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あたらしい生活 中編
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初出社を終えて、定時になると黒崎から先にタクシーで帰宅するようにと言い渡されて、先にマ
ンションへと帰ってきた。無駄に神経をすり減らしたせいか、やけに疲れた。
疲れた体に鞭を打ち、ビーフシチューを作った。黒崎が何時に帰宅するかも、夕食を食べてくるかも聞いていない。ソファーにぐったりとした体を預けていると、玄関が開く音がした。
しかし、これ以上体に鞭を打つことができずに、絢音が動くより先に黒崎がリビングへとやってきた。
「疲れたか?」
心配そうな声のあとに、「夕食を作ってくれたのか?」という驚いた声が聞こえた。
「ええ、夕食を食べてくるかどうか訊くのを忘れてしまったので」
「君が作ってくれたのなら、いただこう」
少しうれしそうな声が聞こえて、彼は絢音の隣に座って温めたビーフシチューを食べ始めた。「おいしい」という感想を述べると、絢音は目を細めた。まだ同棲を初めて二日目であるが、なぜか黒崎といると妙に安心できてしまう。
「そうだ。週末に一昨日サインしてもらった婚姻届を役所に出しに行こう。そうしたら、俺たちは正式に夫婦だ」
そうすれば、契約成立だと言わんばかりに絢音には聞こえてしまった。けれども、所詮、この結婚は契約結婚であることには変わりない。自分の生活のために黒崎と結婚をするのだから。気づいたら、絢音は悲しい表情を浮かべていた。
「そんなに俺との結婚が嫌か……?」
目の前の彼は不安げな表情をして、そんなことを絢音に訊いた。
(嫌? 嫌なのかな?)
「わかりません」
「そうだよな……まだ出会って三日だもんな」
そんな彼の声は切なげで絢音はなぜだか胸が苦しくなってしまった。ぎゅっと彼のシャツを掴んで、黒崎を見つめれば「どうした?」という声が降ってきた。
「あの……よ、よかったらお風呂一緒に入りませんか?」
「え?」
気づいたらよくわからないことを口走っていて、絢音の顔は赤く染まっていた。一緒にお風呂に入るなんて、なんて破廉恥なことなのだろうかと彼女は思ってしまった。
「わかった。多分、君は恥ずかしいだろうから俺が先に入るから後から入ってきて……」
それが彼なりの気づかいなのだろうと絢音は思った。黒崎は食べ終わった食器類を片付けて、浴室へと向かってしまった。絢音は熱くなった頬を触って、どうしようとあたふたしていた。
意を決して、浴室へと向かえば、すでに黒崎は中にいるようだった。
ゆっくりと身につけていた服や下着を脱いで、体にバスタオルを巻き付けた。ここから先に言ってしまえば、どうなるかはわからないと思うと同時に、黒崎のことを知りたいという気持ちがあった。少しでも距離を縮めたい……。
浴室のドアを開ければ、ちらりと湯につかっている黒崎がこちらを見た。
絢音はどうしていいかわからずに、もじもじしていると黒崎が「寒いだろうから、こっちこい」と手を伸ばしてきた。絢音はその手を掴んで、湯に体をつけた。
(やっぱり、高級マンションだから浴槽も大きいのね)
二人で入っても余裕があるバスタブだった。その中で黒崎に抱きかかえられるような態勢になってしまった。後ろにいる黒崎の呼吸の音も聞こえるくらい密着していて、心臓がばくばくしてうるさいぐらいだった。
「風呂に誘うってことはそういうことしてもいいってことって解釈していい?」
「えっ……あのっ」
「冗談。さすがに君は処女だからね……時間をかけないと。ちょうど今週末は時間もあるから、どう初夜でも楽しむ?」
「っ……」
みるみるうちに顔の赤さが倍になっていく絢音を黒崎は面白げに見つめていた。「耳とうなじまで真っ赤だよ」と耳元で彼が囁けば、絢音は「や、やめてください」と可愛らしい声を上げた。黒崎は彼女をからかって楽しむと、「寝室で待っている」と告げて先に風呂から出て行った。
