39 / 68
第39話 こいつ、やっぱりいい奴だ
しおりを挟む
「め、メル。一体どういうことですか?」
「どういうこと、かぁ……」
腕組みをしながら、なおも歩き続けるメル。
そのメルに、ハルナが執拗にまとわりつく。
実際、俺もリザも疑問に思っていることは一緒であり、ハルナと同じ視線を向けていた。
「そうねぇ……これからも背中を預けるパーティーメンバーになら話しておこうかな」
そういって、何やら手を後ろに回す。
嫌な予感に、俺は釘を刺す。
「待て、本当に背中を取って預けるなよ」
「あらバレちゃった?」
思わずズッコケる俺だが、メルは気にもとめずに話し始める。
「前提として、ボッタクリと私は、きっちり手を組んでるわ」
「そうなのか……」
「そんなガッカリした声出さなくてもいいじゃない」
「あんな悪徳商人と組んでると聞けば、誰だってガックリ来るですよ」
リザがツンツンした声で反論する。
ハルナも同調するように首を縦に振った。
「それともう一つ。3層は、私の箱庭だってこと」
「それは想像ついたよ。何だ、あのコレクタールームは」
「ポーチに入れるようなものでもない。倉庫に置くには邪魔になる。そんなものを、あそこに置いてあるのよ。誰も通れないから、私専用って言ってもいいくらいの物置ね」
「だからあんなにスムーズに行けるのか……」
「もちろん、私のスカウトスキルがあってこそだけどね」
ニヤニヤ笑いながら、俺を流し見する。
「ま、だから、あそこで不幸にも全滅、もしくはサバイバーで帰った人々の品々は、私が拝借するわけ。でも、それじゃあんまりでしょ?」
「あんまりというか、ただの泥棒です」
「その通りね。だから、私が回収して、ボッタクリに流すのよ。物によっては、解呪もお願いしてね」
「解呪?」
ゲームでは聞き慣れている言葉だが、この世界では初めて聞いた気がする。
思わず聞き返してしまった。
それに、リザが答えてくれる。
「洞窟内に残された武器や防具は、そのままにしておくと、魔王の障気に当てられて、呪われてしまうんです。呪われた装備をつけてしまうと、外せなくなるだけでなく、身体に悪影響を及ぼします。呪いの強さによりけりですが、最悪は徐々に体力を奪われ続け、死に至ることもあります」
「魔王の障気、恐ろしいもんだな……」
「解説どーも。んで、私もリザも、解呪魔法を持っているけど、解呪をすると、普通は物も壊れちゃうわけよ。でも、ボッタクリなら壊すことなく呪いを解ける。こればっかりは、何度やってもダメだわね。あいつのユニークスキルかもしれないわ」
なるほど、だからこそ唯一の商売が出来るということか。
おのれボッタクリ。
「ま、つまり、そうやって持ってきたものを、元の持ち主に定価の十分の一以下で売らせるのよ。んで、その売り上げの3割が私の手間賃」
「十分の一以下って、安すぎやしないか?」
「ところがそうでもないわ。鎧だって何だって、大抵は既製品じゃなく、セミオーダーくらいになるわ。そうなると、例えば取ってきた鎧は、落とした本人くらいしか装備できないわけ」
「まぁ、そりゃそうか……」
鎧なんてのは、かなり本人に寄せて作られているだろう。
武器にしても実はそうで、鍛冶屋で作って貰った場合、その武器は普通、その人専用に作られる。
既製品で合う場合ももちろんあるが、大抵は若干の仕立て直しが必要となるものだ。
「さて、サバイバーで戻った冒険者たちは、文字通り素っ裸。でも、そこで自分が使っていた装備が格安で売られていたらどうする?」
「当然、買うよな。無理してでも」
「そういうこと。つまり、ボッタクリにとっては絶対的に需要がある品を、私が仕入れてくるって寸法」
以前に揃えていた装備があるのと無いのとでは、冒険者稼業を続けるにあたり、再開する速度はかなり違うものになるだろう。
ある意味での救済措置ということになるだろうか。
「こうやって私はお金を工面しているわけ。どう? なかなか非道だと思わない?」
メルの言葉に、俺たちは沈黙で返した。
あの行動の裏に、こんな事情があることを知らなかったハルナとリザ。
何か、言葉が喉まで出ているが、出し切れない様子だ。
俺も俺で、確信を持てなかった部分に、ようやく確信が持てた。
こいつ、やっぱりいい奴だ。
口では、ああだこうだと悪いように言うけれど、結局のところ、世のため人のため、そして自分のために動いている。
大抵の人間は、自分のために動いている。
それが精一杯な人ばかりだ。
俺だってそうだし、普通はそうだ。
それをメルは、自分のために何かをして、結果としてみんなのために行動をしている。
自分の利益を生み、他者の利益を生む。
そんなことを、自然と行動している。
それがメルだった。
「はぁ、何を勘違いしてるんだか。私は、私のやりたいようにやってるだけよ。それ以上でも、それ以下でもないわ」
「だとしたらお前、格好良すぎだぜ」
「一応、お礼を言うべきかしらね」
「それは任せるわ」
「じゃあ言わない」
楽しそうに笑うメルに、俺はつられて笑う。
ハルナとリザも、まるで心を許したように、無垢な笑顔を向けていた。
