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「か弱い、女の子か……」
朝比奈はか弱い訳ではないのだろう。むしろ、病気の類とも考えにくい。
そんな病気はいまだかつて見たことも聞いたことも無いのだから。もし、それが病気で周囲に認知しているならば、わかりやすいのだが、あれはそんな次元の話ではないのだろう。
普通の人間同士がぶつかり合えば、対格差があろうが、なんだろうが、必ず衝撃があるはずなのだ。
なのに、僕には衝撃はおろか、朝比奈の体をすり抜けて、壁に激突していた。
「でもさ、あんた、確か、朝比奈さんと三年間同じクラスじゃなかった? なんで今更あの子を気にかけているのよ」
「そうだけど……なんか無性に気になるというか、なんというか」
「まさか、最初の頃は全く意識していなかったのに、ふと気づくとその人を目で追ってしまう、みたいな感じ?」
「全く違うんだが」
見当外れもいいとこだ。
「そのさ、朝比奈ってなんかこう、不思議なイメージがあるじゃん? もしかしたら、こっち側のネタがあるんじゃないかと思ってさ」
「そうきたか」
雨霧は話しながらも、携帯をいじりながら、お菓子を貪りながら話してはいたが、次第に指を組み、ふむ、と言った。
「確かに私も朝比奈さんのことは不思議に感じてはいた。でも、別段珍しいとは思わないのよね、ああいう子は少なからず居るし」
「そのくらいのことは僕にもわかるよ、なんかこう、女の子としての意見が欲しいんだが」
「女の子ね~、けどさ、私もあの子と初めて同じクラスになって間もないから、正直わからないっていうのが、率直な意見かな」
「まあ、そうだろうな」
この女に女の子としての意見があるとは思えない。
「ん? なんで納得してるの?」
「なんも、他にはないのか?」
「そうだなー、朝比奈さん、話しかけても反応もしなかったんだよね……友達とかもいなさそう。時折話しかけてはいるけど、いっつも無視されちゃうのよね──」
……。
流石は、単細胞、馬鹿、アホだ。
それを見越して、こちらは質問しているのだが。
「流石に──あの手のタイプは初めてだわ」
雨霧は険しい顔付きで言った。
如何に、その案件が難しいのかを感じさせるように。
「昔からああいう性格の子だったらしいからね、内気で、物静かで、病弱だったらしいよ」
「らしいよって……お前、昔のあいつを知っているのか?」
「知っているっていうか、厳密には、朝比奈さんの昔を知っている人から聞いたってのが正しいかな。中学の頃も今のままだったみたい。でも、小学生の頃はすごく、活発でみんなの中心だったとか」
お前みたいだな、と言いかけて、とどめた。雨霧にこの手の事を言うと、通天閣も登るほどつけあがるからだ。どうやら、自身のことを「成績優秀、才色兼備、容姿端麗」と、思っているらしい。少し、いやかなりドン引きしたのは今でも覚えている。
「顔は元々良いから、モテモテで、足もかなり速かったらしいよ
「へぇ……」
「六年間リレーの選手だったらしいよ」
「ふーん」
つまり、だ。
少なくとも小学校の時点では、別人だったのかもしれない。
活発、クラスの中心と、いうのは些か想像が難しく思える。
「その子からすると、中学は別だったらしいんだけどね、どうして──あんなに変わってしまったのかって」
「中学時代を知っている子は居るんだろ?」
「うん、その子は入学した時には、もう──今の朝比奈さんと同じだって」
「そっか」
人は変わるものだというけれど、僕の中でのイメージでは、それは、中学から高校に入れ替わる時だと思っていた。小学校から、中学校に上がるのに対し、そんなに変わるものだとは思ってはいなかった。
けど、違った。
小学校から中学校に上がるときに──何かが変わる人もいる。当然の話だった。全ての人間が全て同じな訳がないのだから。きっと、変わったというのが妥当な考えなのだろう。
今朝の事も踏まえて、きっと──朝比奈は何かが変わってしまったのだろう。
そう、断言できてしまう。
「でもね、これは感覚的な話なんだけど」
「ん?」
「これも聞いた話なんだけどね」
「だから、何」
「今の方が、ずっと綺麗なんだって」
「大人になったとか、そういうことじゃなくて?」
「ううん、昔から顔立ちは整っていたから、そうなんだけど、今は──存在が、とても、儚げで」
「……」
その言葉に、押し黙ってしまう。
それほどまでに強烈な言葉だった。沈黙してしまうほどに。
存在が、儚げ。
存在感がない。
存在が希薄している。
まるでお化けのように。
病弱な彼女。
実体のない彼女。
噂は噂でしかない──か。
「あ! そうだ、思い出した」
「何?」
「僕、あの人に呼び出されてるんだった」
「何で? 私は?」
「いや、僕に個人的な話があるみたい」
「……何したの?」
「なんも」
「ふぅん?」
雨霧は訝しむ様に僕を見つめている。
まあ、いきなり話題を逸らした挙句に、あまり信憑性の無い話だったので、不信を抱くのは無理もないか。これだから、変に鋭い奴は苦手だ。黙って聞いていればいいものを。
そこまで察する力があるのなら、少しくらい気を遣ってくれてもよさそうなのに。
部室の椅子から立ち上がり、荷物をそそくさと纏めながら、無理矢理会話を繋げた。
「まあ、そんなわけで、今日、僕は先に出るよ。お前は、もう少しここにいて、何かネタでも探ってくれよ」
「今度必ずネタを持ってくること。それならもうこの件は深読みしないであげる。あの人待つの嫌いだしね」
雨霧は、とりあえずは見逃してくれた。あの人の名前を使えば、大概の辻褄は合ってしまう。そこら辺は、まあ、計算通りなんだけど。
「じゃあ、私はもう少し残って、何か、都市伝説でも探ってくる」
「なにかいいネタでもあるといいな」
「じゃあ、また──夜に」
「……あぁ」
僕は部室を後にした。
朝比奈はか弱い訳ではないのだろう。むしろ、病気の類とも考えにくい。
そんな病気はいまだかつて見たことも聞いたことも無いのだから。もし、それが病気で周囲に認知しているならば、わかりやすいのだが、あれはそんな次元の話ではないのだろう。
普通の人間同士がぶつかり合えば、対格差があろうが、なんだろうが、必ず衝撃があるはずなのだ。
なのに、僕には衝撃はおろか、朝比奈の体をすり抜けて、壁に激突していた。
「でもさ、あんた、確か、朝比奈さんと三年間同じクラスじゃなかった? なんで今更あの子を気にかけているのよ」
「そうだけど……なんか無性に気になるというか、なんというか」
「まさか、最初の頃は全く意識していなかったのに、ふと気づくとその人を目で追ってしまう、みたいな感じ?」
「全く違うんだが」
見当外れもいいとこだ。
「そのさ、朝比奈ってなんかこう、不思議なイメージがあるじゃん? もしかしたら、こっち側のネタがあるんじゃないかと思ってさ」
「そうきたか」
雨霧は話しながらも、携帯をいじりながら、お菓子を貪りながら話してはいたが、次第に指を組み、ふむ、と言った。
「確かに私も朝比奈さんのことは不思議に感じてはいた。でも、別段珍しいとは思わないのよね、ああいう子は少なからず居るし」
「そのくらいのことは僕にもわかるよ、なんかこう、女の子としての意見が欲しいんだが」
「女の子ね~、けどさ、私もあの子と初めて同じクラスになって間もないから、正直わからないっていうのが、率直な意見かな」
「まあ、そうだろうな」
この女に女の子としての意見があるとは思えない。
「ん? なんで納得してるの?」
「なんも、他にはないのか?」
「そうだなー、朝比奈さん、話しかけても反応もしなかったんだよね……友達とかもいなさそう。時折話しかけてはいるけど、いっつも無視されちゃうのよね──」
……。
流石は、単細胞、馬鹿、アホだ。