ンションへと帰ってきた。無駄に神経をすり減らしたせいか、やけに疲れた。
疲れた体に鞭を打ち、ビーフシチューを作った。黒崎が何時に帰宅するかも、夕食を食べてくるかも聞いていない。ソファーにぐったりとした体を預けていると、玄関が開く音がした。
しかし、これ以上体に鞭を打つことができずに、絢音が動くより先に黒崎がリビングへとやってきた。
「疲れたか?」
心配そうな声のあとに、「夕食を作ってくれたのか?」という驚いた声が聞こえた。
「ええ、夕食を食べてくるかどうか訊くのを忘れてしまったので」
「君が作ってくれたのなら、いただこう」
少しうれしそうな声が聞こえて、彼は絢音の隣に座って温めたビーフシチューを食べ始めた。「おいしい」という感想を述べると、絢音は目を細めた。まだ同棲を初めて二日目であるが、なぜか黒崎といると妙に安心できてしまう。
「そうだ。週末に一昨日サインしてもらった婚姻届を役所に出しに行こう。そうしたら、俺たちは正式に夫婦だ」
そうすれば、契約成立だと言わんばかりに絢音には聞こえてしまった。けれども、所詮、この結婚は契約結婚であることには変わりない。自分の生活のために黒崎と結婚をするのだから。気づいたら、絢音は悲しい表情を浮かべていた。
「そんなに俺との結婚が嫌か……?」
目の前の彼は不安げな表情をして、そんなことを絢音に訊いた。
(嫌? 嫌なのかな?)
「わかりません」
「そうだよな……まだ出会って三日だもんな」
そんな彼の声は切なげで絢音はなぜだか胸が苦しくなってしまった。ぎゅっと彼のシャツを掴んで、黒崎を見つめれば「どうした?」という声が降ってきた。
「あの……よ、よかったらお風呂一緒に入りませんか?」
「え?」
気づいたらよくわからないことを口走っていて、絢音の顔は赤く染まっていた。一緒にお風呂に入るなんて、なんて破廉恥なことなのだろうかと彼女は思ってしまった。
「わかった。多分、君は恥ずかしいだろうから俺が先に入るから後から入ってきて……」
それが彼なりの気づかいなのだろうと絢音は思った。黒崎は食べ終わった食器類を片付けて、浴室へと向かってしまった。絢音は熱くなった頬を触って、どうしようとあたふたしていた。
意を決して、浴室へと向かえば、すでに黒崎は中にいるようだった。
ゆっくりと身につけていた服や下着を脱いで、体にバスタオルを巻き付けた。ここから先に言ってしまえば、どうなるかはわからないと思うと同時に、黒崎のことを知りたいという気持ちがあった。少しでも距離を縮めたい……。
浴室のドアを開ければ、ちらりと湯につかっている黒崎がこちらを見た。
絢音はどうしていいかわからずに、もじもじしていると黒崎が「寒いだろうから、こっちこい」と手を伸ばしてきた。絢音はその手を掴んで、湯に体をつけた。
(やっぱり、高級マンションだから浴槽も大きいのね)
二人で入っても余裕があるバスタブだった。その中で黒崎に抱きかかえられるような態勢になってしまった。後ろにいる黒崎の呼吸の音も聞こえるくらい密着していて、心臓がばくばくしてうるさいぐらいだった。
「風呂に誘うってことはそういうことしてもいいってことって解釈していい?」
「えっ……あのっ」
「冗談。さすがに君は処女だからね……時間をかけないと。ちょうど今週末は時間もあるから、どう初夜でも楽しむ?」
「っ……」
みるみるうちに顔の赤さが倍になっていく絢音を黒崎は面白げに見つめていた。「耳とうなじまで真っ赤だよ」と耳元で彼が囁けば、絢音は「や、やめてください」と可愛らしい声を上げた。黒崎は彼女をからかって楽しむと、「寝室で待っている」と告げて先に風呂から出て行った。
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