風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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三章

三話 伊藤ほのかの猛省 失われた楽園 その三

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 ねえねえ! どうなってるの! 水泳部のカラミは! 奇声って何!
 天国の扉の前で、私はすべもなく、聞き耳を立てることしかできなかった。
 名前もBL学園になって、初のサービスシーンなのに、これってあり? しかも、声すらぼそぼそって聞こえるだけだし! ドラマCDじゃないんだから、ちゃんと見せなさいよ!
 中の様子が分からないくて悶々もんもんとしていたとき、何か聞こえてきた。

 な、何?
 足音が聞こえてくる。しかも、こっちに近づいてくるのか、音がだんだん大きくなっている。
 だ、誰?
 やってきたのは……。

「はあはあはあ……何をやってるんだ、伊藤?」
「げっ! 御堂先輩!」

 黒井さんと一緒に見回りにいったんじゃないの!
 それより、気のせいかな? 手が血で汚れてますよ、御堂先輩?
 不良達、瞬殺しゅんさつしちゃいました?

「はあはあはあ……み、見回りはもう終わった。それより、藤堂はどこだ?」
「え? ええっと……」

 ど、どうしよう……私の直感だけど、先輩と御堂先輩が一緒にいるのはマズイ気がするし……。
 あっ! いいこと思いついた!
 私は部室を指さす。

「せ、先輩はこの部屋の中にいます! 孤立無援で戦っているんです!」
「お前、藤堂が体張っているときに、何をしてやがるんだ?」
「ど、ドアが開かなくて……」

 御堂先輩はドアノブをがちゃがちゃ回すが、開かない。

「フン!」

 ガキッ!

 ちょ、御堂先輩! 流石!
 作戦名『天岩戸』。開かぬなら 開けてもらえ 御堂優希に!
 よし! これで私が開けたわけではないので、先輩に逆らってないはず! だって、御堂先輩が開けたんだもん!
 御堂先輩の後ろから私も部室に入る。ついに、今話のサービスシーン、いただきました!
 天国の扉をくぐると……。

「……」
「み、御堂? なんでここに?」

 先輩は突然現れた御堂先輩に困惑こんわくしていた。

「……」

 御堂先輩は返事をしない。ただ呆然としている。
 部室には裸の男の子達がいる。先輩の足元に全裸の男の子の頭が、その頭の下には全裸の男の子の股間がある。

 せ、先輩、マジドS! どんな状況になったら、こうなるの!
 ちょっとついていけな……くもないかな。そんな先輩もありです!
 私は先輩に向かってサムズアップする。
 でも、御堂先輩はついていけなかったようで。

「な、ななななななななななななななななななななな!」
「どうかしまして、お姉さま?」

 あ、マズ! 今度は黒井さんがきちゃった! この状況はマズいよね! でも、間に合わない!
 黒井さんが目の前の混沌カオスに硬直する。

「ふ、ふけつですわぁああああああああああああああ!」

 あっ、黒井さんが倒れた。

「ちょ、黒井さん!」

 私は慌てて黒井さんを抱きめる。黒井さんが気絶している。まあ、刺激強すぎだよね……アレは。

「麗子! な、なにやってんだ! お前ら!」

 あああっ! 目の前の現実に耐えられなかった御堂先輩が、暴走した!
 うそぉん! 片手でロッカーを持ち上げ、振り回している! 凄い怪力!
 先輩も巻き込まれてる! 御堂先輩、先輩は味方、味方ですから!
 非力ひりきな私に止められるはずもない。
 こ、こうなったら、せめてこの光景をまぶたに焼き付けておこう!
 私はじっと男の子のアレを観察していた。
 誰にも止められない……。
 御堂先輩が全てを壊してゆく。

 飛び交う怒号どごう
 空に舞う、海パン。
 殴り飛ばされる男の子。
 なびくお○ん○ん。
 ゆれるたまたま……。

 ああ、水泳部のみなさん、いい笑顔で吹き飛ばされている。彼はイケメンの中のイケメンだ。
 イケメンどう大原則その一、イケメンはどんなときでも笑顔を絶やしてはならない。
 乙女の夢を、その鉄のおきてを彼らは忠実に守っている。
 その姿に私は涙した。

 バコ!

