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あたらしい生活 前編
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翌朝、起きれば、目の前には綺麗な顔立ちの男性がいて、絢音は少しどっきりしてしまった。そうだ、私は黒崎さんと同棲を始めたんだと思いだした。ゆっくりと、顔を覗き込んで起こそうかどうか迷っていると。
ぐいっと抱き寄せられて、黒崎を見れば、目を開いてこちらを見ていた。
「お、起きてたんですか……?」
「ああ、起きてたよ。これからは、キスで起こしてもらおうかな」
「っ……できませんっ」
ふっと鼻で笑って「冗談だよ」と言って、黒崎は起きた。
黒崎が準備してくれた朝食を食べて、支度を済ますと秘書の岩間が迎えにきた。
岩間の運転する車に乗り込むと、後部座席で黒崎は絢音を抱き寄せて、うなじに顔を埋めた。
「ちょ……くろ」
「黒崎さんじゃなくて、景吾さんだろ? 絢音」
さきほどまでとは雰囲気がまったく違う彼に絢音は驚いてしまった。ちらりと運転席の岩間を見やれば、何も聞いていないような表情をして、運転に集中していた。
「でも、会社の中では社長って呼ばないとだめだぞ? 俺も北川さんって呼ぶから。そうじゃないと、社員に公私混同だと言われるからね」
「はい……」
ゆっくりと彼は絢音の唇をふさぐと、昨晩同様にゆっくりと舌を入れてきた。教えられたように、しかしためらうように口をあければ、一気に口内を蹂躙されてしまう。彼の手が太ももを優しく撫であげた。
「あっ……んっぁっ……」
岩間がいるのに、こんなことしてはいけないと絢音は思って唇を離そうとするが腰を掴まれて引き寄せられてしまって、離れることができない。そのまま、彼が満足するまでキスをされて、ゆっくりと唇を離したときには絢音はぐったりとして彼にもたれ掛っていた。
「ふっ……絢音、大丈夫か? そんなにキスがよかったか?」
「……」
「どうした?」
「ひどいです……」
まさか岩間がいる前で、不埒なことをするなんて絢音にはまったく考えられないことだった。少しはこちらの身にもなってほしい。そう思えば、絢音の目は次第にうるんでいた。「岩間は口が堅いやつだから心配するな」と黒崎は狼狽えた声で言った。
その後、黒崎は絢音を抱き寄せるだけで特段何もしてこずに、会社に到着した。
到着するなり、秘書課に直行した。
社長の黒崎が来たとわかるなり、秘書課の社員たちは一列に並び、「おはようございます」とあいさつをする。見るだけで圧倒的に秘書課は女性が多く、そして美人揃いなのがわかる。
「おはよう。今日から私の秘書として働いてもらう北川絢音さんだ。そして、彼女はもうすぐ私の妻になる女性だ。当分は岩間と二人で私のサポートをしてくれることになる予定だ」
「初めまして。北川絢音と申します。よろしくお願いいたします」
絢音が頭を下げれば、にこやかな笑顔が向けられた。しかし、皆、目が笑っていないのが絢音にはわかった。それは彼女が歓迎されてはいないことを示していた。黒崎のような若手社長の秘書であれば誰もがなりたがるだろうし、その妻のポジションも秘書課の女性たちであれば望むだろう。けれども、社長秘書の座も妻(婚約者)の座も秘書課の人間ではなく、外部から来た人間が奪ったとなると、彼女たちの心が穏やかでないのは当然だろう。
秘書課に挨拶を終えて、社長室へ向かうと自分達と一緒にいたはずの岩間がいないことに絢音は気づいた。そうすると黒崎が「岩間には別の仕事を当ててある」と言ってきた。
「私はなにをすればいいんですか?」
「基本的に、岩間が全部やる。君は俺にお茶をいれたり、資料の整頓をしてくれればいい」
