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chapter13
白浜海はそっと過去を語りだす。(3)
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「次はあなたの番よ? 前に言ったこと覚えているかしら? 等価交換。私はあなたの過去を知る権利があると思うのだけれど」
「あー。そういえば、そんなこと言ってたな。最近はそれやってなかったな、わかったよ。俺の過去を話せばいいのか?」
「んーそうね、あなたの過去の話より今は今日の桃坂さんとのデートの話が聞きたいわ」
「そっちか……。まあ等価交換になるか分からないけど、それでいいなら」
俺は白浜に今日のニセコイ計画について大まかな要点だけを話した。主に電車での出来事や、最後に言われたあの言葉などは流石に言えるようなことではないと思い、心の中に閉まっていた。最後に言われた言葉より電車での出来事はこいつに知られるとどんな目に遭うか想像するだけで冷汗が止まらない。俺が要点だけをまとめて話していると、不意に白浜が話を割って口を開く。
「待ちなさい。私に何か隠しているでしょ?」
このエスパーめ! 人がどうにか誤魔化しているんだから、触れられたくないとか察しろよ! そういう所だぞ。
「え? いや、なにも隠してませんよ?」
「いいえ。あなたが嘘を付くときは決まって、生ごみとヘドロをシェーカーで混ぜたような顔をするもの」
……君は、語彙力が豊富でいらっしゃいますね。だが、バレてしまっている以上全部とはいかなくても話さないと解放してくれなさそうだ。俺は電車で起きた出来事以外を詳らかに話した。
「……そうだったのね。それであなたはさっきから彼女のことを考えていたという訳ね」
「あぁ。だけど、考えても考えても答えが出ない。俺はどうすればいい?」
自分で言って呆れてくる。多分俺の心が相当弱っているんだと思う。でなければ、俺がこんな誰かに自分のことを委ねるなんて考えられない。これは俺が考え、悩み、決めなければならない問題だ。きっと白浜の過去を聞き、自分と似た境遇を得ているからどこか信頼に近い同族意識を持ってしまったのだろう。
「なら、明日、私と出かけましょう」
白浜は意外にも俺の嘆きのような問いには耳を向けず全く別のことを話し始めた。そういう所で変な気遣うなよ。
「え? 明日? 良いけど、何するんだ?」
「明日は何の日か分かる?」
「知らん」
先程、俺が白浜に対して行ったチョップの仕返しをされてしまった。
「少しは考える素振りをしなさい」
「いってー。お前、ほんと女? バカ力め」
ドスッともう一発重い一撃が飛んできた。ほんと痛いから。やばい、泣きそう。
「はい、ごめんなさい。明日って言ったら、まさか、花火大会か?」
「そう、花火大会。私、花火大会に一度も行ったこと無いの」
「俺なんかと行っていいのか? そういうのはもっと大事な人と行くべきだろ」
「はぁ、いいから黙って私と来なさい。良いわね?」
呆れたようなため息を吐きながら白浜は命令口調で告げてくる。
この夏休み、これといって予定が入ってない為、断る理由も見当たらず、俺は首を縦にコクリと振り首肯した。
「それなら良かったわ。なら明日は、私にとって、特別な日になるから楽しみにしているわね」
そう言葉にした白浜は、気付けば布団に戻り眠りに堕ちようとしていた。俺はその眠りに就く姿が、あまりにも尊いものに見えた。白浜は目の前に居て、手を伸ばせば届く距離に居るはずなのに、俺の手が白浜に届くことはなかった。
白浜が隣で寝ている緊張も相まって、俺はあのやり取りが終わってからも眠りに就くことはできなかった。
今の俺がどうすべきか答えが見つからないこの状況で、桃坂と白浜。彼女たちと曖昧な関係を続けるべきではない、そう自分の中では結論は出ている、だがそこまでの過程が何一つ浮かんでこない。結論は出ていても、それを立証できなければそれは答えと呼べない。
桃坂からの思いは流石にあれだけ攻められて気付かないほど鈍感じゃない。むしろ敏感で過剰に反応してしまう方だ。だけど、それでも俺がそこで踏みとどまるのは自分の中に棲みついているもう一人の俺がそれを許さない。それは只のザイオンス効果だと、桃坂と接触する機会が急に増え、それがザイオンス効果を引き立て俺が桃坂に好意を抱いているのだと、そんなものがお前の特別なのかと。俺自身それが特別だとは思えてはいない。だが、それでも、桃坂に対してこのままの曖昧な関係を続けることはあまりにも不誠実だと思う。
