たいまぶ!

司条 圭

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第四章 森川厘 ~ローレライ討伐録~

第70話 蹂躙

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「……っ! 来るぞ、ローレライだっ!」



 London bridge is falling down♪

 Falling down falling down♪

 London bridge is falling down♪

 My fair Lady♪



 童謡、ロンドン橋の歌に合わせて霧のように現れるローレライ。

 その容姿は、美しいはずなのに、やはりどこか気味が悪い。
 見ているだけで、恐怖を覚えてしまう。
 しかし、そんな恐怖を与えるローレライが現れた場所は、ローレライにとって最悪の位置となった。

「正に、私に消されるために出てきた場所だな。貴様がゲートを潜る前に、私が引導を渡してくれる……っ!」

 現れた場所は、森川先輩の正面。
 距離にして10mほど。

 こんな絶好の機会……
 逃して良いはずがない。

「唸れ……シングメシアァァァァァアアアアッ!!」

 一瞬にして輝く剣。
 そして放たれる光。
 後ろを向いている私の視界すら光に覆われ、周囲が見えなくなった。

 そんな時間も束の間。
 光は一瞬で過ぎ去る。

 回復しきっていない視界の中。
 認めたくない姿を見てしまう。

「……あー、眩しい」

 何事も無かったように、ゆっくりと飛んでいくローレライ。
 作られた笑顔の仮面。
 黒く長い髪と黒いローブを揺らして飛ぶ姿は、怖いというよりも、おぞましさを感じる。
 森川先輩とのすれ違い様に小さく笑い声を響かせると、凄まじい風と共に過ぎ去っていった。

「通さないわよっ!」

 必然的に、露草先輩の前に来るローレライ。
 仮面のせいでどんな表情をしているかも分からないが、冷酷な冷たいオーラは隠し切れていない。

「邪魔よ。ちゃんと願いを持ってるんだから、ゲートを通過させてよ」

「…………っ!? それを聞いたら、なおさら通すわけにはいかないわっ!」

「あら、やぶへび」

 ローレライの言動は、露草先輩の神経を逆撫でする。
 その様子が悦に入ったのか、不気味な笑い声が響く。

「笑っていられるのも今のうちよ。受けてみなさい、早露が秘剣……」

 七支刀が輝き出す。
 左、右と剣を振り、そして。

「奥義、草薙!」

 鋭く繰り出される真空波。
 その攻撃を、ローレライは最小限の動作で避ける。
 そして、そのまま風を切って、露草先輩の横を抜けていく。

 露草先輩も、草薙を避けられた絶望感か。
 ローレライが目の前に迫っても微動だにしない。

「相変わらず読みやすい軌道よね。おかげで助かったわ」

 横を通過する瞬間。
 何もしない露草先輩を見下すような口調で言う。

 通り過ぎるローレライ。
 その悪魔の軌跡を追いかけるように。
 身体を翻し、そして光り輝く剣を振る。

「露草が秘奥義……草薙・重(かさね)!」

 剣が振られるのと同時に放たれる、2発目の草薙。
 半分ほどの大きさになっているが、全てを切り裂くその性質は変わっていないように思える。

 完全に油断し、後ろを振り返る気配も無いローレライ。
 これはいける。
 誰もが確信した、次の瞬間。

 一瞬にして消えたかと思うと、再び現れたローレライ。
 何が起こったのかは分からない。

 ただ、ローレライは、あの一瞬のうちに回避行動を取ったようで、草薙は虚しく空を切り、そして消えていった。

「あら危ない」

 ヌケヌケと言い放つ。
 そして、髪をかき上げながら、呆れたような声で。

「ダメだよ。奇襲を掛けるつもりなら、ちゃんと殺気を消さないと。バレバレだってば」

 嘲笑とも言える笑い声を響かせ、次は千里の前に来る。

 千里は、既に羽織りから鎧に換装し、聖剣を持って待ち構えていた。

「覚悟するです!」

「あら、角を倒したエクスカリバーね。ちょっと怖いかも」

 両手の掌から、無数の真っ黒な棘の鞭を伸ばす。
 妖しく蠢く様は、見ているだけでも不気味で、おぞましいものだ。

「遊んでる時間は無いから、手早く行くわね」

 一斉に襲いかかる鞭。
 以前に森川先輩が戦った時と同様、全方位からの攻撃が千里を襲う。

「くっ……!」

 その攻撃を見るや否や、とっさに左手を前に出すと、聖剣の鞘を召還する。
 その鞘により、完璧に防ぐバリアを展開していた。

 しかし……何とか身を守ってはいるが、剣を繰り出す余裕は無く、やはり防戦一方のようだ。

「しばらく遊んでてね。私は行くから」

「くっ……ま、待つですっ!」

 鞭は無限に繰り出しつつも、そのままゲートへ飛んでいく。
 さすがの千里も、全方位防御をしながらの攻撃は出来そうにない。
 しかし、そのままでは埒があかない。

 ついに、千里が勝負に出る。

「ハァァァァァァァアアアアアッ!!」

 距離も開き、鞭の攻撃が少し弱まったその瞬間。
 全ての攻撃を受けつつも、剣に金色のオーラを纏わせる千里。

 その光は、聖剣の力を解放するものだった。
 一瞬のうちに完成するエクスカリバー。

 あらゆる魔を消し去る、聖なる光。
 それを、ローレライ目掛けて放つ。



 その直前。



「ごめんね、これが狙いだったからさ」


 既に、千里の目の前に立っていたローレライ。

 手には、細く束ねた棘の鞭。
 その鞭が常に回転するように動いている様は、鞭で作られたドリルそのものだった。

 そう。

 最初から、エクスカリバーを放つ、この直前を狙っていたのだ。

「バイバイ♪」

 ローレライの腕が動く。

 千里は、何もすることが出来ない。
 何が起きているのかも、理解出来ていない。

 あと、1秒もしないうちに、ローレライの棘は、千里の喉を貫くだろう。

 それを、指をくわえて見ているしかないのか。

 そんなはずはない。

 私に出来ることがある。



 だって。

 
 ローレライの動きを予測して、既に阻止出来る位置まで来ていたんだから!
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