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「ねぇ、今、私が何を言いたいかわかるかしら?」
僕たちは一度帰宅して、そして、一体何がしたいのかわからないのだが、僕たちはとあるテーマパークに足を運ばせていた。
そして、一番先に目的地にたどり着いた僕に声をかけてきたのは今にも手に持っている鞄からナイフを取り出しそうな顔をしているクラスメイトの朝比奈未来だった。
当たり前の話だが、夏休みで、一度帰宅していることから朝比奈は私服姿だった。いきなりのご立腹な様子で気の利いた言葉でもかけてやろうと思っていたのだけれど、その私服姿が、あまりにも綺麗に見えてしまったために、喉元まででかかった言葉を、僕は、ゴクリと、飲み込んだ。
元々の素材が良いからなのか。
特に変わった格好ではないにもかかわらず、ほぼ全身が白いコーディネートでこの真夏の暑さも涼やかに感じてしまう。白のワンピースから除く白く綺麗な足が異様にエロさを際立たせている。って、僕は何をクラスメイトに対してそんな、卑猥なことを考えているんだ。
「ふん、何よ。もう少し気の利いた言葉をかけられないものかしらね、私までこんな面倒な事に巻き込まれているのに」
「あ、その、いや、なんと言うか……」
「それともあれかしら、女子に免疫のない夜神君は、私の可憐な私服姿に見蕩れてしまって声が出ないのかしら?」
「……」
やはり、こいつにはエスパーの力が備わっているのだろう。だけれど、朝比奈の言葉は概ね、というか的確に僕の心理をついてきたので、上手く言葉が出ない。
「……で、どうなのよ?」
「ど、どうって、何が?」
「嬉しい?」
「だから、何が嬉しいんだ?」
「私の至福姿を目に収めることができたのだから、これ以上の幸せはないということよ」
「お前、自分を過大評価しすぎじゃないのか?」
「少しは喜びなさいよ」
「強制的だっ⁉」
確かに朝比奈の私服姿というのは、この三年間で一度も目にしたことはない。朝比奈は学校行事のほぼ、全てを欠席しているのだから、修学旅行や、遠足等の私服になる行事にもすべて欠席している。そう考えると、確かに僕は今、至福の時間を過ごしているのかもしれないな。
「いや、なんと言うか、この前はジャージ姿だったから、てっきり、お前のファッションセンスは皆無なんだと思っていたんだよ」
「ああ、あの時は一応、動きやすい格好をと思っていたのよ。それに」
「それに、なんだよ」
「まさか、ジャージしか持っていない女の子の下着がガーターベルトな訳ないでしょ?」
「……」
そうだ、言われて思い出した。そういう割に思い出した光景は鮮明に覚えている。強烈な光景。確かに、あの下着はエロかった。
「今、私で変な妄想をしたでしょ。本当にあなたの大事なあれ、切り落とすわよ」
朝比奈はまるで、ゴミを見るような目つきで、僕を見下していた。それに、その言葉は朝比奈が言うことで信憑性を増すように思える。僕は咄嗟に自身の局部を覆うように隠した。
「……今のは、不可抗力だ」
「もう一度──見たい?」
「……え?」
「なんちゃって、ジョークよ。とは言え、私自身、私服で外に出歩くというのは滅多にないことだから。さしあたっては、全快祝いと言ったところね」
「そうかい」
朝比奈未来。
同じ学校の、同じクラスメイトの少女。
朝比奈はつい最近まで、ある問題を抱えていた。その問題を、つい最近まで、長い間ずっと。
約六年間の間。
ずっと。
その問題のせいで、朝比奈は友達を作ることも出来ずに、誰とも接することもなく、ただ、一人で立ち向かっていた。しかし、幸いなことに、その問題は、この前解決した。その時は僕も一緒に解決に立ち会った。朝比奈とは、高校に入学してからずっと同じクラスだけれど、僕と朝比奈は会話どころか、目を合わした事も無い間柄だったのだが、朝比奈の問題が原因で僕と朝比奈はあの日、初めて会話をすることになった。その時初めて、無口でお淑やかで成績のいい、病弱で内気な女の子という程度の認識しかなかった彼女と、初めて縁というものが生じたのだと言える。
問題の解決。
