たいまぶ!

司条 圭

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第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録

第36話 最悪の危機は……

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「えっ!?」

 私と京さんの力で、閉まりかけていた巨大な扉。

 そこから、一直線に走る稲妻を見た。
 稲妻は、一瞬のうちにどこか果てへと消えていったが、
 露草先輩の護方結界を容易く貫いていた。

 穴を穿った場所からは、電光石火のごとく飛び出してくる何か。
 それは、ユニコーンの頭上50メートルくらいの位置で止まった。

「あははっ! 僕がティターンみたいな考え無しだと思った?
 残念だけど、キーパーの願いを持てた、この千載一遇のチャンス。
 確実にモノにしたいんだよね。
 最初に援軍を呼んだ甲斐があったってものだよ!」

 現れたのは、頭が犬になった小柄な人間。
 いや、体毛が濃く、パッと見ると、むしろ二足歩行になった犬のようだ。
 だが、その赤く光る眼光は鋭く、身体の周囲には常に小さな雷が走っている。

 ケルベロス。

 雷を自在に操り、凄まじい機動力を持つという、ディアボロス。
 その姿は、死神アヌビスを彷彿させた。

「呼んだのは貴様か、小童」

「そんな怖い顔しないでよ、ケルベロス」

「その名で呼ぶな。人間に付けられた名前など、反吐が出る」

「だったら何て呼べばいいのさ。僕らに名前なんて無いのにさ」

 随分と遠い場所でのやりとり。

 それを睨みつけるのは、森川先輩。
 その表情は、至って冷静とは言い難い。

「まぁいいや。ケルベロス、手伝ってよ。
 僕1人じゃちょっと厳しそうなんだよね」

「少し待て。まだ来るぞ」


 まだ来る……?

 その言葉を聞いて、背筋が凍る。

 たった1体のディアボロスでもこれだけ苦戦している。
 
 それなのに、ディアボロスが3体も?

 それに、最後に残ってるディアボロスは……!

「いっちゃん、この状況でペースなんて気にしてられないっ!
 一気に閉めるよ!」

「は、はいっ!」

 京さんの声に、冷静になれた。

 そうだ。
 出てくる前に閉めてしまえばいい。
 扉はあと少し。

 一気に閉めてしまえば、最強と言われる最後のディアボロスは出てこれない。
 ユニコーンの野望も潰える。すべてが解決する道だ。

「いくぜいっちゃんっ! ひたすら押せぇぇぇっ!」

「はいぃぃぃっ!」

 呼吸なんて、今はしていない。
 疲れる身体も無い。
 ただ一心不乱に、力を入れて押し続ける。

 その成果は、充分だった。
 2人の力で、扉はみるみるうちに閉じられていく。
 この調子ならば、少なくともユニコーンはゲートを通過することは出来ない。

「ケルベロス、あそこの閉める役を倒してよ!」

「指図は受けん。だが、協力はしよう」

 ユニコーンは、ゲートの方へ飛ぶ。
 そのユニコーンを、森川先輩が行く手を阻む。

 一方のケルベロスは。

「ひっ……」

 いつの間にか、私たちの目の前にいた。
 じっとこちらを凝視し、観察しているようだ。

「いっちゃん、今は扉に集中!」

「は、はい……!」

 返事はしたものの、集中なんて出来やしない。

 鋭い視線。
 鬼気迫る圧迫感。

 何より身体に纏う雷の気配。

 そんなものを肌で感じ、それこそ生命の危機を覚えるこの状況で、
 集中しろなんていうのは、無理難題もいいところだ。

 雑念混じりに、扉とケルベロスを交互に視線を通わせていると、
 ケルベロスに異変が起きる。

 おもむろに伸ばす右手。
 全身を細かに走っていた雷が、たちまち右手に集中する。

「愛ちゃんっ!」

「任せてっ!」

 いち早く危機を察知した京さん。
 それに一瞬の間も空けることなく反応する愛さん。
 後ろにいたはずの愛さんが、唐突に前に出ると、
 両手をケルベロスの方へ向ける。


 刹那。


 光、音の順番に襲い来る稲妻。
 思わず目を閉じるも、耳を塞ぐ手は扉に集中させた。

 鼓膜が破れそうな痛みを感じることは無い。
 それは、身体に戻った後で来ることを、今更ながらに思い出した。

「いっちゃん、いいよっ! あとちょっとだっ!」

 京さんも耳を塞がなかったようで、扉を閉め続けている。

 愛さんは、手を前に出したまま動かない。
 ただ、大丈夫であることを物語るように、
 こっちに少しばかり振り向いて笑顔を見せてくれた。

「ほう、出来るようになったな、小娘」

「…………」

 挑発じみた言葉に、愛さんは沈黙で応える。

 含み笑いを浮かべると、稲妻を再び叩き込む。
 再び襲い来る光と、響く雷鳴。

 それを、愛さんは両手の平で受け止めていた。

 3発目。

 4発目。

 ほとばしる稲妻を、愛さんは受け続ける。
 眉をしかめ、手を震わせつつも、私たちを守り続けていた。




 もう少しです。

 もう少しで、ゲートが閉まります。

 だからお願いです。

 もうちょっとだけ、みんな頑張って……!


「最後だ、押し込めぇぇぇぇええええ!!」

「やぁぁぁぁあああああ!!」

 真っ黒な悪魔たちが吹き出しているその扉。
 その扉に出来ていた、残されていたわずかな隙間。

 それが、今、大きな音を立てて閉ざされた。
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