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第4章 魔界編
第101話 ユリウスの敵
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「あぁ、クソ。あの化け物め。好き放題ぶっ放しおって」
フィーリーアとの戦いを終えたユリウスは未だ天界には戻らず魔界にあるとある屋敷へとやってきていた。
この場所を知る者はユリウスを含めても数えるほどしかなく、屋敷の周りにはユリウス達が時間をかけて張った偽装の結界が幾重にも張り巡らせてあった。
魔人はおろかこの世界に君臨する最高神にさえ当たりをつけて念入りに捜索しなければ看破することができないほどの強力な物だ。
配下の天使や召使いもいない屋敷の中を歩いて、ユリウスはある部屋へとたどり着いた。
「む、俺が先着か」
フィーリーアとの戦いを終えこの屋敷に他のメンバーを呼び出したのはユリウスなので当然と言えば当然の結果ではあったが。
「どうせ、あいつは暇だろうに」
ユリウスが部屋の入り口で不満そうにそう呟くと不意に後ろから声をかけられた。
「あいつって誰の事なのかしら?」
ユリウスがゆっくりと振り返ると、美人ながら気だるそうな雰囲気で全てを台無しにしている女がそこには立っていた。
「さぁ、誰だろうな? 自分の仕事を全て俺に押し付けた女がいた気がするがその女ではないだろうか」
ユリウスが嫌味っぽく言うと女は悲しそうに大げさな演技で反撃する。
「あぁ、その女の人可哀想……。先にみんなを残してどこかに消えたのは男の方だというのに自分は少し面倒事を押し付けられたくらいで女の人が悪く言われちゃうなんて……。この世はなんて理不尽なんでしょう」
これを言われるとユリウスは弱い。
確かに女の言っていることは間違っていないが、その男としてはあの時どうしようもなかったのだ。
だが、女の方は違う。
女の方はただただ面倒になって自分の仕事を放棄したのだ。
気持ちは分からなくはなかったが、恐らく男の行動に対する当てつけだったのだろうとユリウスは今でもそう考えている。
「……まぁいい。座れ。話がある」
「そう、なんとなく見当はついてるけど座りましょうか」
ユリウスと女はそうして部屋の中央にあった円卓の席に着いた。
「誰を呼んだの? ジンさんも来るの?」
「いや、ジンさんまで呼ぶと不味い気がしたから呼んでない」
「そう、それがいいわね。じゃあ先輩を?」
「あぁ、あの人はあまり警戒されていないからな。だがお前と違って忙しいからまだ来てないようだな。先に始めてしまおう」
そう言ってユリウスは何にもないはずの空間に腕を突っ込むと空間が歪みんで、肘から先が消えた。
「私、ワインは飲めないわよ」
「心配するな、ぶどうジュースだ。流石にこんな時にワインは飲まん」
ユリウスは歪んだ空間から瓶を引き抜くと、続いてグラスを2つ取り出し、円卓の上に置いた。
そして、ユリウスはぶどうジュースの栓を開けてグラスにぶどうジュースを注ぎながら話を始める。
「つい先ほどだが、かの楽園の始まりの竜と戦ってきた」
「やっぱりね。いきなりあの聖竜様とアンタと魔王の反応が消えたからそうだと思ったわ。……それでまた負けたのね。3神の一人ともあろう男がなんと情けない」
女はユリウスにそう言ってユリウスから受け取ったグラスの中身をグイっと一気に飲み干した。
また負けたというのは魔王ギラスマティアに続いてという事だ。
実際ユリウスは魔王ギラスマティアに敗北後戦闘はしていないので、2連敗を喫した事になる。
相手が悪かったと言えばそれまでだが、神に成るまで無敗を誇っていたユリウスにとって2回連続の敗北は初めての体験であった。
「誰が負けたと言った?」
「えっ、まさか勝ったの? あの竜に傷の一つでも負わせることができたの?」
確かにユリウスはフィーリーアに傷一つ負わせることができなかったのは事実だが、よくよく考えればフィーリーアとの戦いはクドウのよく分からない発言によって中断されたのだからアレは負けではないはずだ。
「引き分けといった所だな。クドウが邪魔をしていなければもしかしたら勝っていた可能性すらある」
女はユリウスの話を聞きながら、空になったグラスにぶどうジュースを注ぎつつ言った。
「このジュース美味しいわね。……それで本当の所は?」
ユリウスの話をまったく信じていない女はユリウスに尋ねた。
女はふざけている風だったが、真剣でもあった。
曖昧な情報共有で困るのはユリウスだけではなく女も同じだからだ。
女に問われ、仕方なくユリウスはあの戦闘で思った事を話し始めた。
「くっ、確かに強かったよ。魔法はまったく効かない上に、ユリスリティアでさえ歯が立たなかった。加えて言えばアレですら本気を出していないのだろう。自らに制限を課していたか俺程度に本気を出す必要性を感じなかったかは分からないがな」
「はい、よくできました、えらいえらい」
女が笑顔で言うと、一変真剣な表情で更に言った。
「……まぁ予想はついていたけどね。そうじゃなきゃあの方がわざわざ策を弄する必要がないものね。来るべき聖戦には絶対必要な存在という訳ね、アレは。……ていうかホントにいいの? 今なら後戻りできるわよ? 先輩とジンさんはなんて言うか分からないけど私は……」
「それ以上言うな。それがあの方の願いだ。誰が敵になろうとも俺はあの方の意思を尊重する。それに俺は許せんのだ。あの方の信頼を裏切り、己の欲のまま行動するあの男がな」
