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第11話 メリエス様、またも謀られる
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「メリエス様とりあえずあそこで話を聞きましょう」
俺はメリエス様は数分ほど歩き、遠くに見えてきた立派な外観の建物を指差した。
「ほほぅ、立派な建物じゃな。その者の配下の屋敷か? どうやらこの街は完全にその者の支配下にあるようじゃな」
メリエス様は未だに妄想に囚われている様子だった。
仮に完全に支配しているというのなら別に聞き込みなどせずとも直接その者の屋敷を尋ねれば良いだけだ。
その者は家を持たず、定宿も特に決まっていないからこうして聞き込みをしようとしているのだから。
「いえ、アレはその者の職場です。ですので、あそこで聞けばその者の居場所が分かると思いまして」
「なんだ、そうなのか。残念じゃ」
町を裏から完全支配しているわけではないとようやく理解してメリエス様は少し残念そうにそう呟く。
「それにしても何やら戦士風の男達がえらく多いのう」
俺達が歩いている最中も複数のいかにも戦い慣れしてそうな戦士や魔法使いの人影が目標の建物へと入って行く姿が見えた。
「えぇ、そうですね。あそこはそういう所ですから」
俺がそう言うと、メリエス様の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶが、俺は構わず目標の建物へと進む。
「……なぜ手を握るのじゃ?」
「デー……じゃなかった。こうしておいた方が良いと思いまして」
俺が不意に手を握った事にメリエス様は不信そうな顔で俺に尋ねてきたので俺は正直にそう答えた。
もちろんデートなのだから手を繋ぐのは全くもって当然なのだが、目的はそれ以外にもある。
「はっはー、おかしいのぅ。私にはアレが噂に聞く例の施設に見えてきたぞ」
メリエス様はぎこちない笑いを浮かべながらも手のひらには汗をかき始めていた。
そして、俺に手を引かれてその建物に近づくにつれてメリエス様の挙動が明らかにおかしくなっていった。
「おいっ、ジレ! なぜ何も答えんのじゃ?」
メリエス様はそう言いながらも薄々建物の正体に気付いているのか俺の手を振りほどこうともがくがもちろん俺は手を離さない。
とはいえ、このままではメリエス様が延々と独り言を話すちょっと痛い子になってしまうので俺はメリエス様の気になっている建物の名を伝えることにした。
「あぁ、伝えるのを忘れていましたね。ここは冒険者協会ベーンヘルク支部。冒険者が集う場所ですね」
俺が真実を告げるとメリエス様の身体がぷるぷると震え始めた。
ここに来て、スライム君の真似事だろうか?
確かにメリエス様は草原で出会った只のスライムをいたく気に入っている様子だった。
そんなお茶目な所もメリエス様の美点の一つと言ってよいだろう。
「き、き、き、貴様また謀りおったなぁー!」
そんな事を思っていたのも束の間メリエス様は突然叫び出した。
俺としてはメリエス様の楽しみを奪わないために少し間だけ伝えずにおいただけなのである。
いわばちょっとしたサプライズ。
全てはメリエス様を愛しているが故の事なのだ。
決して、メリエス様の可愛い所を見たいだけなどという自分勝手な欲望によるものではない。
「あぁぁぁ! 勇者が私を狩りに来るぅぅぅ!」
冒険者協会の真ん前でそんなことを叫ぶものだからメリエス様に近くいた冒険者や市民達の注目が集まった。
流石にメリエス様を魔王だと見抜いて剣を向けてくる冒険者は皆無だが、かなり目立っているのは間違いない。
「メリエス様、落ち着いてください。メリエス様が魔王だという事はまだ人間界には知られておりません。仮に魔人だという事がバレてもせいぜい魔人が来たと大騒ぎになって勇者がやってくるくらいですよ」
メリエス様を落ち着かせるべく俺はそう耳打ちした。
ちなみにメリエス様にはあえて言わなかったが、この街には勇者は滞在していない。
来るにしても時間がかかるはずなので、最悪俺達が魔人だという事がバレても相手にするのはベーンヘルクの上位冒険者だけである。
「だーかーらー、それでもダメじゃろぉぉぉー!」
俺が思うにメリエス様が騒ぎ出さなければ全然大丈夫だと思うのだが、それを言ってももう遅い。
既にメリエス様の叫び声に反応した冒険者達が俺達を包囲しているのだから。
そして、例の如く。
「おいっ! 貴様! その少女をどうする気だ!」
ほらやっぱり。
包囲している冒険者の1人が俺に向かってそう叫んだ。
どうやらまたも俺が美少女攫いの変態だと勘違いされたようである。
何度でも言うが俺がちょっとだけニヤニヤしているのはメリエス様の手の感触を味わっている時のいわば副作用的なアレで決して俺が変態だからなのではない。
「デー……じゃなかった。俺達は人探しをしているだけだ。邪魔をするな」
「嘘を吐くな! 少女が怯えているだろう! その手を放せ!」
どうやら話が通じないようだ。
メリエス様がビビっているのは寧ろお前らが取り囲んでいる所為であってお前らさえいなければ今もメリエス様は俺とのきゃっきゃうふふのデートを楽しんでいたであろうことを理解できないようである。
「メリエス様、先程と同じように——」
と俺はメリエス様に耳打ちするが、「勇者が来る……勇者が来る……」と俺の声が聞こえていないのか呪文のようにブツブツと呟いている。
どうやら冒険者協会の真ん前という立地と冒険者に包囲されている今の状況でメリエス様は遂に正気を保てなくなったようである。
そんな間にも俺達を包囲している冒険者達からは「抵抗はやめろ!」や「少女を離せ! 変態め!」など最早罵倒に近い暴言まで吐き捨てられている。
(あー、なんかもうめんどくさいなー。いっそのこと冒険者協会ごと爆破してしまおうか?)
