Can't stop mylove ~完璧な旦那様との新婚生活～

旦那様、ご乱心

　病院の食堂での貴重なランチタイムを白石と過ごしていた。俺はもちろん乃愛の愛妻弁当のはずだったがここ最近、乃愛は愛妻弁当を作らなくなって「たまには食堂で食べて」とすすめてくる。それに、ここ一週間、えっちを試みたが「そういう気分じゃない」と言われて断られている。

「なあなあ、これ乃愛ちゃんだよな？」

　そう言って白石が差し出してきたのは、若者の女性向け雑誌だった。その表紙にはまだあどけなさが抜けない少女がこちらを見て笑っていた。

　雑誌をめくれば、特集ページが組まれていて、『朝比奈乃愛』と名前がでかでかと出ていた。小さい頃から乃愛はモデルとしていろいろな雑誌に出ていて、結婚する前まではとある雑誌の看板モデルだった。しかし、結婚するからと言って、その雑誌をやめたのだ。

　白石が俺の手から雑誌を奪い取るとぺらぺらとページをめくり、またひょいっと俺の目の前に出して、ページの真ん中らへんを指さした。『同年代男子が選ぶ彼女にしたい女の子・朝比奈乃愛』と書かれていて、男性モデルに微笑む乃愛がいた。それを見ただけで、俺の中ではどろどろとした感情があふれ出てきた。

「しかもこのメンズモデルも女の子から大人気の子じゃん。しかも、こいつ女ったらしで有名だぞ？　乃愛ちゃんのあの性格でぐいぐいこられたらなあ」

「っ………」

　今日は午前しか診察がないから帰宅しようと心に決めた。

＊＊＊

　午後になって、突然ドアが開いたかと思えば、和樹さんが何も言わずにリビングにやってきた。あからさまに機嫌が悪い。「おかえりなさい」と言えば、ドカっとソファーに座り込んで、不満そうに肘をつきながら、こちらを見ていた。誰が見てもこれは怒っている。テーブルの上に置いてあった私のスマホが鳴ると、「スピーカーにして出ろ」と言われる。言われるがまま、電話に出ると、この間雑誌で一緒だった御堂みどうくんだった。

「も、もしもし……？」

『あ、乃愛ちゃん？　ご飯行こうって言ったのになかなか予定決めてくれないから、電話しちゃったよ』

「あ……えっと………ごめんなさい。その……」

『乃愛ちゃん、もしかして彼氏いたりするの？』

　和樹さんは私のスマホを奪うと、「残念だな。乃愛は既婚者だ」と言って、ぶちりと通話終了ボタンを押した。そして、スマホをテーブルに置くと、和樹さんはため息をついた。あからさまに怒っているのがわかる。腰をぐいっと抱き寄せられて、黙って見下ろしてくる鋭い視線。恐怖のあまり涙が出てきてしまう。

「ひくっ………ごめん………なさいっ……」

「しばらくは仕事するのはだーめ。乃愛は働く必要なんてないだろ？　それにほかの男に連絡先を簡単に教えるのもだめだからな。わかったか？」

「はいっ………」

　返事をすると頭を大きな掌で優しく撫でてくれた。

「来週の休みは一日デートな。そうだなあ……久しぶりに買い物でもいくか？」

　ーーー………買い物に連れて行って、そのあとはおいしくいただいてやろうと思うとなぜかふっと笑みがこぼれてしまった。