あやかしがくえん

カルマ

文字の大きさ
8 / 20
001

04(2)

しおりを挟む
「八百万さん?」

「あぁ、八百万神楽」

「八百万神楽、ね。すごく珍しい名前ね」

「まあ、名前通りっていうか、不思議な人だよ」

「へえ、そんな名前で、昔いじめられたりしなかったのかしら?」

「やめろ、そういう目で人を見るな。名前だけでいじめられたら、そいつは親を一生恨むだろうが!」

「それが、あるのがこの、世の中なのよ。凡俗が」

 こいつ、口悪すぎじゃないか?

「私のように、堂々としていればそんな目に合うわけないけれど。寡黙の女神何でしょう?」

 知っていたのか、自分に付けられている恥ずかしい二つ名に。

 閑話休題。

 僕や、朝比奈、雨霧が通っている、私立霧ヶ丘高校から、電車とバスを経由して一時間くらいの行った先、都会の真ん中も真ん中にある大きなビルに、その人は居る。

 最上階に。

 その下のビルディングには多くの企業が開かれている。それなのに、なぜか、その最上階には、そのビルの中でも頂点に位置するのが、その女だ。

 テナントも張り出していなければ、何もないのだ。そう、このビルディングの最上階には何もないのだ。

 いつから、この女が拠点として構えているかは定かじゃない。僕が知り合った時には我が物顔で、そのビルディングの中に入っていた。

「それにしても、かなり脚が疲れたわ。乳酸でパンパンよ」

「僕のせいではない」

「黙りなさい、次はどこを切られたい?」

「やめて下さい、僕の誇りだけは切らないで」

「電車や、バスで移動するなんて、こうなってから久しく乗っていないのよ? 疲れるのを考慮して、椅子くらいにはなりなさいよ」

「断る。なんで、僕がお前の椅子にならなきゃいけないんだ」

 声を発せば、暴言しか出てこないのか、こいつは。

「それなら、犬になりなさい。ほら、椅子と犬ってどこか似てるでしょ?」

「似てねぇよ! 文字数が同じなだけだ」

「い、も同じよ」

 どうでもいいことに食いついてきたな。

「実際、喋らなければ、お前もクレオパトラのように霧ヶ丘高校美女ランキングで殿堂入りを果たしそうなのに」

「あぁ、彼女は私の弟子よ」

「お前は今幾つだよ⁉」

「さっきから気になっていたのだけれど、あなた、そんなキャラなの? 教室では影も形もないほどなのに、私、今日あなたを初めて見た気がしたわ」

 いや、初めて会った人に、お前はペティナイフで切りつけるのかよ。

 しかも、三年間同じクラスなのに。

 あんまりだ。

「しかし、お前と話していると、妙な緊張感があるんだよな」

「それはそうでしょう、だって、私、可愛いから」

「……」

 またしても、さらりと自分が可愛いって、おくびれもせず、言った。言いやがった。

「お前の鞄の中身、見せてもらえるか?」

「なぜ?」

「なんだか、物騒な物が他にもありそうだから」

「ないわよ、後三つくらいしか」

「三つもあるんだっ⁉」

「私が完全武装になったら、世界が滅ぶわ」

「お前は人間兵器かよ!」

 人間凶器。

 人間兵器。

 しまいには、サイコパス。終わってやがる、この女。

「ああ、そういえば」

 もうすぐ、そのビルディングに辿り着く前に僕は朝比奈に向き直り、手を差し出しながら、口を開く。

「その鞄ごと、僕が預かる」

「は?」

「僕が預かるから、早く」

「え? ちょっと、待って」

 あり得ない要求をされたような顔をしている、あなた、本気で言っているのと言わんばかりの顔付きで。

「そもそも、このビルに入るのに、厳重な荷物検査がるんだ。そこに素性の知らない女が武器を持ってきたら、それ
こそ、大騒ぎになる」

 あの人は、僕だけじゃない。そう──雨霧の恩人でもある。

 その人に、せめて、迷惑はかけたくないと思うのは当然だろう?

「それに、僕の恩人にそんな危険人物を合わせるわけにはいかない」

「ここで、それを言うのね」

 朝比奈は僕を睨み付けながら言う。

「私を嵌めたのね」

 え? 僕、普通のことを言ったつもりなんだが、そんなに言われるようなことか?

 朝比奈は、そこで暫く葛藤している様子で、目を瞑り、何かを思案している様子だった。だが、やがて、朝比奈は、一言、「わかったわ」と、了承してくれた。

「はい、どうぞ」

 僕は、朝比奈の手から渡された鞄を受け取った。一応念のため、中身を確認すると、そこには、先程僕を切りつけたペティナイフに、包丁、ジャックナイフ、スタンガンが入っていた。

 こいつは、常に何と戦っているんだろうか。

 女子高生の鞄から、まさか、こんな、大量の武器が、しかも剝き出しで入っているだなんて、この世界の誰も思いもしないだろう。

 銃刀法違反で捕まる危険性を考慮したりしないのだろうか……。

「それと、別に勘違いしないでよね。私は、あなたを信用しているわけじゃないんだから」

 鞄を渡した後に、朝比奈は、これでもかってくらいのテンプレのツンデレを見せてくる。

「信用してないって……」

「もしも、あなたが、ペティナイフで切りつけられたことを根に持って、仕返しをしようと企んでいるのなら、それ
は大きな間違いよ」

「あ、あぁ?」

 いや、待てよ? 大きな間違いってことはなくないか? むしろ、報復されて当たり前な気がする……。

「いい? もしも私に不測の事態が起こった場合、私の勇敢な仲間たちが即座に押し寄せてあなたを殺すわ」

「お前は、どこの長鼻海賊団だよ」

「まさか、あなたは私の仲間達の数を上回ると言うの⁉」

「僕はそんな大層な海賊王ではない」

 こいつはとんでもない、嘘つきだ。

 友達が一人も居ないくせに。

 漫画の読みすぎだ。そういえば、こいつ、今日はワンピースを読んでいたな。

「妹さん、中学生らしいわね」

「……」

 なぜか、僕の家族の情報が知れ渡っている。

 妹を人質にするなんて、なんて恐ろしい奴なんだ。

 朝比奈は、僕が見せた力の一端を見せても全く信頼されていなかった。

 まあ、こればっかりは仕方のないことだ。

 僕はあくまで、案内人で、これから先は朝比奈の問題なのだから。

 もしも、僕の出番があるのだとすれば、それは、あまりよろしくない事態なのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...