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第四章 森川厘 ~ローレライ討伐録~
第76話 託された想いと願い
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「一子、無理はダメです!」
後ろから聞こえた千里の声。
それを聞いた途端、剣に込めた力が逆流し、私の元に戻ってきた。
そして、気がつけば、背後には金色の光が照らしている。
「エクス……カリバァァァァアアア!!」
迫り来る悪魔たちに、金色の波が襲いかかる。
前に見たものとは、明らかに小さい聖剣の光。
でも、それで充分だった。
次の瞬間には、目の前にいた悪魔たちは跡形もなく消え去っている。
両腕を斬り飛ばされた千里がどうやって剣を振ったのか。
反射的に振り向くと、そこには、剣を口にくわえている千里の姿があった。
聖剣を口から吐き捨てると、剣はゆっくりと消失していく。
「よかった……一子、無理すると死んじゃうですよ?」
「千里…………」
思わず千里の身体を抱き寄せる。
ただでさえ小さい身体が、更に小さくなっている。
声も、いつものような元気は無く、それこそ死ぬ直前のようだ。
自然に涙が流れてくる。
そして、やはりローレライが許せなくなった。
こうなってしまった、全ての元凶はローレライだ。
あいつを倒さなければ、気が済まない。
自然に視線がローレライに行く。
あいつを睨みつける。
その視線に気づいたのか、笑みを浮かべて返してきた。
「よくも……!」
「一子、冷静になるです」
抱きかかえている千里の一言。
その言葉は、魔法にでも掛かったかのように、頭を冷やしてくれた。
「今、一子がやることは、ローレライを倒すことじゃないです。一子には、露草先輩を……そして、森川先輩を助けて欲しいです」
「森川先輩を……助ける? 元に戻す方法があるのっ?!」
一縷の希望を託す。
その言葉に縋る。
何とかして、森川先輩を元に戻してあげたい。
その一心で。
しかし、千里の首はゆっくりと横に振られる。
「それは無理です。汚されたカルマを元に戻す方法なんてないです。それはつまり、森川先輩を戻す方法も無いということです」
「そんな……じゃあ、何で助けるなんてっ!」
「……一子も、分かってるはずです」
千里の言葉は、私の胸を潰す。
そう。
分からない振りをした。
千里には、あえて望みを託すように言った。
私も、心のどこかでは分かっていた。
森川先輩を救うということ。
それはつまり…………
「露草先輩と森川先輩では、絶対に勝ち目なんて無いです。でも、一子。一子なら、森川先輩と戦えるです。そして、森川先輩を助けることが出来るです」
千里の頬から落ちる涙。
それを拭うも、上から落ちる涙が更に頬を伝っていく。
気づけば私も泣いていた。
もう、たくさんの感情が入り交じってしまって、とてもじゃないけれど自分の想いを把握し切れていない。
そんな複雑な心を、千里の言葉が少しずつ解してくれている。
「ごめんね、一子。本当は、私がやるべきことです。普通の女の子だった一子に、人を殺める行為をさせたくなかったです……でも、今出来るのは、一子だけなんです」
千里の、肩の付け根のあたりが動いている。
腕があったら、私の涙を拭ってくれていたのだろう。
私は、千里を強く抱きしめる。
「お願いです。森川先輩を救ってください。私にも、露草先輩にも出来ないことを……一子にお願いしたいです」
「うん…………私やるよ。今、私がやらないといけないことだから」
千里の身体をゆっくりと置く。
そして、森川先輩と同じ大きな剣を構え、剣戟の鳴る方へと跳躍した。
「アアアアアアアアアアアアァァァァッ!!!」
「厘さん……お願い、もうやめて!」
懇願しながら、防戦一方の露草先輩。
それは、森川先輩を攻撃したくないという気持ちだけではなく、防御に徹しなければ捌けないという方が正しい。
傍目から見ても、その懸命な防御も崩されているように思える。
そして、やはりそれは瓦解した。
「あっ……」
七つに分かれた剣が弾き飛ばされる。
その隙を逃すまいと、剣を振りかぶる森川先輩。
声を上げる間もなく、無慈悲にもその剣は襲いかかる。
「させないっ!」
振り下ろされたのも一瞬の出来事。
しかし、何とか間に割り込み、露草先輩を救うことに成功する。
「朝生さん……!?」
「先輩、下がってっ!」
森川先輩のターゲットは、自然に私へと移る。
「アアアァァァァッ!!」
目にも止まらない攻撃。
私はそれを、軽く受け止める。
更に繰り出してくる連撃。
それも、私は軽く捌くことが出来た。
千里の言うとおり、森川先輩を救うことが出来るのは私だけだ。
露草先輩も千里も、剣の実力はとても追いつかない。
私だって、追いついている、なんて大それたことは言えない。
でも、私が得意としているのは、皆の真似事。
つまり、森川先輩の太刀筋すらも真似に過ぎない。
故に、追いつけるはずはない。
ただ、太刀筋を知っているということは、対処もしやすいということ。
攻撃が来る場所が読めるなら、それだけでも露草先輩を大きく上回るアドバンテージを持っているということになる。
「ガアアアァァァァ……!!」
「やぁぁぁぁぁああああああ!!」
鏡を見ているかのように、同じ場所に攻撃を繰り出す私と森川先輩。
それに苛立ちが募っているのか、声には若干の怒気が見て取れた。
突然、森川先輩が距離を取り、私を観察している。
「朝生さん、無理はしないでっ!」
端から見れば冷や冷やする光景なのだろう。
露草先輩は、焦りの色を見せて叫んでいる。
「私は大丈夫です。それに、千里に頼まれました。露草先輩と森川先輩を救ってくれって。露草先輩は助けられたので、次は森川先輩の番なんです」
「……あなた、それがどういう意味か分かって」
「もちろんです。でも……その前に、呼びかけてみます。森川先輩が、元に戻ることを願って」
剣を構え、森川先輩を見据える。
なんという変わりきった姿だろう。
剣を一振りする度に揺れていた綺麗な銀髪。
鋭く、突き刺すような視線の中に秘められていた優しさ。
どこまでも気高く凛々しい姿は、私だけでなく、みんなに信頼され、みんなの憧れであり、みんなの拠り所だった。
ところが、今は…………
銀色の髪は、奇妙に逆立っており、おぞましささえ感じる。
殺気しか宿していない視線。
騎士のような甲冑は全て真っ黒になって全身を覆う。
鎧そのものが既に皮膚となっているのか。
血管にも似た赤い線が鎧に走っており、僅かに脈打っている。
誰しもが恐怖を覚えてしまう狂戦士。
今、目の前にいる森川先輩は、そういうものだった。
後ろから聞こえた千里の声。
それを聞いた途端、剣に込めた力が逆流し、私の元に戻ってきた。
そして、気がつけば、背後には金色の光が照らしている。
「エクス……カリバァァァァアアア!!」
迫り来る悪魔たちに、金色の波が襲いかかる。
前に見たものとは、明らかに小さい聖剣の光。
でも、それで充分だった。
次の瞬間には、目の前にいた悪魔たちは跡形もなく消え去っている。
両腕を斬り飛ばされた千里がどうやって剣を振ったのか。
反射的に振り向くと、そこには、剣を口にくわえている千里の姿があった。
聖剣を口から吐き捨てると、剣はゆっくりと消失していく。
「よかった……一子、無理すると死んじゃうですよ?」
「千里…………」
思わず千里の身体を抱き寄せる。
ただでさえ小さい身体が、更に小さくなっている。
声も、いつものような元気は無く、それこそ死ぬ直前のようだ。
自然に涙が流れてくる。
そして、やはりローレライが許せなくなった。
こうなってしまった、全ての元凶はローレライだ。
あいつを倒さなければ、気が済まない。
自然に視線がローレライに行く。
あいつを睨みつける。
その視線に気づいたのか、笑みを浮かべて返してきた。
「よくも……!」
「一子、冷静になるです」
抱きかかえている千里の一言。
その言葉は、魔法にでも掛かったかのように、頭を冷やしてくれた。
「今、一子がやることは、ローレライを倒すことじゃないです。一子には、露草先輩を……そして、森川先輩を助けて欲しいです」
「森川先輩を……助ける? 元に戻す方法があるのっ?!」
一縷の希望を託す。
その言葉に縋る。
何とかして、森川先輩を元に戻してあげたい。
その一心で。
しかし、千里の首はゆっくりと横に振られる。
「それは無理です。汚されたカルマを元に戻す方法なんてないです。それはつまり、森川先輩を戻す方法も無いということです」
「そんな……じゃあ、何で助けるなんてっ!」
「……一子も、分かってるはずです」
千里の言葉は、私の胸を潰す。
そう。
分からない振りをした。
千里には、あえて望みを託すように言った。
私も、心のどこかでは分かっていた。
森川先輩を救うということ。
それはつまり…………
「露草先輩と森川先輩では、絶対に勝ち目なんて無いです。でも、一子。一子なら、森川先輩と戦えるです。そして、森川先輩を助けることが出来るです」
千里の頬から落ちる涙。
それを拭うも、上から落ちる涙が更に頬を伝っていく。
気づけば私も泣いていた。
もう、たくさんの感情が入り交じってしまって、とてもじゃないけれど自分の想いを把握し切れていない。
そんな複雑な心を、千里の言葉が少しずつ解してくれている。
「ごめんね、一子。本当は、私がやるべきことです。普通の女の子だった一子に、人を殺める行為をさせたくなかったです……でも、今出来るのは、一子だけなんです」
千里の、肩の付け根のあたりが動いている。
腕があったら、私の涙を拭ってくれていたのだろう。
私は、千里を強く抱きしめる。
「お願いです。森川先輩を救ってください。私にも、露草先輩にも出来ないことを……一子にお願いしたいです」
「うん…………私やるよ。今、私がやらないといけないことだから」
千里の身体をゆっくりと置く。
そして、森川先輩と同じ大きな剣を構え、剣戟の鳴る方へと跳躍した。
「アアアアアアアアアアアアァァァァッ!!!」
「厘さん……お願い、もうやめて!」
懇願しながら、防戦一方の露草先輩。
それは、森川先輩を攻撃したくないという気持ちだけではなく、防御に徹しなければ捌けないという方が正しい。
傍目から見ても、その懸命な防御も崩されているように思える。
そして、やはりそれは瓦解した。
「あっ……」
七つに分かれた剣が弾き飛ばされる。
その隙を逃すまいと、剣を振りかぶる森川先輩。
声を上げる間もなく、無慈悲にもその剣は襲いかかる。
「させないっ!」
振り下ろされたのも一瞬の出来事。
しかし、何とか間に割り込み、露草先輩を救うことに成功する。
「朝生さん……!?」
「先輩、下がってっ!」
森川先輩のターゲットは、自然に私へと移る。
「アアアァァァァッ!!」
目にも止まらない攻撃。
私はそれを、軽く受け止める。
更に繰り出してくる連撃。
それも、私は軽く捌くことが出来た。
千里の言うとおり、森川先輩を救うことが出来るのは私だけだ。
露草先輩も千里も、剣の実力はとても追いつかない。
私だって、追いついている、なんて大それたことは言えない。
でも、私が得意としているのは、皆の真似事。
つまり、森川先輩の太刀筋すらも真似に過ぎない。
故に、追いつけるはずはない。
ただ、太刀筋を知っているということは、対処もしやすいということ。
攻撃が来る場所が読めるなら、それだけでも露草先輩を大きく上回るアドバンテージを持っているということになる。
「ガアアアァァァァ……!!」
「やぁぁぁぁぁああああああ!!」
鏡を見ているかのように、同じ場所に攻撃を繰り出す私と森川先輩。
それに苛立ちが募っているのか、声には若干の怒気が見て取れた。
突然、森川先輩が距離を取り、私を観察している。
「朝生さん、無理はしないでっ!」
端から見れば冷や冷やする光景なのだろう。
露草先輩は、焦りの色を見せて叫んでいる。
「私は大丈夫です。それに、千里に頼まれました。露草先輩と森川先輩を救ってくれって。露草先輩は助けられたので、次は森川先輩の番なんです」
「……あなた、それがどういう意味か分かって」
「もちろんです。でも……その前に、呼びかけてみます。森川先輩が、元に戻ることを願って」
剣を構え、森川先輩を見据える。
なんという変わりきった姿だろう。
剣を一振りする度に揺れていた綺麗な銀髪。
鋭く、突き刺すような視線の中に秘められていた優しさ。
どこまでも気高く凛々しい姿は、私だけでなく、みんなに信頼され、みんなの憧れであり、みんなの拠り所だった。
ところが、今は…………
銀色の髪は、奇妙に逆立っており、おぞましささえ感じる。
殺気しか宿していない視線。
騎士のような甲冑は全て真っ黒になって全身を覆う。
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