解決したとはいえ、長きに渡るその問題に付き合ってきた朝比奈にしてみれば、勿論それはそんなに楽観した話ではなく、その後も朝比奈はこの夏休みが始まるまでずっと学校を休んでいた。原因不明の病が治ったと、病院側は朝比奈の体を精密検査すると言って、病院に検査入院していたという。
そしてつい最近。
そういった検査等のことから──朝比奈は解放された。
ついに。
ようやくといったところだ。
「でも、解決とは言っても、私がしたことが許されるものじゃないのは勿論、わかっている。だから、素直に喜ぶにも喜べないのは事実ね」
「そういうもんかね」
許されることじゃない。
と、朝比奈は言うが、僕はそうは思わない。思えないのだ。だって、朝比奈がしたことを責めてしまえば、僕は今後言葉を述べることができなくなってしまいそうだから。
「そういうものよ。私はあの時のことを忘れない、誰にも委ねない。これは私の問題だから」
「そうか、お前がそう言うならいいんじゃないか」
そう、結局は他人が何を言おうと、決めるのはその人自身なのだから。
「えぇ、本当にそう。それに私には悩めるだけの知性があるもの、それだけで幸せと言えるわ」
「……念のために聞くけど、今の文脈だと、まるで、僕が、知性の無い不幸せな奴だって聞こえるんだけど」
「何でわかったの⁉」
「真顔で驚くな!」
全く、単に僕のことを馬鹿って言いたいだけかよ。
久しぶりに会ったというのに、変わらないな。
少しは研ぎたての鉛筆の芯が丸くなったと思ったのに。
けれど、まあ、そんな朝比奈を見ると、安心してしまうのも事実。……僕はこいつに人格まで矯正されてしまったのかもしれない。
「だけど、よかったわ」
「あん? 何がだよ」
「高校生活最後の夏休みも後半戦に移ってしまったけれど、こうして、あなたに会えることができて」
「……へ、へえ」
後半戦って、朝比奈にとって夏休みは何かの試合か何かと思っているのか?
「それに、こうして人が居ようが居まいが何も気にせずにお洒落をして外を出歩くことができるんですもの」
「そうだな」
気軽に外を出歩けない。
それが、朝比奈が抱えていた問題の一つ。
変わる事の無い毎日を過ごす。
誰とも関わらず、同じルーティーンを繰り返す。
「まあ、なんだ、夏休みに僕に会えたって思ってくれたことは素直にありがたいというか、嬉しい話だな」
「違うわ、夜神君。私はあなたに会いたかったのよ。言い方一つで、伝えたいことが大きく変わってしまうのよ」
「お、おぅ……そうか」
朝比奈の伝えたいことはストレートに僕に伝わってくるのだが、如何せん先程から、その決して強調されているわけじゃない、胸部に視線が釘付けになってしまう。その純白のワンピースから伺えるスタイルは病弱という触れ込みだったが、その言葉に信憑性を失くすかのような、健全で発育のいい肉付きに思える。って、僕はまたクラスメイトに対して、なんて下劣な考えを抱いているんだ。
「そんなことより、あの馬鹿二人はまだ来ないの?」
「馬鹿二人って……まあ馬鹿なんだけど。さあ、知らないよ僕には」
「ああ、今のは独り言よ。あなたに期待するだけ無駄だもの」
なんだか、とても酷いことを言われた気がした。
「でも、意外ね。あなたがこんな無意味なことをする人間だったとは思えなかったわ」
「お前も見てただろう? 僕は雨霧に一度借りを作っているんだよ、今日はそのツケが回って来たのさ」
「そう」
それだけ言って、朝比奈は何かを思案している様子で、僕に問いかける。
「それと、一つ気になったのだけれど」
「ん? なんだよ」
「あなた、どうして、友達を作らないの? 高校デビューに失敗して、人生にも失敗したみたいだけれど」
「そこまでは言ってねえなあ!」
僕は高校デビューに失敗した。別段、何かをして失敗したわけじゃない。中学を卒業して、そのまま高校生になっただけなのだが、僕は入学式の日に交通事故に遭っている。そのせいで凡そ一ヶ月入院していた。無事に退院して学校に登校してみると、その時にはもう、グループというグループが形成されていて、僕はどこのグループにも上手く溶け込むことができなかっただけの話だ。
「まあ、僕はこの体になってしまったから、普通の人と仲良くするっていうのは難しい話なんだよ」
「それと──」
「その話はやめてくれ」
朝比奈が話そうとしている所を若干語気が荒くなりながらも制した。その話はしたくない、朝比奈が今、僕に話そうとしたのは──僕の父親の話だ。
「わかったわ、いつか話してくれることを待つわ」
「悪いな、いつかそのうちな」
そうは言ったものの、僕にはその件について話す時が来るのだろうか。
「あ、いたいた! おーい、二人共~」
不意にかけられた声に僕と朝比奈は反応する。
僕たちに声をかけたのは、予想をするまでもなく、雨霧と林道だった。だが、僕が気がかりなのは何故か、雨霧たちの格好が一度帰宅したはずなのに、制服のままだったことだ。
「遅い! お前たちが指定したくせに、それに、何で私服じゃなくて制服姿なんだよ!」
「ごめん、ごめん。支度に手間取ってさ! え? 二人共、何で私服姿なの?」
雨霧はまるで、僕たちの方が可笑しなことを言っているような顔付きで問うてくる。
「一度帰宅したんだから、普通着替えるだろ?」
「え? だって、ファンランだよ? ファンタジーランドと言ったら制服でしょ! 高校生活最後なんだし」
なんだしって、今日はオカルトの類を探すために林道がリサーチしてきた場所という話ではないだろうか?
「まあ、細かいことはいいから、行きましょう!」
「おー!」
僕と朝比奈を他所に、大はしゃぎの馬鹿二人が勢いよく入場ゲートを潜ろうとする。
「ねえ、そこの馬鹿──」
「ちょっと待て」
「何よ」
「流石に直球すぎるぞ、いきなり馬鹿二人ってのは良くない。まあ見てろって、僕がお前にあそこの人種との話し方を教えてやるよ」
「それは見ものね」
朝比奈にここまで言ってしまったし、ここは一つ手本を見せてやらないとイケないな。朝比奈は他人とのコミュニケーションをここ数年交わしていない。そのブランクから他人とのコミュニケーションがお世辞にも上手いとは言えない、だから、僕が少しでも参考として役に立つべきだろう。
「なあ、おい、雨霧、林道──」
「あー、吉良、うるさいから飲み物買って来てくれる?」
「夜神君、私は売店でチキンも買って来て欲しいな!」
「僕はパシリじゃないぞ! この馬鹿二人組が!」
……あ、しまった。
今のやり取りでただならぬ疲労感を覚えながら、朝比奈の元に帰る。
「それで、あれがあなたの言うところのあそこの人種とのコミュニケーションの取り方なのね」
「悪い、僕にもどうやら無理だったみたいだ」
「まあ、期待何てミジンコ程もしてはいなかったけれど、ねえ、そこのお馬鹿さんたち? 今日はオカルトの類を探しに来たのよね、だったら、二手に別れましょう」
「それは、ダメ!」
朝比奈がかなり譲歩した話し方をしているのに雨霧と林道は即断りの言葉を入れてきた。流石に朝比奈も今のにはかなり苛立ったのか、口元は笑みを浮かべているのに、顔が全く笑っていなかった。
「どうしてなのか理由を聞いてもいいかしら?」
「だって、二手に別れたらあなたが吉良を連れて行くんでしょう?」
僕には、朝比奈の提案が的を得ているとしか思えなかった。二手に別れる合理性に、メンバーの割り振りも僕と朝比奈が一緒に行動するのも必然だと思われる。だが、今ここで雨霧が反対することが僕には理解ができなかった。
「このメンツで考えると妥当だと思うのだけれど、それに、私は夜神君に用があるの。あなたたちには正直興味もないわ」
朝比奈は雨霧にハッキリと、辛辣に言葉を投げかける。
うっわ……、相変わらずキツイな。
だけど、せっかくの夏休みに嫌々ながらも来てしまったのなら、僕としては今日という日を存分に楽しみたい。なのに、出だしからこんなのでは前途多難と言ったところだろう。
「わかった、四人で行動しよう。だけど、どこかしらのタイミングで僕とこいつを二人にしてくれないか?」
「うーん、まあ、それならいい、かな? めぐりんもそれでいい?」
「え? う、うん。それでいこう!」
こうして僕たち一行は、なんとかテーマパークに足を運ぶことになった。