「あ痛ぁ!」

 御堂先輩が投げたバックが頭にクリティカルヒットし、私は気が遠くなった。
 まるでスローモーションのように世界がゆっくりと流れていく。
 ダメ……このままだと、気を失ってしまう。この楽園を見届けることが出来なくなる……。
 こんなところで……楽園を……追われるなんて……。

 今、私は楽園を去っていく。破壊神、御堂先輩の手によって……。
 楽園を分かつとき、心に残る大切な思い出を胸に秘め、私は歩いてゆける。
 楽園を追われたアダムとイヴのように私は歩いてゆく。
 慰めの言葉はいらない。私は愚者ぐしゃなのだから。
 現実という大地の上で、私は叫ぶのだ。天を見上げて、こみあげてくる涙をぬぐわずに。

「我がBLに一片の悔いなし!」

 この日、楽園は崩壊ほうかいした。
 ……あっ、あの人、先っぽ、真っ黒だ。これが私の最後の記憶だった。



「はあ、疲れた……」
「お連れ様です、橘委員長」
「ありがとう、上春さん」

 橘先輩は椅子に深くもたれかかり、サッキーが用意してくれたお茶をすすっている。
 私と先輩は……。

「痛っ!」
「先輩、じっとしていてください」

 お互い、傷の手当てをしていた。
 御堂先輩が大暴れした後、虫の知らせで危険を察した橘先輩が御堂先輩を取り押さえ、乱闘事件を隠蔽工作にはかっていた。
 ほんと、虫の知らせ。あのままだと死者が出ていたかも。流石は元レディー、御堂先輩。半端ない。
 でも、御堂先輩を取り押さえて、不祥事を隠した橘先輩はマジ尊敬できるわ。
 とりあえず、私達は事後処理のため、戻ってきたわけ。

「すまない、左近」
「……反省してるならいいよ、正道はね。問題は」
「んだよ……」

 御堂先輩は橘先輩を睨むが、逆に橘先輩が睨み返している。
 めずらしい光景。普段ならやなぎのように受け流す橘先輩が受け返している。

「御堂、やりすぎ。隠蔽するのにどれだけ大変だったかわかってる? たかが男の裸で取り乱すなんて……」
「ふ、ふざけるな! 乙女にあんな不埒ふらちなもん、見せるな! あ、あんな……あんなの……せ、セクハラだ!」

 先程の光景を思い出したのか、御堂先輩は真っ赤になってふるえてる。
 ふふっ、御堂先輩、可愛いな。初々しい。
 ちなみに黒井さんは保健室で休んでいる。黒井さんにはあの光景はキツかったみたい。
 あの環境で一人冷静だった私は剛の者だよね。

「男の僕に男のアレを説明させられる立場になってよ。新手の拷問ごうもんかと思ったよ、全く」

 まったくもっておっしゃるとおり。橘先輩が一番の被害者なのかもしれない。
 いきなり委員の暴力事件を目撃し、原因がBL(?)で、それを教師に説明しなければならない橘先輩の、今日の運勢は最悪だよね。
 結局、奇声の正体は分からずじまい。いや、先輩と橘先輩は知ってそうだけど、教えてくれないの。酷いよね。

 ふう、疲れた疲れた。
 私は自分でお茶をいれ、お菓子を食べようしたら、朝乃宮先輩に奪われた。
 あ、朝乃宮先輩? イジメっすか? 先輩に泣きつきますよ?