秘書というよりは雑用係といったほうが正しいのだろう。黒崎が自分を婚約者だけではなく、秘書としておく理由はこれが契約結婚であり、さらに黒崎との契約が終わった時にいろいろ困らないための彼なりの配慮だと絢音は理解していた。
ぐいっと抱き寄せられて、黒崎を見れば、目を開いてこちらを見ていた。
「お、起きてたんですか……?」
「ああ、起きてたよ。これからは、キスで起こしてもらおうかな」
「っ……できませんっ」
ふっと鼻で笑って「冗談だよ」と言って、黒崎は起きた。
黒崎が準備してくれた朝食を食べて、支度を済ますと秘書の岩間が迎えにきた。
岩間の運転する車に乗り込むと、後部座席で黒崎は絢音を抱き寄せて、うなじに顔を埋めた。
「ちょ……くろ」
「黒崎さんじゃなくて、景吾さんだろ? 絢音」
さきほどまでとは雰囲気がまったく違う彼に絢音は驚いてしまった。ちらりと運転席の岩間を見やれば、何も聞いていないような表情をして、運転に集中していた。
「でも、会社の中では社長って呼ばないとだめだぞ? 俺も北川さんって呼ぶから。そうじゃないと、社員に公私混同だと言われるからね」
「はい……」
ゆっくりと彼は絢音の唇をふさぐと、昨晩同様にゆっくりと舌を入れてきた。教えられたように、しかしためらうように口をあければ、一気に口内を蹂躙されてしまう。彼の手が太ももを優しく撫であげた。
「あっ……んっぁっ……」
岩間がいるのに、こんなことしてはいけないと絢音は思って唇を離そうとするが腰を掴まれて引き寄せられてしまって、離れることができない。そのまま、彼が満足するまでキスをされて、ゆっくりと唇を離したときには絢音はぐったりとして彼にもたれ掛っていた。
「ふっ……絢音、大丈夫か? そんなにキスがよかったか?」
「……」
「どうした?」
「ひどいです……」
まさか岩間がいる前で、不埒なことをするなんて絢音にはまったく考えられないことだった。少しはこちらの身にもなってほしい。そう思えば、絢音の目は次第にうるんでいた。「岩間は口が堅いやつだから心配するな」と黒崎は狼狽えた声で言った。
その後、黒崎は絢音を抱き寄せるだけで特段何もしてこずに、会社に到着した。
到着するなり、秘書課に直行した。
社長の黒崎が来たとわかるなり、秘書課の社員たちは一列に並び、「おはようございます」とあいさつをする。見るだけで圧倒的に秘書課は女性が多く、そして美人揃いなのがわかる。
「おはよう。今日から私の秘書として働いてもらう北川絢音さんだ。そして、彼女はもうすぐ私の妻になる女性だ。当分は岩間と二人で私のサポートをしてくれることになる予定だ」
「初めまして。北川絢音と申します。よろしくお願いいたします」
絢音が頭を下げれば、にこやかな笑顔が向けられた。しかし、皆、目が笑っていないのが絢音にはわかった。それは彼女が歓迎されてはいないことを示していた。黒崎のような若手社長の秘書であれば誰もがなりたがるだろうし、その妻のポジションも秘書課の女性たちであれば望むだろう。けれども、社長秘書の座も妻(婚約者)の座も秘書課の人間ではなく、外部から来た人間が奪ったとなると、彼女たちの心が穏やかでないのは当然だろう。
秘書課に挨拶を終えて、社長室へ向かうと自分達と一緒にいたはずの岩間がいないことに絢音は気づいた。そうすると黒崎が「岩間には別の仕事を当ててある」と言ってきた。
「私はなにをすればいいんですか?」
「基本的に、岩間が全部やる。君は俺にお茶をいれたり、資料の整頓をしてくれればいい」
秘書というよりは雑用係といったほうが正しいのだろう。黒崎が自分を婚約者だけではなく、秘書としておく理由はこれが契約結婚であり、さらに黒崎との契約が終わった時にいろいろ困らないための彼なりの配慮だと絢音は理解していた。
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