心配そうな女に言ったユリウスの顔には脳裏に浮かぶ男に対する軽蔑の表情が浮かんでいた。
フィーリーアとの戦いを終えたユリウスは未だ天界には戻らず魔界にあるとある屋敷へとやってきていた。
この場所を知る者はユリウスを含めても数えるほどしかなく、屋敷の周りにはユリウス達が時間をかけて張った偽装の結界が幾重にも張り巡らせてあった。
魔人はおろかこの世界に君臨する最高神にさえ当たりをつけて念入りに捜索しなければ看破することができないほどの強力な物だ。
配下の天使や召使いもいない屋敷の中を歩いて、ユリウスはある部屋へとたどり着いた。
「む、俺が先着か」
フィーリーアとの戦いを終えこの屋敷に他のメンバーを呼び出したのはユリウスなので当然と言えば当然の結果ではあったが。
「どうせ、あいつは暇だろうに」
ユリウスが部屋の入り口で不満そうにそう呟くと不意に後ろから声をかけられた。
「あいつって誰の事なのかしら?」
ユリウスがゆっくりと振り返ると、美人ながら気だるそうな雰囲気で全てを台無しにしている女がそこには立っていた。
「さぁ、誰だろうな? 自分の仕事を全て俺に押し付けた女がいた気がするがその女ではないだろうか」
ユリウスが嫌味っぽく言うと女は悲しそうに大げさな演技で反撃する。
「あぁ、その女の人可哀想……。先にみんなを残してどこかに消えたのは男の方だというのに自分は少し面倒事を押し付けられたくらいで女の人が悪く言われちゃうなんて……。この世はなんて理不尽なんでしょう」
これを言われるとユリウスは弱い。
確かに女の言っていることは間違っていないが、その男としてはあの時どうしようもなかったのだ。
だが、女の方は違う。
女の方はただただ面倒になって自分の仕事を放棄したのだ。
気持ちは分からなくはなかったが、恐らく男の行動に対する当てつけだったのだろうとユリウスは今でもそう考えている。
「……まぁいい。座れ。話がある」
「そう、なんとなく見当はついてるけど座りましょうか」
ユリウスと女はそうして部屋の中央にあった円卓の席に着いた。
「誰を呼んだの? ジンさんも来るの?」
「いや、ジンさんまで呼ぶと不味い気がしたから呼んでない」
「そう、それがいいわね。じゃあ先輩を?」
「あぁ、あの人はあまり警戒されていないからな。だがお前と違って忙しいからまだ来てないようだな。先に始めてしまおう」
そう言ってユリウスは何にもないはずの空間に腕を突っ込むと空間が歪みんで、肘から先が消えた。
「私、ワインは飲めないわよ」
「心配するな、ぶどうジュースだ。流石にこんな時にワインは飲まん」
ユリウスは歪んだ空間から瓶を引き抜くと、続いてグラスを2つ取り出し、円卓の上に置いた。
そして、ユリウスはぶどうジュースの栓を開けてグラスにぶどうジュースを注ぎながら話を始める。
「つい先ほどだが、かの楽園の始まりの竜と戦ってきた」
「やっぱりね。いきなりあの聖竜様とアンタと魔王の反応が消えたからそうだと思ったわ。……それでまた負けたのね。3神の一人ともあろう男がなんと情けない」
女はユリウスにそう言ってユリウスから受け取ったグラスの中身をグイっと一気に飲み干した。
また負けたというのは魔王ギラスマティアに続いてという事だ。
実際ユリウスは魔王ギラスマティアに敗北後戦闘はしていないので、2連敗を喫した事になる。
相手が悪かったと言えばそれまでだが、神に成るまで無敗を誇っていたユリウスにとって2回連続の敗北は初めての体験であった。
「誰が負けたと言った?」
「えっ、まさか勝ったの? あの竜に傷の一つでも負わせることができたの?」
確かにユリウスはフィーリーアに傷一つ負わせることができなかったのは事実だが、よくよく考えればフィーリーアとの戦いはクドウのよく分からない発言によって中断されたのだからアレは負けではないはずだ。
「引き分けといった所だな。クドウが邪魔をしていなければもしかしたら勝っていた可能性すらある」
女はユリウスの話を聞きながら、空になったグラスにぶどうジュースを注ぎつつ言った。
「このジュース美味しいわね。……それで本当の所は?」
ユリウスの話をまったく信じていない女はユリウスに尋ねた。
女はふざけている風だったが、真剣でもあった。
曖昧な情報共有で困るのはユリウスだけではなく女も同じだからだ。
女に問われ、仕方なくユリウスはあの戦闘で思った事を話し始めた。
「くっ、確かに強かったよ。魔法はまったく効かない上に、ユリスリティアでさえ歯が立たなかった。加えて言えばアレですら本気を出していないのだろう。自らに制限を課していたか俺程度に本気を出す必要性を感じなかったかは分からないがな」
「はい、よくできました、えらいえらい」
女が笑顔で言うと、一変真剣な表情で更に言った。
「……まぁ予想はついていたけどね。そうじゃなきゃあの方がわざわざ策を弄する必要がないものね。来るべき聖戦には絶対必要な存在という訳ね、アレは。……ていうかホントにいいの? 今なら後戻りできるわよ? 先輩とジンさんはなんて言うか分からないけど私は……」
「それ以上言うな。それがあの方の願いだ。誰が敵になろうとも俺はあの方の意思を尊重する。それに俺は許せんのだ。あの方の信頼を裏切り、己の欲のまま行動するあの男がな」
心配そうな女に言ったユリウスの顔には脳裏に浮かぶ男に対する軽蔑の表情が浮かんでいた。
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