「ひどいわ~、伊藤はん。自分だけ楽しむなんて」
「そ、そんなことないですよ! 私だって大変だったんですから!」

 頭にバックがぶつかったところ、こぶになりそうだったんですから!
 私は朝乃宮先輩から、お菓子をうばかえす。

「それで、どうやった?」

 どうとは? などと野暮な事は聞き返さない。
 それはもう……。

「大きかったです! 日本こけしかと思いました」
「もう! 卑猥ひわいな話はやめてください!」

 顔を真っ赤にさせてサッキーがお菓子を取り上げる。そんなサッキーを朝乃宮先輩は後ろから抱きしめる。

「咲もそろそろ色を知る歳なんやし、男の子の事、勉強せなあかんよ」
「わ、私はいいんです! 私にはまだ早いです!」

 テレているサッキーの口に、お菓子を流れるように運ぶ朝乃宮先輩の仕草しぐさ妖艶ようえんに見えちゃう。
 ああ、いいな……私も先輩にしてもらいたいな。

「そんな目で見ても咲は渡さへんよ」
「いえいえ、見ているだけでお腹いっぱいですから。それに私、男の子の方がいいですし」

 先輩とか先輩とか先輩とかね。

「そっ、流石は面食めんくいさんやね」
「ちょ! 私は一途いちずなんです!」

 変な誤解を生むようなことをいわんでください! ただでさえ、三股騒動があってそう見られがちなんですから!
 先輩に遊んでいる女の子とか思われたくないし!

「けど、テニス部、バスケ部、水泳部……よりどりみどりやったやない」
「私が興味あるのは彼らのカラミだけです! 恋愛は別です!」
「ちょいまち、今のセリフ、もう一度言ってみて?」

 橘先輩が口をはさんできた。
 もう一度?

「恋愛は別です?」
「もうちょい前」
「よろしくお願いしますね、先輩」
「どこまで前に戻ってるの。それ、正道に初めて会った時のセリフだよね。そうじゃなくて、彼らのカラミだけって言ったよね? 彼らってどういうこと? なんでテニス部とバスケ部も含めたの?」

 ま、まずい! 地雷じらいを踏んだ! 誤魔化ごまかさないと!
 私は毛先をいじりながら、明後日の方向を向く。

「そ、それはこ、言葉のあやです!」
「本当にそうなの? おかしいよね? 男の子の下半身見て、御堂も黒井さんもテンパってたのに、伊藤さんだけ取り乱さなかった。テニス部の対決が終わったとき、鼻血出してたって聞いたけど、その時に耐性がついたんじゃない?」
「ど、どうだったかな~、ひゅーひゅーー!」

 私は必死で口笛くちぶえく。
 マズイ! バレるかも! これはもう、黙秘権を行使するしかない!
 だけど、橘先輩は許してくれなくて……。
 橘先輩がパチン!と指を鳴らす。
 あ、あれ? サッキーと朝乃宮先輩が私を拘束こうそくしてくる。
 な、なんでかな~、嫌な予感しかしない。

「連れていって」
「「ラジャー!」」

 な、なんなの、これ!
 せ、先輩、助けて!
 私は先輩に助けを求める。先輩と御堂先輩の視線が痛い。
 ええっ~! 私、疑われてるの~!

「な、何するつもりですか? 朝乃宮先輩?」
「ひみつや。きっと楽しいことやし期待しとき」

 全然期待できないんですけど!

「さ、サッキーは酷いこと、しないよね?」
「ごめんなさい、ほのかさん。橘風紀委員長のご命令ですから逆らえません!」

 嘘だ! 朝乃宮先輩もサッキーも笑ってる!
 私は奥の部屋に連れていかれた。そして……。

「にゃはははははははははははははははははははははは!」

 ……。

「ぎゃああああああああああああああああああああああ! ギブ! ギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブ~~~~~~!」

 私は風紀委員伝統の拷問ごうもん、足くすぐりの刑と激痛の足ツボを押された。
 そして、私は抵抗むなしく、みんなにテニス部、バスケ部のカラミを話してしまった。
 ああっ、終わった……。

 Good-Bye! Our Youth!(さようなら、我が青春)
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