あなたが私を好きなだけ

休日の朝

　朝、目が覚めると隣には黒崎がいて、絢音はなんだか不思議な気分になってしまった。しかも、黒崎の腕にしっかりと華奢な体がおさまっていて、体を動かそうと思っても動かせずに、少しだけ戸惑っていた。

　絢音がもぞもぞとしていると、黒崎の目がゆっくりと開いて「起きたか？」という少し枯れた声が聞こえてきた。絢音はゆっくりと黒崎を見つめると、額にキスが降ってきた。

「休日だから少しゆっくりしよう」

　黒崎はそう言って再び目を閉じた。
　しかし、絢音はそんな黒崎の言葉に困惑してしまった。ずっとこの態勢のままなのだろうか、と思うとなぜだかうろたえてしまう。そんな彼女に気づいたのか黒崎は「いやか？」と不安げな声を響かせた。


「いやじゃないですけど、その……」

「なんだ？」

「は、恥ずかしいんです……」

　顔を真っ赤にさせながらそういう絢音に対して、黒崎は「そうか」と言って頭をぽんぽんと撫でた。正直、戸惑う絢音の姿は黒崎にとっては初々しくて可愛らしく思えてしまう。そして、どうしてもそんな絢音の姿を見てしまうと、黒崎の男の部分が反応してしまう。

　思わず絢音をぎゅっと抱きしめれば、一気に顔が林檎のように真っ赤になった。
　彼女も男性の生理現象に対しては少しだけ理解があるような様子であった。


「すまない……落ち着くまで抱きしめてていいか？」

「……っ……はい」

「朝というのもあるが、絢音が可愛らしいのもいけない」

　ぼそりと黒崎はそう呟いた。

　しーんとした空気が二人をつつんで、そんな空気に耐えられなかった黒崎がごほんとわざと咳払いをすると絢音の体がぴくりとした。


「絢音……」

「はいっ」


「結婚したこと、後悔していないか……？」



　また黒崎が不安げな声でそう言うと、絢音は首を横に振った。


　ここで首を縦に振るという選択肢は絢音にはなかった。



　そうかという黒崎の言葉を聞いて、絢音はゆっくりと目を閉じた。



　この結婚はお金でなされた結婚だ。
　自分にとってはありがたい話でしかない。
　ただし、この結婚には「愛」はない……―――。


　絢音は心の中でそう思った。