俺はメリエス様は数分ほど歩き、遠くに見えてきた立派な外観の建物を指差した。
「ほほぅ、立派な建物じゃな。その者の配下の屋敷か? どうやらこの街は完全にその者の支配下にあるようじゃな」
メリエス様は未だに妄想に囚われている様子だった。
仮に完全に支配しているというのなら別に聞き込みなどせずとも直接その者の屋敷を尋ねれば良いだけだ。
その者は家を持たず、定宿も特に決まっていないからこうして聞き込みをしようとしているのだから。
「いえ、アレはその者の職場です。ですので、あそこで聞けばその者の居場所が分かると思いまして」
「なんだ、そうなのか。残念じゃ」
町を裏から完全支配しているわけではないとようやく理解してメリエス様は少し残念そうにそう呟く。
「それにしても何やら戦士風の男達がえらく多いのう」
俺達が歩いている最中も複数のいかにも戦い慣れしてそうな戦士や魔法使いの人影が目標の建物へと入って行く姿が見えた。
「えぇ、そうですね。あそこはそういう所ですから」
俺がそう言うと、メリエス様の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶが、俺は構わず目標の建物へと進む。
「……なぜ手を握るのじゃ?」
「デー……じゃなかった。こうしておいた方が良いと思いまして」
俺が不意に手を握った事にメリエス様は不信そうな顔で俺に尋ねてきたので俺は正直にそう答えた。
もちろんデートなのだから手を繋ぐのは全くもって当然なのだが、目的はそれ以外にもある。
「はっはー、おかしいのぅ。私にはアレが噂に聞く例の施設に見えてきたぞ」
メリエス様はぎこちない笑いを浮かべながらも手のひらには汗をかき始めていた。
そして、俺に手を引かれてその建物に近づくにつれてメリエス様の挙動が明らかにおかしくなっていった。
「おいっ、ジレ! なぜ何も答えんのじゃ?」
メリエス様はそう言いながらも薄々建物の正体に気付いているのか俺の手を振りほどこうともがくがもちろん俺は手を離さない。
とはいえ、このままではメリエス様が延々と独り言を話すちょっと痛い子になってしまうので俺はメリエス様の気になっている建物の名を伝えることにした。
「あぁ、伝えるのを忘れていましたね。ここは冒険者協会ベーンヘルク支部。冒険者が集う場所ですね」
俺が真実を告げるとメリエス様の身体がぷるぷると震え始めた。
ここに来て、スライム君の真似事だろうか?
確かにメリエス様は草原で出会った只のスライムをいたく気に入っている様子だった。
そんなお茶目な所もメリエス様の美点の一つと言ってよいだろう。
「き、き、き、貴様また謀りおったなぁー!」
そんな事を思っていたのも束の間メリエス様は突然叫び出した。
俺としてはメリエス様の楽しみを奪わないために少し間だけ伝えずにおいただけなのである。
いわばちょっとしたサプライズ。
全てはメリエス様を愛しているが故の事なのだ。
決して、メリエス様の可愛い所を見たいだけなどという自分勝手な欲望によるものではない。
「あぁぁぁ! 勇者が私を狩りに来るぅぅぅ!」
冒険者協会の真ん前でそんなことを叫ぶものだからメリエス様に近くいた冒険者や市民達の注目が集まった。
流石にメリエス様を魔王だと見抜いて剣を向けてくる冒険者は皆無だが、かなり目立っているのは間違いない。
「メリエス様、落ち着いてください。メリエス様が魔王だという事はまだ人間界には知られておりません。仮に魔人だという事がバレてもせいぜい魔人が来たと大騒ぎになって勇者がやってくるくらいですよ」
メリエス様を落ち着かせるべく俺はそう耳打ちした。
ちなみにメリエス様にはあえて言わなかったが、この街には勇者は滞在していない。
来るにしても時間がかかるはずなので、最悪俺達が魔人だという事がバレても相手にするのはベーンヘルクの上位冒険者だけである。
「だーかーらー、それでもダメじゃろぉぉぉー!」
俺が思うにメリエス様が騒ぎ出さなければ全然大丈夫だと思うのだが、それを言ってももう遅い。
既にメリエス様の叫び声に反応した冒険者達が俺達を包囲しているのだから。
そして、例の如く。
「おいっ! 貴様! その少女をどうする気だ!」
ほらやっぱり。
包囲している冒険者の1人が俺に向かってそう叫んだ。
どうやらまたも俺が美少女攫いの変態だと勘違いされたようである。
何度でも言うが俺がちょっとだけニヤニヤしているのはメリエス様の手の感触を味わっている時のいわば副作用的なアレで決して俺が変態だからなのではない。
「デー……じゃなかった。俺達は人探しをしているだけだ。邪魔をするな」
「嘘を吐くな! 少女が怯えているだろう! その手を放せ!」
どうやら話が通じないようだ。
メリエス様がビビっているのは寧ろお前らが取り囲んでいる所為であってお前らさえいなければ今もメリエス様は俺とのきゃっきゃうふふのデートを楽しんでいたであろうことを理解できないようである。
「メリエス様、先程と同じように——」
と俺はメリエス様に耳打ちするが、「勇者が来る……勇者が来る……」と俺の声が聞こえていないのか呪文のようにブツブツと呟いている。
どうやら冒険者協会の真ん前という立地と冒険者に包囲されている今の状況でメリエス様は遂に正気を保てなくなったようである。
そんな間にも俺達を包囲している冒険者達からは「抵抗はやめろ!」や「少女を離せ! 変態め!」など最早罵倒に近い暴言まで吐き捨てられている。
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