「どういうこと、かぁ……」
腕組みをしながら、なおも歩き続けるメル。
そのメルに、ハルナが執拗にまとわりつく。
実際、俺もリザも疑問に思っていることは一緒であり、ハルナと同じ視線を向けていた。
「そうねぇ……これからも背中を預けるパーティーメンバーになら話しておこうかな」
そういって、何やら手を後ろに回す。
嫌な予感に、俺は釘を刺す。
「待て、本当に背中を取って預けるなよ」
「あらバレちゃった?」
思わずズッコケる俺だが、メルは気にもとめずに話し始める。
「前提として、ボッタクリと私は、きっちり手を組んでるわ」
「そうなのか……」
「そんなガッカリした声出さなくてもいいじゃない」
「あんな悪徳商人と組んでると聞けば、誰だってガックリ来るですよ」
リザがツンツンした声で反論する。
ハルナも同調するように首を縦に振った。
「それともう一つ。3層は、私の箱庭だってこと」
「それは想像ついたよ。何だ、あのコレクタールームは」
「ポーチに入れるようなものでもない。倉庫に置くには邪魔になる。そんなものを、あそこに置いてあるのよ。誰も通れないから、私専用って言ってもいいくらいの物置ね」
「だからあんなにスムーズに行けるのか……」
「もちろん、私のスカウトスキルがあってこそだけどね」
ニヤニヤ笑いながら、俺を流し見する。
「ま、だから、あそこで不幸にも全滅、もしくはサバイバーで帰った人々の品々は、私が拝借するわけ。でも、それじゃあんまりでしょ?」
「あんまりというか、ただの泥棒です」
「その通りね。だから、私が回収して、ボッタクリに流すのよ。物によっては、解呪もお願いしてね」
「解呪?」
ゲームでは聞き慣れている言葉だが、この世界では初めて聞いた気がする。
思わず聞き返してしまった。
それに、リザが答えてくれる。
「洞窟内に残された武器や防具は、そのままにしておくと、魔王の障気に当てられて、呪われてしまうんです。呪われた装備をつけてしまうと、外せなくなるだけでなく、身体に悪影響を及ぼします。呪いの強さによりけりですが、最悪は徐々に体力を奪われ続け、死に至ることもあります」
「魔王の障気、恐ろしいもんだな……」
「解説どーも。んで、私もリザも、解呪魔法を持っているけど、解呪をすると、普通は物も壊れちゃうわけよ。でも、ボッタクリなら壊すことなく呪いを解ける。こればっかりは、何度やってもダメだわね。あいつのユニークスキルかもしれないわ」
なるほど、だからこそ唯一の商売が出来るということか。
おのれボッタクリ。
「ま、つまり、そうやって持ってきたものを、元の持ち主に定価の十分の一以下で売らせるのよ。んで、その売り上げの3割が私の手間賃」
「十分の一以下って、安すぎやしないか?」
「ところがそうでもないわ。鎧だって何だって、大抵は既製品じゃなく、セミオーダーくらいになるわ。そうなると、例えば取ってきた鎧は、落とした本人くらいしか装備できないわけ」
「まぁ、そりゃそうか……」
鎧なんてのは、かなり本人に寄せて作られているだろう。
武器にしても実はそうで、鍛冶屋で作って貰った場合、その武器は普通、その人専用に作られる。
既製品で合う場合ももちろんあるが、大抵は若干の仕立て直しが必要となるものだ。
「さて、サバイバーで戻った冒険者たちは、文字通り素っ裸。でも、そこで自分が使っていた装備が格安で売られていたらどうする?」
「当然、買うよな。無理してでも」
「そういうこと。つまり、ボッタクリにとっては絶対的に需要がある品を、私が仕入れてくるって寸法」
以前に揃えていた装備があるのと無いのとでは、冒険者稼業を続けるにあたり、再開する速度はかなり違うものになるだろう。
ある意味での救済措置ということになるだろうか。
「こうやって私はお金を工面しているわけ。どう? なかなか非道だと思わない?」
メルの言葉に、俺たちは沈黙で返した。
あの行動の裏に、こんな事情があることを知らなかったハルナとリザ。
何か、言葉が喉まで出ているが、出し切れない様子だ。
俺も俺で、確信を持てなかった部分に、ようやく確信が持てた。
こいつ、やっぱりいい奴だ。
口では、ああだこうだと悪いように言うけれど、結局のところ、世のため人のため、そして自分のために動いている。
大抵の人間は、自分のために動いている。
それが精一杯な人ばかりだ。
俺だってそうだし、普通はそうだ。
それをメルは、自分のために何かをして、結果としてみんなのために行動をしている。
自分の利益を生み、他者の利益を生む。
そんなことを、自然と行動している。
それがメルだった。
「はぁ、何を勘違いしてるんだか。私は、私のやりたいようにやってるだけよ。それ以上でも、それ以下でもないわ」
「だとしたらお前、格好良すぎだぜ」
「一応、お礼を言うべきかしらね」
「それは任せるわ」
「じゃあ言わない」
楽しそうに笑うメルに、俺はつられて笑う。
ハルナとリザも、まるで心を許したように、無垢な笑顔を向けていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる