たいまぶ!

司条 圭

文字の大きさ
78 / 88
第四章 森川厘 ~ローレライ討伐録~

第78話 シングメシア

しおりを挟む
「ヴァァァアアアアアッ!!

 そんな顔が垣間見えたのは一瞬のこと。

 私は、凄まじい力で押されてしまう。
 その押される直前。

 確かに聞こえた、森川先輩の声。

 聞き間違いじゃない。

 まるで、深海の奥深くから聞こえてきたかのような、野太くも微かな声。
 その声は、確かに言っていた。






 殺せ。







 思わず、剣を握る力が弱まる。

 急に怖くなってきた。

 上辺だけは、覚悟は出来た、なんて言うことが出来た。
 でも、いざ、森川先輩を手に掛けると思うと…………

 力が入らない。
 脚が震え、身体も上手く動かなくなってくる。

「アアアァァァァ……ァァァァァアアアアアッ!!」

 突っ込んでくる森川先輩。
 ハッと我に返り、剣を捌きに掛かる。

「くっ!」

 途端に、攻撃を受けるのが厳しくなる。

 私の身体が上手く動かないせいもあるけれど、それ以上に森川先輩の攻撃が激しさを増していた。
 さっきまでは手加減していたかのように、剣を振る速度、重さに差が出ている。

 数回、剣を交えただけで、既に限界が来ていた。
 剣を弾き飛ばされると思った、正にその直前。
 雨のような攻撃がピタリと止み、一気に後退していった。

 そして。

「…………一子オオオオオオオ!!!」

 その叫び。

 森川先輩の最後の理性が、私に向けた心の叫び。

 目には殺意を放ちつつも、大量の涙を湛えていた。



 もう、限界が来ている。

 これ以上、人を傷つけたくない。
 仲間を、友を傷つけたくない。

 私を止めてくれ。

 人で有りたい。
 有り続けたい。
 悪魔に堕ちたくない。

 殺せ。
 殺してくれ。
 お前の手で殺してくれ。




 最後に残った理性が放った叫びは、私の身体を浸透し、森川先輩のメッセージを否応無しに伝えてくる。



 …………
 …………

 迷わない。
 もう迷ったりはしない。

 こうしてあげることが、森川先輩にとって一番良いことなのだから。

「やあぁぁぁぁぁああああああ!!

「オオオオオオオオォォォォォ!!」

 シングメシアに力を込める。
 それに合わせるように、森川先輩もシングメシアと思しきものを発動させる。

 銀色の光ではなく、漆黒の闇が纏う。
 だが、それも、放つ直前で止めているようだった。

 それはきっと、森川先輩の最後の理性。
 森川先輩が、それを止めているのだ。

 私のシングメシアはまだ完成していない。

 だから、森川先輩は止めてくれているんだ。



 魂からの、身の危険を知らせる警告は振り切った。

 それからは、何かが吹っ切れたように力が注がれていく。

 まだ大丈夫。

 そう自分に語りかける。

 今、私に出来る、最大の力を込めて…………

 今、シングメシアが完成した。


「…………先輩。テスト勉強、ありがとうございました」

 口に出せたのは、その一言だけ。

 もっと伝えたいことはたくさんあるはずなのに。

 余裕が無い今、惜別の時を噛みしめる暇も無い。

 視界がぼやける。

 目の前にいる森川先輩がよく見えない。

 最後には、目を閉じることで、その姿を視界から消す。

「唸れ…………シングメシアァァァァァアアアアア!!」

 光が包み込むと同時に響く断末魔。

 纏っていた闇も、全てが銀色の光に飲み込まれ、そして消えていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...