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第3章 聖竜襲来編

第63話 それでも俺はやってない

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「何っスか? これ……」


皆が言葉を失っている中、ガランの声が小さく辺りに響いていた。

目の前に広がる破壊の跡。

アルジールが放った第2級魔法雷嵐流とは比べ物にならない壮絶な威力の攻撃だった事を物語るようにあの光が通った後には何も残らず、その破壊の跡は永遠と続いていた。


「あ、兄貴ぃ~、今だ、逃げようぜぇ~」


「……あぁ」


あの破壊の跡ではすっかり戦意を喪失したのかゾデュスも素直にガデュスの言葉に頷いていた。

どうやらゾデュスとガデュスもなんとか無事だったらしい。

気づいたように、アリアスも全員の無事を確認するために声を出した。


「全員無事ですか?」


ゾデュス達とは反対側に退避していた俺達全員の顔を確認したアリアスはほっと胸をなでおろす。


「……全員無事なようですね。ありがとうございました。クドウさん、貴方が気づいていなければどうなっていた事か……」


あの破壊の跡を見てアリアスは俺に礼を言う。

ゾデュスとガデュス以外の魔人は全て死んでしまったのだろう。

魔人を跡形も残さず全てを飲み込んだ光。

回避が少しでも遅れていたらアリアス達も死んだ魔人と同じ運命をたどっていたのは間違いない。


「あっ、おいっ! 待てッス!」


ガランが突然声を上げ、俺達がいる反対側を見るとゾデュスとガデュスが逃走を始めているのが見えた。

だが、ゾデュス達を追うものはいない。

ゾデュス達への対応よりも今はあの攻撃の正体を知る方が先なのだ。

その直後、開けている森のはるか上空を凄まじい速度でシラルーク方面に飛び去る何かを俺達の内の何人かが目撃し、その中のシステアが大きな声を上げた。


「アレはまさか? ……いや、そんなはずは」


「えっ、何っすか? なんもいないっスけど」


ガランが不思議そうに上空をみるが、飛び去った何かの姿はもう既に見えなくなっていた。——が。


「あっ」


既に飛び去った何かを追うように3体の竜がはるか上空を飛び去っていく。


「竜っスね」


そう、竜である。

それを見ていたシステアが確信を得たように言う。


「え、エレメンタルドラゴン……。では先程のはやはり!」


「エレメンタルドラゴン? あの伝説のですか? ということは最初の飛んで行ったのはまさか『聖竜』様?」


聖竜とは人間界において神聖化されているドラゴンの始まりとされている始祖竜の1体だ。

そしてエレメンタルドラゴンとは風・地・水と3体いる聖竜配下の竜の総称である。

伝説によれば聖竜は人間界に最初に魔法をもたらした存在とされ、その後はほとんど人間界に姿を見せることはなかったという。

ちなみにユリウス教に次ぐ勢力を誇る『聖竜教』の神として君臨している存在でもある。


「先程の光が聖竜様によるものだとすると……嫌な予感がしますね」


「……そうだな。すぐにシラルークに戻ろう」


ゾデュスとガデュスの事は一先ず置いといてシラルークに戻る事に決まったようだ。


「ということでいいですか? クドウさん。 ……あれ? どうかされましたか?」


「……えっ、いや、なんでもないですよ、うん、はい」


システアが少し挙動不審な俺を見て、不思議そうにしている。

少し、うん、少しだったに違いない。

とはいえ俺は内心で凄まじい冷や汗を流しそうな心境だった。

流してないよな? うん。大丈夫。流石は俺だ。

汗一つかいてない事を確認した俺は自画自賛するがアルジールは心配そうに俺に声をかけてきた。


「大丈夫ですか? クドウ様。魔力の流れが乱れまくっておりますが」


「えっ、違うよ、俺は何もしてないからな。そもそも俺が原因と決まったわけでは……」


流石は魔王軍元四天王にして俺の側近である。俺の異変に気付くとは伊達ではないな。


「……??? 何の話ですか?」


「いや、本当になんでもない」


——のはずだ。きっとそうに違いない。たまたまだ。これはたまたまなのだ。


「し、システアさん! シラルークに戻りましょう!」


「え、えぇ、そうですね」


なぜかハイテンションな俺を不思議に思いつつ、システアは転移門の魔法を発動させたのだった。
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