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第4章 魔界編

第155話 期待

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クロナ達が外へと出ると広場にはアルジールが待っていた。


「ここでなら遠慮なくやれるな」


確かにアルジールの言う通り、既にほとんどの町の人への避難は完了しており、町に人の姿はなかった。

とはいえ、当たり前だが建物などはそのまま残っているので普通に考えれば遠慮なくやれるとは程遠い状況なのだが、そんなことをアルジールは気にしないのである。

クロナ達の後からはぞろぞろとシステアや冒険者達が出てくるが、クロナとレナザードと違い、少し広場の中心から離れた位置に陣取り、アールの戦いを見守ろうとしている。

クロナはレナザードから少し離れ、再度剣を構えるとアルジールが言った。


「まどろっこしいのは好きではない。こちらから行くぞ?」


アルジールはそう言って自身近くの空間に幾多もの魔法陣を展開させると、その全ての魔法陣から雷嵐流を発動させた。

発動された雷嵐流は時間差で様々な角度からクロナに襲い掛かる。

凄まじい速度で連続して向かってくる雷嵐流を避けながらクロナは思う。


(連続攻撃とは思えない威力ですね。流石にフィーリーア様とは比べるべくもありませんが。……それでも人間が出せる威力ではない)


そんなクロナの背後へと通過する雷嵐流は地を抉り、町の建物を抉り、接触したあらゆる物体に何の抵抗を感じさせることなく大穴を開けていく。

更にどう考えても半端ではない消費魔力なはずなのに、アルジールの攻撃は全く止む気配がない。

雷嵐流を撃ち終えて消えた魔法陣の数と同じだけ新たに魔法陣が空中に出現し続け、クロナに攻撃を仕掛け続ける。


「……ちょこまかと!」


攻撃が当たらない事に苛立ちを覚えたアルジールは背後から自らの放つ雷嵐流に気にもかけず雷撃を纏わせた聖剣でクロナに猛攻を仕掛けるがそれでもクロナに攻撃は当たらない。

まるでクロナには世界が止まって見えているかのように高密度の攻撃をギリギリの所で回避し続けていた。


「……なんだというのじゃ? この戦いは」


傍目から見ているシステアには2人の動きが全く見えない。

魔法陣が出ているのでアールがクロナに魔法による攻撃を仕掛けていることは辛うじて分かるが、それ以上の情報は読み取れなかった。

それ以外に分かっている事といえばまだ二人が戦っているという事くらい。

そして、クロナがアールの異常とも言える攻撃の全てを防いでいるという事だけだった。

システアはクロナの事もそうだったが、アールがこれほど強いとは思っていなかった。

単純な身体速度もそうだが、第2級魔法を秒間に数発のペースで撃ち続けている魔力総量。どれを取ってもシステアの常識ではありえない物ばかりだった。

状況はまったく読めないが、アリアスやガランが戦っていた時とは明らかに違うようにシステアには思えた。


「まさか勝てるのか? あの女に」


アールが言うにはあの女は四天王ミッキーではないらしいが、それでもそれに近しい魔人なのだろう。

ブリガンティス軍軍団長であるゾデュスと比べても明らかに強い点から見てもそれは間違いない。

そんな相手に互角の戦いを演じているのだからシステアがそう思うのは無理のないことだった。

そんなシステアとは対照的にレナザードは少し不機嫌そうだった。

そしてぽつりと小さな声で呟いた。


「クロナめ、すぐ終わらせると言っていたのにいつまで遊んでいる気だ……」


その声は戦いに集中しているシステア達には聞こえることなかった。
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