美しい夜の獣

ぶんぶんごま

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22話 狂気

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むせかえるほどの血のにおい

床がほとんど血で汚れている
壁や天井にも血が飛んでこの部屋全体が真っ赤に染まっていた


室内はそれほど広くなく、部屋の奥に牢屋のような柵で仕切る感じになっていた
血は奥の方がよりひどかった

部屋には二人の男がいた

一人は中年の白衣をきた、太った男
そしてもう一人は柵の中にいる背の高い裸の男
柵の扉は南京錠で閉じられているようだった

背の高い男は、全身血だらけで体から大量の血を流していた
そしてなんの反応もなくただ虚ろな目をしてただ立っている

そして中年の男はひたすらに笑っていた


その光景をみてゾッとした

なんなんだこれは…

人体実験をしているって噂だ、と智也が言っていたが…



「ウ……ッ!」


吐き気がこみあげてくる


「あはははは!あぁ清々しい気分だ!…ん?君は誰だね?」

中年の男が俺に気づいて声をかけてきた

こんな状況で笑ってられるなんて…

「誰だか知らんがちょうどいい!聞かせてやろう!」

そしてその男は突然語りはじめたのだった

俺は込みあげてくる吐き気をこらえるのに必死であまり耳に入ってこなかった



男はクローンの研究を行っていた
しかしあるとき人間のクローンを作ろうと動いていたことを知られた男は研究所を追い出された
そしてここにたどり着き密かに研究を続けていた
それからいつの間にかいろんな研究所から追い出された人間が集まるようになっていた
そんなときだった

狼の子どもを捕まえた

絶滅した日本の狼だ!
その狼で様々な実験、研究をおこなおうとした
ところが、檻に入れたその狼はなんと人間に変化したのだ!!
その狼は物語でしかきいたことのない、狼男だったのだ!

それから我々は、その狼男の研究を進めた
狼男は凄まじい能力を持っていた
身体能力、治癒能力、高い知能。
すべて人間以上だった
我々はこれを進化した人間の姿だと確信した

狼男の血の利用価値は高く
毎日のようにたくさんの血を採取した
どれほどまでのケガに耐えきれるのか
再生スピードは?
どれ程高い知能なのか?
様々な観点から研究、実験を行った


「私は狼男の遺伝子を研究していた。研究するうち、新人類となる薬を開発したのだ。
そしてその薬の完成には最後に大量の狼男が極度のストレスにさらされたときの血をいれることが必要だったのだ!
ちょうど完成間近の時にこいつが逃げたのは焦ったが…
しかし、ついに!ついに今!私の研究が完成したのだ!
これで私は進化する!観客がいてくれて良かった!感謝する!」

そう言って男は手に持っていた注射器を躊躇なく自分に刺した


「あはははははは!!これで新人類となった!私は私を追い出した研究所のやつらを見返してやったぞ!!私の研究は間違ってなかった!」

ひたすら笑っている男に恐怖を感じる

何をいってんだこいつは
狼男?
いかれすぎて妄想と現実が混ざってるのか?

「ぅぅ…ェ…」

まだ吐き気がおさまらない…

「あはははははは!うはうは!うはははは!あーっはははは!」

男の笑い声は止まらない

「狂ってる…」

あまりの狂気に全身が恐怖で固まった


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