あやかしがくえん

カルマ

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 林道めぐりと遭遇したのは、高校生活最後の夏休みである。今まで毎年夏休みというものを過ごしてきたけれど、今年の夏休みは意味合いが違う。そのまま進学して大学生になる奴らからすればそうでもないのかもしれないけれど、高校を卒業と同時に就職をする奴らはこれが最後の長期休暇になるのだから。かと言う僕は進路を何一つ決めていない、この時期の高校三年生ではあり得ないらしいのだが、僕には特にやりたいこともなりたいものも何一つとして無かった。だけど、もしかしたら就職をするのかもと思うと、どうしてもこの夏休みを無駄にしたくはなかった。

 そんな夏休みの日。

 そんな夏休みの、丁度正午。

 八月二十五日。

 僕が散々この夏休みを無駄にしたくはないと思っているのにも関わらず、僕は何故だか、霧ヶ丘高校の、そしてなぜだかわからないがオカルト研究部という謎の部活の部室に居た。

 それは、今日の朝、突然雨霧から着信があり、有無を言わさずにこの部室に連れ出された。普通なら断ろうと思ったのだが、あいつはあろうことか僕に対して脅迫をしてきた。

 あいつくらい人望に溢れている人間の扱う脅しは正直言ってシャレにならん。

 夏休みの内の貴重な一日を潰して来たというのに、相も変わらずこの部室では特に何もすることもなく本当に無駄な時間を過ごしていた。

 しかし、だ。

 こんな無駄な時間でも僕にとって、とても素晴らしい出来事が起こった。

 それは。

 僕と雨霧が特にやることもなくぼぅーっとしている部室に来客があった。

「あぁ、やっぱりここに居たのね」

「な⁉ ……どうしてお前がここに」

「えっ⁉ なんで⁉」

 僕もかなり驚いたのだが、雨霧はそれを超える驚きを露わにしている。それもそうだろう、雨霧としては何度も話しかけては無視をされ続けた──朝比奈未来が居るのだから。それに、だ。あの模範回答の時でしか聞くことのできなかった朝比奈の声を間近で聞いているのだから。

「全く、探したのよ? あなたの家に行ったらお父様しか居ないんですもの」

「っ……」

「え? え?」

 雨霧はこの光景に理解が追い付いていなかった。まあ、こいつの頭の悪さでは大抵のことは理解不能なのだけれど。

「お、おう。どうした?」

「どうしたじゃないわよ。あなたを探していたの」

「だから、なんで?」

「ちょっと来て」

 そう言って、朝比奈は僕の手を引き寄せて、部室から連れ出そうとしてくるのだが、雨霧がそれを許さない。

「待ちなさい」

「あら? あなたは確か……誰かしら?」

「くっ、まさか、名前も覚えてもらえていないとは……。そんなことより、そいつをどうするつもり?」

「どうするって、連れて行くのよ?」

「どこに行くつもり?」

「あなたには関係ないでしょう?」

「関係大ありです! 今はオカルト研究部の部活中です!」

 雨霧はこう言ってくれてはいるが、正直僕としては、このまま朝比奈に連れ去られても悪くないと思ってしまっている。いや、むしろ連れて行ってください。

「あぁ、前に彼がそんな馬鹿げた話をしていたわね。で、何をしているの? とても活動中には見えないけれど」

「こ、これからやるつもりだったのよ」

「嘘を付くな、お前はさっきからお菓子を食べるか携帯を弄ってるだけじゃないか」

「あ、あんたも私の敵になるつもりなのね!」

 一体、この討論に終わりは来るのだろうか? そんなことをふと思ってしまった。

 だが、このままでは本当に埒が明かない。朝比奈も雨霧も絶対に引くようなタイプではないからだ。

「よし、それならここで話をしよう!」

「ここで?」

「そう、ここで。それでも構わないだろう?」

「まあ、そうね、それじゃあ──」

 激しい討論に水を差し、妥当な落としどころで場を持たせることに成功したのだが、朝比奈が何かを言いかけた時に、またしても珍しいことに来客があった。

「失礼します!」

 その来客に見覚えがあった。長い髪に黄色いシュシュを巻きつけている少女。林道めぐりだ。

 僕としては一度も同じクラスになったことはないのだが、林道を知らない人はこの校内に一人も居ないだろう。なぜなら、こいつは──雨霧を凌ぐ頭の悪さを有しているからだ。

 毎年、各教科の先生に頼み込んで、特別な課題を出してもらい、それをこなして何とか進級できているというすご技の持ち主だ。

 だが、そんな林道が一体全体何をしにこんな場所に訪れたのだろうか? 間違いではなさそうだ。その証拠に、きちんとノックをしている。僕としてはこの女は案外礼儀作法に関しては、それなりにできる奴だと理解できたことが嬉しい。

 朝比奈の方に視線を向けると、自分の話の骨を折られたことがさぞ苛立ったのか、思いっきり林道を睨み付けている。

 ほんとにおっかない女だ。

「あれ? めぐりん? どうしたのこんなところに?」

 雨霧は林道と面識があるらしく、いや、まああるだろうとは思ってはいたけれど。

 類は友を呼ぶ、なんて言葉があるくらいだし。

 それに、特に追及はしないけれど、雨霧は今自身の言葉でこう言った──こんな場所にと、それはまさしくこんな部活を作り上げた人間が放つ言葉なのかと思わず言葉を疑ったものだ。

「あ、あのね、ここってオカルト研究部なんでしょ?」

「そうだけど、お前、もしかしてそういうネタがあるのか?」

「ううん、ない」

「は?」

 待て、落ち着くんだ僕。僕は雨霧の相手をすることによってある程度耐性が付いているはずなんだ。大丈夫、落ち着くんだ僕。

「えと、じゃ、じゃあお前は何をしに来たんだ?」

「え? 面白そうだから!」

「馬鹿なのかお前は!」

 あ、イケない。我慢の限界を迎えてついつい突っ込んでしまった。僕もまだまだということだ。だけれど、考えて欲しい。僕は確かに頭は良くはない、けれど、至って平均だと自負している。だが間違いなく雨霧と林道には絶対に負けてはいないと断言できる。できてしまうのだ。

「ちょっと、吉良! それは言いすぎじゃないの? ごめんね、めぐりん。詳しく話を聞かせてもらえないかな」

 なんだか、僕より雨霧の方が大人に見えてくるのが心なしか腹が立つのは何故だろう。似た者同士通ずるものがあるのかもしれない。

 以心伝心。

 フィーリング。

 シンパシー。

 これはきっとあの頭の悪さの領域に立たないとわかることはない。そう思い込むと心が楽になってくる。

「えっとね、今って高校生活最後の夏休みじゃない? だから、何か変わったことをしてこの夏休みを楽しみたいなって思ったの! そこで、思い当たったのがオカルト研究部の存在」

「なるほど!」

 え? 今の一連の流れで、一体、何がわかったというのだ。教えてくれ雨霧、僕にはお前たちの生態系に詳しくないんだ。

「……今ので何がわかったんだ?」

「つまりこうだよ! めぐりんは、私たちと一緒にオカルトのネタを探したいってことだよ」

「は、はぁ」

 ほんとかよ。

「そう! その通り! 流石そらりん」

 当たってるんだ……、というより、そらりんって言われると何故かソラニンにしか聞こえてこない。

 朝比奈の方に視線を向けると、朝比奈は、頭痛でもするのかこめかみに手を当てさぞ呆れた様子で見ていた。

「というわけで、私はそれらしい場所をあらかじめリサーチして来たので、さっそく行きましょう!」

「おー!」

「僕は帰らせてもらう」

「私も用があるのは夜神君だから、失礼するわ」

 流石に貴重な夏休みをこんな馬鹿二人に費やしてしまうのは、なんだかとても勿体ない気がしてならない。それは朝比奈も感じたのだろう、上手いこと言ってこの場からフェードアウトしようとしている。

 だが、そんな僕たちをあの二人がそう易々と逃がしてくれるわけもなく、今も部室の扉に手をかけた僕の左肩にガシッと荷重が掛かってくる。

「おいおい、お二人さん。私から逃げようったってそうはいかないぜ?」

 僕はその声のする方に振り返ると、僕の予想では雨霧だと思っていたのに、僕の肩を掴んでいたのはまさかのめぐりんだった。

「いや、ほんとに僕たちは遠慮しておくよ。お前たち友達なんだろ? だったら二人で行って来いよ」

「あなたも、今この瞬間を以て私のお友達です」

「……いや、いいよ。だって僕は──友達は作らないって決めてるんだ」

「そ、そうなんだ、あはは。……初めて振られた」

 林道には悪いけれど、僕は友達を作らない。別に捻くれていたり変に意固地になっているわけじゃない、中学の頃はそれなりに友達も居た。けれど、僕は高校デビューに失敗している。そのせいで上手く友達ができなかった、それに今となっては友達を作るべきではないと思っている。僕は──人の道を踏み外しているのだから。

「よし! 決めた! 吉良、部長命令よ。私たちと一緒にネタを探すこと! この前の時見逃してあげたでしょ?」

「うっ……」

 そうだった。僕は朝比奈の件で部活を途中で逃げ出した時提示された条件をこなしていなかった、それを出されると弱い。くそっ、雨霧の癖に頭が回りやがる。

「……はぁ、わかったよ。やればいいんだろ、やれば」

 僕が了承の言葉を口にすると、隣に居るめぐりんの瞳はまるで太陽のように輝きを出していた。

 こんな訳の分からない馬鹿二人に連れ回されて──僕の悪夢のような夏休みが、始まりを迎えるのだ。いや、もうすでに──始まっていた。
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