「ねぇ、今、私が何を言いたいかわかるかしら?」
僕たちは一度帰宅して、そして、一体何がしたいのかわからないのだが、僕たちはとあるテーマパークに足を運ばせていた。
そして、一番先に目的地にたどり着いた僕に声をかけてきたのは今にも手に持っている鞄からナイフを取り出しそうな顔をしているクラスメイトの朝比奈未来だった。
当たり前の話だが、夏休みで、一度帰宅していることから朝比奈は私服姿だった。いきなりのご立腹な様子で気の利いた言葉でもかけてやろうと思っていたのだけれど、その私服姿が、あまりにも綺麗に見えてしまったために、喉元まででかかった言葉を、僕は、ゴクリと、飲み込んだ。
元々の素材が良いからなのか。
特に変わった格好ではないにもかかわらず、ほぼ全身が白いコーディネートでこの真夏の暑さも涼やかに感じてしまう。白のワンピースから除く白く綺麗な足が異様にエロさを際立たせている。って、僕は何をクラスメイトに対してそんな、卑猥なことを考えているんだ。
「ふん、何よ。もう少し気の利いた言葉をかけられないものかしらね、私までこんな面倒な事に巻き込まれているのに」
「あ、その、いや、なんと言うか……」
「それともあれかしら、女子に免疫のない夜神君は、私の可憐な私服姿に見蕩れてしまって声が出ないのかしら?」
「……」
やはり、こいつにはエスパーの力が備わっているのだろう。だけれど、朝比奈の言葉は概ね、というか的確に僕の心理をついてきたので、上手く言葉が出ない。
「……で、どうなのよ?」
「ど、どうって、何が?」
「嬉しい?」
「だから、何が嬉しいんだ?」
「私の至福姿を目に収めることができたのだから、これ以上の幸せはないということよ」
「お前、自分を過大評価しすぎじゃないのか?」
「少しは喜びなさいよ」
「強制的だっ⁉」
確かに朝比奈の私服姿というのは、この三年間で一度も目にしたことはない。朝比奈は学校行事のほぼ、全てを欠席しているのだから、修学旅行や、遠足等の私服になる行事にもすべて欠席している。そう考えると、確かに僕は今、至福の時間を過ごしているのかもしれないな。
「いや、なんと言うか、この前はジャージ姿だったから、てっきり、お前のファッションセンスは皆無なんだと思っていたんだよ」
「ああ、あの時は一応、動きやすい格好をと思っていたのよ。それに」
「それに、なんだよ」
「まさか、ジャージしか持っていない女の子の下着がガーターベルトな訳ないでしょ?」
「……」
そうだ、言われて思い出した。そういう割に思い出した光景は鮮明に覚えている。強烈な光景。確かに、あの下着はエロかった。
「今、私で変な妄想をしたでしょ。本当にあなたの大事なあれ、切り落とすわよ」
朝比奈はまるで、ゴミを見るような目つきで、僕を見下していた。それに、その言葉は朝比奈が言うことで信憑性を増すように思える。僕は咄嗟に自身の局部を覆うように隠した。
「……今のは、不可抗力だ」
「もう一度──見たい?」
「……え?」
「なんちゃって、ジョークよ。とは言え、私自身、私服で外に出歩くというのは滅多にないことだから。さしあたっては、全快祝いと言ったところね」
「そうかい」
朝比奈未来。
同じ学校の、同じクラスメイトの少女。
朝比奈はつい最近まで、ある問題を抱えていた。その問題を、つい最近まで、長い間ずっと。
約六年間の間。
ずっと。
その問題のせいで、朝比奈は友達を作ることも出来ずに、誰とも接することもなく、ただ、一人で立ち向かっていた。しかし、幸いなことに、その問題は、この前解決した。その時は僕も一緒に解決に立ち会った。朝比奈とは、高校に入学してからずっと同じクラスだけれど、僕と朝比奈は会話どころか、目を合わした事も無い間柄だったのだが、朝比奈の問題が原因で僕と朝比奈はあの日、初めて会話をすることになった。その時初めて、無口でお淑やかで成績のいい、病弱で内気な女の子という程度の認識しかなかった彼女と、初めて縁というものが生じたのだと言える。
問題の解決。
解決したとはいえ、長きに渡るその問題に付き合ってきた朝比奈にしてみれば、勿論それはそんなに楽観した話ではなく、その後も朝比奈はこの夏休みが始まるまでずっと学校を休んでいた。原因不明の病が治ったと、病院側は朝比奈の体を精密検査すると言って、病院に検査入院していたという。
そしてつい最近。
そういった検査等のことから──朝比奈は解放された。
ついに。
ようやくといったところだ。
「でも、解決とは言っても、私がしたことが許されるものじゃないのは勿論、わかっている。だから、素直に喜ぶにも喜べないのは事実ね」
「そういうもんかね」
許されることじゃない。
と、朝比奈は言うが、僕はそうは思わない。思えないのだ。だって、朝比奈がしたことを責めてしまえば、僕は今後言葉を述べることができなくなってしまいそうだから。
「そういうものよ。私はあの時のことを忘れない、誰にも委ねない。これは私の問題だから」
「そうか、お前がそう言うならいいんじゃないか」
そう、結局は他人が何を言おうと、決めるのはその人自身なのだから。
「えぇ、本当にそう。それに私には悩めるだけの知性があるもの、それだけで幸せと言えるわ」
「……念のために聞くけど、今の文脈だと、まるで、僕が、知性の無い不幸せな奴だって聞こえるんだけど」
「何でわかったの⁉」
「真顔で驚くな!」
全く、単に僕のことを馬鹿って言いたいだけかよ。
久しぶりに会ったというのに、変わらないな。
少しは研ぎたての鉛筆の芯が丸くなったと思ったのに。
けれど、まあ、そんな朝比奈を見ると、安心してしまうのも事実。……僕はこいつに人格まで矯正されてしまったのかもしれない。
「だけど、よかったわ」
「あん? 何がだよ」
「高校生活最後の夏休みも後半戦に移ってしまったけれど、こうして、あなたに会えることができて」
「……へ、へえ」
後半戦って、朝比奈にとって夏休みは何かの試合か何かと思っているのか?
「それに、こうして人が居ようが居まいが何も気にせずにお洒落をして外を出歩くことができるんですもの」
「そうだな」
気軽に外を出歩けない。
それが、朝比奈が抱えていた問題の一つ。
変わる事の無い毎日を過ごす。
誰とも関わらず、同じルーティーンを繰り返す。
「まあ、なんだ、夏休みに僕に会えたって思ってくれたことは素直にありがたいというか、嬉しい話だな」
「違うわ、夜神君。私はあなたに会いたかったのよ。言い方一つで、伝えたいことが大きく変わってしまうのよ」
「お、おぅ……そうか」
朝比奈の伝えたいことはストレートに僕に伝わってくるのだが、如何せん先程から、その決して強調されているわけじゃない、胸部に視線が釘付けになってしまう。その純白のワンピースから伺えるスタイルは病弱という触れ込みだったが、その言葉に信憑性を失くすかのような、健全で発育のいい肉付きに思える。って、僕はまたクラスメイトに対して、なんて下劣な考えを抱いているんだ。
「そんなことより、あの馬鹿二人はまだ来ないの?」
「馬鹿二人って……まあ馬鹿なんだけど。さあ、知らないよ僕には」
「ああ、今のは独り言よ。あなたに期待するだけ無駄だもの」
なんだか、とても酷いことを言われた気がした。
「でも、意外ね。あなたがこんな無意味なことをする人間だったとは思えなかったわ」
「お前も見てただろう? 僕は雨霧に一度借りを作っているんだよ、今日はそのツケが回って来たのさ」
「そう」
それだけ言って、朝比奈は何かを思案している様子で、僕に問いかける。
「それと、一つ気になったのだけれど」
「ん? なんだよ」
「あなた、どうして、友達を作らないの? 高校デビューに失敗して、人生にも失敗したみたいだけれど」
「そこまでは言ってねえなあ!」
僕は高校デビューに失敗した。別段、何かをして失敗したわけじゃない。中学を卒業して、そのまま高校生になっただけなのだが、僕は入学式の日に交通事故に遭っている。そのせいで凡そ一ヶ月入院していた。無事に退院して学校に登校してみると、その時にはもう、グループというグループが形成されていて、僕はどこのグループにも上手く溶け込むことができなかっただけの話だ。
「まあ、僕はこの体になってしまったから、普通の人と仲良くするっていうのは難しい話なんだよ」
「それと──」
「その話はやめてくれ」
朝比奈が話そうとしている所を若干語気が荒くなりながらも制した。その話はしたくない、朝比奈が今、僕に話そうとしたのは──僕の父親の話だ。
「わかったわ、いつか話してくれることを待つわ」
「悪いな、いつかそのうちな」
そうは言ったものの、僕にはその件について話す時が来るのだろうか。
「あ、いたいた! おーい、二人共~」
不意にかけられた声に僕と朝比奈は反応する。
僕たちに声をかけたのは、予想をするまでもなく、雨霧と林道だった。だが、僕が気がかりなのは何故か、雨霧たちの格好が一度帰宅したはずなのに、制服のままだったことだ。
「遅い! お前たちが指定したくせに、それに、何で私服じゃなくて制服姿なんだよ!」
「ごめん、ごめん。支度に手間取ってさ! え? 二人共、何で私服姿なの?」
雨霧はまるで、僕たちの方が可笑しなことを言っているような顔付きで問うてくる。
「一度帰宅したんだから、普通着替えるだろ?」
「え? だって、ファンランだよ? ファンタジーランドと言ったら制服でしょ! 高校生活最後なんだし」
なんだしって、今日はオカルトの類を探すために林道がリサーチしてきた場所という話ではないだろうか?
「まあ、細かいことはいいから、行きましょう!」
「おー!」
僕と朝比奈を他所に、大はしゃぎの馬鹿二人が勢いよく入場ゲートを潜ろうとする。
「ねえ、そこの馬鹿──」
「ちょっと待て」
「何よ」
「流石に直球すぎるぞ、いきなり馬鹿二人ってのは良くない。まあ見てろって、僕がお前にあそこの人種との話し方を教えてやるよ」
「それは見ものね」
朝比奈にここまで言ってしまったし、ここは一つ手本を見せてやらないとイケないな。朝比奈は他人とのコミュニケーションをここ数年交わしていない。そのブランクから他人とのコミュニケーションがお世辞にも上手いとは言えない、だから、僕が少しでも参考として役に立つべきだろう。
「なあ、おい、雨霧、林道──」
「あー、吉良、うるさいから飲み物買って来てくれる?」
「夜神君、私は売店でチキンも買って来て欲しいな!」
「僕はパシリじゃないぞ! この馬鹿二人組が!」
……あ、しまった。
今のやり取りでただならぬ疲労感を覚えながら、朝比奈の元に帰る。
「それで、あれがあなたの言うところのあそこの人種とのコミュニケーションの取り方なのね」
「悪い、僕にもどうやら無理だったみたいだ」
「まあ、期待何てミジンコ程もしてはいなかったけれど、ねえ、そこのお馬鹿さんたち? 今日はオカルトの類を探しに来たのよね、だったら、二手に別れましょう」
「それは、ダメ!」
朝比奈がかなり譲歩した話し方をしているのに雨霧と林道は即断りの言葉を入れてきた。流石に朝比奈も今のにはかなり苛立ったのか、口元は笑みを浮かべているのに、顔が全く笑っていなかった。
「どうしてなのか理由を聞いてもいいかしら?」
「だって、二手に別れたらあなたが吉良を連れて行くんでしょう?」
僕には、朝比奈の提案が的を得ているとしか思えなかった。二手に別れる合理性に、メンバーの割り振りも僕と朝比奈が一緒に行動するのも必然だと思われる。だが、今ここで雨霧が反対することが僕には理解ができなかった。
「このメンツで考えると妥当だと思うのだけれど、それに、私は夜神君に用があるの。あなたたちには正直興味もないわ」
朝比奈は雨霧にハッキリと、辛辣に言葉を投げかける。
うっわ……、相変わらずキツイな。
だけど、せっかくの夏休みに嫌々ながらも来てしまったのなら、僕としては今日という日を存分に楽しみたい。なのに、出だしからこんなのでは前途多難と言ったところだろう。
「わかった、四人で行動しよう。だけど、どこかしらのタイミングで僕とこいつを二人にしてくれないか?」
「うーん、まあ、それならいい、かな? めぐりんもそれでいい?」
「え? う、うん。それでいこう!」
こうして僕たち一行は、なんとかテーマパークに足を運ぶことになった。
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