過去の経験もフルに生かすべく、昔の出来事を思い返していた、そこで、一つの記憶を思い出していた。それは、俺が思い出すのも忘れるくらい、心の奥深くに沈ませていた記憶だった。そして、それは。……過去に俺が初恋をした記憶で、俺が犯した大罪の記憶だ。
「あー。そういえば、そんなこと言ってたな。最近はそれやってなかったな、わかったよ。俺の過去を話せばいいのか?」
「んーそうね、あなたの過去の話より今は今日の桃坂さんとのデートの話が聞きたいわ」
「そっちか……。まあ等価交換になるか分からないけど、それでいいなら」
俺は白浜に今日のニセコイ計画について大まかな要点だけを話した。主に電車での出来事や、最後に言われたあの言葉などは流石に言えるようなことではないと思い、心の中に閉まっていた。最後に言われた言葉より電車での出来事はこいつに知られるとどんな目に遭うか想像するだけで冷汗が止まらない。俺が要点だけをまとめて話していると、不意に白浜が話を割って口を開く。
「待ちなさい。私に何か隠しているでしょ?」
このエスパーめ! 人がどうにか誤魔化しているんだから、触れられたくないとか察しろよ! そういう所だぞ。
「え? いや、なにも隠してませんよ?」
「いいえ。あなたが嘘を付くときは決まって、生ごみとヘドロをシェーカーで混ぜたような顔をするもの」
……君は、語彙力が豊富でいらっしゃいますね。だが、バレてしまっている以上全部とはいかなくても話さないと解放してくれなさそうだ。俺は電車で起きた出来事以外を詳らかに話した。
「……そうだったのね。それであなたはさっきから彼女のことを考えていたという訳ね」
「あぁ。だけど、考えても考えても答えが出ない。俺はどうすればいい?」
自分で言って呆れてくる。多分俺の心が相当弱っているんだと思う。でなければ、俺がこんな誰かに自分のことを委ねるなんて考えられない。これは俺が考え、悩み、決めなければならない問題だ。きっと白浜の過去を聞き、自分と似た境遇を得ているからどこか信頼に近い同族意識を持ってしまったのだろう。
「なら、明日、私と出かけましょう」
白浜は意外にも俺の嘆きのような問いには耳を向けず全く別のことを話し始めた。そういう所で変な気遣うなよ。
「え? 明日? 良いけど、何するんだ?」
「明日は何の日か分かる?」
「知らん」
先程、俺が白浜に対して行ったチョップの仕返しをされてしまった。
「少しは考える素振りをしなさい」
「いってー。お前、ほんと女? バカ力め」
ドスッともう一発重い一撃が飛んできた。ほんと痛いから。やばい、泣きそう。
「はい、ごめんなさい。明日って言ったら、まさか、花火大会か?」
「そう、花火大会。私、花火大会に一度も行ったこと無いの」
「俺なんかと行っていいのか? そういうのはもっと大事な人と行くべきだろ」
「はぁ、いいから黙って私と来なさい。良いわね?」
呆れたようなため息を吐きながら白浜は命令口調で告げてくる。
この夏休み、これといって予定が入ってない為、断る理由も見当たらず、俺は首を縦にコクリと振り首肯した。
「それなら良かったわ。なら明日は、私にとって、特別な日になるから楽しみにしているわね」
そう言葉にした白浜は、気付けば布団に戻り眠りに堕ちようとしていた。俺はその眠りに就く姿が、あまりにも尊いものに見えた。白浜は目の前に居て、手を伸ばせば届く距離に居るはずなのに、俺の手が白浜に届くことはなかった。
白浜が隣で寝ている緊張も相まって、俺はあのやり取りが終わってからも眠りに就くことはできなかった。
今の俺がどうすべきか答えが見つからないこの状況で、桃坂と白浜。彼女たちと曖昧な関係を続けるべきではない、そう自分の中では結論は出ている、だがそこまでの過程が何一つ浮かんでこない。結論は出ていても、それを立証できなければそれは答えと呼べない。
桃坂からの思いは流石にあれだけ攻められて気付かないほど鈍感じゃない。むしろ敏感で過剰に反応してしまう方だ。だけど、それでも俺がそこで踏みとどまるのは自分の中に棲みついているもう一人の俺がそれを許さない。それは只のザイオンス効果だと、桃坂と接触する機会が急に増え、それがザイオンス効果を引き立て俺が桃坂に好意を抱いているのだと、そんなものがお前の特別なのかと。俺自身それが特別だとは思えてはいない。だが、それでも、桃坂に対してこのままの曖昧な関係を続けることはあまりにも不誠実だと思う。
過去の経験もフルに生かすべく、昔の出来事を思い返していた、そこで、一つの記憶を思い出していた。それは、俺が思い出すのも忘れるくらい、心の奥深くに沈ませていた記憶だった。そして、それは。……過去に俺が初恋をした記憶で、俺が犯した大罪の記憶だ。
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