それを見越して、こちらは質問しているのだが。
「流石に──あの手のタイプは初めてだわ」
雨霧は険しい顔付きで言った。
如何に、その案件が難しいのかを感じさせるように。
「昔からああいう性格の子だったらしいからね、内気で、物静かで、病弱だったらしいよ」
「らしいよって……お前、昔のあいつを知っているのか?」
「知っているっていうか、厳密には、朝比奈さんの昔を知っている人から聞いたってのが正しいかな。中学の頃も今のままだったみたい。でも、小学生の頃はすごく、活発でみんなの中心だったとか」
お前みたいだな、と言いかけて、とどめた。雨霧にこの手の事を言うと、通天閣も登るほどつけあがるからだ。どうやら、自身のことを「成績優秀、才色兼備、容姿端麗」と、思っているらしい。少し、いやかなりドン引きしたのは今でも覚えている。
「顔は元々良いから、モテモテで、足もかなり速かったらしいよ
「へぇ……」
「六年間リレーの選手だったらしいよ」
「ふーん」
つまり、だ。
少なくとも小学校の時点では、別人だったのかもしれない。
活発、クラスの中心と、いうのは些か想像が難しく思える。
「その子からすると、中学は別だったらしいんだけどね、どうして──あんなに変わってしまったのかって」
「中学時代を知っている子は居るんだろ?」
「うん、その子は入学した時には、もう──今の朝比奈さんと同じだって」
「そっか」
人は変わるものだというけれど、僕の中でのイメージでは、それは、中学から高校に入れ替わる時だと思っていた。小学校から、中学校に上がるのに対し、そんなに変わるものだとは思ってはいなかった。
けど、違った。
小学校から中学校に上がるときに──何かが変わる人もいる。当然の話だった。全ての人間が全て同じな訳がないのだから。きっと、変わったというのが妥当な考えなのだろう。
今朝の事も踏まえて、きっと──朝比奈は何かが変わってしまったのだろう。
そう、断言できてしまう。
「でもね、これは感覚的な話なんだけど」
「ん?」
「これも聞いた話なんだけどね」
「だから、何」
「今の方が、ずっと綺麗なんだって」
「大人になったとか、そういうことじゃなくて?」
「ううん、昔から顔立ちは整っていたから、そうなんだけど、今は──存在が、とても、儚げで」
「……」
その言葉に、押し黙ってしまう。
それほどまでに強烈な言葉だった。沈黙してしまうほどに。
存在が、儚げ。
存在感がない。
存在が希薄している。
まるでお化けのように。
病弱な彼女。
実体のない彼女。
噂は噂でしかない──か。
「あ! そうだ、思い出した」
「何?」
「僕、あの人に呼び出されてるんだった」
「何で? 私は?」
「いや、僕に個人的な話があるみたい」
「……何したの?」
「なんも」
「ふぅん?」
雨霧は訝しむ様に僕を見つめている。
まあ、いきなり話題を逸らした挙句に、あまり信憑性の無い話だったので、不信を抱くのは無理もないか。これだから、変に鋭い奴は苦手だ。黙って聞いていればいいものを。
そこまで察する力があるのなら、少しくらい気を遣ってくれてもよさそうなのに。
部室の椅子から立ち上がり、荷物をそそくさと纏めながら、無理矢理会話を繋げた。
「まあ、そんなわけで、今日、僕は先に出るよ。お前は、もう少しここにいて、何かネタでも探ってくれよ」
「今度必ずネタを持ってくること。それならもうこの件は深読みしないであげる。あの人待つの嫌いだしね」
雨霧は、とりあえずは見逃してくれた。あの人の名前を使えば、大概の辻褄は合ってしまう。そこら辺は、まあ、計算通りなんだけど。
「じゃあ、私はもう少し残って、何か、都市伝説でも探ってくる」
「なにかいいネタでもあるといいな」
「じゃあ、また──夜に」
「……あぁ」
僕は部室を後にした。
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