が明確な隙を生み出す。

 問題は、それがどちらになるかと言う事だ。普通に考えれば連戦しているカザミネのほうが分が悪い。だが、人の集中力はそう言った予想をひっくり返す。ゆえに、集中力が切れたその時がこの二人の戦いの決着がつくタイミングとなる。その時は二分ぐらい後にやってきた。値を先に挙げたのは──槍使いのほうだった。

 たった一発だけ。その一突きだけはそれまで放っていた突きに比べると明確に速度も鋭さも劣る突きだった。だが、カザミネはそれを見逃さなかった。上に大きく跳ね上げるかのようにカザミネはその突き攻撃に対して対処する。このカザミネの行動によって槍使いの体は大きくのけぞる形で体制を崩し、足ももつれた。

 そこに襲い掛かるカザミネの大太刀による一閃。切り落とされたのは槍使いの首。カザミネが大太刀に付いた血を振り払う形で飛ばすと、それに呼応したかのような形で槍使いの体は地面に崩れ落ちた。それと同時にエリザがカザミネに向かって声を出す。

「カザミネさん、そろそろ出番を譲ってくださいな! あなた一人にばかり負担を押し付けるのは好ましいことではありませんわ!」

 向こうの最後の一人は魔法使いだから、同じ魔法使いのエリザが出ると言い出したのか。それにカザミネは二人を相手に連戦している。流石にそろそろいったん下がって一息ついた方が良いのも確かだろう。カザミネもそう考えたようで、エリザを武舞台に上げてから下がっていく。

 カザミネとエリザの交代が終わったタイミングとほぼ同時に相手の魔法使いも武舞台へと上がって来る。そして始まるのは呪文の詠唱。即座に攻撃魔法を繰り出すのか、それともまずは防御を固めるのかなどの魔法使いの性格が一番出るのは最初の魔法で何を唱えるか? であるなんて話も存在するが。

「《ダークエレメントアーマー》!」「《ライトエレメントアーマー》!」

 先がエリザ、あとが相手の魔法使いだ。どちらも最初は属性耐性を高める防御魔法を選択したか。ただ、確かこのエレメントアーマーってのは確か属性耐性を上げる魔法ではあるのだが、その属性が苦手とする属性に対す居る耐性上昇値は低めになるって弱点があったような。つまりエリザは光系統が、相手は闇系統に対する耐性はほとんど上がっていない事になる。

(となれば、この後の展開は闇魔法と光魔法のせめぎあいになることはほぼ確実だな。むろんほかの属性も使われるだろうが、それはあくまで搦め手としてだ。本命は間違いなく闇と光になる。魔法にはあまり詳しくないが、一次予選と同じくこの二人の魔法使いによる戦いでもたっぷり学ぶことができそうだ)

 自分ではできない魔法同士のぶつかり合いになる戦い。一次予選でもその戦いを見ることはいろいろと学ぶところがあった。ここでもしっかりとみてどういう魔法が主力になるのかをしっかり学んでおこう。自分が対峙したときに慌てないようにするためにも。
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