2 / 4
偽りからの始まり
しおりを挟む
今、私の目の前にいる男は芥川賞作家として名を馳せている。黙々と光を放つパソコンに向かいながら、文字を打ち込んでいるそんな後ろ姿を私は複雑な気持ちで見ている。そうだ、私は彼からしてみたら「女」の一人でしかないから。
彼と出会ったのはサイン会だった。
彼は34歳の芥川賞作家で、受賞後から徐々に人気が出始めていた。なんとなく彼の作品を読んで私は彼に会ってみたくなった。
私は彼を目の前にして嘘をついた。
『ずっと、あなたのファンだったんです』
『どのくらい?』
『あなたがデビューした時からです。私、24歳なんですけど……』
そういうと彼は目を丸くして私を見上げてきた。
彼の反応から私の美貌と若さの虜に一瞬であったのが手に取るようにわかった。
だから、私は彼に差し入れた花束に自分の連絡先をこっそり差し込んでおいた。
それが私と彼の始まりだ。
彼は私をマリアと呼ぶ。それは私の本当の名前ではないけれども、私が咄嗟についた名前を偽ってしまったのだ。私にはマリアなんていう清らかな名前は似合わないのに私はマリアという偽りの名前が好きなのだ。
彼がぱしっとPCを閉じて、私のほうを向いた。私は少し不安げな表情を作りながら「どうしたの?」と小首をかしげてみた。そうすると、彼は「いいや」とだけ答えた。
「お腹すいたでしょう? ごはん作ってあるから一緒に食べよう」
そう言って、立ち上がろうとすると彼が近寄ってきて思いっきり引き寄せられた。
「マリア……。香水……」
発せられた単語に対して、私はまずいと思った。
彼はシャネルの香水の匂いが嫌いなのだった。それなのに私は間違えてシャネルの香水をつけてきてしまった。
「ごめんなさい。嫌いだったわよね。あとでシャワーを浴びて落とすし、次からは気を付けますね」
そう言って、私は作り笑いをして、彼の腕の中から離れた。
「女」の一人だという感覚から彼の好みを忘れてしまった。合わせようとするとこうなってしまうのだ。どうしても、嘘をつき続けるのは私は得意ではない。けれども、彼の傍にい続けるためにはうそが必要なのだ。
彼と出会ったのはサイン会だった。
彼は34歳の芥川賞作家で、受賞後から徐々に人気が出始めていた。なんとなく彼の作品を読んで私は彼に会ってみたくなった。
私は彼を目の前にして嘘をついた。
『ずっと、あなたのファンだったんです』
『どのくらい?』
『あなたがデビューした時からです。私、24歳なんですけど……』
そういうと彼は目を丸くして私を見上げてきた。
彼の反応から私の美貌と若さの虜に一瞬であったのが手に取るようにわかった。
だから、私は彼に差し入れた花束に自分の連絡先をこっそり差し込んでおいた。
それが私と彼の始まりだ。
彼は私をマリアと呼ぶ。それは私の本当の名前ではないけれども、私が咄嗟についた名前を偽ってしまったのだ。私にはマリアなんていう清らかな名前は似合わないのに私はマリアという偽りの名前が好きなのだ。
彼がぱしっとPCを閉じて、私のほうを向いた。私は少し不安げな表情を作りながら「どうしたの?」と小首をかしげてみた。そうすると、彼は「いいや」とだけ答えた。
「お腹すいたでしょう? ごはん作ってあるから一緒に食べよう」
そう言って、立ち上がろうとすると彼が近寄ってきて思いっきり引き寄せられた。
「マリア……。香水……」
発せられた単語に対して、私はまずいと思った。
彼はシャネルの香水の匂いが嫌いなのだった。それなのに私は間違えてシャネルの香水をつけてきてしまった。
「ごめんなさい。嫌いだったわよね。あとでシャワーを浴びて落とすし、次からは気を付けますね」
そう言って、私は作り笑いをして、彼の腕の中から離れた。
「女」の一人だという感覚から彼の好みを忘れてしまった。合わせようとするとこうなってしまうのだ。どうしても、嘘をつき続けるのは私は得意ではない。けれども、彼の傍にい続けるためにはうそが必要なのだ。
0
あなたにおすすめの小説
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
婚約者のことが大大大好きな残念令息と知らんふりを決め込むことにした令嬢
綴つづか
恋愛
――私の婚約者は完璧だ。
伯爵令嬢ステラリアの婚約者は、将来の宰相として期待されている筆頭侯爵令息のレイルだ。冷静で大人びていて文武にも長け、氷の貴公子などと呼ばれている完璧な男性。
でも、幼い頃から感情と表情が読み取りづらいのレイルの態度は、婚約者として可もなく不可もなく、ステラリアはどこか壁を感じていた。政略なこともあるが、引く手あまたな彼が、どうして平凡な伯爵令嬢でしかないステラリアと婚約を結び続けているのか、不思議で不安だった。
だが、そんなある日、偶然にもステラリアは見てしまった。
レイルが自室でベッドローリングをしながら、ステラリアへの愛を叫んでいる瞬間を。
婚約者のことが大好き過ぎるのに表情筋が動かな過ぎて色々誤解をされていた実は残念な侯爵令息と、残念な事実を知ったうえで知らんふりをすることにした伯爵令嬢のラブコメです。
ヒーローとヒロインのどちらかの視点で基本お話が進みますが、時々別キャラ視点も入ります。
※なろうさんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる