灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

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沈黙の檻

潜入・廃倉庫周辺/午前1時58分

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 濃い霧が地面を這っていた。湿った空気が皮膚にまとわりつく。
 人気のない工業地帯の一角。腐った鉄の匂いと、遠くで鳴く猫の声。

 蓮はしゃがみこみ、夜視スコープ越しに倉庫の出入口をじっと監視していた。

 「巡回、一人。時計回りで90秒ごと。出入口は三か所……ただし西側搬入口以外は塞がれてる」

 「つまり、誘導して一気に突入ってのは難しいわけだ」

 低い声が、すぐ横から返る。
 鴉は背を壁に預けたまま、手元の端末で倉庫の旧設計図をなぞっていた。

 「中にいるのは、売り主と買い手。それから……“商品”か」

 「スコープに、動きのない影がいくつか。ケージに詰められてる可能性もある。数は……10以上」

 蓮の声が少し硬くなる。
 それに気づいても、鴉は何も言わない。

 ただひとつ、短く息を吐いた。

 「人間をモノ扱いする奴らの目、俺は嫌いだ」

 「俺もだ」

 やっと、目が合った。
 でもそれは、同情や共感じゃない。任務を遂行する者同士の、無言の了解。

 「突入ルートの選定。西側を俺、お前は北側の旧排気ダクトを」

 「単独潜入か」

 「そっちの方がやりやすいだろ」

 言い返す蓮を、鴉は少し笑った目で見た。

 「俺が囮やる。お前は人質の確保と脱出の導線。任せた」

 「……勝手に決めるな」

 「信用してるからな」

 その一言が妙に自然で、蓮は言葉を失った。
 すぐに顔を背けると、スコープをしまい、銃を確かめる。

 「……15分後、同時に動く。無線は最低限で」

 「了解、相棒さん」

 「……そう呼ぶな」

 鴉は口元だけで笑って、影の中へと姿を消した。
 蓮は小さく舌打ちし、夜の静寂に身を沈めた。
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