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第4章 魔界編

第169話 資格

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俺の振り下ろした拳は周囲の驚きを他所に見事に頭部にヒットした。

たんこぶを避けたのを俺のせめてもの優しさである。



頭部を殴られたアルジールはゆっくりと目を覚ましたかと思うとガバっと体を起こし、周囲を見渡した。





「よぅ、ようやく目を覚ましたか」





「……あの女は? 私は負けたのですか?」





「あぁ、お前は負けた」





キョロキョロと辺りを見回したアルジールに俺が事実だけを告げるとアルジールはベッドからゆっくりと降り、その場でなんと土下座をし始めた。



アルジールの突然の行動にアリアス達は驚いたようにアルジールに釘付けになっている。

俺は魔王時代に結構見慣れているが、アリアス達からすれば人が土下座する事などあまり見たことがないのだろう。





「おいっ、なにしてる?」





俺は土下座の態勢になったアルジールにそう言うが、アルジールはそのままの態勢で話し始めた。





「【魔王】の一員でありながら、どこの誰かも分からぬ輩に敗北を喫し、クドウ様に多大な苦労と恥辱を与えてしまいました。クドウ様に仕える者としてあってはならないことです。どうか愚かな私に罰をお与えください」





そんなアルジールの行動を見て、なぜかメイヤもそんなアルジールに倣ってかアルジールの横で土下座をし始める。

メイヤは今回特に何もやらかしてはいないが、意味が分かってやっているのだろうか?

そんな光景を見下ろすアリアス達の視線がかなり痛い。



お前が勝った負けたよりも今、一番恥をかいているので即刻やめてもらいたい。





「いいから頭を上げろ。終わったことはいい。それに名誉挽回の機会はすぐ来るぞ」





そんな俺の言葉にアルジールは頭をゆっくりと上げた。





「と仰いますと?」





「あぁ、魔王軍だが来るのは3日後らしい。罰はいいから3日後の魔王軍との戦いに備えろ」





俺がそう言ってアルジールの顔に小さな笑みが戻るのとシステアが大声を上げたのはほぼ同時の事だった。





「そ、それは本当ですか!? クドウさん」





当分はやってこない宣言をしていたのに3日後と言われたのだからシステア達の驚きは凄まじいものだっただろう。

とはいえ、情報元は確かなので、3日後に魔王軍がやってくるのは間違いのない事実だ。



俺はクロナ達との戦いの結末や色タイツの登場などを言える範囲で簡単に説明すると、不可解そうな顔をしつつもシステア達は納得してくれた。





「その情報をくれたのはその内の赤タイツを着た変な奴ですが、間違いないと思います」





なんせ見た目はアレだが、一応は3神の一人であるユリウスの配下だ。

3日後になったらすぐバレてしまうような嘘を俺に流すわけがない。





「あぁ、それとアリアスさんにですが——」





システア達が神妙な表情で俺の話を聞く中、俺は茶タイツから言われていた事を思い出した。

さっさと伝えておかないと、忘れてしまいそうなので、この場で俺は伝えることにする。





「茶色タイツの奴に「塔のカギを開けておく。本来の資格は得ていないけど許可が出た」——と言われたのですが心当たりはありますか?」





「……塔? ですか?」





俺に言われ、一瞬考えた様子を見せたアリアスだったが、一つの可能性に思い至ったのかゆっくりと口を開く。





「人間界最北端にある試練の塔の事でしょうか?」





そう言われても俺には分からない。

言えばわかると言われたので俺は伝えただけなのだから。





「アリアスさんがそう思ったのだったらそうなのではないですか? 俺は伝えたら分かると言われただけなので」





「なら多分試練の塔で間違いないと思います。僕は以前、試練の塔に言ったことがあるのですが、「資格がない」と言われ、試練を受けられませんでしたから」





アリアスが言うには試練の塔はこれから俺達が行く予定だったエルナス王国王都エルナスティアから更に北に行った場所にあるらしい。

ユリウス教の聖典にも記されている伝説によると、試練の塔は天界に通じていて、勇者となった者に試練を課し、それを乗り越えた者に大いなる力を授けられると伝わっているそうだ。

アリアスもそれに倣い試練の塔へと向かった事があるそうだが、試練の塔に入る入口の前で「資格がない」と謎の声に言われ、結局試練は受けられなかったらしい。





「資格ってなんですか?」





普通に考えれば勇者という存在自体が資格となりそうな話だが、アリアスが入れなかった所を見ると、他に何かが必要なのだろう。





「分かりません。謎の声は「資格がない」としか言いませんでしたから」





俺の質問にアリアスはそう答えるが、本人すら分からない資格をどう得ればいいというのだろうか?





「歴代の勇者はどうやって資格を得たのですか?」





「僕の知る限りですが、試練の塔に入ったという話は聞きませんね。少なくとも僕の師匠は魔王ギラスマティア討伐の旅に出る時になっても資格は得られなかったみたいです」





あぁ、ソリュード君か。

確かに弱くはなかったが、今のアリアスよりも弱かったアイツじゃ資格を得るのは難しいだろう。



魔王と戦う為の力を授ける事のできない試練の塔などほとんど機能を果たしているとは思えないが、それでも今回は資格を免除してくれるということなので、まぁ一応は手助けをしてくれるという事のようだ。

アホ共の考える事はよく分からないが、使える物は使わせてもらう事としよう。





「まぁ今回は使えるという事らしいので、どんな力をもらえるのかは分かりませんが行ってみましょうか?」





こうして俺達は予定とは少し違う事になったが、試練の塔に一番近い町、エルナス王国エルナスティアへと旅立つことになった。

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